フェニルアラニン

Phenylalanine

フェニルアラニンとは、必須アミノ酸のひとつで、食事から栄養分として摂取しなければならない成分です。肝臓でチロシンに変換され、ノルアドレナリンやドーパミンなどの興奮性の神経伝達物質をつくり出します。精神を高揚させ、血圧を上げる作用や、記憶力を高める効果などを持っています。

フェニルアラニンとは?

●基本情報
フェニルアラニンは必須アミノ酸[※1]のひとつで、脳と神経細胞間の信号を伝達する役割を持つ神経伝達物質として働きます。肉類や魚介類、卵や乳製品などの様々な食品中のたんぱく質の中に含まれています。
フェニルアラニンはたんぱく質の構成材料となるほか、肝臓で非必須アミノ酸であるチロシン[※2]に変換され、興奮性の神経伝達物質カテコールアミン[※3](ドーパミン[※4]・ノルアドレナリン[※5]・アドレナリン[※6])の前駆体です。ドーパミンとノルアドレナリンは、刺激の伝達に役立っています。精神を高揚させて活力を生み出す作用と、血圧を上昇させる作用があります。

●ダイエット甘味料の原料
人工甘味料であるアステルパームは、フェニルアラニンやアスパラギン酸を原料として生成されています。砂糖や麦芽糖にこれらの原料を加えたものが、顆粒状やシロップ状で商品化されているほか、清涼飲料水や菓子類、加工食品、ビタミン剤、医薬品などに添加されています。

●フェニルアラニンの過剰症
フェニルアラニンは肉や魚、乳製品などに多く含まれ、アステルパーム配合の清涼飲料水や菓子などからも摂取できます。一般的には安全な物質とされ、摂り過ぎても問題ないと考えられており、過剰摂取の危険度は低いとされています。
しかし、フェニルアラニンには血圧を上昇させる作用があるため、過剰に摂取してしまうと高血圧を招き、心臓病などのリスクを高める恐れがあります。特に妊娠中・授乳中の女性、皮膚ガン、フェニルケトン尿症[※7]の人には適しておらず、摂取が制限されています。
また、フェニルアラニンを脳内に取り込むための器官である血液脳関門には、必須アミノ酸であるトリプトファンと同一のものが使われています。したがってフェニルアラニンを過剰摂取すると、トリプトファンの取り込みが阻害され、セロトニン[※8]の生成量が減少してしまうという弊害が起こります。
さらにフェニルアラニン同様、DL-フェニルアラニンにも血圧を高くする作用があるので、妊娠中の女性やフェニルケトン尿症の人は摂取が制限されます。高血圧、心臓病の人も医師に相談する必要があります。

●フェニルアラニンを摂取する際の注意点
フェニルアラニンの適量摂取は、リウマチや腰痛、片頭痛などの慢性的な痛みを軽減させ、うつ病などの解消を促してくれます。しかし、過剰な摂取、疾病やそれに伴う服薬などとの組み合わせにより、副作用が起こる可能性があります。投薬・服薬をしている場合は、事前に医師への確認が推奨されています。

[※1:必須アミノ酸とは、たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のうち、体内で合成することができない9種類のアミノ酸のことです。食品から摂取しなければならないアミノ酸で、欠乏すると血液や筋肉、骨などの合成ができなくなります。]
[※2:チロシンとは、アミノ酸の一種で、フェニルアラニンという必須アミノ酸からつくられます。脳や神経が正常に働くために必要不可欠なアミノ酸で、神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの前駆体であり、脳機能を正常に保つ働きがあります。]
[※3:カテコールアミンとは、ドーパミン・ノルアドレナリン・アドレナリンなどの神経伝達物質あるいはホルモンのことです。副腎髄質ホルモン、または神経の接続部分で重要な働きをしています。]
[※4:ドーパミンとは、交感神経節後線維や副腎髄質に含まれるホルモンの一種です。運動機能、ホルモン調節機能のほか、快感や多幸感、運動調節に影響を与えます。ドーパミンが不足すると、振戦や筋固縮などの運動症状が起こりやすくなります。]
[※5:ノルアドレナリンとは、神経を興奮させる神経伝達物質、意欲・不安・恐怖と深い関係があり、人間を含めて動物において脳内で一番多く分泌されています。ストレスを受けると放出されるため「怒りのホルモン」とも呼ばれています。]
[※6:アドレナリンとは、副腎髄質から分泌されるホルモンの一種です。神経伝達物質であり、ストレス反応における中心的な役割を果たします。血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を拡大して血中濃度(血糖値)を上げる作用などがあります。]
[※7:フェニルケトン尿症とは、フェニルアラニンをチロシンに合成する酵素が充分に分泌されないために乳幼児に発生する先天性疾患です。フェニルアラニンが体内に過剰に蓄積し、尿中に多量のフェニルケトン体が排泄されます。フェニルアラニンの過剰蓄積により脳に障害が起こり、知能障害、脳波異常、痙攣などを引き起こす恐れがあります。]
[※8:セロトニンとは、ノルアドレナリンやドーパミンと並んで、

体内で特に重要な役割を果たしている神経伝達物質のひとつです。]

フェニルアラニンの効果

●脳機能を高める効果
フェニルアラニンは脳と神経細胞の間で信号を伝達する役割を持つ化学物質の神経伝達物質になる必須アミノ酸です。体内でノルアドレナリンとドーパミンに転換され、神経伝達物質として働きます。気分の落ち込みや無気力を緩和し、精神を高揚させるので、うつ症状の緩和にも効果があるとされています。また、記憶力を向上させる作用があるとされています。

●鎮痛効果
フェニルアラニンには、痛みを抑える効果があり、人工的に合成されたDL-フェニルアラニンは、鎮静剤として医療現場で利用されています。外傷、骨関節炎、慢性関節リウマチ、腰痛、片頭痛、神経痛、筋肉の痙攣、手術後の痛みなど慢性的な痛みを軽減させます。脳内でモルヒネのような働きをするエンドルフィン[※9]の産出と活性を、正常なレベルにまで高めて痛みを抑える効果があります。そして習慣性、毒性がなく、長期間使用しても効果が低下することもありません。フェニルアラニンは繰り返し使うとより効果的に痛みを軽減できるという特徴を持っています。また、抗うつ効果があるため、アスピリンなどの一般的な鎮痛剤が効かない人にも効く場合が多いといわれています。【1】

●皮膚疾患への効果
白斑(はくはん)[※10]の治療に、フェニルアラニンの経口摂取と紫外線A波の照射、あるいはフェニルアラニンの外用と紫外線A波の照射との組み合わせで有効性があるとされています。【2】

[※9:エンドルフィンとは、脳内の神経細胞間で情報を伝える伝達物質のひとつです。鎮痛効果や気分の高揚、幸福感などが得られ、モルヒネ同様の作用を示すことから脳内麻薬とも呼ばれています。]
[※10:白斑(はくはん)とは、皮膚の一部の色が白く抜け落ちる原因不明の皮膚病です。]

食事やサプリメントで摂取できます

大豆(大豆製品)
○小麦(強力粉)
○高野豆腐
○卵
○チーズ
○脱脂粉乳
アーモンド
落花生
○白花豆
かぼちゃ
じゃがいも
ごま
○肉類
○魚介類

こんな方におすすめ

○うつ症状がある方
○記憶力をアップさせたい方
○肥満気味の方
○筋肉の痙攣などを起こしやすい方

フェニルアラニンの研究情報

【1】D-フェニルアラニンを1日当たり250mg の量で4週間摂取させたところ、痛覚閾値が低下したことから、
フェニルアラニンが鎮痛作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3524509

【2】白斑患者21名を対象に、L-フェニルアラニンを1日あたり100 mg/kg の量で白斑患部に塗布させたところ、紫外線照射による皮膚病変が緩和されたことから、フェニルアラニンが皮膚保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2583897

【3】うつ病患者155名に対し、L-フェニルアラニ250 mg および L-デプレニール5~10mgとを毎日投与したところ、うつ病症状が緩和されたことから、フェニルアラニンが抗うつ作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6425455

参考文献

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院

・Antoniou C, Schulpis H, Michas T, Katsambas A, Frajis N, Tsagaraki S, Stratigos J. 1989 “Vitiligo therapy with oral and topical phenylalanine with UVA exposure.” Int J Dermatol. 1989 Oct;28(8):545-7.

・Walsh NE, Ramamurthy S, Schoenfeld L, Hoffman J. 1986 “Analgesic effectiveness of D-phenylalanine in chronic pain patients.” Arch Phys Med Rehabil. 1986 Jul;67(7):436-9.

・Birkmayer W, Riederer P, Linauer W, Knoll J. 1984 “L-deprenyl plus L-phenylalanine in the treatment of depression.” J Neural Transm. 1984;59(1):81-7.

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

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