ロイシン

Leucine

ロイシンとは、必須アミノ酸のひとつで、食事から栄養分として摂取しなければならない成分です。バリンやイソロイシンとともに、筋肉でのエネルギー源となる BCAA (分岐鎖アミノ酸)に分類され、肝臓の機能を高めて、筋肉をつくり出したり、傷ついた筋肉を修復する働きを持ちます。

ロイシンとは?

●基本情報
ロイシンは必須アミノ酸[※1]のひとつであり、筋肉の成長に欠かせないBCAA(分岐鎖アミノ酸)に分類されます。1日の必要量が必須アミノ酸の中では最大となっていますが、幅広い食品に含まれているため、制限アミノ酸[※2]にあてはまることはありません。牛肉・レバー・ハム・牛乳・チーズ・とうもろこしを筆頭とした様々な食品から摂取できるため、通常の食事をしていれば不足することはほとんどありません。
ロイシンには、筋肉の形成を促進して筋肉の損失を防ぐ効果のほか、肝臓の機能を強化させる効果があるといわれています。
ロイシンは動物性たんぱく質に多く含まれており、牛肉やロースハム、レバーなどの肉類、アジやサケ、かつお節などの魚介類、チーズや脱脂粉乳などの乳製品、高野豆腐や湯葉などの大豆製品などが挙げられます。

●ロイシンの欠乏症・過剰症
通常の食事で不足することのないロイシンですが、不足した場合には肝機能が低下しグリコーゲンの合成が滞ってしまいます。グリコーゲンは膵臓から分泌されるインスリンの働きによりブドウ糖から合成されているため、ロイシンの摂取不足を起こすとインスリンの分泌が減少します。インスリンの減少は血糖値の上昇を招き、腎機能の低下や糖尿病の原因になります。また、BCAAであるロイシンの不足は、筋力の低下や疲労の蓄積などを引き起こしてしまうといわれています。
ロイシンは欠かすことのできない栄養素のひとつですが、動物性たんぱく質は多くの脂肪も含んでいるため、充分な量を摂取すると、余分な脂肪分も取り込んでしまうというデメリットがあります。ロイシンの主な作用は肝臓の機能を高めることですが、摂取過剰になると、ほかのアミノ酸のバランスを崩してしまうため、免疫力の低下や体重の減少といった弊害を招くとされています。特定の食品からではなく、幅広い食品を摂取することが大切です。

●ロイシンを摂取する際の注意点
ロイシンは適切に経口摂取される場合には安全性が示されています。メープルシロップ尿症[※3]の患者の場合は、血中のBCAA濃度が高いため、分岐鎖アミノ酸の摂取量が上昇すると痙攣や身体的・精神的発育遅延が起こることがあります。
また、妊娠中・授乳中の大量摂取は控える必要があります。
ほかのハーブやサプリメント、食品との相互作用については十分なデータがありませんが、過剰な摂取、疾病やそれに伴う服薬などとの組み合わせにより、副作用が起こる可能性もありますので事前に医師に確認が必要となります。

[※1:必須アミノ酸とは、たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のうち、体内で合成することができない9種類のアミノ酸のことです。食品から摂取しなければならないアミノ酸で、欠乏すると血液や筋肉、骨などの合成ができなくなります。]
[※2:制限アミノ酸とは、必要量に対して充足率の低いアミノ酸のことです。必須アミノ酸は相互の量が一定の範囲内にあることが大切であり、ひとつでも不足しているアミノ酸があると、たんぱく質の利用効率は不足しているアミノ酸に引っ張られて低下してしまいます。最も不足しているものを第一制限アミノ酸といいます。]
[※3:メープルシロップ尿症とは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の代謝に必要な脱炭酸酵素の先天的欠損により代謝ができず、分岐鎖アミノ酸とα-ケト酸の血液中の量が増えてしまう病気です。尿や汗などがメープルシロップのような甘いにおいを発するので、この病名がついています。]

ロイシンの効果

●筋肉を強化する効果
BCAA は筋繊維[※4]を構成するたんぱく質の主成分となります。その中でも特にロイシンは、体に筋肉を強化して、筋肉を失わせないようにする性質があります。また、インスリンの分泌を増加させる作用があるため、エネルギーとしてブドウ糖を筋肉の細胞に取り込むのを助けます。インスリンの分泌を促すことで、運動時の持久力や瞬発力を高めたり、運動後の筋肉を成長・修復させたり、強化する効果があります。【1】【4】【6】【7】【8】

●肝機能を高める効果
肝臓は、消化器官で取り込んだ栄養素を全身に送り込む代謝活動や、アルコールや薬、細胞から集められた老廃物などの有害な物質の分解、体を動かすためのエネルギー源となるグリコーゲンの代謝・貯蓄などの様々な機能を担っています。エネルギーを大量に産生しては消費を繰り返しているため、肝臓には過重な負担がかかっています。肝臓が疲労して代謝が鈍ると、肝機能が低下してしまい、全身の疲れにつながる可能性があります。
したがって、ロイシンを摂取することで、肝機能の向上と身体の疲労回復が期待できます。【2】【5】【9】【10】

●ストレスを緩和する効果
ロイシンにはエンドルフィン[※5]と同様の効果があるため、ストレスを緩和する効果があります。

●育毛効果
ロイシンは、たんぱく質の構成に深く関わっているため、ロイシンを豊富に含む食材を積極的に食べると毛髪の健康状態の改善や育毛効果が期待できます。

[※4:筋繊維とは、筋肉や筋組織を構成する収縮性の繊維状細胞のことです。平滑筋繊維と横紋筋繊維があります。]
[※5:エンドルフィンとは、脳内の神経細胞間で情報を伝える伝達物質のひとつです。鎮痛効果や気分の高揚、幸福感などが得られ、モルヒネ同様の作用を示すことから脳内麻薬とも呼ばれています。]

ロイシンは食事やサプリメントで摂取できます

○レバー ​
​○アジやサケ
○乳製品
○大豆製品

こんな方におすすめ

○疲れやすい方
○体調を整えたい方
○免疫力を強化したい方
○筋肉をつけたい方
○肝機能を強化したい方

ロイシンの研究情報

【1】強い筋肉トレーニングを実施する際の筋肉損傷をロイシンなどのBCAAが防ぐことがわかりました。これはBCAAのタンパク質合成能力によるものと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22569039

【2】肝臓病患者ではロイシンなどのBCAAの合成能が低下することが知られており、ロイシンなどのBCAA補給が治療課題となっています。臨床試験によって、ロイシンなどのBCAA補給により、アルブミン合成やインスリン抵抗性に対するロイシンなどのBCAAの有効性が確認され、肝硬変や肝臓がん患者のQOLの向上に、ロイシンなどのBCAAが高く評価されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21566257

【3】ロイシンなどのBCAAにはインスリン抵抗性改善に役立つ可能性があり、メタボリックシンドロームの予防に注目されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22560213

【4】筋肉トレーニングにより炎症が生じた際に、ロイシンなどのBCAAが骨格筋におけるタンパク質合成とタンパク質分解を保護します。そのためBCAAは筋肉トレーニングに役立ちます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22536489

【5】糖尿病患者に肝硬変(LC)や肝細胞癌(HCC)の予防として、ロイシンなどのBCAAを投与した場合、夜に摂取した方が有意に肝機能を改善できました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22520843

【6】ロイシンなどのBCAAは、運動による筋肉痛を軽減することに役立つ可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22168756

【7】ロイシンなどのBCAAを摂取することで、運動中と休息中の筋肉タンパク質合成を高めることが確認できました。特に激しい運動による筋肉修復の際には、ロイシンなどのBCAAを摂取することが役に立つと考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22127230

【8】サッカー競技において、試合競技が度重なると、反射神経が悪くなります。そこで、ロイシンなどのBCAAを摂取することで、反射神経は10% 程良くなるため、スポーツ競技時のロイシンなどのBCAAが推奨されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20225652

【9】ロイシンなどのBCAAを強化した食事は、肝臓移植時の早期の栄養状態を改善し、肝臓移植後の予後の回復に役立つと考えられています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21947604

【10】ロイシンなどのBCAAを摂取することで、肝硬変患者の肝細胞癌の発生率を防ぐことができました。特に小児肝硬変患者に対する働きは大きく、肝臓の健康をサポートすることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21829025

【11】食事からのロイシンなどのBCAAの補給は心臓や骨格筋でのミトコンドリアのエネルギー産生をサポートします。特にカロリーリストリクションが健康寿命の増大に役立つことが知られるようになった現在、食事からのロイシンなどのBCAA補給が高齢者の健康寿命の延長に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21566257

【12】ロイシンなどのBCAAは母体の乳腺の乳汁合成を促進し、新生児の生存率や成長を促進します。赤ちゃんが健康に育つために役立つ栄養素と言われています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22652809

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参考文献

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・「医療従事者のための【完全版】機能性食品ガイド」(2004、編集吉川敏一/講談社)

・「新しい栄養学と食のきほん辞典」(2011、監修井上正子/西東社)

・「最新・最強のサプリメント大辞典」(2007、編集嶋尾通/昭文社)

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