黒米とは?
●基本情報
黒米とは、稲の原種で古代米の一種です。白米に比べてたんぱく質、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンE、ナイアシン、リジン、トリプトファンなどが豊富に含まれ、鉄分や亜鉛、リン、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル類も豊富に含まれます。
もともと米はでんぷんの性質によってもち米とうるち米に分けられます。さらに、うるち米は玄米や胚芽精米、精白米などに分けられます。いずれの米も主成分は糖質であり、糖質をエネルギーに換えるビタミンB1が含まれているため、疲労回復に役立ちます。
黒米は米の色が黒色で果皮・種皮の部分に青紫色の天然色素、ポリフェノールの一種であるアントシアニンを含んでおり、古くからお祝いの米として珍重されてきたといわれています。独特の色から紫黒米、紫米とも呼ばれ、表面は黒く、中は白い色をしています。
●黒米の歴史
黒米の原産地は中国・狭西省漢中地方で2000年以上の歴史があります。漢の時代の張騫(ちょうけん)がこの珍しい米を発見して、そののち、順調に出世したことから、縁起の良い出世米ともいわれ、歴代の皇帝は縁起の良いこの黒米を宮廷料理として常食していました。楊貴妃も美容食として黒米を愛用したといわれています。
現代でも縁起の良い米とされています。日本にも古くから伝来し、日本の米のルーツと呼ばれているほどです。
中国や日本のほかには、インドネシアのバリ島やミャンマー、タイ、マレーシア、カンボジア、ラオス、ベトナム、フィリピン、台湾、ネパールなどでも栽培されています。
なた、中国の中医学[※1]においては、黒米には滋養強壮、精力増進作用があるとされており、民間でも「薬用米」や「長寿米」、「黒真珠」とも呼ばれているようで、現在でも薬膳料理として伝わっています。
●黒米に含まれる成分と働き
黒米は一般の米に比べてビタミンやミネラル類が多いことが特徴です。また、一般の米には含まれないアントシアニンを含んでいることが特徴です。黒米に含まれるアントシアニンは、体内に発生する活性酸素[※2]を消去し、眼精疲労回復にも働きかけます。さらにアントシアニンには毛細血管を強くして血流を良くし、目の疲れやなみだ眼、かすみ眼などの回復にも効果があるといわれています。
●黒米の特徴
黒米は栽培中の脱粒性[※3]が強く、稲の背丈が1.5m以上になるため倒れやすく、収穫量としては一般の白米に比べて多くありません。
しかし、生命力は極めて強く、荒れ地で無肥料・無農薬の中でも丈夫に育ち、干ばつや冷害にも強いことが特徴です。
古代米である黒米には、このような特徴があり、同じ面積の田んぼに現代米と同じように植えても収穫できるのはわずか半分に減っての収穫となります。
●黒米のおいしい食べ方
黒米には青紫色の天然色素であるアントシアニンが豊富に含まれています。そのため白米と一緒に炊くと水溶性のアントシアニンが溶け出して、ご飯全体がきれいな紫色になります。
<豆知識>おすすめの炊き方
①白米を3合はかり、黒米を大さじ2杯入れる
②白米と黒米がまざった状態でよく洗う
③炊飯器で米を炊く
普通の白米の上に少し黒米を足すだけでよく、水を増やしたり、浸す時間を長めにとる必要もありません。普段通りの炊き方でおいしく食べることができます。
●黒米の用途
黒米は白米に混ぜて炊飯器で炊くほか、酒や食酢、酢の原料として使用されたり、パンやそうめん、うどんや蕎麦、もちや菓子などに練りこんで使用されます。
染色にも用いられ、クリスマスリースやドライフラワーなどに加工されます。
[※1:中医学とは、独自の生理観や病理観、および診断・治療の方法を持つ、ひとつの体系化された中国伝統の医学のことです。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
[※3:脱粒性とは、種実が成熟するにしたがって,母体から離れて落ちる性質のことです。]
黒米の効果
●視機能を改善する効果
黒米には、視機能を改善する働きや非常に強い抗酸化力を持つアントシアニンが含まれています。
パソコンや携帯電話を毎日使用している現代人の目には、絶えず目に活性酸素を発生させる光が入ってきています。また、紫外線が目に入ることによっても活性酸素が発生し目にダメージを与えます。このダメージが積み重なっていくと、慢性的な眼精疲労や白内障・緑内障・黄斑変性症などの病気の原因になってしまうのです。アントシアニンは活性酸素を除去する作用に優れており、眼病の予防にも効果を発揮すると期待されています。
黒米は胃腸を丈夫にする効果があるといわれています。
胃腸の健康を保つ効果のほか、慢性病、虚弱体質の改善など滋養強壮に効果があり、造血作用もあるとされています。また、黒米は特徴である消化の良さから食欲不振の時でも食べることができ、胃腸の機能を高める効果があります。栄養素が多く、消化が良いので胃弱な人や子ども、お年寄りなどにも食べやすい食材です。【1】
●糖尿病を予防する効果
糖尿病とは、血糖値が病的に高い状態を指し、この病名は、血中の糖濃度が高すぎる場合、尿とともに糖質が排泄される現象に由来しています。
糖尿病は症状にも個人差があり、一般的には激しい喉の渇き、大量の尿を排泄する状態などの症状が現れます。
黒米は、体内での糖質の吸収を阻害する働きが研究されています。デンプンなどの糖質は、体内に吸収される際にアミラーゼやグルコシダーゼといった糖質分解酵素によって分解されてから吸収されます。黒米は、これらの糖質分解酵素の活性を抑えることで、糖尿病を予防すると考えられています。
●美肌効果
黒米には、チロシナーゼ[※4]、ヒアルロニダーゼ[※5]、コラゲナーゼ[※6]、エラスターゼ[※7]といった酵素の活性を抑制する働きがあるといわれています。これらの酵素は、シミやくすみの原因であるメラニンをつくり出す働きや、美肌成分であるヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチンを壊す働きを持っています。黒米はこれらの酵素活性を抑制する働きがあるため、ハリや弾力、潤いのある美しい肌を保つことが期待できます。
●髪を健康に保つ効果
黒米を食べ続けると肌がなめらかになり、髪の毛が黒くなって若返るといわれています。これは、黒米には髪に必要なビタミン類、鉄分、カルシウム、マグネシウムや亜鉛といった栄養分が多く含まれているためです。黒米を食べることで、髪を健康に保つことができます。
[※4:チロシナーゼとは、アミノ酸であるチロシンを酸化して、メラニンをつくる酵素で、この酵素を阻害することにより、メラニンの生成を食い止め美白効果が働きます。]
[※5:ヒアルロニダーゼとは、ヒアルロン酸を分解する酵素です。]
[※6:コラゲナーゼとは、コラーゲンを分解する酵素です。]
[※7:エラスターゼとは、エラスチンを分解する酵素です。]
黒米はこんな方におすすめ
○目の健康を維持したい方
○胃の健康を保ちたい方
○糖尿病を予防したい方
○美肌を目指したい方
○健やかな髪を保ちたい方
黒米の研究情報
【1】黒米から抽出したアントシアニンによって、ナプロキシンにより引き起こされる胃潰瘍関連酵素MMP-2活性が抑制されたことから、黒米は胃潰瘍予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21733337
【2】黒米には抗酸化作用の強いアントシアニンとトコールが含まれており、コレステロールの脂質酸化を防ぐはたらきを持つことから、黒米は動脈硬化予防効果および生活習慣病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23768335
【3】黒米の有効成分であるシアニジン-3-グルコシドやその代謝物シアニジンおよびプロトカテキ酸が、炎症関連物質NF-κBやMAPKが抑制したことから、黒米は抗炎症作用を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20669401
参考文献
・蔵敏則 著 食材図典 小学館
・佐藤秀美 イキイキ!食材図鑑 日本文芸社
・大庭理一郎.五十嵐喜治.津久井亜紀夫. -アントシアニン食品の色と健康- 建帛社
・Kim SJ, Park YS, Paik HD, Chang HI. (2011) “Effect of anthocyanins on expression of matrix metalloproteinase-2 in naproxen-induced gastric ulcers.” Br J Nutr. 2011 Dec;106(12):1792-801.
・Zhang X, Shen Y, Prinyawiwatkul W, King JM, Xu Z. (2013) “Comparison of the activities of hydrophilic anthocyanins and lipophilic tocols in black rice bran against lipid oxidation.” Food Chem. 2013 Nov 1;141(1):111-6.
・Min SW, Ryu SN, Kim DH. 2011 “Anti-inflammatory effects of black rice, cyanidin-3-O-beta-D-glycoside, and its metabolites, cyanidin and protocatechuic acid.” Int Immunopharmacol. 2010 Aug;10(8):959-66.
Tawata S. (2012) “Effect of Alpinia zerumbet components on antioxidant and skin diseases-related enzymes.” BMC Complement Altern Med. 2012 Jul 24;12:106.