共役リノール酸

conjugated linoleic acid (CLA)

共役リノール酸は、牛乳やチーズといった乳製品に多く含まれています。体内の組織のすみずみまで栄養を送ることで、体を元気にしてくれる働きがあります。特に、脂肪をエネルギーへ変えるよう促したり、代謝を高める働きがあります。

共役リノール酸とは?

●基本情報
共役リノール酸とは不飽和脂肪酸のひとつで、体の各組織に栄養を与え元気にする働きがあります。脂肪を分解してエネルギーへ変える酵素に働きかけたり、栄養を筋肉細胞に送り代謝を活発に促します。代謝を高め、脂肪を燃焼しやすい体づくりを助けてくれる大切な成分です。共役リノール酸は、植物油に含まれるリノール酸とは違って乳製品に多く含まれる脂肪分です。体内でつくられることはほとんどなく、食事から摂取することも難しいため、サプリメントなどで補うことが必要です。

●共役リノール酸の歴史
世界で脂肪酸の研究が始まったのは、1800年代に入ってからといわれています。徐々に脂質分析の技術が進歩し、1844年にリノール酸、1887年にリノレン酸が発見されました。続いて1909年に肝脂質からアラキドン酸が発見されました。
1980年代にはウイスコンシン大学で、発ガンを抑制する物質が発見され、その成分を精製・分離した結果、炭素数18の脂肪であるリノール酸の異性体で、炭素と炭素の間の二重結合が2個共役した形、すなわち単結合と交互になっている構造を持つ成分が見つけられました。これが、共役リノール酸の発見です。

共役リノール酸は、脂肪細胞や筋肉において脂肪燃焼効果があることがヒト臨床試験によって確認されており、研究成果は 「American Journal of Clinical Nutrition」誌、2004年6月号に掲載されました。
現在も国内外で共役リノール酸の働きは注目されており、研究開発が続けられています。

●共役リノール酸の成分
共役リノール酸は、不飽和脂肪酸の一種でリノール酸から生じる物質です。リノール酸とは構造が異なるために「異性化リノール酸」とも呼ばれています。
脂肪酸[※1]は、体内で脂質を構成する主な成分で、体の基礎をつくったり、エネルギーとなる大切な栄養素です。構造の違いによって飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。飽和脂肪酸は多く摂りすぎると血中コレステロールや中性脂肪が増えて動脈硬化などの原因となりますが、不飽和脂肪酸は「善玉の脂肪」と呼ばれ、悪玉(LDL)コレステロールを抑えたり、過酸化脂質[※2]の発生を予防する効果があります。不飽和脂肪酸は、オリーブオイル、菜種油[※3]に含まれるオレイン酸や青魚に含まれる DHAや EPAなどがその代表として挙げられます。
近年、ひまわりの種子に天然の共役リノール酸が含まれていることが発見されましたが、牛肉や乳製品にも微量ですが含まれています。
共役リノール酸は、人間の体内ではほとんどつくられませんが、牛や羊などの反芻(はんすう)動物[※4]の胃ではつくられます。牛や羊は、反芻胃[※5]という胃を持ち、そこに棲む微生物が食べ物を消化し、成分を組み替えます。このような反芻動物がリノール酸をたくさん含んでいる飼料を食べると、消化器官内の微生物がリノール酸を共役リノール酸に変化させるという仕組みです。

●共役リノール酸の3つの働き
脂肪は通常、体内で消化・吸収され、リポタンパク質リパーゼ[※6]という酵素によって蓄えられます。蓄えられた脂肪は、ホルモン感受性リパーゼ[※7]によって分解され、エネルギーとなって使われます。ホルモン感受性リパーゼがきちんと働かないと脂肪はどんどん蓄積される事になります。共役リノール酸は、脂肪を分解するホルモン感受性リパーゼを活性化する役目を果たしているため、脂肪を燃えやすくします。共役リノール酸は、運動をすることと同じような脂肪燃焼効果を持っています。
次に、余分な脂肪の蓄積を防ぐ働きがあります。リポタンパク質リパーゼを抑制する働きがあるため、細胞の中に脂肪を取り込む働きを抑えます。このため、共役リノール酸は脂肪を溜めにくい体づくりに欠かせない成分といえます。
さらに、筋肉細胞に栄養を送り、脂肪を効率良く燃焼させ、筋肉増強や筋肉の成長を促す働きがあります。筋肉が増えると、代謝が良くなり脂肪燃焼へとつながります。脂肪を減らし筋肉を増やす働きを持つ共役リノール酸は、健康な体をつくるための優れた成分です。代謝の良い、脂肪が燃焼しやすい体へと改善します。

<豆知識>マサイ族の身体能力と共役リノール酸との関係
アフリカの原野に住むマサイ族は体脂肪が少なく、運動能力が優れています。身体特性と生活の関係を明らかにするために、彼らの生活様式に着目した研究者たちが、そのライフスタイルを調査しました。マサイ族の人々は、遊牧民で牛と共に、牧草と水を求めて生活しています。主食は発酵牛乳で牛の耳から採血した血を時々飲むといわれています。反芻動物である牛の血液には、豊富に共役リノール酸が含まれているため、マサイ族は常時共役リノール酸をたっぷりと摂取していることになります。研究者たちは、マサイ族の持つ類い稀な身体能力や脂肪の少なさなどと、彼らの食生活は多いに関係があると考えました。現在も、その関連性について研究が進められており、トップアスリー卜の身体能力との比較対研究なども始められています。

●共役リノール酸を食品で摂取するには
共役リノール酸は、体内でほとんどつくられないため、食事からの摂取が必要不可欠です。国や食習慣により共役リノール酸の摂取量には大きな差があります。共役リノール酸は牛乳、チーズ、バターなどの乳製品、牛肉、鶏肉、卵などに含まれています。また沖縄名産のニガウリ(ゴーヤ)にも含まれていることがわかりました。調理油では、オリーブオイル、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、紅花油などにも含まれています。しかし、ほとんどの食品にごくわずかしか含まれておらず、通常の食事から摂ることは大変難しいため、サプリメントでの摂取が効率的です。

●共役リノール酸の効率的な摂取
共役リノール酸は体脂肪を効率よくエネルギーに変える働きを持つため運動前の摂取が望ましいです。また、牛乳とともに共役リノール酸を摂ると、牛乳の中のたんぱく質が共役リノール酸と結合し、体内への吸収を助けることもわかっています。

[※1:脂肪酸とは、炭素、水素、酸素から成る油脂や蝋(ろう)、脂質などの構成成分です。脂肪酸とグリセリンが結び付いて脂質が構成されます。]
[※2:過酸化脂質とは、コレステロールや中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化されたものの総称です。]
[※3:菜種油とは、菜種から採取した淡黄色の油のことです。キャノーラ油ともいいます。]
[※4:反芻動物とは、一度飲みこんだ食物を再び口に戻して咀嚼(そしゃく)することを日頃から食習慣として行っている動物のことです。牛、羊、馬、山羊、らくだなどが反芻動物に当たります。]
[※5:反芻胃とは、一度飲みこんだ食物を再び口に戻して咀嚼する胃のことです。]
[※6:リポタンパク質リパーゼとは、脂肪組織などで合成・分泌され、毛細血管の血管内皮細胞表面(脂肪細胞外)に存在する酵素のことで、中性脂肪を分解し、細胞中に脂肪を蓄積します。]
[※7:ホルモン感受性リパーゼとは、脂肪細胞に存在し、中性脂肪を分解し、血中の脂肪酸濃度を高めます。]

共役リノール酸の効果

●肥満を予防する効果
共役リノール酸は、溜まった脂肪をエネルギーへと変えるホルモン感受性リパーゼという酵素に働きかけ、エネルギーをつくり出します。そのため脂肪を分解、消費します。この酵素は本来運動をすると活発になるものです。つまり共役リノール酸は、運動をすることと同じような脂肪燃焼効果を持っています。肥満を予防・改善しダイエットに効果的だと言えます。
ノルウェーで180人が参加した臨床試験が行われており、BMI値[※8]が25~30の肥満気味の男女を対象に1年間、共役リノール酸を摂取させました。1年後、体脂肪の量を「X線2重エネルギー吸収法(DXA法)」で測定しところ、研究グループは「共役リノール酸の摂取で長期間にわたり体脂肪を減らす効果が確認できた」と報告しています。【1】【2】【3】【5】

●筋肉を増強する効果
ホルモン感受性リパーゼの体脂肪を燃焼させる働きは、同時に筋肉を増加・増強させる効果もあります。筋肉の成長を効果的に促すため、特にスポーツ選手から注目されています。アメリカでは、以前から、ボディビルダーやアスリートたちがサプリメントで共役リノール酸を摂取していました。体脂肪を効率良くエネルギーに変える働きを持つため、運動をする前に摂取する方が効果的だといわれています。【6】【7】

●動脈硬化を予防する効果
共役リノール酸は高い抗酸化作用[※9]を持つため、血中の酸化LDL[※10]の蓄積を防ぎ、動脈硬化を予防する効果が見込まれます。

●冷えを改善する効果
共役リノール酸が持つ高い抗酸化作用により血中の酸化LDLの蓄積を防ぎ、血液の流れを改善するため、血流促進効果が期待できます。さらには筋肉が増強されることにより、体内の温度が上昇し、冷え性や低体温を改善する効果があります。

●アレルギーを抑制する効果
共役リノール酸には、アレルギー反応を抑制したり、アレルギー症状を引き起こす原因となる物質の生成を抑える効果もあります。免疫機能の改善に役立ちます。【4】

[※8:BMI値とは、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出される、肥満度を示す国際的な指標のことです。]
[※9:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※10:酸化LDLとは、低比重リポたんぱくという物質のことです。LDLはLow Density Lipoproteinの略で、一般的に悪玉コレステロールとして知られています。LDLが酸化することで血管壁にたまったり、血管に付着したりすると動脈硬化などの原因となる危険因子です。]

食事やサプリメントで摂取できます

共役リノール酸を含む食品

○牛肉
○鶏肉
○羊肉
○ベーコン
○牛乳
○乳製品
○ゴーヤ
○オリーブオイル
○菜種油
○大豆油
○紅花油

こんな方におすすめ

○ 肥満を防ぎたい方
○ 筋肉を強化したい方
○ スポーツをする方
○ 動脈硬化を予防したい方
○ 冷え性の方
○ アレルギー症状を緩和したい方

共役リノール酸の研究情報

【1】健常成人男女53名に共役リノール酸を1日当たり4.2g 、3カ月間摂取させたところ体脂肪率の減少が確認できました。また、ステアリン酸やパルミチン酸、オレイン酸などの脂肪酸代謝の改善が見られたことから、共役リノール酸は脂肪酸代謝に影響を及ぼすことで、体脂肪率を減少させるはたらきがあると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11592727

【2】肥満患者60名において、共役リノール酸を1日あたり3.4, 5.1, 6.8g を12週間摂取させたところ、体脂肪量が減少しました。共役リノール酸には体脂肪減少効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11110851

【3】肥満患者22名において、共役リノール酸を1日当たり1.4g 、4週間摂取させたところ、体脂肪率の減少が確認され、血中脂質である脂肪酸やトリアシルグリセロールが増加したことから、共役リノール酸には脂質代謝に作用して、体脂肪率を減少させるはたらきがあることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12031264

【4】ラットに共役リノール酸を1% 含む餌を3週間摂取させたところ、脾臓および腸間膜リンパ節の免疫物質であるIgA、IgG、IgM産生を増加させ、IgE の減少が見られました。共役リノール酸は免疫調節機能を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9625600

【5】肥満マウスに共役リノール酸を0.5% 含む餌を4週間摂取させたところ、食欲や代謝に関連する物質レプチンの減少が抑制されました。共役リノール酸には脂肪細胞における脂肪酸量を減少させるはたらきもあり、共役リノール酸には抗肥満作用と体脂肪蓄積抑制作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11554738

【6】成人男性10名に運動とともに共役リノール酸を1日6g 、3週間摂取させたところ、男性ホルモンであるテストステロンが増加しました。テストステロンは筋肉増強作用にも関係することから、共役リノール酸は筋肉増強作用を有することが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22614148

【7】老年男女39名に運動とともにクレアチニンを1日5g および共役リノール酸を1日6g 、6カ月間摂取させたところ、筋肉持久力や膝関節伸展力や体脂肪量に改善が認められたため、共役リノール酸が運動療法とともに、筋力改善に有益であると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17912368

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参考文献

・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館

・森永スポーツ&フィットネスリサーチセンター 編 スポーツとフィットネスのためのサプリメントがもっとわかる! 森永製菓株式会社健康事業部

・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院

・Smedman A, Vessby B. 2001 “Conjugated linoleic acid supplementation in humans–metabolic effects.” Lipids. 2001 Aug;36(8):773-81.

・Blankson H, Stakkestad JA, Fagertun H, Thom E, Wadstein J, Gudmundsen O. 2000 “Conjugated linoleic acid reduces body fat mass in overweight and obese humans.” J Nutr. 2000 Dec;130(12):2943-8.

・Mougios V, Matsakas A, Petridou A, Ring S, Sagredos A, Melissopoulou A, Tsigilis N, Nikolaidis M. 2001 “Effect of supplementation with conjugated linoleic acid on human serum lipids and body fat.” J Nutr Biochem. 2001 Oct;12(10):585-594.

・Sugano M, Tsujita A, Yamasaki M, Noguchi M, Yamada K. 1998 “Conjugated linoleic acid modulates tissue levels of chemical mediators and immunoglobulins in rats.” Lipids. 1998 May;33(5):521-7.

・Kang K, Pariza MW. 2011 “trans-10,cis-12-Conjugated linoleic acid reduces leptin secretion from 3T3-L1 adipocytes.” Biochem Biophys Res Commun. 2001 Sep 21;287(2):377-82.

・Macaluso F, Morici G, Catanese P, Ardizzone NM, Marino Gammazza A, Bonsignore G, Lo Giudice G, Stampone T, Barone R, Farina F, Di Felice V. 2012 “Effect of conjugated linoleic acid on testosterone levels in vitro and in vivo after an acute bout of resistance exercise.” J Strength Cond Res. 2012 Jun;26(6):1667-74.

・Tarnopolsky M, Zimmer A, Paikin J, Safdar A, Aboud A, Pearce E, Roy B, Doherty T. 2007 “Creatine monohydrate and conjugated linoleic acid improve strength and body composition following resistance exercise in older adults.” PLoS One. 2007 Oct 3;2(10):e991.

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