ビタミンDとは
●基本情報
ビタミンDには、きのこなど植物性食品に含まれるビタミンD2 (エルゴカルシフェロール)と動物性食品に含まれるビタミンD3 (コレカルシフェロール)があり、これらを総称してビタミンDといいます。ビタミンD2、ビタミンD3の体内での働きは同じです。
ビタミンDは骨の形成や成長に重要なカルシウムの吸収に深く関わっています。骨の成長のほか、免疫力を高める働きもあり、丈夫な体づくりには必要不可欠です。
体内に取り入れられたビタミンDは、小腸から脂質と一緒に吸収され、肝臓と腎臓の酵素の働きによって活性型ビタミンDに変換されます。ビタミンDは活性型ビタミンDとなって初めて働きます。つくられたビタミンDは肝臓に貯えられます。
また、ビタミンDは血液や筋肉のカルシウム濃度を調節する役割をしています。
体内のカルシウムのうち99%は骨や歯に存在し、残りの1%は血液や筋肉中に存在して筋肉を収縮させたり、神経伝達に関わるなどの重要な働きをしています。
この働きが正常に行われるためには、血液中のカルシウム濃度を常に一定の範囲内に保つ必要があり、カルシウムの摂取量が少ない時は骨から血液中にカルシウムが溶け出し、多い時には骨に蓄積されます。
ビタミンDは血液中のカルシウム濃度を高めたり、腎臓でカルシウムが尿中に排出されないように体内に再吸収させる働きをしています。【1】
ビタミンDは脂溶性のビタミンのため調理過程での損失が少ない性質を持っています。しかし、ビタミンDを含む食品は非常に限られていて、野菜や穀物にはほとんど含まれていません。多く含むのは魚介類や、きくらげ、干ししいたけなどきのこ類です。油脂で炒めたり、ごまやピーナッツなどの種子類と一緒に食べることで吸収が良くなります。また、乳製品と一緒に摂ることでさらに効果を高めることができます。
●ビタミンDの歴史
ビタミンDは、ビタミンDの欠乏が原因のひとつで起こる「くる病」という病気を予防する物質として発見されました。
19世紀、イギリスの産業革命によって農作業をしていた多くの人々が、空気の悪い工業都市で働くようになりヨーロッパ全体でくる病が流行しました。くる病は、骨が軟らかくなって変形しO脚やX脚などがみられたり、子どもの場合は成長障害が起きる病気です。また、腕や足にけいれんが起こり、呼吸困難や吐き気がみられることもあります。のちにくる病はカルシウム不足が原因であると明らかになりましたが、この頃くる病の症状は非常に重く、死にいたる子どもも多かったため、治療法の研究が行われていました。
1892年、イギリスの研究者パームは、くる病が起こる地域分布と日照量に関係があることに気づきました。
1918年にはイギリスの医師メランビーが、オートミールだけをエサとして屋内で飼育したイヌがくる病を引き起こし、タラ肝油を与えるとくる病が治ることを発見しました。その後、アメリカの研究者マッカラムがさらに詳しく研究し、1922年にはタラ肝油中のくる病を治す効果がある物質を、アルファベット順に命名するやり方に従ってビタミンDと名づけました。
さらに研究が進み、日光によって紫外線を浴びた食品や動物の体内には、くる病を予防する物質が存在することが明らかになりました。この物質は、紫外線によって体内でビタミンDに変わる前駆物質、プロビタミンDです。1932年にはイギリスの研究者アスキューによってビタミンDの化学構造が解明されました。
ビタミンDの化学名は、カルシウムの働きに深く関わることから、カルシフェロールと名づけられています。
●紫外線を浴びて活性化されるビタミンD
ビタミンDは、紫外線を浴びることによって体内で合成することができる栄養素です。皮膚が紫外線を浴びると、皮膚に存在するコレステロールの一種を材料にプロビタミンDが合成されます。これらも肝臓と腎臓で活性化されてビタミンDとなります。
したがって、日常生活の中で1日10~20分ほど日光を浴びることがビタミンDの合成に役立ちます。ただし、黒く日焼けするほどの日光浴は逆にビタミンDの合成能力を低下させ、紫外線による害もあるため注意が必要です。
紫外線量と血液中のビタミンD濃度の間には相関関係があることも明らかになっています。紫外線量の多い春から夏にかけて血中ビタミンD濃度が高く、紫外線量の少ない冬には低くなります。日照の少ない地域や季節、屋内で過ごすことの多い方や、ビタミンDの生産能力が低下している高齢者は、意識して食事からビタミンDを摂ることが必要です。
●ビタミンDの欠乏症
ビタミンDは、どの年代にとっても大切ですが、特に妊娠中の方や授乳中の方、幼児には必要な栄養素です。
ビタミンDが不足すると、カルシウムの吸収がうまくいかなくなり精神的にイライラしやすくなります。
また、大人の場合には骨軟化症、子どもの場合はくる病が起こります。骨軟化症、くる病はどちらも背中、胸、足など体中の骨が変形して曲がってしまう病気です。歯を支える下あごの骨が弱り、歯がぐらぐらするといった症状も見られます。
閉経後の女性や高齢者はカルシウムを十分に摂取していても、ビタミンD不足によって吸収や代謝が悪くなり、骨粗しょう症になりやすくなります。骨粗しょう症は骨がもろくなる病気で、少しの衝撃でも骨折しやすいため、高齢者の寝たきりの原因ともなっています。
ビタミンDやカルシウムの摂取が少ないと、血管へのカルシウム沈着が起こり動脈硬化となる心配もあります。
ビタミンDは、日ごろから適度に日光に当たっていれば欠乏することはほとんどありません。しかし、ビタミンDの摂取が十分でも、肝臓や腎臓の障害によってビタミンDを体内で活性型ビタミンDに変えることができない場合は、欠乏症が起こる場合があります。
●ビタミンDの過剰症
ビタミンDは脂溶性で体内に蓄積されるため、過剰症に注意が必要な栄養素です。
ビタミンDの大量摂取を続けると、骨からカルシウムが溶け出して血液中のカルシウム濃度が上昇する高カルシウム血症となり、全身倦怠感や食欲不振、嘔吐、下痢、脱水症状、体重減少などの症状が起こります。
また、血管の内側や内臓、筋肉にカルシウムが沈着して動脈硬化や腎不全などの臓器障害といったリスクも高まります。
通常の食事でビタミンDを摂る分には心配ありませんが、ビタミン剤やサプリメントによる摂りすぎには注意が必要です。
摂取基準は表の通りです。
ビタミンDの効果
●骨や歯を丈夫にする効果
活性型ビタミンDはカルシウムの吸収に必要なたんぱく質の合成を促し、小腸でのカルシウムとリンの吸収を高め、血液中のカルシウム濃度を高めます。さらに血液中のカルシウムが骨や歯に沈着するのを助け、成長の促進や丈夫な骨や歯の形成、維持に働きます。
このため、ビタミンDが不足すると、カルシウムをしっかりと摂取していても体内への吸収が不十分となります。その上、血液中のビタミンDが不足すると、骨からカルシウムを溶かし出す役割のホルモン [※1]の分泌が盛んになります。この状態が長く続くと、骨量が減って骨粗しょう症となってしまいます。【1】【4】【5】
●糖尿病を予防する効果
ビタミンDとカルシウムの摂取量と糖尿病のリスクに相関性があり、摂取量が多いほど、糖尿病のリスクが軽減するという報告がある。また血糖降下作用をもつインスリンの分泌を促すことも知られており、糖尿病の予防効果や生活習慣病の予防効果が期待されています。【2】【6】【7】【11】
●免疫力を高める効果
最近ビタミンDの研究が進むにつれて、ビタミンD3が細胞で抗菌物質を分泌し、免疫力を高めることがわかってきました。
また、近年の研究ではビタミンDが不足すると肥満になりやすい、という研究報告もあります。【3】
●インフルエンザを予防する効果
ビタミンDは季節性インフルエンザの予防する効果があります。
インフルエンザとはインフルエンザウイルスによって引き起こされる感染症です。
季節性インフルエンザは主に冬に流行し、発症すると38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、倦怠感などの全身症状が強くあらわれ、あわせて鼻水、咳、のどの痛みなどの症状もみられます。高齢者の方や乳幼児の方が発症すると気管支炎や肺炎などを併発する恐れもある感染症です。
ビタミンDは、摂取することで季節性インフルエンザの発生率を抑えることが研究でも発表されており、その効果が期待されています。
●保湿効果
ビタミンDには保湿効果があり、多くのスキンケア用品にも使用されています。目もとの健康やまつ毛のケアをサポートする成分としても注目されています。目もとの乾燥やハリのなさ、まつ毛にコシがなくお悩みの方におすすめです。
<豆知識>ビタミンDで筋力強化
ビタミンDは、直接には骨密度を高める効果はありませんが、カルシウムの吸収を高めて骨を丈夫にするので骨粗しょう症の予防や治療には欠かせないビタミンです。最近の研究により、ビタミンDが筋力を強くする働きがあることがわかってきたため、さらに骨折を予防する効果が期待できます。骨の強化に関連して骨粗しょう症を予防することはもちろん、筋力をつけて転倒を予防することも骨折の予防につながります。
[※1:ホルモンとは、体内で合成され、微量で体の様々な機能を調節する物質のことです。]
ビタミンDは食事やサプリメントから摂取できます
ビタミンDはこんな食品に含まれています
○肉類
○魚介類:魚の干物、いわし、すじこ、かじき、さけ、にしん、しらす
○きのこ類:干ししいたけ、きくらげなど
○卵
○乳製品
こんな方におすすめ
○骨や歯を強くしたい方
○骨粗しょう症を予防したい方
○糖尿病を予防したい方
○免疫力を向上させたい方
○太陽の光をあまり浴びない方
ビタミンDの研究情報
【1】ビタミンD の摂取量と骨折リスクと骨密度の関係を調査(17件、計52625名)したところ、50歳以上の女性において、ビタミンD 1日1200mg とビタミンD を摂取すると骨折リスクを軽減し、骨密度上昇に役立つことが確認されました。このことより、ビタミンD が骨の健康に役立つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17720017
【2】II型糖尿病成人92名を対象に、ビタミンD を1日2,000 IU、炭酸カルシウムを1日800mg の量で16週間摂取させたところ、膵臓のβ細胞からのインスリンの分泌が促進されました。ビタミンD はインスリン分泌を促進し、抗糖尿病効果が期待されます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21715514
【3】フィンランド軍基地労働者の男性800名を対象に、血中ビタミンD 濃度と呼吸器感染症のリスクを調査したところ、血中ビタミンD 濃度が低い男性では呼吸器疾患による欠勤日が多いことがわかりました。また兵役活動を通じ、身体鍛錬の頻度が多いほど血中ビタミンD 濃度が高く、また喫煙者では血中ビタミンD 濃度が低いことがわかりました。血中ビタミンD 濃度は生活習慣と関連性が深く、また免疫力との関係があることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17823437
【4】高齢女性120名を対象に、カルシウムを1日1,200mg とビタミンDを1日1,000 IUの量で5年間摂取させたところ、加齢に伴う、骨量減少、骨形成の指標となるアルカリホスファターゼの増加、骨吸収マーカーの指標の尿中PDP/Cr値の増加が抑制されました。ビタミンD が骨粗鬆症の予防に役立つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18089701
【5】思春期前の一卵性双生児の女児20組を対象に、カルシウムを1日800mg とビタミンD3を1日400IU の量を6ヶ月間摂取させたところ、脛骨および橈骨における骨密度、骨強度の増加が認められました。この結果より、カルシウムとビタミンD を摂取することで、骨密度と骨強度の維持効果が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20544178
【6】女性看護師83,779名を対象に、カルシウムやビタミンD の摂取量とⅡ型糖尿病との関係を調査した結果、カルシウムの摂取量が多いほど糖尿病の発症率が低く、ビタミンDの摂取によって更に低下することが示唆されました。ビタミンD が糖尿病のリスク軽減に役立つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16505521
【7】幼児期を対象に、ビタミンDの摂取とI型糖尿病の発症リスクとの関係を調査したところ、幼少期早期のビタミンD を摂取がⅠ型糖尿病の予防に役立つことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18339654
【8】17歳以上の16,818名を対象に、血中ビタミンD 濃度とがん発症リスクとの関連性を調査したところ血中ビタミンD 濃度が高いほど、大腸がんのリスクを軽減することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17971526
【9】甲状腺摘出手術患者を対象にした研究(4件:706名)において、カルシウムとビタミンD を摂取したところ、甲状腺摘出による低カルシウム血症のリスクが軽減されました。カルシウムとビタミンD に甲状腺摘出による低カルシウム血症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20804871
【10】アフリカ系アメリカ人の成人45名を対象に、ビタミンD3 を1月 60,000 IU の量で16週間摂取させたところ、血流依存性血管拡張反応 (FMD) が増加し、血流促進作用が見られました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21311504
【11】肥満成人154名において、カルシウム(1日1050mg) とビタミンD(1日300IU)含有オレンジジュースを16週間摂取させたところ、体重やBMI、腹囲に影響は認められなかったが内臓脂肪面積の減少が確認されました。ビタミンD はカルシウムと共に摂取することで、内臓脂肪抑制効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22170363
【12】2020年に日本人の食事摂取基準のビタミンDが改訂されました。
https://www.ishiyaku.co.jp/pickup/20200527_nssk2020.pdf
参考文献
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・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社
・奥恒行 柴田克己 編 基礎栄養学 南江堂
・Mitri J, Dawson-Hughes B, Hu FB, Pittas AG. 2011 “Effects of vitamin D and calcium supplementation on pancreatic β cell function, insulin sensitivity, and glycemia in adults at high risk of diabetes: the Calcium and Vitamin D for Diabetes Mellitus (CaDDM) randomized controlled trial.” Am J Clin Nutr. 2011 Aug;94(2):486-94.
・Laaksi I, Ruohola JP, Tuohimaa P, Auvinen A, Haataja R, Pihlajamäki H, Ylikomi T. 2007 “An association of serum vitamin D concentrations < 40 nmol/L with acute respiratory tract infection in young Finnish men.” Am J Clin Nutr. 2007 Sep;86(3):714-7.
・Zhu K, Devine A, Dick IM, Wilson SG, Prince RL. 2008 “Effects of calcium and vitamin D supplementation on hip bone mineral density and calcium-related analytes in elderly ambulatory Australian women: a five-year randomized controlled trial.” J Clin Endocrinol Metab. 2008 Mar;93(3):743-9.
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・Pittas AG, Dawson-Hughes B, Li T, Van Dam RM, Willett WC, Manson JE, Hu FB. 2006 “Vitamin D and calcium intake in relation to type 2 diabetes in women.” Diabetes Care. 2006 Mar;29(3):650-6.
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・Freedman DM, Looker AC, Chang SC, Graubard BI. 2007 “Prospective study of serum vitamin D and cancer mortality in the United States.” J Natl Cancer Inst. 2007 Nov 7;99(21):1594-602.
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・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部
・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社
・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社
・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社
・井上正子監修 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社
・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店
・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム