ビタミンE

vitamin E  tocopherol  tocotrienol
トコフェロール  トコトリエノール

ビタミンEは強い抗酸化作用を持つビタミンのひとつで、様々な害を与える活性酸素から体を守る効果があります。
血管や肌・細胞などの老化を防止し、血行を促進するなど生活習慣病の予防に効果があり、若返りのビタミンとも呼ばれています。

ビタミンEとは

●基本情報
ビタミンEは強い抗酸化作用 [※1]を持つビタミンのひとつで、活性酸素 [※2]の害から体を守り老化や生活習慣病の予防効果が期待されている栄養素です。
ビタミンEは大きくトコフェロールとトコトリエノールに分けられ、それぞれα (アルファ)、β (ベータ)、γ (ガンマ)、δ (デルタ)-トコフェロールとα、β、γ、δ-トコトリエノールの8種類が存在し、これらを総称してビタミンEといいます。その中でも特に、α-トコフェロールが最も強い活性を持つ代表的なビタミンEで、体内にあるビタミンEの90%を占めています。

ビタミンEは植物油や種実類をはじめとする多くの食品に含まれており、油と一緒に調理をすることでより吸収率が高まります。ただし加熱や劣化でビタミンEが減少するため、古い油よりも新しい油を使うことが大切です。また、ビタミンEは油脂に溶ける脂溶性ビタミンのため、水洗いなどで失われる心配はありません。熱や酸では壊れにくく、光・紫外線・鉄などには不安定で分解されやすい性質を持っています。

体内では特に細胞膜の中に存在し、肝臓、脂肪組織、心臓、筋肉、血液、副腎、子宮など多くの組織で蓄えられます。

●ビタミンEの歴史
ビタミンEは、不妊を防ぐ栄養素として小麦胚芽油から抽出され、発見されました。
1820年、アメリカのマッティルらが、ラットを脱脂粉乳で飼育すると繁殖できなくなることを発見しました。1922年にはエバンスとビショップが、既知のビタミンを含むエサで飼育すると生殖能力が衰えるのに対し、レタスを与えると生殖能力が回復することを見出し、妊娠に効果的な物質を発見しました。1924年、シュアによって、ビタミンの発見順にアルファベット順で命名され、ビタミンEと名付けられました。化学名はトコフェロールといい、ギリシア語でTocosは「子どもを生む」、pheroは「力を与える」という意味からエバンスが命名しました。
ビタミンEが医学的に広く知られるようになったのは1936年になってからのことです。
その後、天然のビタミンEは8種類存在することがわかり、1956年までにそれらの化学構造が明らかになり、それぞれに名付けられました。

●ビタミンEの強力な抗酸化作用
ビタミンEは、細胞を覆う細胞膜に多く存在しています。細胞膜は細胞の中の核や遺伝子など、重要な器官を活性酸素から守る役割をしています。活性酸素は、本来病原菌を攻撃し体を守る働きをしますが、過剰に発生すると必要な細胞までも攻撃してしまいます。鉄が酸素によってサビつくことと同じように、細胞も酸化されて傷んでしまうのです。
人間の体内で最も酸化されやすいのが、細胞膜に存在する不飽和脂肪酸です。不飽和脂肪酸は、細胞膜を構成するリン脂質のひとつで、体に弾力性を与える重要な成分です。しかし、不飽和脂肪酸が活性酸素によって酸化されると、過酸化脂質となります。過酸化脂質が増えると細胞が破壊され、活性酸素の攻撃でDNAが傷つけられるため異常な細胞を形成したり、細胞の死を早めてしまいます。
ビタミンE自体は非常に酸化されやすく、体内で活性酸素とすばやく結びついて活性酸素を除去することで、ほかの成分の酸化を防ぎます。この働きによりビタミンEは細胞膜で活性酸素を除去し、過酸化脂質の生成を抑えて体を守っているのです。

●ビタミンEの欠乏症
ビタミンEの欠乏症はほとんどみられることはありませんが、無β-リポタンパク血症 [※3]の患者や長期間の脂質吸収障害があった場合には、ビタミンEの吸収が減少するため体内のビタミンEが異常に少なくなります。
未熟児では、多価不飽和脂肪酸を多く含み、鉄を添加された食事によって血液中のビタミンE濃度が低下し、赤血球が壊れてしまうことによって起こる溶血性貧血がみられます。ビタミンEは赤血球の膜で酸化を防ぐ働きをしているため、ビタミンEが長期間不足すると膜が酸化して壊れやすくなり、溶血性貧血の原因となります。
また、ビタミンEが不足すると活性酸素の害を受けやすくなり、シミができる・皮膚の抵抗力がなくなるといった症状のほか、しびれ・知覚異常などの神経症状、筋肉の萎縮などがみられます。細胞の老化が進み、動脈硬化など多くの生活習慣病のリスクを高めることにもつながります。女性の場合は不妊や流産のリスクが高まることもあります。

●ビタミンEの過剰症
ビタミンEは脂溶性のビタミンで体内に蓄積されますが、ほかの脂溶性ビタミンと比べて過剰症は起こりにくいといわれており、ほとんど報告されていません。
一般的な食事でビタミンEを過剰に摂取することはほとんどなく、ビタミン剤やサプリメントを利用する時にも耐容上限量 [※4]を守れば心配はありません。
ビタミンEの過剰症としては、軽度の肝障害、下痢、吐き気、筋力低下が起こります。また、大量に摂取すると血が固まりにくくなり出血しやすくなるため、抗凝固薬 (特にワーファリン)を服用している人は注意が必要です。

1日当たりのビタミンEの摂取基準は表の通りです。

[※1:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素です。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
[※3:無β-リポタンパク血症とは、脂質を運ぶ悪玉 (LDL)コレステロールが異常に少ないために脂溶性の物質の吸収や運搬ができない稀な遺伝疾患です。]
[※4:耐容上限量とは、日常的に摂取し続けた場合に健康障害のリスクがないと考えられる上限の量です。]

ビタミンEの効果

●老化を防ぐ効果
ビタミンEは、強力な抗酸化作用によって細胞の酸化を防ぐことから「若返りのビタミン」と呼ばれ、老化を遅らせる効果が期待されています。
血液中の過酸化脂質の量は40歳以降に急に増加するといわれています。また、細胞が酸化されると細胞の働きが悪くなり、老化していきます。老化、関節炎、ガン、白内障、糖尿病、アルツハイマー病などにはすべて酸化が関わっているといわれます。ビタミンEに脳神経を保護するはたらきや白内障の進行を緩和するという研究も報告されています。
また、長年酸化を防ぎきれずに生成された過酸化脂質がたんぱく質と結びつき、老化色素であるリポフスチンとなって臓器や筋肉など全身に沈着します。リポフスチンは老化の進行具合を測る尺度です。老化で生じるこの色素は、ビタミンE不足の人の組織にもみられ、ビタミンE摂取量が多い人ほど老化の進行が遅いという研究報告もあります。老化とビタミンEの関係はまだ研究途中ですが、ビタミンEを補給することは若々しさを保つことに役立つといえます。【2】

<豆知識>ビタミンACE (エース)で相乗効果
ビタミンEは、ほかの抗酸化物質と一緒に摂るとさらにその作用が高まります。
特にビタミンCは、ビタミンC自体に抗酸化作用があるだけでなくビタミンEの抗酸化作用をより高める働きがあります。また、ビタミンAにはビタミンEとビタミンCの働きを長持ちさせる効果があり、さらにビタミンEには、ビタミンAの酸化を防ぐ効果があります。
これらは一緒に摂ることで相互に作用を高め合う抗酸化ビタミンとして、ビタミンACE (エース)ともいわれます。
そのほか、緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンや、ビタミンB2、セレンなども合わせて摂ることで老化防止効果の向上が期待できます。

●生活習慣病の予防・改善効果
ビタミンEは、抗酸化作用によって生活習慣病の予防や改善に役立ちます。
生活習慣病の中でも、血管が老化し血流が悪化する動脈硬化は、高血圧や心筋梗塞、脳卒中など死亡率が高いとされる様々な病気を引き起こします。
動脈硬化の原因のひとつは、血液中の悪玉 (LDL)コレステロールが酸化され、粘性の高い過酸化脂質が血管の内側にこびりつくことです。血液中を流れるコレステロールも脂肪の膜で覆われているため、酸化されやすいのです。また、血管壁の細胞膜が傷つくことでも動脈硬化は起こります。
ビタミンEは細胞膜のほか、血液中でコレステロールや脂質を運ぶリポタンパク質の中にも存在します。そこでビタミンEの強力な抗酸化力によって、コレステロールや脂肪の酸化を防ぎ、血管のしなやかさを保つため生活習慣病の予防や改善に役立ちます。【1】【5】【6】

●血流を改善する効果
ビタミンEは、血管の収縮を促す神経伝達物質の生成を抑えて毛細血管を広げる働きがあり、血流を改善する効果が期待できます。さらに、過酸化脂質を分解して血液中に粘度のある物質が流れ出すのを防ぎ、血液をサラサラに保ちます。
ビタミンEはこの働きにより、末梢血管の血行障害が原因と考えられる肩こり、腰痛、冷え性、頭痛、しもやけ、痔などの症状を改善します。【1】

●美肌効果
ビタミンEの血流改善効果によって、全身に血液が供給されることで細胞の新陳代謝も活発になり、皮膚のカサカサ感を改善したり、肌に色つや・ハリが出るといった効果も期待できます。
さらにビタミンEは、紫外線による害から肌を守る働きがあり、シミやそばかすにも効果的です。ビタミンEは皮膚に浸透することもできるため、ビタミンEを配合した化粧品も多くあります。

●生殖機能を維持する効果
ビタミンEの化学名であるトコフェロールは、「子どもを生ませる」という意味です。
ビタミンEは副腎 [※6]や卵巣にも蓄えられ、女性ホルモンや男性ホルモンなどを含むホルモン [※7]の代謝に関わっています。性ホルモンなどの生成や分泌の調整をする脳下垂体 [※8]に働きかけて生殖機能を維持し、月経前のイライラ、生理痛、生理不順などを改善する効果があります。
また、女性は閉経を迎える時期になると、女性ホルモンの分泌が減少してホルモンバランスが大きく変わり、肩こり・めまい・冷え・のぼせ・息切れ・手足のしびれなど更年期症状が現れます。ビタミンEは女性ホルモンのひとつである黄体ホルモンの材料で、この時期に食品やサプリメントでビタミンEを多く摂取すると更年期症状を軽減することができます。

最近では、ビタミンEと排卵誘発剤を併用すると妊娠率が上がるという報告もあり、不妊治療や更年期障害の治療に使用されることもあります。男性もビタミンEの投与によって、精子数の増加や精力を高める効果があるといわれています。

[※5:代謝とは、生体内で物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※6:副腎とは、腎臓の上にあり様々なホルモンを合成している器官です。]
[※7:ホルモンとは、体内で合成され、微量で体の様々な機能を調節する物質のことです。]
[※8:脳下垂体とは、視床下部近くに存在し、多数のホルモンを分泌する器官のことです。]

ビタミンEは食品やサプリメントで摂取できます

ビタミンEを含む食材

○ナッツ類:アーモンド、落花生、ヘーゼルナッツなど
○植物油:ひまわり油、サフラワー油、コーン油、綿実油など
○魚介類:うなぎのかばやき、にじます、あゆ、はまちなど
○その他:小麦胚芽、モロヘイヤ、かぼちゃ、菜の花、

こんな方におすすめ

○老化を防ぎたい方
○いつまでも若々しくいたい方
○生活習慣病を予防したい方
○血流を改善したい方
○美肌を目指したい方

ビタミンEの研究情報

【1】健康成人186名を対象に、抗酸化ビタミン(1日当たりビタミンC 120 mg、ビタミンE 30 mg、β-カロテン 6 mg、セレン 100μg、亜鉛 20 mg) を2年間摂取させたところ、血小板活性化の数値で心血管動脈疾患の指標である、尿中PGF1α誘導体が減少しました。ビタミンEを含む抗酸化ビタミンに血流改善作用と、心血管疾患の予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17914127

【2】ビタミンE には神経保護作用を有することが示唆されています。神経疾患であるハンチントン病の初期患者において、初期の疾患を予防できる可能性が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8526244

【3】健康な45歳以上の女性35551名を対象に、ビタミンE とカロテノイドの摂取量と白内障のリスクを調査した結果、ビタミンE、ルテイン、ゼアキサンチンの摂取量が多いと白内障発症リスクが低いことがわかりました。この結果より、ビタミンE とルテイン、ゼアキサンチンを摂取することで、白内障リスクの軽減に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18195226

【4】65歳以上の高齢者を対象とした疫学調査を行ったところ、血中ビタミンEの濃度が高いと膝の屈伸運動や身体能力評価が高いことがわかりました。ビタミンE と運動機能との関連性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14749236

【5】成人を対象に、ビタミンE の摂取と心血管系や脳血管系疾患とのリスクを調査した研究(9件、計80645名)によると、ビタミンE を摂取することにより疾病リスクを軽減することが明らかになりました。またビタミンE を1日300IU 以上摂取すると、非致死性の心筋梗塞の発生率が低下したことから、ビタミンE に心臓血管保護効果が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15711645

【6】食事・サプリメントによる抗酸化ビタミン(ビタミンC、ビタミンE、β‒カロテンなど)の摂取量と心血管疾患のリスクを調査した研究(15件、計381,903名)によると、ビタミンE摂取量が多いグループは低いグループに比較して、心血管疾患のリスクが低下することが明らかとなりました。ビタミンE をはじめとする抗酸化ビタミンが心血管疾患の予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18277182

【7】超低出生体重児(750-2,000 g)を対象として、ビタミンE摂取による未熟児網膜症予防効果を調査した研究(6件、計1,418名)によると、ビタミンEを摂取することにより重度の未熟児網膜症の発生率が約52% 低下したことから、ビタミンEが未熟児網膜症予防に重要な役割を果たすことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9427888

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参考文献

・本多京子 食の医学館 小学館

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・奥恒行 柴田克己 編 基礎栄養学 南江堂

・Arnaud J, Bost M, Vitoux D, Labarère J, Galan P, Faure H, Hercberg S, Bordet JC, Roussel AM, Chappuis P. 2007 “Effect of low dose antioxidant vitamin and trace element supplementation on the urinary concentrations of thromboxane and prostacyclin metabolites.” J Am Coll Nutr. 2007 Oct;26(5):405-11.

・Peyser CE, Folstein M, Chase GA, Starkstein S, Brandt J, Cockrell JR, Bylsma F, Coyle JT, McHugh PR, Folstein SE.1995 “Trial of d-alpha-tocopherol in Huntington’s disease.” Am J Psychiatry. 1995 Dec;152(12):1771-5.

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・Cesari M, Pahor M, Bartali B, Cherubini A, Penninx BW, Williams GR, Atkinson H, Martin A, Guralnik JM, Ferrucci L. 2004 “Antioxidants and physical performance in elderly persons: the Invecchiare in Chianti (InCHIANTI) study.” Am J Clin Nutr. 2004 Feb;79(2):289-94.

・Alkhenizan AH, Al-Omran MA. 2004 “The role of vitamin E in the prevention of coronary events and stroke. Meta-analysis of randomized controlled trials.” Saudi Med J. 2004 Dec;25(12):1808-14.

・Ye Z, Song H. 2008 “Antioxidant vitamins intake and the risk of coronary heart disease: meta-analysis of cohort studies.” Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2008 Feb;15(1):26-34.

・Raju TN, Langenberg P, Bhutani V, Quinn GE. 1997 “Vitamin E prophylaxis to reduce retinopathy of prematurity: a reappraisal of published trials.” J Pediatr. 1997

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・吉田企世子 松田早苗 あたらしい栄養学 高橋書店

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

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