フコイダン

fucoidan

フコイダンとは、海藻が自らの身を傷口や乾燥から守るために保持しているネバネバ成分です。免疫力を高めたり、ウィルスの増殖を抑える働きがあります。また抗アレルギー作用や、胃粘膜を保護する効果も報告されています。

フコイダンとは?

●基本情報
フコイダンとはフコースという糖を主成分とした多糖類[※1]で、コンブ、ワカメ、モズクなどの海藻に含まれ、ネバネバした性質を持ちます。フコイダンは海藻の表面を覆い、激しい潮の流れや外的刺激から海藻を守っている成分です。海中の微生物に食べられないようバリアの役目も果たしています。またこのネバネバ成分には免疫力を活性化させる働きや、抗アレルギー、抗ガン作用などの働きがあり、その要となるのが、フコイダン中の硫酸基[※2]であることがわかってきています。
フコイダンには構造の違いからU-フコイダン、G-フコイダン、F-フコイダンの3種類が知られています。

●フコイダンの歴史
ここ数年の間に急速に研究が進められたフコイダンですが、2000年以上前に秦の始皇帝が「不老長寿の薬」としてフコイダンを含んだコンブを利用していたといわれています。
また、1913年にスウェーデンのウプサラ大学の教授が、褐藻類のコンブやヒバマタから硫酸基のついた粘質物を分離したことにより発見し、当時は「フコイジン」という名称で呼ばれていたという報告があります。
フコイダンはその分子構造が複雑で、当時の技術では抽出や分析が難しく、研究対象にはならなかったといわれています。現代になって、ようやくフコイダンの仕組みや効果が科学的に解明され、研究が進められ注目されるようになりました。

<豆知識>フコイダンが豊富な「メカブ」はワカメの一部
日本の沿岸部に生えている海藻は1000種類以上ともいわれていますが、現在、日常的に食べられているのはそのうちわずか数種類にしか過ぎません。海藻類に含まれるフコイダンですが、海苔には含まれていません。フコイダンを含んだ海藻は、モズク、ヒジキ、コンブなど褐色の海藻です。フコイダンはワカメの生殖器であるメカブに豊富に含まれています。メカブには、ビタミンやミネラル、鉄、ヨードなどもたっぷり含まれています。メカブはワカメの根元にあるひだ状の胞子葉で、ワカメの繁殖を担う部分のため、栄養分が凝縮されています。
フコイダンは熱に強いため、味噌汁に入れたり、野菜などと一緒に天ぷらにして食べるのもおすすめです。また「酢の物」で食すると、酢の効果で食物繊維がやわらかくなり、アルギン酸やフコイダンなどの成分が吸収しやすくなります。

[※1:多糖類とは、2つ以上の糖が結合した物質のことです。]
[※2:硫酸基とは、硫酸の構造が別の物質に結合しているときの呼び方です。フコイダンの主成分です。]

フコイダンの効果

●ガンの予防効果
フコイダンの一種であるU-フコイダンは、アポトーシス[※3]に働きかけ、ガン細胞を死滅する働きがあり、ガンの治療に効果的です。
1996年、JFKメディカルセンター、デーリック・デシルバ博士が「海藻のネバネバ成分のフコイダンがガン細胞のアポトーシスを起こさせる」という研究を発表しました。細胞は分裂・分化を繰り返す過程で、あらかじめ自滅することが遺伝子に組み込まれています。例えば、オタマジャクシがカエルになる時に尻尾が取れるなど、すべての細胞は自分の役目を終えると、遺伝子に組み込まれた自滅プログラムにしたがって死滅します。
ガン細胞は、このアポトーシス機能がうまく働かなくなっています。自滅プログラムがオフになってしまい、ガン細胞は、際限なく分裂・分化を繰り返し、どんどん増殖することによって正常な細胞の居場所を侵食してしまうのです。
フコイダンが、ガン細胞のアポトーシス誘導をかける経路は2つあるとデシルバ博士は報告しています。
まず1つ目は、体に入ったフコイダンが、ガン細胞に接触することでガン細胞のDNAが破壊され、ガン細胞がアポトーシスを起こす経路です。
2つ目はフコイダンがガン細胞の表面に穴をあけて、細胞の中で「パーフォリン」という毒素を発生させ、ガンのDNAを直接攻撃し、破壊する経路です。
日本でもフコイダンとガン細胞についての研究は進められています。
​フコイダンのアポトーシスを起動させる働きは、ガン細胞を死滅させる場合にのみに限られており、正常な細胞は死滅されないという点が非常に理想的なガンの治療法であると注目されています。【1】【9】

●免疫力を高める効果
人間の体には外からの細菌やウイルスから身を守るため免疫機能が備わっています。フコイダンは、常に体内を監視し、ガン細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)[※4]という最前線で戦う細胞を、活性化させる働きがあります。【2】【6】【8】

●抗ウイルス効果
インフルエンザウイルスに対する働きが近年明らかになっています。フコイダンには、インフルエンザウイルスに対する働きが研究されています。【3】【10】

●抗アレルギー効果
フコイダンは、花粉症や鼻炎などのアレルギーの症状を改善する効果があります。フコイダンには、崩れた免疫システムのバランスを調整する効果があるといわれています。【4】【7】

●胃粘膜の保護、ピロリ菌除去効果
ここ数年の研究報告では、胃潰瘍や胃ガンが発生する原因のひとつとされるピロリ菌[※5]が除菌できると話題になっています。ピロリ菌は一度感染すると、強力な除菌をしない限り、一生住み着いてしまう強力な菌です。感染者は非常に多く、30代では20%、70代ではなんと70%もの人が保菌しているといわれています。ピロリ菌は、胃粘膜にも存在する硫酸基が好物で、ここに吸い付くという性質を持っています。しかしフコイダンが胃の中に存在している状態では、フコイダンの硫酸基が代わりになり、ピロリ菌をおびき寄せるように吸い付けてしまいます。そして、ピロリ菌を腸へと押し流してしまい、ピロリ菌は除菌されます。
さらに、フコイダンは胃潰瘍や慢性胃炎などで生じた胃粘膜の炎症部分も修復します。【5】

●生活習慣病を予防する効果
フコイダンは水溶性食物繊維のため、腸内で水分を抱え込み余分なコレステロールや糖分を吸着し体外へ排出する働きや、高血圧を下げる効果、整腸作用を促す働きなどが報告されています。【7】

[※3:アポトーシスとは、細胞が自己プログラムとして持っているメカニズムのことで、必要に応じた細胞死を引き起こすプログラムのことです。]
[※4:NK細胞(ナチュラルキラー細胞)とは、リンパ球に含まれる免疫細胞のひとつで、生まれつき(ナチュラル)外敵を殺傷する(キラー)能力を備えています。ガン細胞やウイルス感染細胞などの異常細胞を発見して退治してくれます。]
[※5:ピロリ菌とは、正式にはヘリコバクター・ピロリ菌といって、胃粘膜に感染するらせん状の細菌です。]

フコイダンは食事やサプリメントで摂取できます

フコイダンを含む食品

○モズク
○ヒジキ
​○コンブ(特にガゴメ昆布に豊富)
○メカブ

こんな方におすすめ

○ガンを予防したい
○免疫力を高めたい方
○アレルギーがある方
○胃の調子が悪い方
○コレステロールが気になる方
○高血圧が気になる方

フコイダンの研究情報

【1】担がんマウスにモズクフコイダンを4日間経口投与したところ、生存期間が延長しました。一方、正常マウスに投与すると免疫細胞ナチュラルキラー (NK) 細胞活性やT細胞のIFN-γ産生が高まりました。このことから、フコイダンは、免疫力を増強することで、がん細胞を抑制する働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12929574

【2】マウスに、メカブフコイダンを1% 含有している餌を40日間摂取させたところ、免疫細胞のT細胞やNK細胞が活性化されたことから、メカブに免疫力向上作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17054048

【3】メカブに含まれる機能性成分フコイダンは、帯状疱疹ウイルスやヒトサイトメガロウィルスに対する抗菌作用を持つことから、メカブに抗菌作用および抗ウイルス作用が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7562111

【4】マウスにおいて、メカブフコイダンを1日あたり 50mg/kg の量で4日間腹腔内投与したところ、T細胞のはたらきを調節して、炎症関連物質IL-4, 5, 13の産生が抑制され、肺炎が抑制されました。メカブが抗炎症作用、抗アレルギー作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15970637

【5】ピロリ菌感染豚に、モズクフコイダンを6週間摂取させたところ、ピロリ菌が豚胃粘膜に付着するのが阻害され、ピロリ菌感染が予防されました。ピロリ菌感染による胃炎や胃がんが抑制されたことから、フコイダンがピロリ菌感染予防に役立つと考えられています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12603617

【6】胆のう癌マウスに、メカブフコイダンを投与すると、NK細胞の活性化と免疫物質であるINF-αの産生が増大したことから、メカブに免疫活性化作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19024629

【7】マウスの細胞(3T3-L1細胞) に、フコイダンを投与すると、脂肪形成ならびに炎症関連遺伝子の活性化が阻害されました。このはたらきにより、脂肪細胞での脂質蓄積を抑制し、活性酸素が抑制されたことから、メカブに抗肥満作用と抗炎症作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7562111

【8】オキナワモズクから抽出されたアセチルフコイダン(CAF)はマクロファージの分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)や細胞外シグナル調節キナーゼを活性化させるはたらきを持つことから、フコイダンは免疫力向上作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19219547

【9】モズク抽出フコイダンが、ヒト腫瘍細胞から発生する活性酸素を抑えることがわかりました。モズク抽出フコイダンは、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP:細胞侵入を助ける酵素)の活性を抑えることにより、ヒト線維肉腫細胞の正常な細胞への侵入を抑制しました。フコイダンは、血管新生成長因子(VEGF)の活性を抑えることで、血管新生を抑制することから、モズク抽出フコイダンは抗腫瘍活性を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19003051

【10】慢性肝炎患者にフコイダンを1日あたり0.83g の量で12ヵ月摂取させると、C型肝炎ウイルスの増殖が阻害されたことから、フコイダンが肝臓保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22611316

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参考文献

・Mori N, Nakasone K, Tomimori K, Ishikawa C. (2012) “Beneficial effects of fucoidan in patients with chronic hepatitis C virus infection.” World J Gastroenterol. 2012 May 14;18(18):2225-30.

・Maruyama H, Tamauchi H, Iizuka M, Nakano T. 2006 “The role of NK cells in antitumor activity of dietary fucoidan from Undaria pinnatifida sporophylls (Mekabu).” Planta Med. 2006 Dec;72(15):1415-7.

・Lee JB, Hayashi K, Hashimoto M, Nakano T, Hayashi T. 2004 “Novel antiviral fucoidan from sporophyll of Undaria pinnatifida (Mekabu).” Chem Pharm Bull (Tokyo). 2004 Sep;52(9):1091-4.

・Maruyama H, Tamauchi H, Hashimoto M, Nakano T. 2005 “Suppression of Th2 immune responses by mekabu fucoidan from Undaria pinnatifida sporophylls.” Int Arch Allergy Immunol. 2005 Aug;137(4):289-94.

・Shibata H, Iimuro M, Uchiya N, Kawamori T, Nagaoka M, Ueyama S, Hashimoto S, Yokokura T, Sugimura T, Wakabayashi K. 2003 “Preventive effects of Cladosiphon fucoidan against Helicobacter pylori infection in Mongolian gerbils.” Helicobacter. 2003 Feb;8(1):59-65.

・Maruyama H, Tamauchi H, Hashimoto M, Nakano T. 2003 “Antitumor activity and immune response of Mekabu fucoidan extracted from Sporophyll of Undaria pinnatifida.” In Vivo. 2003 May-Jun;17(3):245-9.

・Kim KJ, Lee BY. 2012 “Fucoidan from the sporophyll of Undaria pinnatifida suppresses adipocyte differentiation by inhibition of inflammation-related cytokines in 3T3-L1 cells.” Nutr Res. 2012 Jun;32(6):439-47.

・Ye J, Li Y, Teruya K, Katakura Y, Ichikawa A, Eto H, Hosoi M, Hosoi M, Nishimoto S, Shirahata S. (2005) “Enzyme-digested Fucoidan Extracts Derived from Seaweed Mozuku of Cladosiphon novae-caledoniae kylin Inhibit Invasion and Angiogenesis of Tumor Cells.” Cytotechnology. 2005 Jan;47(1-3):117-26.

・Nakazato K, Takada H, Iha M, Nagamine T. (2010) “Attenuation of N-nitrosodiethylamine-induced liver fibrosis by high-molecular-weight fucoidan derived from Cladosiphon okamuranus.” J Gastroenterol Hepatol. 2010 Oct;25(10):1692-701. doi: 10.1111/j.1440-1746.2009.06187.x.

・Teruya T, Tatemoto H, Konishi T, Tako M. (2009) “Structural characteristics and in vitro macrophage activation of acetyl fucoidan from Cladosiphon okamuranus.” Glycoconj J. 2009 Nov;26(8):1019-28.

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