クワ/マルベリー

Morus  bombycis Mulberry 
桑白皮(そうはくひ)  唐山桑

クワの葉には、カルシウムや鉄分、カロテノイド、ミネラルなどが豊富に含まれていることから、昔から生薬として重宝されてきました。近年の研究でブドウ類の類似物質、DNJ(デキオシノジリマイシン)が含まれていることがわかり、食後の過血糖を改善し、糖尿病の治療に効果を発揮します。

クワ(マルベリー)とは?

●基本情報
クワは熱帯から亜熱帯の山野に自生しているクワ科クワ属の植物の総称で、原産地は中国地方から朝鮮半島といわれています。日本には3世紀頃、葉を飼料とするカイコとともに伝えられたといわれています。
落葉性の高木で、大きいものは15mに達しますが、通常は2 ~3m程度のものがほとんどです。樹皮は灰色を帯び、葉は薄く、つやのある黄緑色です。大きい木では、葉の形はハート形に近い楕円形ですが、若い木では、葉に荒い切れ込みが入っている場合があります。春には花が開花し、雄花は茎の先端から房状に垂れ下がり、雌花は枝の基部の方につきます。クワの実は、木いちご(ラズベリー)に似ており、初夏に熟します。葉、実、根、枝にいたるまで、漢方薬の原料として利用され、中でも、根の白皮は効能が高く、医薬品として取り扱われています。

●クワの歴史
クワの歴史は古く、漢方では乾燥させたクワをお茶や薬として、古くから使用されてきました。中国では、後漢の歴史書にもクワの葉の記述があり、糖尿病をはじめ様々な病気の予防や改善に役立てられています。現在も生薬として使用され、ヤマグワ、ロソウ、カラヤマグワなどを改良した栽培品種が用いられることもあります。冬に根を掘り、細い根は取り除き、水洗いしてから皮部をはぎ、天日で乾燥します。これが生薬の桑白皮(そうはくひ)です。
11月頃の葉を採取して天日で乾燥させたものを桑葉(そうよう)といい、4月~6月頃に若い枝を刈り取り天日で乾燥させたものを桑枝(そうし)、4月~6月頃に果実を集めて乾燥させたものを桑椹(そうたい)といいます。
日本では、鎌倉時代に臨済宗の栄西によって、不老長寿の薬として伝えられました。陰干しした葉は、その万能の効果から「神仙茶」と名付けられました。当時から高血圧、糖尿病、咳止めに効く健康茶として愛飲されていたといわれています。特に養蚕の盛んな地方を中心に飲用する習慣がありました。

●クワに含まれる成分と性質
クワの葉には、カルシウムキャベツの約60倍、分がこまつなの約15倍、総カロテン量がほうれんそうの約10倍と、大変豊富な栄養素が含まれています。また、血圧降下作用のあるGABAが含まれており、血圧降下作用が報告されています。
さらに着目すべき点は、近年ブドウ糖の類似物質であるDNJ[※1](デキオシノジリマイシン)が含まれていることが発見され、その働きが非常に注目されていることです。DNJは、植物では主にクワに含まれている成分で、食後の血糖値の上昇を抑える効果があります。

[※1:DNJ(デキオシノジリマイシン)とは、ブドウ糖と非常に良く似た構造をしている物質のことです。糖質の分解を抑制し、ブドウ糖の吸収を阻害し、食後の血糖値上昇を制御する効果があります。]

クワ(マルベリー)の効果

●糖尿病を予防・改善する効果
クワには、ブドウ糖類と似ている物質のDNJ(デキオシノジリマイシン)が含まれています。私たちの体内では、ご飯やパン、甘いものを食べると素早く反応し、急激に血糖値が上がります。それを食い止めるのがDNJの役割です。
DNJは小腸での糖の吸収をおだやかにし、血糖値の上昇を防ぎ、糖尿病を予防する効果があります。それは、糖質を分解する酵素であるα-グルコシダーゼ[※2]の働きを抑えて、腸管からブドウ糖の吸収を阻害し、食後の血糖値上昇をコントロールする働きをするからです。
また、膵臓のダメージも抑えられインスリン分泌細胞[※3]の破壊を防ぐ効果があると報告されています。インスリン[※4]の必要量を抑制することにより、糖尿病へのリスクを減少させる効果があります。【1】【3】

●ダイエット効果
クワの葉を摂取することによって、内臓脂肪が減少することがラットの試験でわかっています。また、高脂血症のウサギの脂質代謝を改善したという研究報告もあり、ダイエットに対する効果が期待されています。【5】

●記憶力を高める・精神を安定させる効果
クワに含まれるGABAは、発芽玄米にも多く含まれる成分で、記憶力を高めたり、認知症の改善、血圧を下げるなどの効果があります。また、クワの葉を煎じて飲むと、精神を安定させることも報告されています。【7】

●便秘を解消する効果
クワの葉には、食物繊維が豊富に含まれており、大腸の環境を整えて、便秘の改善に役立ちます。食物繊維は、体に吸収されることがないため、カロリーはありません。また、DNJの働きによって、小腸で吸収されなかった食事中の糖は、腸内で善玉菌のエサとなります。その結果、腸内は善玉菌が優勢になり、便秘が改善されたという効果が報告されています。【7】

●新陳代謝をスムーズにする効果
クワには、ビタミンAビタミンB₁ビタミンB₂ビタミンC、鉄、マグネシウム亜鉛、カルシウム、カリウム、カロテンなどの体にとっての必須栄養素がたっぷりと含まれています。したがって体の機能を維持したり、新陳代謝をスムーズにする効果があります。体内で合成されることはほとんどなく、不足すると様々な症状が現れます。疲れやすい、風邪を引きやすいなど、特に虚弱体質の方には必要な栄養素です。毎日、食品やサプリメントから摂取することが大切です。

● その他の効果
クワの実には、ポリフェノールアントシアニンフラボノイドなどが含まれており、高い抗酸化力[※5]があります。視機能の改善、血流の改善、抗炎症作用、抗アレルギー作用(花粉症の症状の緩和)、生活習慣病の予防効果などが知られています。さらにフラボノイドの特徴的な働きとしては毛細血管の強化が挙げられます。
・視機能を改善する効果
・血流を改善する効果
・抗炎症作用に対する効果
・抗アレルギー効果

[※2:α-グルコシダーゼとは、ブドウ糖のもとになるでんぷんや糖質が消化・分解される過程で働く酵素のことです。]
[※3:インスリン分泌細胞とは、血糖値を下げるインスリンを分泌する細胞のことです。]
[※4:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]
[※5:抗酸化力とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ力です。]

クワ(マルベリー)はこんな方におすすめ

○糖尿病を予防したい方
○疲れやすい方
○記憶力が気になる方
○イライラしやすい方
○肥満を防ぎたい方
○便秘でお悩みの方
○目の疲れが気になる方
○血流を改善したい方
○生活習慣病を予防したい方

クワ(マルベリー)の研究情報

【1】クワの葉抽出物に含まれるDNJは、二糖類分解酵素の活性を抑えることで食後血糖値の上昇を抑えます。DNJのこの働きは、過血糖に対する医薬品であるボグリボースの活性に匹敵することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15386927

【2】クワの葉抽出物はLDLの酸化を抑え、アテローム性動脈硬化症の予防に効果がある可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10993206

【3】Ⅱ型糖尿病患者にクワの葉を30日間与えると、空腹時血糖値、総コレステロール、トリグリセリド、血漿遊離脂肪酸、LDLコレステロール赤血球膜脂質過酸化物の値が低くなっており、HDLコレステロールの値が上昇していました。糖尿病に対するクワの葉の効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11718678

【4】クワは伝統的に肝臓の病に対して食されてきました。クワは脂質の生合成を抑え、血中脂質を下げる効果が期待でき、脂肪肝の予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22002411

【5】ハムスターに12週間高脂肪食とクワ抽出物を与える実験を行った結果、クワ抽出物によって体重が減少し、血しょうと肝臓の脂質を減少させました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21361295

【6】PC12細胞において、過酸化水素の酸化作用に対し、GABAは神経保護作用を示しました。嫌気処理をかけることによって作られるGABAが豊富なクワの葉(GBML)は、脳の虚血性の疾患に対する神経保護作用を示すことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16462030

【7】クワの葉に含まれるDNJによって、ラットの腸内で、悪玉菌の割合が減少し、腸内フローラが改善される可能性が示されています。

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参考文献

・蒲原聖可 サプリメント事典 平凡社

・原山建朗 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・貝津好孝 日本の薬草 小学館

・吉川敏一 炭田康史 最新版 医療従事者のためのサプリメント・機能性食品事典 講談社

・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社

・石原茂正 編 薬用ハーブの機能研究 株式会社常磐植物化学研究所

​・沖津忠行, 浅井良夫 1996 “クワ葉のラット腸内フローラに及ぼす影響” 機能性食品に関する共同研究事業報告 1996(2):78-81

・Miyahara C, Miyazawa M, Satoh S, Sakai A, Mizusaki S. 2004 “Inhibitory effects of mulberry leaf extract on postprandial hyperglycemia in normal rats.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2004 Jun;50(3):161-4.

・Doi K, Kojima T, Fujimoto Y. 2000 “Mulberry leaf extract inhibits the oxidative modification of rabbit and human low density lipoprotein.” Biol Pharm Bull. 2000 Sep;23(9):1066-71.

・Andallu B, Suryakantham V, Lakshmi Srikanthi B, Reddy GK. 2001 “Effect of mulberry (Morus indica L.) therapy on plasma and erythrocyte membrane lipids in patients with type 2 diabetes.” Clin Chim Acta. 2001 Dec;314(1-2):47-53.

・Ou TT, Hsu MJ, Chan KC, Huang CN, Ho HH, Wang CJ. 2011 “Mulberry extract inhibits oleic acid-induced lipid accumulation via reduction of lipogenesis and promotion of hepatic lipid clearance.” J Sci Food Agric. 2011 Dec;91(15):2740-8

・Peng CH, Liu LK, Chuang CM, Chyau CC, Huang CN, Wang CJ. 2011 “Mulberry water extracts possess an anti-obesity effect and ability to inhibit hepatic lipogenesis and promote lipolysis.” J Agric Food Chem. 2011 Mar 23;59(6):2663-71.

・Kang TH, Oh HR, Jung SM, Ryu JH, Park MW, Park YK, Kim SY. 2006 “Enhancement of neuroprotection of mulberry leaves (Morus alba L.) prepared by the anaerobic treatment against ischemic damage.” Biol Pharm Bull. 2006 Feb;29(2):270-4.

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