チロシン

tyrosine

チロシンは神経伝達物質の原料となり、うつ状態を改善する効果がある非必須アミノ酸の一種です。
またチロシンは代謝や自律神経の調整を行う甲状腺ホルモンや髪の毛、皮膚の黒色色素であるメラニンの材料となります。

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チロシンとは?

●基本情報
チロシンは非必須アミノ酸[※1]の一種で、体内では必須アミノ酸[※2]の一種であるフェニルアラニンから合成されます。チロシンは、神経細胞の興奮や抑制を伝達するアドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の原料となります。さらに成長を促進したり、代謝[※3]や自律神経[※4]の調整を行う甲状腺ホルモンや、髪の毛や皮膚の黒色色素であるメラニン色素の原料となります。
チロシンは神経や脳の働きをサポートするために必要なアミノ酸で、うつ病の改善、認知症の予防に効果的だといわれています。

●チロシンの歴史
チロシンは1846年にドイツの化学者リービッヒによって、チーズから発見されました。
そのため、「チロシン」という名前は、ギリシャ語の「チーズ」に由来しているといわれています。
チロシンは肌の日焼けのもとになるメラニン色素を生成するため、日焼け剤にも配合されています。
​また手術前後の患者に対する高カロリー輸液[※5]や、フェニルアラニンからチロシンをつくることができないフェニルケトン尿症の治療としても用いられています。

●チロシンを含む食品と性質
チロシンは、苦みを感じる成分としてバナナアボカドなどの果物に多く含まれています。
​チロシンは糖分と一緒に摂取すると吸収が良くなる性質があり、果物から摂取することで効率良く摂取することができます。
チロシンを含む果物のひとつにりんごがあります。りんごは切ってしばらくすると変色してしまいます。これはりんごに含まれるチロシンが空気に触れ、チロシナーゼという酵素が働くことで酸化し、メラニン色素を生成するためです。
​そのため、塩水につけたり、レモン汁につけたりしてチロシンを空気に触れさせないようにしてりんごの変色を防ぎます。
また、たけのこをゆでると白い粉末が出ますが、これはチロシンが結晶化したものです。

●チロシンの過剰症・欠乏症
メラニンはチロシンを材料にしてつくられるので、過剰に摂取すると肌のシミやそばかすを発生させやすくする可能性があります。メラニンとは、肌を紫外線から守る働きをする黒色色素です。
チロシンは血圧の上昇を招くノルアドレナリンの量を増加させるので、注意して摂取する必要があります。
またチロシンが不足すると、甲状腺ホルモンや脳内で働く神経伝達物質の分泌が減少し、代謝活動の減衰やうつ状態を引き起こす恐れがあります。さらにメラニン色素の生成が妨げられるので、白髪の原因にもなります。
さらにチロシンは、成長を促す甲状腺ホルモンの材料となるため、成長途中である乳幼児がチロシンの摂取不足になると発達障害や成長障害を引き起こす要因になります。【1】

●チロシンが生み出す甲状腺ホルモンの働き
チロシンは、人間の成長や代謝を促進する甲状腺ホルモンの材料となります。
​甲状腺ホルモンは、細胞の生まれ変わりを促進するので、子どもの成長には欠かせないホルモンです。
​この甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、交感神経が刺激されるため、動悸や手の震えが起こります。
一方で甲状腺ホルモンが不足すると身体の代謝が正常に行われなくなり、集中力の低下やむくみ、心筋梗塞の要因となる動脈硬化や高脂血症を誘発するコレステロール値の上昇などを引き起こします。

[※1:非必須アミノ酸とは、体内で合成が可能なアミノ酸のことです。グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、システイン、チロシン、プロリンの11種類が存在します。]
[※2:必須アミノ酸とは、動物の成長や生命維持に必要であるにも関わらず体内で合成されないため、食物から摂取しなければならないアミノ酸のことです。バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類が存在します。]
[※3:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※4:自律神経とは、無意識下で体全体を調整する神経のことです。]
[※5:高カロリー輸液とは、通常よりも多く糖類を含む輸液のことです。]

チロシンの効果

●うつ症状を改善する効果
チロシンは脳を興奮状態にしてやる気を起こさせるドーパミンや、脳を緊張状態にし集中力を高めるノルアドレナリンの材料となるため、うつ状態の治療に効果があります。ドーパミンやノルアドレナリンが脳内で不足すると、無気力や無関心を引き起こし、うつ病となります。
チロシンはドーパミンやノルアドレナリンの前駆物質[※6]となるだけでなく、うつ状態のときに脳内のチロシンの濃度が低下しているということも明らかとなっていることから、チロシンにはうつ症状を改善する効果があるといえます。

●集中力を高める効果
脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンが不足すると、物事の関心や意欲が薄れ、集中力が低下します。
チロシンは脳を活性化させるドーパミンやノルアドレナリンの前駆体であることから、集中力を高める効果があります。

●ストレスをやわらげる効果
チロシンは、ストレスや疲労を緩和する効果があります。
人間は強いストレス状態にあると、アドレナリンやノルアドレナリンを消費し、些細なことでも攻撃的に反応するようになります。チロシンはアドレナリンやノルアドレナリンの前駆体となるため、神経機能を調節することでストレスを緩和する効果があります。
チロシンのストレスに対する効果について行った研究では、軍隊の厳しい訓練で、チロシンを摂取した兵士は、摂取していない兵士よりもストレスへの抵抗が強かったということが明らかとなっています。

また、チロシンは「慢性疲労症候群」を改善する効果があります。
慢性疲労症候群とは、何か精神的・身体的な原因があるというわけではないにも関わらず、長期間に渡って激しい疲労感が現れる症状です。女性に多くみられる症状で、生活環境によるストレスなどが原因といわれています。
チロシンは神経伝達物質を生成することで脳の働きを活発にし、慢性疲労症候群を改善する効果があります。【5】

●白髪を予防する効果
チロシンは、体内でメラニン色素を生成することで黒髪を形成し、白髪を予防します。
メラニン色素は、紫外線から細胞の核であるDNAを守るために存在しています。DNAが紫外線などによってダメージを受けると、ガンなどの重大な病気を引き起こす原因となります。そのため、黒い髪は細胞を紫外線から頭皮を守っているといえます。
白髪は、老化や栄養不足、ストレスなどで色素細胞の機能が低下し、メラニン色素をつくることができなくなってしまうことが原因で発生します。
チロシンはメラニン色素を生み出すことで、黒い髪を形成する働きがあります。

[※6:前駆物質とは、ある物質ができる前の段階の物質のことです。]

チロシンは食事やサプリメントで摂取できます

チロシンを含む食品

○乳製品
○たらこ
○ちりめんじゃこ
落花生
アーモンド
大豆

こんな方におすすめ

○うつ状態の方
○集中力を向上させたい方
○コレステロール値が気になる方
○白髪を予防したい方

チロシンの研究情報

【1】フェニルケトン尿症 (PKU;チロシン前駆体であるフェニルアラニンを代謝できない遺伝病) に対してチロシンの経口摂取が有効であることがわかりました。現在、フェニルケトン尿症患者にはタンパク質100 g中にチロシンを6 g含有することが推奨さています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11157309

【2】ナルコレプシー (睡眠障害) に対してチロシンの経口摂取で軽度の覚醒効果の傾向が認められました。このことから、チロシンの摂取はナルコプレシー患者に対し、ゆるやかに覚醒させる働きがある可能性が分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2572797

【3】睡眠不充分患者の覚醒後の約3時間後の精神運動検査において、能力の持続時間がチロシンの150 mg/kg摂取により延長したことがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7794222/

【4】アセチルチロシンとアスコルビン酸、硫酸亜鉛、ヒアルロン酸ナトリウム、バイオフラボノイドを含む外用製剤を3ヶ月間使用したところ、日光による皮膚のしわ、黄ばみ、きめの粗さなどがプラセボと比較して改善しました。このことから、チロシンといくつかのビタミン、ミネラルの摂取は、紫外線による皮膚の老化の予防に努めることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10522500

【5】冷水ストレスにさらしたラットの攻撃性がチロシンの摂取によって正常レベルにもどりました。また、ヒトではストレス条件下の気分や認識作用の改善がみられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11267632

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参考文献

・船山信次 アミノ酸タンパク質と生命活動の化学 東京電機大学出版局

・中村丁次 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 薬事日報社)

・日経ヘルス 日経ヘルスサプリメント辞典第4版 日経BP社

・田中平三 健康食品・サプリメント[成分]のすべて 同文書院

・van Spronsen FJ, van Rijn M, Bekhof J, Koch R, Smit PG. (2001) “Phenylketonuria: tyrosine supplementation in phenylalanine-restricted diets.” Am J Clin Nutr. 2001 Feb;73(2):153-7.

・Elwes RD, Crewes H, Chesterman LP, Summers B, Jenner P, Binnie CD, Parkes JD. (1989) “Treatment of narcolepsy with L-tyrosine: double-blind placebo-controlled trial.” Lancet. 1989 Nov 4;2(8671):1067-9.

・Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ (独)国立健康・栄養研究所 監訳 健康食品データベース

・Neri DF, Wiegmann D, Stanny RR, Shappell SA, McCardie A, McKay DL. (1995) “The effects of tyrosine on cognitive performance during extended wakefulness.” Aviat Space Environ Med. 1995, 66(4):313-9.

・Traikovich SS.  (1999) “Use of topical ascorbic acid and its effects on photodamaged skin topography.” Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 1999 Oct;125(10):1091-8.

・Hao S, Avraham Y, Bonne O, Berry EM. (2001) “Separation-induced body weight loss, impairment in alternation behavior, and autonomic tone: effects of tyrosine.” Pharmacol Biochem Behav. 2001 Feb;68(2):273-81.

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