アミノ酸

Amino acid

アミノ酸は、たんぱく質を構成する材料として、人間に限らず、様々な動植物の生命の源となる栄養素です。たんぱく質は、内臓や筋肉、皮膚にいたるまで存在し、健康維持や美肌に効果を発揮します。現在では、多くのサプリメントや加工食品に利用されています。

アミノ酸とは?

●基本情報
アミノ酸とは、内臓や筋肉などに存在するたんぱく質を構成する成分です。たんぱく質が体に占める割合は体重の約20%で、アミノ酸にはエネルギーを生み出し、健康を維持する働きがあるため、体づくりに必要不可欠な成分です。

自然界には、500種類ものアミノ酸が存在します。しかし、その中で人間に必要なたんぱく質を構成しているのは20種類のみです。そのうち人間の体内で合成できない9種類のアミノ酸を必須アミノ酸[※1]と呼び、食事から補う必要があります。残りの11種類のアミノ酸は非必須アミノ酸[※2]と呼ばれ、体内で合成することができます。
人間とその他の動植物のたんぱく質は、どちらもアミノ酸から形成されていますが、アミノ酸がどのような並びでつながっているかによって、たんぱく質の機能は異なります。

●アミノ酸の歴史
アミノ酸は1806年、フランスでアスパラガスの芽から初めて発見されました。発見されたアミノ酸はアスパラギンと命名されました。その後、グリシンロイシンが発見され、たんぱく質を構成するアミノ酸が1935年までにすべて見つかりました。宇宙から飛来した隕石からも、微量のアミノ酸が発見されたこともあります。これは、地球以外の宇宙にも、生命体が存在した痕跡だと考えられています。アミノ酸は、地球上に存在する最も歴史のある栄養素だといえます。

●アミノ酸を多く含む食品
必須アミノ酸をバランス良く含む食品は、「良質たんぱく質」と呼ばれます。牛乳や卵、肉類や魚介類が良質たんぱく質にあたります。しかし良質たんぱく質は動物性の食品に含まれ、過剰に摂取すると、コレステロール値が高くなるので、注意が必要です。動物性食品と植物性食品の両方から摂取することが大切です。
また、非必須アミノ酸は体内で合成はできるものの、量が不十分な場合もあるので、やはり食事からの摂取が必要です。

●アミノ酸摂取のバランスについて
必須アミノ酸は9種類のうちひとつでも不足すると、他のアミノ酸をいくら多く摂取したとしても、たんぱく質を合成することができません。数種類のアミノ酸の量が豊富でも、他に量が少ないアミノ酸があると、一番少ないアミノ酸の量しかたんぱく質は合成されません。

効果的にアミノ酸を摂取するために、食品たんぱく質の栄養価を化学的に示す方法として「アミノ酸スコア」という指標があります。各食品に含まれる必須アミノ酸の構成のバランスを数値化し、評価する指標です。この指標では、必須アミノ酸をバランス良く含む良質な食品のアミノ酸スコアは100と評価されます。また、その食品で最も不足しているアミノ酸は「第一制限アミノ酸」とよばれます。

アミノ酸スコアの低い食品は、不足しているアミノ酸を他の食品で補うことで、アミノ酸のバランスが整います。例えば、牛乳のアミノ酸スコアは100ですが、じゃがいもは68とアミノ酸のバランスが良いとはいえません。牛乳に比べ、じゃがいもには何らかのアミノ酸が不足していることになります。じゃがいもの第一制限アミノ酸はロイシンなので、ロイシンを含む食材を合わせて摂取することで、じゃがいもに含まれるアミノ酸も活用されます。

また、和食にはこのアミノ酸のバランスが上手に配合されているといわれています。
例えば、に不足しがちなリジンというアミノ酸は、納豆などの豆類に多く含まれています。一方で、豆類にあまり含まれていないメチオニンは米に多く含まれています。このように、和食を食べることで、自然とバランスの摂れたアミノ酸を摂取できます。

<豆知識>味と香りを決めるアミノ酸
アミノ酸には味があり、種類によって風味が異なります。
例えば、グルタミン酸アスパラギン酸にはうま味と酸味が、グリシンやアラニンは甘味があります。ズワイガニは旬の時期になると、グリシンとアラニンが増加し、アルギニンが減少するため、甘味が増しておいしく感じます。アミノ酸は、食べ物の旬の美味しさを決めています。
また、アミノ酸をブドウ糖とともに熱を加えた時の香りをリアクション・フレーバーといい、加工食品などで活用されています。アラニンはカラメル、バリンはチョコレート、イソロイシンは焼いたチーズの香りがします。

[※1:必須アミノ酸とはバリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類のアミノ酸です。]
[※2:非必須アミノ酸とはグリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、システイン、チロシン、プロリンの11種類のアミノ酸です。]

アミノ酸の効果

●筋肉疲労を予防し、回復する効果
アミノ酸は、疲労の原因となる乳酸の発生を抑える効果があり、特にBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)に筋肉疲労を予防し、回復する効果があるといわれています。乳酸はスポーツを行った後の筋肉痛を感じる原因ともいわれ、乳酸が大量に蓄積されると、体の冷えや頭痛まで引き起こします。また、アミノ酸は筋肉をつくり出すたんぱく質を生成します。サプリメントでは、筋肉を生成する効果において、たんぱく質よりもアミノ酸の方がより早く吸収できるといわれています。また、激しい運動などで傷ついた筋肉の修復も行うため、スポーツサプリメントなどに活用されています。【1】【5】【6】

●スキンケアの効果
アミノ酸は、肌の水分を保ち、保湿する働きがあります。肌は表面から角質層、表皮層、真皮層に分かれます。肌が乾燥している状態とは、角層の水分が不足していることを指します。角層の水分は、NMF(Natural Moisturizing Factor)という天然保湿成分によって潤いが保たれています。
肌の細胞は、常に新陳代謝が行われ、生まれ変わりを繰り返しています。アミノ酸はこの新陳代謝を促し、NMFを生み出す材料となります。また肌のハリを生み出すコラーゲンは、アミノ酸が集まってできています。アミノ酸には、肌の潤いだけでなく、ハリを生み出す効果もあります。
さらに、アミノ酸は髪の毛の水分を保つキューティクルの保湿成分でもあります。アミノ酸によって、髪の毛の潤いが維持されているのです。

●リラックス効果
アミノ酸は、脳内の興奮状態を鎮め心を落ち着かせる、リラックス効果があるといわれています。
ストレスがかかると、自律神経が崩れ、胃潰瘍や不眠、高血圧など、体に支障をきたす原因となります。人間がリラックスしているかどうかを測る目安のひとつに脳波があります。リラックスした状態の脳波をα波といい、玉露や抹茶に含まれるテアニンや、玄米などに含まれるGABAは、脳内のα波を増加させる効果があります。脳内で発生するα波が増えることで、リラックス効果をもたらし、結果的に集中力の向上や質の良い睡眠を得ることができます。

アミノ酸は食事やサプリメントで摂取できます

アミノ酸を含む食品

○鶏卵
○牛乳
○鶏ひき肉
○あじ
○さけ

こんな方におすすめ

○スポーツをする方
○成長期のお子様
○乾燥肌が気になる方

アミノ酸の研究情報

【1】筋減弱症女性患者155名を対象に運動療法と共に、アミノ酸(ロイシン豊富なアミノ酸混合物3g) を3ヶ月間摂取させたところ、歩行速度ならびに筋肉量、膝伸展力の改善が見られたことから、アミノ酸が運動機能向上に有益であると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22142410

【2】肥満者22名を対象にアミノ酸混合(シスチン、メチオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン)飲料を摂取させたところ、ブドウ糖負荷試験による血糖値上昇が抑制されました。インスリン濃度には変化がなかったことから、アミノ酸はインスリンを介することなく、糖尿病予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22260861

【3】急性脳出血患者19名を対象に、アミノ酸を14日間摂取させたところ、インスリン感受性および免疫細胞リンパ球が改善しました。また、死亡率は低くなる傾向が認められたことから、アミノ酸は脳出血治療に有益であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20972646

【4】子宮内発育遅延新生児(未熟児)50名を対象に、アミノ酸飲料を摂取させたところ、新生児の体重増加や発育促進が見られたことから、アミノ酸が新生児発育に有益であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22187804

【5】イヌにアミノ酸及び糖質混合液を、運動直後または運動終了2時間後に投与したところ、運動直後に投与した方がより、筋肉タンパク質の合成が促進されました。アミノ酸は筋力向上効果を持ち、運動直後にアミノ酸を摂取した方がより高まることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9227447

【6】高齢者を対象に筋肉トレーニングを週3回行い、トレーニング負荷直後にアミノ酸(タンパク質)を摂取させました。トレーニング開始12週間後には、筋力および筋肉量が増加したことから、アミノ酸(タンパク質)が筋肉増強作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11507179

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参考文献

・中村丁次 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社

・吉川敏一 炭田康史 最新版 医療従事者のためのサプリメント・機能性食品事典 講談社

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・原山建朗 最新・最強のサプリメント大事典 株式会社昭文社

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版社

・「図解入門よくわかる栄養学の基本と仕組み」(2009、著者中屋豊/秀和システム)

・「新しい栄養学と食のきほん辞典」(2011、監修井上正子/西東社)

・Kim HK, Suzuki T, Saito K, Yoshida H, Kobayashi H, Kato H, Katayama M. (2012) “Effects of exercise and amino acid supplementation on body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese sarcopenic women:a randomized controlled trial.” J Am Geriatr Soc. 2012 Jan;60(1):16-23.

・Wang B, Kammer LM, Ding Z, Lassiter DG, Hwang J, Nelson JL, Ivy JL. (2012() “Amino acid mixture acutely improves the glucose tolerance of healthy overweight adults.” Nutr Res. 2012 Jan;32(1):30-8.

・Laviano A, Aghilone F, Colagiovanni D, Fiandra F, Giambarresi R, Tordiglione P, Molfino A, Muscaritoli M, Rosa G, Rossi Fanelli F. (2011) “Metabolic and clinical effects of the supplementation of a functional mixture of amino acids in cerebral hemorrhage.” Neurocrit Care. 2011 Feb;14(1):44-9.

・Biswas B, Das TK, Soreng PS, Saha JK. (2011) “Role of oral amino acid supplementation in intra-uterine growth restriction and its outcome.” J Indian Med Assoc. 2011 Apr;109(4):279-80.

・Okamura K, Doi T, Hamada K, Sakurai M, Matsumoto K, Imaizumi K, Yoshioka Y, Shimizu S, Suzuki M. (1997) “Effect of amino acid and glucose administration during postexercise recovery on protein kinetics in dogs.” Am J Physiol. 1997 Jun;272(6 Pt 1):E1023-30.

・Esmarck B, Andersen JL, Olsen S, Richter EA, Mizuno M, Kjaer M. (2001) “Timing of postexercise protein intake is important for muscle hypertrophy with resistance training in elderly humans.” J Physiol. 2001 Aug 15;535(Pt 1):301-11.

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