アラメ

eisenia bicyclis

アラメは海藻の一種で、三重県が全国生産量のほとんどを占めています。
アラメの歴史は長く、特に京都では古くから食べられている食材です。
ミネラルの宝庫ともいわれるように、カルシウムやヨウ素、鉄を豊富に含んでおり、体の機能を正常に働くよう導きます。また、食物繊維も多く、生活習慣病予防に期待できます。

アラメとは?

●基本情報
アラメは、海藻の一種でコンブ科アラメ属に属する、褐色の褐藻[※1]です。

アラメは漢字では「荒布」と書きます。アラメの名前は、ワカメ(若布)より肉が厚く荒い感じがする「荒芽」から名づけられました。

アラメは、長さ0.5~1mで、水深5~10mくらいの岩礁地帯に多く生育します。葉は平たく、二股に分かれた茎部の先に、はたきのような側葉を持ちます。長く硬い茎を持ちその先端が短く枝分かれし、その先にたくさんの葉がついています。寿命は4~5年といわれています。
また、海岸で生育するアラメはアワビなど磯根資源の餌や魚介類の産卵、稚魚の成育場としても重要な役割を占めています。

海から採れたばかりのアラメは非常に硬く、噛んでみるとものすごく渋みがあります。そのため、海水にアラメをつけて渋を抜き、茹でてから乾燥させて保存します。使用時はたっぷりの水にアラメをしばらくつけてふやかし、味噌汁に入れたり、つくだ煮にするなどして食用にします。
アラメは私たちの身近なところでは「こんにゃく」に入っています。こんにゃくの黒い点々は、細かなアラメやヒジキです。アラメは、コンブに比べてやわらかい食感が特徴です。

アラメは、煮物などに調理され、古くから食べられている食材です。
三重県の伊勢志摩地方では、アラメは、昔からお供え物として伊勢神宮に献上され、人々は乾燥させたものを臼で砕いて魚や野菜と煮て食べていました。「刻みアラメ」は、この地方の漁師がアラメを茹でて圧縮したものを包丁で刻み、干し上げたものを京都方面のお寺に精進料理[※2]として売り出されたのが始まりといわれています。

京都では、「追い出しアラメ」という風習があります。この「追い出しアラメ」とは、8月16日の朝にアラメを炊き、仏壇にお供えをし、アラメの茹で汁を門口にまいて、精霊さんがこの世に未練を残さないようにあの世へお見送りする風習です。
また、8のつく日は、八の末広がりにあやかって、よい芽が出るように「アラメとお揚げの炊いたん(煮物)」を食べる食文化もあります。

またアラメは、大宝律令[※3]に租税の対象にされた海藻八種[※4]のうちに入れられ、税としても納められていました。

●アラメの生産地
アラメの生産地は、三陸地方沿岸、伊勢志摩、瀬戸内海、九州、日本海沿岸、中部地方より南部です。アラメの全国生産量は年間200t前後で、ほとんどが三重県で生産されています。7月~9月に主に伊勢志摩を中心とした地域で採取されます。
伊勢志摩の海では、アラメ漁が7月~9月の間、伊勢志摩の各浜で行われており、海女さんが海で採取をします。アラメを採取している町の海岸には、アラメがところ狭しと天日干しされ、その光景は夏の風物詩にもなっています。

●アラメの特徴
アラメは、栄養価が高いことでも知られています。
カルシウム:牛乳の12倍
β-カロテントマトの7倍
食物繊維ごぼうの6.5倍
たんぱく質:豆腐の11倍

またアラメは、「ミネラルの宝庫」といわれるようにカルシウムを始め、ヨウ素も豊富に含んでいます。

[※1:褐藻とは、藻類の一種です。藻類は色調により、緑藻類、褐藻類、紅藻類、藍藻類に分けられます。]
[※2:精進料理とは、野菜や豆類、穀類を工夫して調理した料理です。仏教で僧は、肉食が禁じられていたため、このような料理ができました。]
[※3:大宝律令とは、飛鳥時代701年に制定された日本最古の法律です。大宝律令の制定によって、天皇中心の中央集権国家の体制がかたまりました。]
[※4:海藻八種とは、租税として納められた八種類の海藻のことです。海藻八種には、ニギメ(ワカメ):130斤、コルモハ(テングサ):120斤、ミル:130斤、ムラサキノリ(アマノリ):49斤、マナカシ(メカブ):8斗、アラメ:360斤、カジメ:1石、雑海藻:160斤です(当時の1斤≒600g、1斗≒11.5ℓ、1石≒115ℓ)があります。この海藻の年貢量は海人1人当たりのため、当時の海人にとって重税だったと思われます。]

アラメの効果

アラメには、カルシウムやヨウ素などのミネラル、食物繊維など、様々な栄養素が含まれており、以下のような健康に対する働きや効果が期待できます。

●骨や歯を形成・骨粗しょう症を予防する効果
アラメには、丈夫な歯と骨をつくるカルシウムが豊富に含まれています。

体内のカルシウムの約99%は骨や歯に存在しています。骨の中では、新しい骨を作る「骨形成」と、古くなった骨を壊す「骨吸収」が繰り返し行われており、カルシウムはこの代謝に深く関係しています。
カルシウムが不足すると、骨密度[※5]が低下します。骨密度の低下により、骨折や骨粗しょう症[※6]を起こしやすくなります。成長期であれば、歯の質が悪くなったり、あごの発達が遅れます。
骨密度は20歳をピークに減少する傾向があるため、骨密度の高い骨を作るには20歳までの食事や運動が大切になります。運動は、体を動かして骨に負荷を与えることで骨の新陳代謝を活発にして骨密度を上げます。
また、閉経前後の女性はカルシウムの吸収を助けていたエストロゲン[※7]が減少するため、急速に骨が弱くなります。さらに年を重ねるにつれ、カルシウムの吸収率も低下します。
したがって、カルシウムの吸収を助けるビタミンDマグネシウムなどの栄養素もあわせて摂ると効果的です。

●精神を安定させる効果
体内のカルシウムの約1%は筋肉や血液、神経などに存在しており、不足するとイライラの原因になります。
アラメを食べることで、カルシウムを摂取することができ、神経のいらだちを抑える精神安定剤の効果も果たしています。

●筋肉の収縮をスムーズにする効果
体内の筋肉に存在しているカルシウムは、筋肉の働きをサポートします。筋肉の収縮を円滑にすることで、血流の改善が期待され、肩こりや腰痛の改善や疲労回復にも効果的です。
また、心臓を規則的に正しく活動させます。

●代謝を高める効果
アラメに含まれているヨウ素は、甲状腺ホルモン[※8]をつくる成分です。甲状腺ホルモンは、たんぱく質や脂質糖質の代謝を高める働きを持つため、基礎代謝[※9]を促し、成長促進作用があります。
また、細胞の生まれ変わりである新陳代謝を高め、老化を防止します。

●体のだるさを軽減させる効果
アラメには、赤血球のヘモグロビンの材料である鉄が含まれています。
鉄の主な働きは、赤血球の成分となり全身に酸素を運ぶ役割があります。酸素が全身にいき渡らなくなると、めまい、貧血、頭痛、倦怠(けんたい)感、動悸、食欲不振などの体の不調につながります。
鉄の吸収率は約8%と大変低く吸収されにくい性質があるため、鉄の吸収率を高めてくれるビタミンCやたんぱく質と一緒に摂ることで効率良く摂取できます。

●生活習慣病を予防する効果
アラメには、海藻ポリフェノールの一種であるフロロタンニンが含まれています。
このフロロタンニンは強い抗酸化作用を持つため、活性酸素による細胞へのダメージを抑えたり、抗炎症作用や抗肥満作用、さらには糖尿病予防に対する効果も期待されています。【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】

●腸内環境を改善する効果
アラメに含まれる食物繊維には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維があり、腸内環境を整える働きがあります。
不溶性食物繊維は、に溶けない食物繊維で、穀類、豆類、野菜などに多く含まれています。水分を吸収して数倍から十数倍に膨らみ、腸壁を刺激することで腸のぜん動運動[※10]を高めます。
また、水溶性食物繊維は、水に溶ける食物繊維で、果物や海藻に多く含まれており、腸内で水分を抱え込んでヌルヌルとしたゲル状成分となることで有害成分を吸着して排出させます。
アラメは、褐藻類から抽出されるアルギン酸フコイダンという水溶性食物繊維を豊富に含んでいます。これらは海藻類のヌルヌルした部分で、細胞壁と細胞間に存在しているゼリー状のものです。

●糖尿病を予防する効果
糖尿病とは、膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンの一種であるインスリン[※11]の働きが不足したり、弱まることで血糖値が上がる病気です。
水溶性食物繊維は、血糖値に関わるブドウ糖の吸収速度を穏やかにするので、食後の急激な血糖値の上昇を防ぎます。血糖値の上昇が緩やかであれば必要以上のインスリンを使うことはありません。
水溶性食物繊維は、インスリンの生産に負担をかけず、インスリン不足を解消するのに役立ちます。【5】【7】

●動脈硬化を予防する効果
動脈硬化とは、動脈の弾力性や柔軟性を失った状態をいいます。進行すると、血管の中にコレステロールが溜まり、血液がスムーズに流れなくなります。
悪化すると、脳出血、脳梗塞、眼底出血[※12]などの病気に発展する、血管の老化現象ともいえます。
水溶性食物繊維は、コレステロールの吸収を抑制する働きがあるため、血中のコレステロールを増やさないことが期待されます。
さらに、コレステロールの原料となる胆汁酸に吸着して排出を促します。【2】

●高血圧を予防する効果
血圧とは、血管壁にかかる血液の力をいいます。この血圧が高くなった状態を、高血圧といいます。高血圧の状態が長く続くと、血管がもろくなったり、血管の内部が狭くなります。
高血圧には、ナトリウムが大きく関係しています。過剰にナトリウムを摂取すると、細胞が膨張します。膨張した細胞によって血管が狭くなり、血管壁にかかる圧力が上がります。さらにナトリウムは血管を収縮させる作用もあるため、高血圧の原因になります。
アラメに含まれているアルギン酸は、血圧を下げる作用のあるカリウムと食品中で結びついており、腸内でカリウムを放出することで、ナトリウムと結びつきともに排出されます。
このため、高血圧の予防に効果的です。

●免疫力を高める効果
アラメに含まれるフコイダンには、体内で免疫に関わる細胞を活性化させて免疫力を高めたり、胃粘膜を保護することによってピロリ菌の感染を防ぐ効果があることがわかっています。

<豆知識>食物繊維と腸内環境
私たちが口にした食べ物の栄養素は腸内で吸収され、血液にのって全身へと行き渡ります。
したがって、栄養を血液に取り込む際に腸内が汚れていると毒素も一緒に吸収され、血液が汚れ、体の不調や病気など様々な悪影響を及ぼします。
大腸には約100兆個もの腸内細菌がすみついています。健康な人の腸内細菌のバランスは、善玉菌4:悪玉菌3:日和見菌3の割合で存在しています。
腸内の悪玉菌が増殖すると、発ガン物質などの有害物質をつくり、免疫力が低下します。一方、善玉菌が増えると、栄養の吸収が高まり、免疫力が向上し病気にかかりにくくなります。
善玉菌は食物繊維を分解して増殖するため、食物繊維を摂ることは腸内の善玉菌を増やして腸内環境を改善することにつながります。
また、日和見菌は悪玉菌と善玉菌のうち、数が多い方に見方をする細菌なので積極的に食物繊維を摂り、善玉菌を増やし、腸内環境を整えることが大切です。

[※5:骨密度とは、骨の密度をいいます。一定の面積あたり骨に存在するカルシウムなどのミネラルがどの程度あるかを示し、骨の強度を表します。]
[※6:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]
[※7:エストロゲンとは、女性ホルモンの一種で、卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです。]
[※8:甲状腺ホルモンとは、全身の細胞に作用して、代謝を上昇させるホルモンです。]
[※9:基礎代謝とは、人間が生きていくために最低限必要な機能を維持するためのエネルギーです。]
[※10:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
[※11:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]
[※12:眼底出血とは、眼底(瞳から入ってきた光が突き当たる眼球の奥の部分)から何らかの原因で出血した状態をいいます。]

アラメは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○骨や歯を丈夫にしたい方
○骨粗しょう症を予防したい方
○イライラしやすい方
○体のだるさを感じる方
○生活習慣病を予防したい方

アラメの研究情報

【1】アラメの有効成分フロロタンニンは、活性酸素による網膜神経節細胞のダメージを抑制することから、アラメが視機能保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22610700

【2】アラメに含まれるeckol 及びdieckolという成分は、血液凝固物質であるトロンビンのはたらきを抑制することから、アラメが抗血栓作用および血流改善作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22511271

【3】アラメに含まれる有効成分フロロタンニンは、炎症に関わる白血球の遊走作用を抑制し、血管透過性を改善することから、アラメが抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22504532

【4】アラメの有効成分のフロロタンニンには、肥満に関係の深いすい臓リパーゼを抑制するはたらきがあることから、アラメが抗肥満効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22473750

【5】アラメの有効成分のフロロタンニンは、α-グルコシダーゼとα-アミラーゼを阻害するはたらきを持つことから、アラメが糖尿病予防を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22271637

【6】アラメの有効成分フロロタンニンは、抗酸化作用を持ち、肝臓を保護するはたらきをもつことから、アラメが肝臓保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21892616

【7】アラメの有効成分フロロタンニンは、α-グルコシダーゼ及びチロシンリン酸化阻害作用をもつことから、アラメが糖尿病および糖尿病合併症予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21821954

【8】ヒト繊維芽細胞に、アラメを投与すると、コラーゲンやエラスチンを分解するメタロプロテイナーゼが阻害されたことから、アラメが皮膚保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16880634

もっと見る 閉じる

参考文献

・Kim SM, Kang K, Jeon JS, Jho EH, Kim CY, Nho CW, Um BH. 2011 “Isolation of phlorotannins from Eisenia bicyclis and their hepatoprotective effect against oxidative stress induced by tert-butyl hyperoxide.” Appl Biochem Biotechnol. 2011 Nov;165(5-6):1296-307.

・Moon HE, Islam N, Ahn BR, Chowdhury SS, Sohn HS, Jung HA, Choi JS. 2011 “Protein tyrosine phosphatase 1B and α-glucosidase inhibitory Phlorotannins from edible brown algae, Ecklonia stolonifera and Eisenia bicyclis.” Biosci Biotechnol Biochem. 2011;75(8):1472-80.

・Joe MJ, Kim SN, Choi HY, Shin WS, Park GM, Kang DW, Kim YK. 2006 “The inhibitory effects of eckol and dieckol from Ecklonia stolonifera on the expression of matrix metalloproteinase-1 in human dermal fibroblasts.” Biol Pharm Bull. 2006 Aug;29(8):1735-9.

・Kim KA, Kim SM, Kang SW, Jeon SI, Um BH, Jung SH. 2012 “Edible Seaweed, Eisenia bicyclis, Protects Retinal Ganglion Cells Death Caused by Oxidative Stress.” Mar Biotechnol (NY). 2012 Aug;14(4):383-95.

・Kim TH, Ku SK, Bae JS. 2012 “Antithrombotic and profibrinolytic activities of eckol and dieckol.” J Cell Biochem. 2012 Apr 17.

・Kim TH, Ku SK, Lee T, Bae JS. 2012 “Vascular barrier protective effects of phlorotannins on HMGB1-mediated proinflammatory responses in vitro and in vivo.” Food Chem Toxicol. 2012 Jun;50(6):2188-95.

・Eom SH, Lee MS, Lee EW, Kim YM, Kim TH. 2012 “Pancreatic Lipase Inhibitory Activity of Phlorotannins Isolated from Eisenia bicyclis.” Phytother Res. 2012 Apr 4.

・Eom SH, Lee SH, Yoon NY, Jung WK, Jeon YJ, Kim SK, Lee MS, Kim YM. 2012 “α-Glucosidase- and α-amylase-inhibitory activities of phlorotannins from Eisenia bicyclis.” J Sci Food Agric. 2012 Aug 15;92(10):2084-90.

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ