イソロイシン

isoleucine

イソロイシンは必須アミノ酸の一種で、筋肉を強化したり、疲労を回復させる効果があります。イソロイシンはバリン、ロイシンとともにBCAAと呼ばれ、運動時のエネルギー補給としてスポーツサプリメントなどに配合されています。

イソロイシンとは?

●基本情報
イソロイシンは体内で合成することができない必須アミノ酸[※1]の一種で、ロイシンバリンとともにBCAA(分岐鎖アミノ酸)に分類されます。筋肉を構成するたんぱく質の主成分はBCAAと呼ばれるアミノ酸で、その中のひとつのイソロイシンは、筋肉の強化や肝機能の向上効果のほか、血管の拡張や体の成長を促進する働きがあり、幅広く活躍しているアミノ酸です。また、近年の研究結果から、血糖値の上昇を抑制し、糖尿病に効果があるということがわかり期待が高まっている成分です。

●イソロイシンの歴史
イソロイシンは、1904年にサトウダイコンの糖蜜から発見されました。1907年にはアミノ酸としての化学構造が決定し、1931年にアブデルハルデンらがイソロイシンの合成に成功しました。イソロイシンは医薬品にも活用され、肝硬変患者の低アルブミン血症[※2]の治療薬にも配合されています。

●イソロイシンを多く含む食品
イソロイシンは、鶏肉やサケ、プロセスチーズ、牛乳などに多く含まれています。普段から口にする食品に豊富に含まれているため、通常不足することはありませんが、BCAAは3種類のバランスを保つことで効果を発揮するため、どれかひとつでも摂取が多くなると、体重の減少やブドウ糖の代謝[※3]、アンモニア排出の阻害を招く恐れがあります。そのため、特定の食品からではなく、なるべく多くの食品からイソロイシンを摂取すると、BCAAをバランス良く保つことができます。

●BCAAに分類されるイソロイシン
イソロイシンを含むBCAAは腸管で合成され、筋肉に蓄えられます。BCAAは人間の筋肉たんぱく質中に約35%含まれており、運動時のスタミナの維持や筋肉量の維持に効果があります。
BCAAの中でもイソロイシンは疲労回復に働きかけます。そのためBCAAはスポーツドリンクなどに配合され、運動時のエネルギー補給として活用されています。イソロイシンの摂取の目安として、成人では1日当たり体重1kgに対して20mgの摂取が必要で、最低でも成人1人当たり1日に0.5~0.7gは必要だと考えられています。

[※1:必須アミノ酸とは、動物の成長や生命維持に必要ですが、体内で合成されないため、食品から摂取しなければならないアミノ酸のことです。バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類です。]
[※2:低アルブミン血症とは、血漿中のアルブミン濃度が極めて低くなる症状です。]
[※3:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]

イソロイシンの働き

●疲労回復効果
イソロイシンはグルコースをグリコーゲンとして貯蔵する働きを促進します。グリコーゲンは運動時の大切なエネルギー源であり、必要に応じて糖に変換されます。そのグリコーゲンが不足すると、スタミナを維持できず、体に疲れが生じます。

さらに、イソロイシンには脳が感じる疲労を軽減する効果があるといわれています。脳内にセロトニン[※4]という物質が増えると、疲労を感じるようになります。イソロイシンの血中濃度が高まると、セロトニンの生成が抑制されるためです。

●成長を促進する効果
イソロイシンは甲状腺ホルモンの分泌を促し、筋肉や体の成長を促進する効果があります。甲状腺ホルモンとは、甲状腺から分泌され、全身の細胞に作用して代謝を促進する働きを持つホルモンのことです。代謝が促進されることで、身長の伸びや、筋肉の形成を促します。【6】

●神経機能を正常に保つ効果
イソロイシンは神経の働きをサポートする役割を持つため、脳から出された指令を素早く末端組織に伝達し、判断力や反射速度を上げる作用があります。
また、イソロイシンは集中力を高める効果があるといわれています。人間は、脳から命令が下されると、興奮系の神経伝達物質[※5]が放出され、脳が興奮し集中することができます。イソロイシンは興奮系の神経伝達物質の材料となるため、集中力を高める効果があります。

また、イソロイシンは、ビタミンB₁₂欠乏症による神経障害を改善する働きも報告されており、神経保護の機能も注目されています。【5】

●糖尿病を予防する効果
イソロイシンが糖尿病に効果的ということが判明しました。イソロイシンは摂取した糖質が吸収された後に筋肉へ取り込まれることを促進することで、血糖値の上昇を抑制する効果があり、血糖値をコントロールすることも期待できます。【3】【4】【8】

●肝機能を高める効果
イソロイシンには肝機能を高める効果があります。肝硬変の方は芳香族アミノ酸[※6]の血中濃度が高い一方、BCAAの濃度が低くなっています。このようなアミノ酸のバランスの乱れは、肝性脳症[※7]や、まれに昏睡状態を引き起こします。現在では、肝性脳症の予防をしながら必要なアミノ酸が補えるように、BCAAを用いた製剤も発案されています。
また、肝硬変になると血中のアルブミンの量が減少しますが、アルブミン製剤とともにBCAAを投与すると、肝臓のたんぱく質の合成が促され、さらに血清アルブミンの量も増えるということがわかっています。このように、イソロイシンには肝機能を高める効果があります。【10】【13】【14】【16】

●髪や肌の健康を保つ効果
イソロイシンをはじめとするアミノ酸は、髪の毛のたんぱく質の約80%を構成し、髪の潤いと健康を保っています。天然のアミノ酸は体にも存在するものであり、刺激が少ないため、シャンプーやリンスなどのヘアケア用品に活用されています。
またイソロイシンが不足すると、皮膚炎症状を引き起こすことも報告されており、イソロイシンが肌の健康に重要な役割を持つと考えられています。【1】【2】

[※4:セロトニンとは、精神を落ち着かせる働きのある神経伝達物質のことです。]
[※5:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※6:芳香族アミノ酸とは、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどの構造にベンゼン環を有するアミノ酸の総称です。]
[※7:肝性脳症とは、肝臓の機能が低下し意識障害に陥ることです。]

イソロイシンは食事やサプリメントで摂取できます

イソロイシンを含む食品

○鶏肉
○サケ
○牛乳
○プロセスチーズ

こんな方におすすめ

○運動能力を向上したい方
○筋肉を強化したい方
○成長期のお子様
○スポーツをする方
○肝臓を健康に保ちたい方
○髪や肌の健康を保ちたい方

イソロイシンの研究情報

【1】乳児における全身性剥脱性皮疹には、血中イソロイシンが低濃度であることが関係していると考えられています。また食事によるタンパク質やイソロイシンの摂取により、症状が改善されたことから、イソロイシンは肌に重要な役割を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17958798

【2】メープルシロップ尿症治療のため、イソロイシンをはじめとするBCAAの摂取を制限する治療を実施すると、その際にイソロイシン欠乏症による手足末端の皮膚炎が生じることが知られています。この結果より、逆説的にイソロイシンの必要性が示唆される研究となり、BCAA制限治療の難しさがうかがわれます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8362810

【3】高脂肪食摂取マウスにおいて、イソロイシンを2.5% 含有した飲料水を4週間摂取させたところ、高脂肪食摂取による体重増加と精巣白色脂肪組織重量の増加を軽減しました。また肝臓および骨格筋におけるトリグリセリド濃度の増加を抑制され、脂質代謝に関与するPPARαおよびUCPの増加が見られたことから、イソロイシンには脂質代謝異常改善、および抗肥満効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20089773

【4】高脂肪食摂取によるⅡ型糖尿病マウスにイソロイシンを投与すると、イソロイシンはⅡ型糖尿病マウスの血中インスリン濃度を増加させ、血糖値を低下させました。この結果よりイソロイシンには急性および慢性摂取による抗糖尿病効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18310912

【5】ビタミンB12欠損による神経障害動物において、バリンおよびイソロイシンを配合した餌を摂取させると、ビタミンB12欠乏性神経障害の改善が見られました。これよりバリンおよびイソロイシンに神経保護作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2387670

【6】イソロイシンなどのBCAAが母体の乳腺の乳汁合成を促進し、新生児の生存率や成長を促進します。
赤ちゃんが健康に育つために役立つ栄養素と言われています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22652809

【7】強い筋肉トレーニングを実施する際の筋肉損傷をイソロイシンなどのBCAAが防ぐことがわかりました。
イソロイシンなどのBCAAのタンパク質合成能力によるものと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22569039

【8】メタボリックシンドロームの予防にイソロイシンなどのBCAAが注目されています。
イソロイシンなどのBCAAにはインスリン抵抗性改善に役立つ可能性があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22560213

【9】イソロイシンなどのBCAAは、筋肉トレーニングにより炎症が生じた際に、骨格筋におけるタンパク質合成とタンパク質分解を保護することで、筋肉トレーニングに役立ちます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22536489

【10】糖尿病患者において、肝硬変(LC)や肝細胞癌(HCC)の予防として、イソロイシンなどのBCAAを投与した場合、夜に摂取した場合が有意に肝機能を改善できました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22520843

【11】イソロイシンなどのBCAAは、運動による筋肉痛を軽減することに役立つ可能性が示唆されることが確認できました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22168756

【12】イソロイシンなどのBCAAを摂取することで、運動中と休暇中の筋肉タンパク質合成を高めることが確認できました。特に激しい運動による筋肉修復の際に、BCAAを摂取することが役に立ちます
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22127230

【13】イソロイシンなどのBCAAを強化した食事は、肝臓移植における早期の栄養状態を改善し、肝臓移植後の回復に役立つと考えられています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21947604

【14】イソロイシンなどのBCAAを摂取することで、肝硬変患者の肝細胞癌の発生率を防ぐことができました。特に小児肝硬患者に対する働きは大きく、肝臓の健康をサポートします。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21829025

【15】アミノ酸のロイシンの補てんは、運動パフォーマンスだけではなく、分岐鎖状アミノ酸および窒素の代謝も向上します。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21685813

【16】肝臓病患者ではイソロイシンなどのBCAAの合成能が低下することが知られており、BCAA補給が治療課題となっています。臨床試験によって、BCAA補給により、アルブミン合成やインスリン抵抗性に対するBCAAの有効性が確認され、肝硬変や肝臓がん患者のQOLの向上に、BCAAが高く評価されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21566257

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参考文献

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・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

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