あじ

Japanese jack mackerel
鯵 鰺
Caranginae

あじは、クセがないため食べやすく、様々な調理方法に適するため人気の魚です。DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸をはじめとした様々な栄養素がバランスよく含まれているため、幼児の成長や健康の維持、美肌に効果的として人気の魚です。

あじとは?

●基本情報
あじは、スズキ目アジ科アジ亜科に含まれる魚の総称のことです。
日本ではその中の一種マアジを指すことが多いですが、ムロアジ、シマアジなど多くの種類があります。
全長は約40cmで、世界各地の熱帯・温帯域で食用に漁獲されています。
食用として人気のある魚で、味が良いから「あじ」という名前がついたといわれています。

●あじの種類
・マアジ
体長が30~40cmほどのあじで、日本近海には沖合回遊性で黒色をしたクロアジと、沿岸性の黄色をしたキアジの2種類が知られています。漁獲量はクロアジの方が多いですが、市場価値は味の良いキアジの方が高いといわれています。
淡白な味ですがうまみがあり、刺身やたたき、塩焼き、干物、揚げ物などにされます。

・メアジ
マアジに似た外見ですが目が大きく、南日本から小笠原諸島、台湾など太平洋の温帯から熱帯に分布し、沿岸近くに住んでいます。
漁獲量は比較的少ないですが、マアジに次いで味が良いといわれています。
マアジと同様に塩焼きや煮付けにされる他、開き干しに利用されます。

・ムロアジ
体側中央部の縦縞は赤褐色ですが、死後に黄色に変わるという特徴があります。体長は約40cm程で南日本海から東シナ海に分布します。
鮮度が落ちやすいため、大半は塩干品や練り製品の材料とされています。クサヤの材料とされる種類です。

・シマアジ
体側の中央に鮮やかな黄色縦帯があることが名前の由来です。
全世界の暖海に分布し、南日本に多く生息します。体長は65cmに達しますが、養殖のものは4年間で体長50cm、体重3kgにもなります。
夏が旬の高級魚で、あじ類の中で最も美味であるといわれています。
刺身やすし種、塩焼き、照り焼きなどで食べられます。

●美味しいあじの選び方
目が澄んでいて、えらが鮮紅色をしているものを選びます。
また、エラやひれがピンと張っており、ぜいご[※1]がしっかりしており腹が丸く高く盛り上がっているものが美味しいあじです。

●あじに含まれる成分と性質
あじは脂質が少なめで、たんぱく質が豊富な魚です。さらに、必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。
あじはグルタミン酸やタウリンが豊富であるため、特有のうまみがあるといわれています。
中でもタウリンの含有量はさばやさんまよりも多いといわれています。また、カルシウムビタミンB1ビタミンB2ナイアシンなどのビタミンミネラル類も多く含まれています。
3枚おろしにした際の骨の部分は骨せんべいにすると美味しく食べられカルシウムも摂取することができます。また、ビタミンB1は、皮の部分に多いため、皮まで食べることで補えます。
青背の魚に含まれる栄養素の特徴として、DHAEPAなどの不飽和脂肪酸が豊富に含まれているという点があります。EPAには血中のコレステロールを下げて血栓をできにくくする働きがあり、DHAには脳を活性化する働きがあります。

<豆知識>くさやはEPAの宝庫!
くさやとは、ムロアジを開いてくさや汁という独特の塩汁に漬けたあと乾燥させた干物で、伊豆七島の名産として知られています。
くさやには、EPA、ビタミンB群、カルシウムといった各種栄養素が濃縮され含まれています。
干物なので1年中いつでも食べることができるため、すぐれた保存食として重宝されていました。

[※1:ぜいごとは、あじの特徴のひとつである、尾ヒレのつけね部分からエラにかけてある固いウロコのことです。]

あじの効果

あじには、DHAやEPA、タウリン、カルシウム、ビタミン類を豊富に含んでいるため、以下のような効果が期待できます。

●生活習慣病の予防・改善効果
あじに含まれているEPAには高い血小板凝集抑制効果があり、血栓をつくらせない働きがあります。そのため、心筋梗塞や虚血性心疾患など、生活習慣病予防の効果があります。EPAは善玉(HDL)コレステロールを増やし、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪を減らす働きもあり、血液をサラサラにしてくれます。高血圧の予防や改善に効果的です。EPAの高脂血症に対する効果はDHAも含めたn-3系列の脂肪酸の作用として検証されてきました。1日あたり4g以下のEPAとDHAを摂取する場合、悪玉(LDL)コレステロール値を5〜10%低下させ、中性脂肪も25〜30%引き下げる効果が報告されました。ある臨床試験では、EPA600mgとDHA260mgを高脂血症傾向がある人に12週間投与したところ、中性脂肪の低下が認められました。
また、あじに含まれるタウリンには、胆汁の分泌を促進し、コレステロール値を下げる効果があります。
胆汁がつくられる際、胆汁の主要な成分である胆汁酸が必要となります。胆汁酸をつくる際は、コレステロールが必要となります。タウリンは、胆汁酸と結合する性質があるため、タウリンを摂取することで胆汁酸の必要量が増加するため、コレステロール値を下げる効果があるといえます。
あじには、DHAやEPA、タウリンが豊富に含まれているため、生活習慣病を予防・改善する効果があります。【1】

●記憶力や学習能力を高める効果
あじに含まれているDHAは脳を構成する約140億個の脳細胞の膜に存在し、脳内でも特に記憶や学習に関わる海馬に多く集まっています。DHAは脳を活性化する働きがあるため、海馬のDHA量が頭の良さに関わっているといわれており、脳の栄養素とも呼ばれています。
脳には、有害なものが外部から入らないようにする血液脳関門[※2]と呼ばれているフィルターのようなものがあり、脳内に入れる成分と入れない成分を選別しています。DHAは血液脳関門を通過することができる成分で、神経伝達物質の量を増やし、情報伝達の能力を向上させる働きがあります。
また、DHAは神経細胞の発育を活性化させ、機能維持に重要な役割を果たしています。DHAは記憶や学習能力を向上させるために必要不可欠な成分です。【2】【3】

●骨粗しょう症を予防する効果
あじに含まれるビタミンDはカルシウムの吸収に必要なたんぱく質の合成を促し、小腸でのカルシウムとリンの吸収を高め、血液中のカルシウム濃度を高めます。さらに血液中のカルシウムが骨や歯に沈着するのを助け、成長の促進や丈夫な骨や歯の形成、維持に働きます。
このため、ビタミンDが不足すると、カルシウムをしっかりと摂取していても体内への吸収が不十分となります。その上、血液中のビタミンDが不足すると、骨からカルシウムを溶かし出す役割のホルモン [※3]の分泌が盛んになります。この状態が長く続くと、骨量が減って骨粗しょう症となってしまいます。
あじには、骨のもととなるカルシウム、カルシウムの吸収・沈着を助けるビタミンDも豊富に含まれているため、骨粗しょう症の予防に適した食材といえます。【6】

●視機能を改善する効果
あじに含まれるDHAは目にも大切な栄養素です。DHAは、目の網膜に含まれる脂肪酸の約40%を占めることがわかっています。
DHAを摂取すると、近視の改善や集中力の向上、動体視力の改善などに効果があります。未熟児にDHAを摂取させると、未熟児網膜症のリスクを低減することも明らかになりました。このように、DHAは活動的に生きるために必要な視力のサポートや回復に欠かせない栄養素です。
また、タウリンは、目の網膜に存在しています。網膜には多数の光受容体があり、外部からの光刺激を感知することで、その刺激を脳中枢へと伝達しています。この光受容体にタウリンは存在しており、網膜の神経を抑制することで網膜を守る働きがあるといわれています。
さらに、タウリンには目の新陳代謝を促進し、角膜の修復を助ける働きもあるといわれています。

●アレルギー症状を緩和する効果
DHAとEPAには、シクロオキシゲナーゼ、リポキシゲナーゼなどというアレルギーを促進する酵素を阻害する働きがあります。シクロオキシゲナーゼはプロスタグランジンE2という、アトピー性皮膚炎や花粉症,喘息といったアレルギー症状や関節炎などを促進する物質です。DHAとEPAはこれらのアレルギー源であるシクロオキシゲナーゼを阻害し、プロスタグランジンE2がつくられるのを抑制します。したがって、アトピー性皮膚炎や花粉症,慢性気管支炎などの炎症性疾患の改善にも効果があります。【4】【5】

[※2:血液脳関門とは、血液中の有害な物質が自由に脳まで到達しないように働いている機構のことです。]
[※3:ホルモンとは、体内で合成され、微量で体の様々な機能を調節する物質のことです。]

あじは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○生活習慣病を予防・改善したい方
○記憶力や学習能力を向上させたい方
○骨粗しょう症を予防したい方
○目の健康を保ちたい方
○アレルギー症状でお悩みの方

あじの研究情報

【1】平均年齢10歳の肥満小児120名にDHA 300mg、EPA 42mg を3週間摂取させたところ、血中総コレステロール量が減少し、合わせて体重が減少したことから、DHAに肥満小児に対する予防効果が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22101886

【2】脳の認知機能にはグルタミン酸、及びグルタミン酸を神経細胞に輸送するグルタミン酸輸送体が重要な役割を果たしています。apoE4というタンパク質はこれらを傷害し、認知機能低下をもたらします。DHAを摂取すると、apoE4の働きを抑制するため、DHAには認知機能や痴ほう症予防の効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22057027

【3】生後6ヵ月~24ヵ月の小児では必須脂肪酸の摂取は不可欠で、特にDHAが不足すると網膜機能や認知機能に影響を及ぼします。特にDHAや、DHAに変換されるα-リノレン酸は母乳が一番の摂取源であるため、粉ミルクなどで育てる場合、発育障害の問題が指摘されています。そこで、粉ミルクなど人工食などには、α-リノレン酸を添加する強化栄養食品が販売されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21929635

【4】白血球細胞では炎症関連物質のNF-κB が活性化されることで炎症が生じるが、DHA及びプロシアニジンを摂取すると、NF-κB の活性化を抑制し、抗炎症作用を持つことが示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21954853

【5】小児気管支喘息患者29人において、EPA を1日84mg 及びDHAを1日36mg を含んでいる魚油を10ヵ月摂取したところ、喘息症状スコアが改善され喘息患者に特有のアセチルコリンへの過剰反応も改善が見られました。さらに、血漿中のEPA の量が増加したことから、DHAとEPAには小児気管支喘息に対して有効であると考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11153584

【6】ビタミンD の摂取量と骨折リスクと骨密度の関係を調査(17件、計52625名)したところ、50歳以上の女性において、ビタミンD 1日1200mg とビタミンD を摂取すると骨折リスクを軽減し、骨密度上昇に役立つことが確認されました。このことより、ビタミンD が骨の健康に役立つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17720017

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参考文献

・則岡孝子 著 ひと目でわかる あなたに必要な栄養成分と食べ物 河出書房新社

・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社

・蔵敏則 著 食材図典 小学館

・本多京子 食の医学館 小学館

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・佐藤秀美 イキイキ!食材図鑑 日本文芸社

・中嶋 洋子 著、阿部 芳子、蒲原 聖可監修 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・Vasickova L, Stavek P, Suchanek P. (2011) “Possible effect of DHA intake on body weight reduction and lipid metabolism in obese children.” Neuro Endocrinol Lett. 2011;32 Suppl 2:64-7.

・Kariv-Inbal Z, Yacobson S, Berkecz R, Peter M, Janaky T, Lütjohann D, Broersen LM, Hartmann T, Michaelson DM. (2012) “The isoform-specific pathological effects of apoE4 in vivo are prevented by a fish oil (DHA) diet and are modified by cholesterol.” J Alzheimers Dis. 2012;28(3):667-83. doi: 10.3233/JAD-2011-111265.

・Huffman SL, Harika RK, Eilander A, Osendarp SJ. (2011) “Essential fats: how do they affect growth and development of infants and young children in developing countries? A literature review.” Matern Child Nutr. 2011 Oct;7 Suppl 3:44-65. doi: 10.1111/j.1740-8709.2011.00356.x.

・Martinez-Micaelo N, González-Abuín N, Terra X, Richart C, Ardèvol A, Pinent M, Blay M. (2012) “Omega-3 docosahexaenoic acid and procyanidins inhibit cyclo-oxygenase activity and attenuate NF-κB activation through a p105/p50 regulatory mechanism in macrophage inflammation.” Biochem J. 2012 Jan 15;441(2):653-63. doi: 10.1042/BJ20110967.

・Nagakura T, Matsuda S, Shichijyo K, Sugimoto H, Hata K. (2000) “Dietary supplementation with fish oil rich in omega-3 polyunsaturated fatty acids in children with bronchial asthma.” Eur Respir J. 2000 Nov;16(5):861-5.

・Tang BM, Eslick GD, Nowson C, Smith C, Bensoussan A. (2007) “Use of calcium or calcium in combination with vitamin D supplementation to prevent fractures and bone loss in people aged 50 years and older: a meta-analysis.” Lancet. 2007 Aug 25;370(9588):657-66.

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