エラスチン

elastin

エラスチンとは、主にコラーゲン同士を結びつける働きを持つ繊維状のたんぱく質です。皮膚の真皮や血管、靭帯などに存在し、肌にハリや弾力を与えたり、血管や靭帯の柔軟性・伸縮性を維持しています。しわやたるみ、動脈硬化の予防に働きかけるといわれています。

エラスチンとは?

●基本情報
エラスチンとは、主にコラーゲン同士を結び付ける働きを持つ繊維状のたんぱく質で、「弾性繊維」とも呼ばれています。
ゴムのように伸び縮みする性質があり、皮膚の真皮や血管、靭帯など体内で弾力性や伸縮性が必要とされる組織に存在しています。人間の体内の組織内のエラスチン含有量は、靱帯で約78~80%、動脈で約50%、肺で約20%、皮膚の真皮で約5%を占めています。

●エラスチンの歴史
エラスチンは脊椎(せきつい)動物に広く分布しているたんぱく質でありながら、などの溶剤に溶けにくいという性質を持っているため近年まで研究対象として取扱いにくく、あまり研究が進められていませんでした。
しかし、近年になりエラスチンを溶剤に溶かす方法が確立されて以降、急速に研究が進んだことにより、その性質や体内での役割が次第に明らかとなってきました。
​現在では様々な病気との関わりも研究され、美容だけではなく健康機能成分としての役割も期待されています。
また、エラスチンは血管や靱帯などの主な構成成分であるため、人工血管など再生医療への応用も期待されています。

●エラスチンの性質と働き
エラスチンは800個以上ものアミノ酸が連なって構成され、その80~90%はロイシンアラニングリシンプロリンバリンの5種類のアミノ酸によって占められています。
​エラスチンは弱酸,弱アルカリなどの化学的処理に対しては安定的ですが、「エラスターゼ」[※1]をはじめとするたんぱく分解酵素によってゆるやかに分解されます。
このように、エラスチンは体の内部での弾力性や伸縮性に関わっている成分なのです。

エラスチンはコラーゲン、ヒアルロン酸とともに皮膚の真皮にある繊維芽細胞によってつくられます。
​繊維芽細胞は新しい組織をつくるとともに古くなったものを分解し、ゆっくりと組織の新陳代謝を行っています。
体内のエラスチンの量は、25歳頃をピークに年齢とともにゆるやかに減少し、40歳代を過ぎると急激に減少スピードが速まります。
​また、紫外線やストレス、喫煙などが原因で発生する活性酸素[※2]によってもエラスチンは減少するといわれています。
​エラスチンが減少すると、肌の弾力が失われしわやたるみが生じたり、血管の老化が早まり動脈硬化や心筋梗塞、脳血栓などの重大な病気のリスクが高まると考えられています。
​また、エラスチンの減少によって靭帯の伸縮性が失われると、怪我をしやすくなってしまう可能性もでてきます。
エラスチンは一度壊れてしまうとうまく再生するとは限らないため、日々のケアが大切です。

<豆知識①>赤ちゃんの肌にはエラスチンが少ない
体内のエラスチン量は年齢とともに減少しますが、生まれた時に最も多く存在している訳ではありません。
赤ちゃんの肌はヒアルロン酸の保水力によって非常にみずみずしく保たれています。
​肌のヒアルロン酸の量は0歳の時が最も多く、年齢とともに減少し、20歳になると生まれた時の約半分になるといわれています。

しかし、エラスチンはヒアルロン酸とは違い、0歳の赤ちゃんの時にはそれほど多くありません。
​組織をしっかりと支える役割を持つエラスチンの量が少なく、赤ちゃんの肌は非常に柔らかいと考えられています。
​その後、成長とともにエラスチンの量は増えていき、20歳代後半頃にピークを迎えます。
​そのため、実は20歳代後半の肌は最もハリと弾力があるといわれています。
肌のハリや弾力を保つには、ヒアルロン酸やコラーゲン、それらを支えるエラスチンが非常に重要な役割を果たしているのです。

<豆知識②>エラスチンを含む食品と摂取する効果的な時間
エラスチンは、牛の大動脈やカツオの動脈球[※3]などに多く含まれています。
​動物の動脈は全身に血液を送り出すポンプの役割であり、柔軟性や弾力性が必要であるため多くのエラスチンが含まれています。
​しかし、エラスチンを多く含む食品は食卓で目にする機会が少ないものばかりです。
​エラスチンは食品から摂取しづらい成分であるため、サプリメントをうまく取り入れて補うことが効率的であるとされています。

また、摂取する時間は就寝前が効果的だといわれています。
​肌は睡眠中につくられるといわれており、特に肌の生まれ変わりが活発に行われる夜10時~深夜2時の時間帯は「シンデレラタイム」と呼ばれています。
そのため、美肌と健康を維持するには、食品やサプリメントからエラスチンをしっかりと補い、早めの就寝と質の良い睡眠をとることが大切であると考えられています。

[※1:エラスターゼとは、エラスチンを壊す働きをもつ酵素のことです。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
[※3:動脈球とは、心臓から血管に移る動脈のことで、大動脈壁の一部が発達したものです。動脈球は弾性に富む組織で出来ており、心室から勢い良く出てきた血液の流れを整えたり、血圧を受容して心室拍動の合間に血液を送出する働きがあります。]

エラスチンの効果

●ハリや弾力を保つ効果
エラスチンは、皮膚の真皮と呼ばれる部分にコラーゲンとともに存在し、肌にハリや弾力を与える役割をしています。
人間の皮膚は大きく分けて、表面から順に表皮・真皮・皮下組織の3層から構成されています。
エラスチンが多く存在する真皮は、クッションのように肌のハリや弾力を保っています。
真皮の厚さは0.5~2mm程で、主にたんぱく質繊維であるコラーゲンとエラスチン、水分を保持しているヒアルロン酸などのムコ多糖類[※4]によって構成されています。
真皮全体の約70%を占めるコラーゲンが網の目のように張り巡らされており、その網の目部分を結び付けるように支えているのがエラスチンです。
​エラスチンは真皮全体の約5%程しか含まれていませんが、コラーゲン同士を結び付け肌を内側から支える重要な働きをしています。
真皮のエラスチン繊維とコラーゲン繊維による網目状の構造がしっかりとしていることと、その間を埋めているヒアルロン酸が十分な水分を保持していることによって、肌のハリや弾力が保たれます。

肌のハリや弾力がなくなると、しわやたるみが症状として表れます。
しわやたるみは、体内で発生する活性酸素によってエラスチン繊維やコラーゲン繊維がダメージを受けることが原因で発生します。真皮で活性酸素が発生すると、エラスチン繊維やコラーゲン繊維が切れたり、複雑に絡み合ったり、余分に生成されてしまうことで繊維構造のバランスが崩れます。
​バランスが崩れると皮膚の土台が崩れ、ハリや弾力が失われしわが生まれます。
​また、エラスチン繊維やコラーゲン繊維が弾力を失うことによって、皮膚や脂肪が顔の筋肉や骨に吸着する力が落ち、下がった皮膚や脂肪がたるみとなって現れます。

しわやたるみを防ぐには、繊維構造のバランスを崩す原因となる活性酸素の発生を防ぐだけでなく、真皮の主な構成成分であるエラスチンやコラーゲン、ヒアルロン酸を不足させないよう、しっかりと補うことが大切であるといわれています。【1】

●動脈硬化を防ぐ効果
エラスチンは心臓や全身の血管に存在し、弾力を与える役割をしています。
心臓には弾性型動脈と筋型動脈があり、心臓に近い部分に存在する弾性型動脈に特に多くのエラスチンが含まれています。
​心臓から送り出される血液は、動脈を通って全身を巡り、静脈を通って再び心臓に戻ります。
​動脈と静脈の血管壁は、内側から内膜、中膜、外膜という3層で構成されています。
​エラスチンは特に血管壁の内膜や中膜に多く含まれており、非常に強い弾力を発揮しています。
しかし、活性酸素や加齢によってエラスチンが減少してしまうと、血管の柔軟性が失われるため、動脈硬化や心筋梗塞、脳血栓などの疾病にかかりやすくなると考えられています。
そのためエラスチンには、動脈硬化などの疾病の予防につながる働きがあるといわれています。【5】

●靭帯の伸縮を維持する効果
靭帯は体のあらゆるところに存在し、多くのエラスチン繊維とコラーゲン繊維が集まって構成されています。
​エラスチンやコラーゲンが弾力性に富んでいるため、靭帯も伸縮性を保っているのです。
​エラスチンが不足すると、靭帯が伸縮しにくくなりしなやかな動きが失われるため、靭帯の一部もしくは全てが切れてしまう靱帯断裂などの怪我をしやすくなるといわれています。

[※4:ムコ多糖類とは、細胞と細胞をつなぐ物質のことです。皮膚や関節、内臓などに存在します。]

 

エラスチンは食事やサプリメントで摂取できます

エラスチンを含む食品

○牛すじ
○手羽先
○軟骨
○煮魚

こんな方におすすめ

○肌のハリや弾力を保ちたい方
○美肌を目指したい方
○いつまでも若々しくいたい方
○動脈硬化を予防したい方
○靭帯の怪我を防ぎたい方

エラスチンの研究情報

【1】エラスチンは血小板凝集抑制作用を持ち、ヒト皮膚細胞(繊維芽細胞)の増殖を促進するはたらきをもつことから、エラスチンに抗血栓作用、血流改善効果、皮膚保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20853312

【2】エラスチンに含まれるアスパラギン酸は、年齢とともに変性することが知られています。アスパラギン酸の変性の度合いがエラスチンの老化をはかる指標となります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14632798

【3】アテローム硬化症、腹部大動脈瘤、慢性閉塞性肺疾患、Ⅱ型糖尿病にかかるとエラスチン線維がダメージを受けることがわかりました。病気によるエラスチン線維の損傷を予防する方法に注目が集まっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22099332

【4】動脈硬化症患者では可溶性エラスチンの濃度が増加していることがわかりました。可溶性エラスチン濃度が、動脈硬化の指標となると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19755752

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参考文献

・友利 新 スキンケア大事典 毎日コミュニケーションズ

・吉木伸子 素肌美人になるためのスキンケア基本事典 池田書店

・吉木伸子 岡部美代治 小田真規子 素肌美人になれる正しいスキンケア基本事典 高橋書店

・Shiratsuchi E, Ura M, Nakaba M, Maeda I, Okamoto K. (2010) “Elastin peptides prepared from piscine and mammalian elastic tissues inhibit collagen-induced platelet aggregation and stimulate migration and proliferation of human skin fibroblasts.” J Pept Sci. 2010 Nov;16(11):652-8.・Ritz-Timme S, Laumeier I, Collins MJ. (2003) “Aspartic acid racemization: evidence for marked longevity of elastin in human skin.” Br J Dermatol. 2003 Nov;149(5):951-9.

・Fulop T, Khalil A, Larbi A. (2012) “The role of elastin peptides in modulating the immune response in aging and age-related diseases.” Pathol Biol (Paris). 2012 Feb;60(1):28-33. Epub 2011 Nov 17.

・Akima T, Nakanishi K, Suzuki K, Katayama M, Ohsuzu F, Kawai T. (2009) “Soluble elastin decreases in the progress of atheroma formation in human aorta.” Circ J. 2009 Nov;73(11):2154-62. Epub 2009 Sep 15.

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