ヒアルロン酸

Hyaluronic acid

ヒアルロン酸とは、1gで6リットルもの水分を保つ、優れた保水力を持つ成分です。
目や肌の潤いに働きかけ、関節では潤滑油のような役割を担っています。
ドライアイの予防や改善、肌の乾燥予防や改善に効果的な成分として知られています。

ヒアルロン酸とは

●基本情報
ヒアルロン酸は、保水力(水分を保つ力)がとても高く、1gで6リットル(500mℓのペットボトル12本分)もの分を抱え込むことができる成分です。
ヒアルロン酸は、ムコ多糖類というねばねばとした物質であり、主に、皮膚の表皮と真皮、軟骨や目の硝子体に存在しています。その驚異的な保水力を発揮することにより、各部位で潤いを保つ役割を果たしています。

ヒアルロン酸は人間の体のいたる所に存在している成分ですが、年齢とともに減少する性質があります。
体内のヒアルロン酸量は、20歳をピークにどんどんと減少し続けますが、40歳代からはその減少スピードが急激に速まり、60歳代になると20歳代の半分以下にまで減少してしまうといわれています。

●ヒアルロン酸の歴史
ヒアルロン酸は、1934年に米国コロンビア大学のマイヤー教授らによって牛の眼球の硝子体という部分から発見されました。
ギリシャ語で硝子体を意味するHyaloidからHyaluronic acid(ヒアルロン酸)と名付けられました。
その後の研究により、皮膚や関節、脳、心臓など体のいたる所に存在していることがわかりました。
1942年には、犬の関節の傷の治癒に有効と報告され、1958年には網膜剥離術後の硝子体置換術に有効と報告されています。
1987年には日本で医薬品としての使用が認められ、今日まで眼病治療薬、関節炎治療のための注射として用いられています。
また、サプリメントや化粧品としても使用されている優れた成分です。

●体内でのヒアルロン酸
ヒアルロン酸は、人間の目や皮膚、関節、脳、動脈など体のいたる所に存在していますが、中でも特に目・肌・関節に多く存在しています。ヒアルロン酸は目の形を保つ上で欠かせない成分であり、ドライアイの予防にも適しています。
肌にもヒアルロン酸は存在し、乾燥を防ぎ、みずみずしさやハリを与える上では欠かせない成分です。
また、関節の軟骨にもヒアルロン酸が存在しています。軟骨は骨と骨の間のクッションの役割を果たしているため、曲げ伸ばしなどスムーズな動きをサポートする働きがあります。

●ヒアルロン酸の性質
ヒアルロン酸は分子が大きいために、そのままでは体に吸収されにくいという特徴も持っています。
また、ヒアルロン酸が含まれている食品は、ニワトリのとさか・魚の目・豚足など、続けて食べることが難しい食品が多いため、普段の食事では補う事が難しい成分です。

よって、ヒアルロン酸はサプリメントなどで摂取することが望ましいと考えられています。
​最近では、吸収されやすいように分子を小さく加工したヒアルロン酸が配合されているサプリメントなどが多く販売されているため、上手に取り入れることが大切です。

ヒアルロン酸の効果

●目の潤いを保つ効果
ヒアルロン酸は保水力が高く粘り気のある成分のため、ヒアルロン酸を補うことによって涙を角膜の表面につなぎとめ、乾燥を防ぐ働きがあります。
このような特徴から、ヒアルロン酸はドライアイ[※1]の予防や改善効果がある成分として注目されており、実際にヒアルロン酸はドライアイの治療のための点眼薬にも利用されています。
ヒアルロン酸は涙には含まれていませんが、涙の成分であるムチンという目の表面に涙をつなぎ止める役割がある成分と非常に似た性質をもちます。

また、目は体の中で唯一外気にさらされている臓器のため、最も水分を必要とする部位だといわれています。
硝子体は眼球の3分の2を占めており、さらに硝子体の99%は水分でできているため、ヒアルロン酸はその水分をつなぎ止めることで、硝子体を丸く保つ役割を果たしています。
さらに、硝子体は衝撃によって網膜を傷付けないためのクッションのような役割も果たしている重要な部分であり、その弾力のもとになっているのがヒアルロン酸です。

<豆知識①> 涙の働きを助けるヒアルロン酸
涙の主な役割は、乾燥の予防・殺菌・洗浄・栄養補給です。
涙は、上まぶたの「主涙腺(しゅるいせん)」という部分から出ており、成人の場合、1日約0.5~0.75cc程度分泌されるといわれています。

涙は油層、液層の2つの層から構成されており、涙の表面にある油層が、水分の蒸発を防いでいます。
そして、涙の大半を占める液層があります。液層には、糖たんぱく質を主成分とするムチンが含まれます。
粘り気のあるムチンが水分を目の表面にしっかりと固定し、栄養を補給する役割を持っています。

涙は、目を乾燥から守るために分泌されているだけではなく、角膜の表面の凹凸を均一にして、眼球の動きをなめらかにしてくれるほか、結膜についた汚れや病原菌などを洗い流す・殺菌することによって、目の健康状態を保つ重要な役割を担っています。
​しかし、このように無意識に分泌される涙の量は、1年で換算しても牛乳ビン1本程度と非常に少なく、また、パソコンやスマートフォンに集中し、まばたきの回数が減少することにより、涙の分泌量はさらに減少します。

ヒアルロン酸が目薬やサプリメントに配合されているのは、ヒアルロン酸は涙の成分であるムチンと似た性質があるためです。
ヒアルロン酸が水分を角膜表面に繋ぎ止め、目の潤いを保つことから、涙の働きを助けるともいえます。

<豆知識②> ドライアイとヒアルロン酸
ドライアイの治療として、ヒアルロン酸入りの点眼薬はよく使用されています。

日本でドライアイが問題になり始めたのは1980年代で、当時は企業を中心にパソコンが急速に広まっていた時期です。
​様々な事務作業が効率化された一方で、「OA病」という、OA機器を長時間にわたり使用する人に起こりやすい症状が問題視されるようになりました。
腰痛・頭痛などと並んで、ドライアイもOA病の症状のひとつとされ、眼精疲労の原因として注目されていました。
しかしながら、「ドライアイ=目が乾いているだけで、病気ではない」と考え、放置する人が多く見られます。

ドライアイは簡単にチェックすることができ、​10秒間まばたきをせずに目が開けられない人は、ドライアイの可能性が高いといわれています。また現代では、国民の10人に1人はドライアイに悩まされているともいわれています。
現代人はパソコンやスマートフォンなどの長時間の使用により、まばたきの回数が減少したり、一年を通して冷暖房のきいた部屋で過ごすことが多いため、エアコンからの風に目がさらされたりすることが多くなっています。
​また、コンタクトの普及率が高まっている一方で、装着時間を守らず長時間着けっぱなしにしている人が増加しているために、現代人は涙が不足しやすい=目が乾きやすい環境にあるといわれています。

ドライアイが深刻化すると、目の表面が傷つきやすくなり、放置すると目の表面だけではなく、角膜や結膜にも傷が広がってしまう可能性があります。さらに、視力が低下し、集中力ややる気が下がってしまうことにもつながります。
​また、運転中に事故を起こすなどのトラブルも引き起こしかねません。
​そして、ドライアイは目に関する症状だけではなく、肩こりや頭痛、腰痛など、全身の症状の要因にもなります。
​症状が繰り返されると、ストレスがたまり、健康への悪影響を及ぼしてしまうのです。
このように、ドライアイを単なる目の異常・不快として捉えるだけではなく、症状を放置すると重大な事故を招く可能性もあると考え、日々予防することが大切だといえます。

このような乾燥型のドライアイには、目の潤いを保つヒアルロン酸が効果的だとされ、注目を浴びています。【3】【7】

●美肌効果
ヒアルロン酸の持つ保水力が肌の潤いを保ち、ハリと弾力のある肌をつくり出します。
​皮膚は、外側から表皮・真皮・皮下組織の3層からなり、ヒアルロン酸は、真皮に含まれている成分です。
肌は、たんぱく質の一種であるコラーゲンエラスチン、そしてヒアルロン酸によって潤いとハリが保たれています。
コラーゲンが肌の内部を支える柱、エラスチンはコラーゲン同士をつなぎ止める骨組みをつくる役割があります。
そしてヒアルロン酸は、コラーゲンとエラスチンによってできた骨組みを埋めるような形で存在しており、水分を保つことによって、潤いに満ちたハリのある肌へと導くのです。

しかし、年齢を重ねることによって皮膚のヒアルロン酸の量が減ると、弾力も減少し、潤いも失われるために、肌のハリが衰えてしまうほか、カサつき・肌荒れの原因にも繋がります。
また、皮膚構造の柱の役割を持つコラーゲンも、年齢とともに不足してしまう成分であるために、徐々に肌のシワやシミ、たるみが目立ちやすくなります。年齢を重ねると肌の若々しさが失われていくのは、ヒアルロン酸やコラーゲンが不足し、ハリや潤いが減少していくことによるものです。

潤い成分であるヒアルロン酸を補うことによって、弾力性のある肌を維持することができます。
また、シワやたるみを予防することで、みずみずしく、若々しい印象の肌を保つことができます。そのため、ヒアルロン酸はアンチエイジング(抗老化)の成分としても注目されており、特に女性からの関心は非常に高いものとなっています。
美容を目的としたヒアルロン酸の利用方法としては、保湿をコンセプトとした化粧品やサプリメントが挙げられます。
​また、ヒアルロン酸は安全性が高いことが評価され、美容外科・整形外科などの手術の際に使用されるヒアルロン酸注射としても利用されています。【6】【8】

●関節の動きをなめらかにする効果
ヒアルロン酸は、関節と関節の間のクッションである軟骨に含まれ、関節の動きをなめらかにする働きがあります。
歩く・階段を上る・立ち上がるときなどに、膝などの関節に痛みを感じることがありますが、このような関節痛にもヒアルロン酸は力を発揮します。

関節の中でも、特に膝の関節は全身の体重を支えているために、かなりの負担がかかってしまう部分であるため、歩くだけでも体重の3倍もの負担がかかるといわれています。
そのため、クッションの役割を果たしている軟骨がすり減ることによって、骨と骨がぶつかり、日常生活の何気ない行動であっても痛みや炎症が引き起こされてしまうのです。
ヒアルロン酸は軟骨を形成し、スムーズな動きを手助けすることによって、痛みを和らげる効果があるといわれています。
基礎研究では、ヒアルロン酸を軟骨細胞に与えることで、軟骨の形成が増加したという研究が報告されています。
​さらに、実際に膝関節症の患者に対してヒアルロン酸を使っての治療も行われており、40~50%の症例で痛みの症状が緩和されたとの報告もあります。【1】【2】【9】

<豆知識③> 関節痛の原因
ヒアルロン酸をはじめとする軟骨に含まれる成分は、年齢とともに減少してしまうため、関節痛=年配の方の悩み、という印象が強いものとなっています。
しかし、年齢だけではなく、体重の増加により関節への負担が大きくなることも関節痛の原因のひとつと考えられています。
よって、近年問題視されているメタボリックシンドロームや肥満による痛みを引き起こす要因となり得るのです。
また、関節痛はスポーツ選手にとっても大きく関係しています。スポーツ選手は、トレーニングを通じて同じ動きを繰り返す・関節の可動域を超えて無理に体を動かすことが多々あります。このような習慣がある人は関節への負担が大きいために、関節軟骨のすり減りも速くなります。
このように、関節痛は年齢の幅を超えた悩みであるため、年齢を問わずヒアルロン酸を補うことが大切なのです。

[※1:ドライアイとは、何らかの原因で涙の量が減る、もしくは涙の質が低下することによって、目の表面が乾き、さまざまな異常が起こる病気です。]

ヒアルロン酸は食事やサプリメントで摂取できます

ヒアルロン酸を含む食品

○ニワトリのとさか
○魚の目
○豚足
○ふかひれ
○すっぽん
○うなぎ

こんな方におすすめ

○ドライアイでお悩みの方
○パソコン・テレビ・スマートフォンなどをよく使われる方
○乾燥肌・肌荒れでお悩みの方
○肌のハリや弾力を保ちたい方
○美肌を目指したい方
○関節炎でお悩みの方
○スポーツをする方

ヒアルロン酸の研究情報

【1】膝関節症に対してヒアルロン酸治療が多く行われています。実施された治療について73例を調べたところ、ヒアルロン酸治療によって、約40-50%の症例において膝関節症の疼痛を改善することが明らかとなりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22734561

【2】膝関節症に対する治療方法として、骨髄由来間葉系幹細胞が重要ですが、同様にヒアルロン酸も治療法として有益であることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22734248

【3】0.3%濃度のヒアルロン酸により、ヒト結膜上皮細胞における活性酸素によるDNA傷害が緩和されました。
これはヒアルロン酸のもつ、高い抗酸化力によるものと考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22729468

【4】36人の閉経後女性が7ヵ月間、高分子ヒアルロン酸を摂取したところ、膣の萎縮感や紅斑の症状の改善に効果的でした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22728576

【5】声帯のヒアルロン酸量は若齢ラットでは1275.6ng/mgであったが、老齢のラットでは581.7ng/mgと減少していた。
年齢による発声障害は、年齢とともにヒアルロン酸が減少することが原因のひとつと考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22714840

【6】コラーゲンとヒアルロン酸を14日間摂取すると、軟骨組織再生初期における、SOXの遺伝子発現を60倍、Ⅱ型コラーゲン合成量を35倍、軟骨基質再生を約7倍に活性化させました。このことよりヒアルロン酸の軟骨保護作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22658153

【7】原発性開放隅角緑内障患者の目の細胞を培養し、ヒアルロン酸を与えることによって、緑内障関連物質MMP-2とMMP-9の遺伝子が活発になりました。このはたらきはヒアルロン酸の濃度と比例して高くなりました。ヒトの房水のヒアルロン酸濃度の低下によるMMP-2とMMP-9[※2]の発現の低下が緑内障の発症メカニズムとの関係が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22605928

【8】これまでに実施されたヒアルロン酸の皮膚への有効性試験として9件が報告されています。熱傷、静脈機能不全、糖尿病、神経性機能障害および外科的除去により起こる創傷の治癒に対する試験があり、9例中8例がヒアルロン酸の有効性を確認しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22564227

【9】ヒト軟骨細胞において、ヒアルロン酸による軟骨細胞マトリックスの増加が確認されました。この研究結果より、ヒアルロン酸と軟骨形成との有効性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22559049

【10】腸にあるヒアルロン酸受容体での内因性ヒアルロン酸の結合を阻害されると、腸管の長さおよび結腸の長さが減少しました。結果、内因性ヒアルロン酸が正常な腸成長および腸の成長調節に寄与すると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22556141

【11】年齢とともに体内のヒアルロン酸は減少します。特に40歳代を境目に、体内のヒアルロン酸は大きく減少します。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3829041

[※2:MMP-2、MMP-9とは、マトリックスメタロプロテアーゼという酵素のサブタイプの種類です。この酵素は疾患と関連が報告されています。]

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参考文献

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・Suhaeb AM, Naveen S, Mansor A, Kamarul T. 2012 “Hyaluronic acid with or without bone marrow derived-mesenchymal stem cells improves osteoarthritic knee changes in rat model: a preliminary report.” Indian J Exp Biol. 2012 Jun;50(6):383-90.

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・Matsiko A, Levingstone TJ, O’Brien FJ, Gleeson JP. 2012 “Addition of hyaluronic acid improves cellular infiltration and promotes early-stage chondrogenesis in a collagen-based scaffold for cartilage tissue engineering.” J Mech Behav Biomed Mater. 2012 Jul;11:41-52.

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・Voigt J, Driver VR. 2012 “Hyaluronic acid derivatives and their healing effect on burns, epithelial surgical wounds, and chronic wounds: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.” Wound Repair Regen. 2012 May-Jun;20(3):317-31.

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