カシス種子油

cassis seed oil

カシス種子油はカシスの種から抽出した健康油で、必須脂肪酸の一種であるγ(ガンマ)-リノレン酸を豊富に含みます。体の働きを整えるホルモンであるプロスタグランジンの材料となり、血圧や悪玉(LDL)コレステロール値、血糖値を低下させる効果に加えて、皮膚機能の維持に役立つとされています。

カシス種子油とは?

●基本情報
カシス種子油とは、カシスの果実の中にある種から抽出した油のことです。
カシスとは、北欧からアジア、ニュージーランドに渡る寒冷地に広く生育するユキノシタ科の落葉低木性の果樹で、6~8月に直径1㎝弱の濃い紫色の果実を実らせます。

カシスには目に良いとされる青紫色の天然色素であるアントシアニンが含まれています。カシスには4種類のアントシアニンが含まれ、末梢血管の血流を改善したり、筋肉や目の毛様体筋のこりをほぐす効果があります。カシスには他にもビタミンAビタミンEβ-カロテンなど多くの栄養成分が凝縮されています。カシスの成分を研究していくうちに、その種子から抽出された油にもγ-リノレン酸と呼ばれる貴重な健康成分が含まれていることが判明しました。ニュージーランドなどではカシスは種まで食べられる果実として、多くの人々に親しまれています。
最近では、日本でもカシス種子油が含まれた健康食品や化粧品が販売されています。

●カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸
カシス種子油には、必須脂肪酸のγ-リノレン酸が豊富に含まれています。γ-リノレン酸は、カシス種子油の他に月見草やボラージ草(日本名:るりちしゃ)から抽出された油に含まれており、一般の食品にはあまり含まれていない成分です。

リノレン酸には、「α(アルファ)」「β(ベータ)」「γ(ガンマ)」などの種類があり、これらは発見された順番を表しています。γ-リノレン酸は3番目に発見されたことを意味しています。
γ-リノレン酸は、構造の中に3つの炭素結合を持つn-6系の多価不飽和脂肪酸で、別名「ビタミンF」とも呼ばれています。
n-6系とは、脂肪酸構造の中にある炭素の最初の二重結合が、6つ目と7つ目の炭素の間にあることからこのように呼ばれ、リノール酸やアラキドン酸と同じ種類に分類されます。

●γ-リノレン酸の働き
γ-リノレン酸は、体内でジホモ・γ-リノレン酸[※1]を経てアラキドン酸に変換されます。ジホモ・γ-リノレン酸はプロスタグランジン系列という生体調節ホルモン[※2]の材料となる物質です。
プロスタグランジンとは、血圧や血糖値、コレステロール値の降下、血液凝固の阻止、血管拡張、気管支拡張、子宮収縮など多くの調節作用が認められており、ごく微量でも強い生理作用[※3]を持っています。

γ-リノレン酸は、皮膚機能の維持に必要な成分といわれています。γ-リノレン酸が不足してしまうと、水分の調節機能が正常に働かず、乾燥が起こることにより本来皮膚が持っているバリア機能が低下してしまいます。
そのため、γ-リノレン酸の不足は皮膚の炎症を導き、アトピー性皮膚炎を発症させやすくなります。

デイヴィッド・ホロビン博士[※4]が行ったアトピー性皮膚炎の研究によって、アトピー性皮膚炎患者の血中γ-リノレン酸含有量は健常者の50%しかないことが判明し、アトピー性皮膚炎には、γ-リノレン酸が非常に重要な成分であることが明らかになりました。そのため、主にヨーロッパ(イギリス、ドイツ、フランス)では医薬品としてアトピー性皮膚炎の治療にγ-リノレン酸が用いられています。

[※1:ジホモ・γ-リノレン酸とは、γ‐リノレン酸から代謝され、プロスタグランジンの材料となります。炎症を抑える効果を持っています。]
[※2:生体調節ホルモンとは、生きていく上で重要な生体機能を調節するホルモンのことです。]
[※3:生理作用とは、化学物質が特定の生理的調節機能に対して作用することをいいます。]
[※4:デイヴィッド・ホロビン博士とは、医学研究者であり企業家、そして500を超える科学論文の著者兼編集者です。多くの疾患は、適切な脂肪酸を補うことにより軽減される可能性があるとして、アトピー性皮膚炎患者に対するγ-リノレン酸の効果を立証しました。]

カシス種子油の効果

カシス種子油には、γ-リノレン酸が含まれており、以下のような健康に対する効果が期待できます。

●生活習慣病を予防する効果
カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸からつくられるプロスタグランジンE1には、血糖値やコレステロール値、血圧を下げる効果があります。血糖値やコレステロール値の上昇が動脈硬化や高血圧などを招くため、γ-リノレン酸の摂取は生活習慣病を予防する効果があると期待されています。
また、γ-リノレン酸を継続して摂取することで中性脂肪の上昇が抑えられ、善玉(HDL)コレステロール値の低下を防ぐ働きがあることが分かっています。
代謝[※5]促進などの働きもあることからダイエット効果も期待されています。【9】【15】

●アトピー性皮膚炎およびアトピー性喘息に対する効果
妊婦313名において、妊娠2カ月~4カ月からカシス種子油を摂取しはじめ、出産後授乳を終了する2歳までカシス種子油を摂取したところ、生後12カ月の子供でアトピー性皮膚炎が予防されたことから、カシス種子油の生後早期でのアトピー性皮膚炎予防効果が示唆されました。
またアトピー性気管支喘息を予防する働きも報告されています。【1】【6】【12】

●関節リウマチに対する効果
γ-リノレン酸がプロスタグランジンE1の産生を調節し、炎症性物質の活性を抑えることで、関節リウマチの予防や治療に役立つという研究がされています。
また、糖尿病による神経障害の症状を軽減したとの報告もあり、γ-リノレン酸は末梢神経障害(糖尿病性ニューロパチー)にも効果があるといわれています。【4】【5】【11】【14】

●月経前症候群(PMS)に対する効果
月経前症候群(PMS)とは、月経前のイライラや胸の張り、むくみ、頭痛などの症状のことを指します。これらの症状の原因は女性ホルモンのバランス異常ではないかと考えられてきましたが、近年の研究により月経前症候群の症状を訴える女性の多くは、γ-リノレン酸の血中濃度が低いことが示唆されています。
体内のγ-リノレン酸量が少なくなると、プロスタグランジンE1の働きが抑制されることにより、ホルモンバランスが乱れ、子宮内膜が正常に機能しないなどの症状が現れるといわれています。

[※5:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※6:臨床試験とは、厚生労働省による承認前の薬剤(医薬品候補)などを、実際に患者や健康な人に投与することにより、安全性(副作用の有無、副作用の種類、程度、発現条件など)と有効性(効果、最適な投与量・投与方法)を確かめる目的で行われる試験のことです。]

カシス種子油は食事やサプリメントで摂取できます

カシス種子油を含む食品

○カシス

こんな方におすすめ

○生活習慣病を予防したい方
○偏食気味の方
○お酒をよく飲む方
○アトピー性皮膚炎を予防したい方

カシス種子油の研究情報

【1】妊婦313名を対象に、妊娠2カ月~4カ月からカシス種子油の摂取を開始し、出産後授乳を終了する2歳までカシス種子油を摂取させたところ、生後12か月の子供でアトピー性皮膚炎が予防されたことから、妊娠初期からのカシス種子油を摂取することがアトピー性皮膚炎予防効果に有益であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20545710

【2】カシス種子油に、機能性成分としてα-リノレン酸ならびにγーリノレン酸が豊富に含まれています。γ-リノレン酸には多くの機能性が報告されており、カシス種子油が高い機能性を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16597516

【3】カシス種子油には、主成分としてγ-リノレン酸が11~19% が含まれており、特に多い品種では22~24% が含まれています。その他の成分として、ステアリン酸(2~4%)及びα-リノレン酸(10~19%) が含まれており、高い機能性が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11782203

【4】関節リウマチ患者を対象に、カシス種子油を摂取させると、リウマチ症状と進行度合いに改善が見られたことから、カシス種子油がリウマチ予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8081671

【5】リウマチ患者を対象に、カシス種子油を摂取させると、朝のこわばりが緩和されました。また、炎症関連物質であるIL-1βやTNF-α、IL-6、プロスタグランジンE2 の増加が緩和されましたことから、カシス種子油が抗炎症作用およびリウマチ予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8252313

【6】カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸は、抗炎症作用を持ち、乾燥肌や軽度のアトピー肌での炎症作用や皮膚からの水分蒸発を防ぐことから、カシス種子油は乾燥肌や軽いアトピー性皮膚炎でのバリア機能を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22123240

【7】カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸は、リポ多糖による炎症関連物質のNF-κBや炎症促進蛋白質AP-1のはたらきを抑制することから、カシス種子油は抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19842026

【8】動物に不飽和脂肪酸豊富な食事を摂らせた場合、網膜及び涙腺中のγ-リノレン酸の量が増加しました。不飽和脂肪酸は抗炎症作用を持っており、網膜および涙腺中の炎症を防ぎ、ドライアイの予防に役立つということが示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19451735

【9】カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸は早期肥満患者の体重増加を抑制するはたらきを持つことから、カシス種子油は抗肥満効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17513402

【10】カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸とDHAをイヌに8日間摂取させることで、抗ヒスタミン作用を持つことから、カシス種子油は抗炎症作用と抗アレルギー作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15500483

【11】カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸は、炎症性物質ロイコトリエンB4やリポオキシゲナーゼの活性を抑える働きを持つことから、カシス種子油は抗炎症作用や抗リウマチ効果、ならびに気管支喘息などのアレルギー症状の予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15154607

【12】アトピー性喘息患者43名を対象に、カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸1.13g とEPA0.75g を摂取したところ、炎症性物質ロイコトリエンB4 の産生量が減少したことから、カシス種子油にアトピー性喘息予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12852711

【13】糖尿病ラットでは尿量が増加し、主要な尿ミネラルが減少する一方、カルシウムが増加するため、骨量が減少することが問題となっています。カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸とビタミンCを摂った場合は、尿量の増加を軽減し、尿中ミネラルの変化も緩和され、骨量の軽減が見られたことから、カシス種子油が骨粗しょう症予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12010635

【14】カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸はプロスタグランジンE1の産生を調整することにより、関節リウマチの予防に役立つことがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11299072

【15】カシス種子油に含まれるγ-リノレン酸とα-リポ酸を一緒に摂ると、Ⅱ型糖尿病患者での末梢インスリン抵抗性を改善することから、カシス種子油に糖尿病予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11233149

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参考文献

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・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・中嶋洋子 蒲原聖可 阿部芳子監修 完全図解版食べ物栄養事典

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