カルシウム Ca

Ca calcium

骨や歯のもととなり、丈夫な体づくりには欠かせない成分です。
食品では乳製品や魚介類に多く含まれていますが、子どもから高齢者までどの年代でも不足しがちな成分のため、食事やサプリメントから積極的に摂る必要があります。
骨粗しょう症の予防や、ストレス・イライラを抑える効果もあります。

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カルシウムとは?

●基本情報
カルシウムは人間の体では骨や歯を構成する必須ミネラルです。人体内に最も多く存在するミネラルで、体重の1~2%の比率を占めています。そのうち99%が骨や歯に存在しており、残りの1%は血液などの体液や筋肉、細胞に分布し、体の様々な機能を調整しています。

●カルシウムの歴史
カルシウムは、1808年イギリスのハンフリー・デイビーによって、石灰[※1]と酸化石灰の混合物を電気分解したことで発見された、原子番号20番の金属元素です。
カルシウム (calcium)の名前はラテン語で石灰を意味したCalcsisに由来しています。

●カルシウムの摂取状況
カルシウムは、日本人に最も不足しているミネラルともいわれ、厚生労働省が定めている摂取基準に一度も到達したことがないほど問題視されています。ここまで不足する理由は、日本の食生活の変化や、昔と比べて食材自体に含まれるカルシウム量が低下していることが挙げられます。
カルシウムの摂取状況は、成人男性でカルシウムの推奨量が1日あたり650~800mgに対し、実際の摂取量は20歳以上で497 mgです。同じく成人女性でカルシウムの推奨量が650mgに対し、実際の摂取量は20歳以上で492 mgと不足した状態にあります。平成22年の国民健康栄養調査では、補助食品と強化食品からの平均摂取量は男性3 mg、女性7 mgですが、男女ともカルシウム摂取量は不足しています。摂取基準値は、表のとおりとなっています。(推奨量は厚生労働省・日本人の食事摂取基準2010年版、摂取量は平成22年国民健康栄養調査をもとに平均値を算出)

●カルシウムの吸収と相性のよい成分
カルシウムは吸収率が低い栄養素の一つで、食材に含まれるカルシウムの全てが体で使われるわけではありません。性別や年齢によって個人差もありますが、成人では通常の食事での吸収率は20~30%といわれています。カルシウムの多い食品として牛乳がよく知られていますが、牛乳のカルシウム吸収率は約40%で、牛乳のカルシウム吸収率が高いのは、牛乳に含まれる乳糖 [※2]やたんぱく質が影響しているためと考えられます。そのほか小魚が約30%、野菜で約20%程度です。野菜の中でも特にほうれん草などの青菜は、カルシウムの吸収を阻害するシュウ酸 [※3]が含まれているため吸収率が低いといわれていますが、青汁に使用されるケールはシュウ酸をほとんど含まないため、吸収率は牛乳と同程度とされています。

丈夫な骨をつくるためには、骨の成分をしっかりと補う必要があります。食事から補う上で特に大切なのは、カルシウム、マグネシウムコラーゲンです。
体は必要な栄養素をより吸収しようとするため、摂取量が少ない場合や必要量が多い時期 (妊娠中など)には吸収率が高まります。妊娠中はエストロゲン [※4]の分泌が高まるため、カルシウムの吸収率が良くなります。また授乳中はエストロゲンの分泌が減るので骨量も減る場合があります。食事から摂る様々な成分や喫煙も、吸収率に影響しています。

カルシウムの吸収を促進するものは、カゼインホスホペプチド (CPP) [※5]、乳糖、ビタミンD、適量のたんぱく質、難消化性オリゴ糖 [※6]などです。
吸収を阻害するものとしては、シュウ酸、フィチン酸、過剰のたんぱく質・脂質リン、塩分、カフェイン、喫煙などです。

カルシウムとマグネシウムをバランスよく摂ることも必要です。マグネシウムはカルシウムとともに骨をつくる働きがあるためです。カルシウムとマグネシウムのバランスは、カルシウム2~3に対して、マグネシウム1がよいとされています。
リンもカルシウムとともに骨をつくる成分ですが、一緒に摂ることでカルシウムの吸収を妨げます。リンは肉や魚など多くの食品に含まれているため、食事から十分補うことができます。加工食品などに多く含まれていることから最近ではリンの摂取が過剰傾向にあり、リンを意識して摂る必要はないとされています。
コラーゲンは骨の枠組みをつくり、しなやかさを保つため、カルシウムとともにコラーゲンも補うとよりよいといえます。
活性型ビタミンDは、腸でのカルシウムの吸収を促します。ビタミンDは魚、キノコなどに多く含まれているほか、日光に当たることで皮膚でもつくられます。しかしそのままでは活性がなく、腎臓で活性型ビタミンDとなって初めて働きます。活性型ビタミンDは、血液中のカルシウム濃度が低くなると、骨から血液へカルシウムを溶かし出し、カルシウムのバランスを保つ働きもあります。このことでカルシウムの量を調節するホルモンのバランスを保ち、骨へのカルシウムの沈着を高めています。そして腎臓では、尿に出たカルシウムの再吸収を促し尿から体の外へ排泄される量を減らします。

●骨と運動
骨を強くするためには、カルシウムを摂るだけでなく、適度な運動によって骨に負荷をかけることが必要です。これは宇宙飛行士の話から有名になりました。人間は1週間程度、無重力空間にいて自分の体を支えていなかっただけで、帰還直後は自分の足で立てないほどに弱ってしまうのです。筋肉が弱るだけでなく、骨に負荷がかからないことによって、骨のカルシウムが溶け出します。これは寝たきりの入院患者にも同じことが起こります。

<豆知識①> 成長期の骨
成長期には、骨の長さ・強さが急激に成長します。より丈夫な骨をつくるためには、食事・運動のほかに十分な睡眠を取ることも大切です。骨を成長させ、体を大きくする成長ホルモンは、寝ているときに分泌されるからです。「寝る子は育つ」というのはこのような理由があったのです。

●薬との相互作用
カルシウムとキレート[※7]をつくるような医薬品との併用には注意する必要があります。活性型ビタミンDは、カルシウムの吸収を促進し、血中のカルシウム濃度を高める可能性があります。

[※1:石灰とは、酸化カルシウムや消石灰や炭酸カルシウムのことです。石灰岩として鉱山から産出される白い物質で、コンクリートや漆喰の原材料となります。]
[※2:乳糖とは、乳製品に多く含まれる、糖の一種のことです。]
[※3:シュウ酸とは、ほうれん草などの青菜に多く含まれるエグ味成分のことです。]
[※4:エストロゲンとは、女性ホルモンの一種で、卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです。カルシウムの吸収を促進する働きをします。]
[※5:カゼインホスホペプチド (CPP)とは、牛乳のたんぱく質が消化されるときにつくられる成分のことです。]
[※6:難消化性オリゴ糖とは、大豆、ごぼうなどに多く含まれる消化されにくい甘味成分のことです。]
[※7:キレートとは、金属原子やイオンが化学的に結合することです。]

カルシウムの効果

●骨や歯をつくる働き
カルシウムは骨や歯の主要な構成成分で、リンやマグネシウムなどとともに、丈夫な体の土台となっています。私たちにとって骨は体を支えて姿勢を保ち、内臓を守るとても重要な働きをしています。
骨のつくりは、コンクリートの建物に例えることができます。コンクリートの部分が、主にカルシウム・リン・マグネシウムなどのミネラルです。骨組みである鉄骨の役割をしているのがコラーゲンです。カルシウムは骨の強さ、コラーゲンは骨のしなやかさを保っています。
骨はカルシウムの貯蔵庫としての役割もあり、ほかの部分でカルシウムが不足したときに、骨に貯蔵しておいたカルシウムが血液中に溶け出て不足分を補います。そのため、骨にあるカルシウムは「貯蔵カルシウム」と呼ばれています。
歯は、体の中で最も硬く、カルシウムからできています。【1】【2】【8】

●骨粗しょう症の予防効果
骨は毎日生まれ変わっており、骨の中では、新しい骨をつくる「骨形成」と古くなった骨を壊す「骨吸収」が絶えず繰り返されています。この骨形成と骨吸収がバランスよく行われることが大切です。しかし、壊すばかりで骨形成が追いつかなくなると、骨にあるカルシウムが少なくなり、スポンジのようなスカスカの骨になってしまいます。これが骨粗しょう症です。

骨がもろくなっている骨粗しょう症は、転びやすくなる、少しの衝撃で骨折してしまうなどといったことが起こります。特に高齢者の場合、寝たきりの原因の第一位が転倒による骨折であるため、予防が非常に大切です。予防のためには、若いうちに骨のカルシウム量を増やしておくことが何よりも重要です。骨形成のピークは20歳前後で、大体35歳を過ぎるとカルシウムの骨への吸着が難しくなってしまいます。
女性の場合は、特に骨粗しょう症になりやすいことがわかっています。女性ホルモンは小腸でのカルシウムの吸収を高め、骨形成を助ける役割がありますが、閉経すると女性ホルモン (エストロゲン)の分泌が少なくなり急激に骨密度が減っていきます。若い人に限らず、最近女性はダイエットの影響で、カルシウムの摂取も不足しています。そして運動もあまりしていない場合が多いようです。今の若い女性が将来年をとると、さらに骨粗しょう症の人が増えることが考えられます。女性は意識してカルシウムを摂るように努力する必要があります。
また、一人暮らしの男性のカルシウム不足も問題とされています。これは不規則な食生活によるものです。このままでは、将来男性の骨粗しょう症も増えるかもしれません。

カルシウムが不足することによって起こるのは、骨粗しょう症だけではありません。
成長期に不足すると、骨や歯の形成障害を起こし、歯の質が悪くなったり、あごの発育に影響が出ることがあります。また、カルシウム欠乏症として小児の場合「くる病」、成人の場合「骨軟化症」などが知られています。
カルシウムがずっと不足している状態が続くと、骨から血液中へカルシウムが過剰に溶け出し、余分なカルシウムが血管の内側に溜まってしまうことがあります。これをカルシウムパラドックスといい、高血圧や動脈硬化の原因になることもあります。
通常の食事の中で、カルシウムが過剰になることはほぼありません。薬の影響やサプリメントの過剰摂取によって吸収が過剰になった時にだけ、高カルシウム血症やミルク・アルカリ症候群[※8]といった過剰症が知られています。
骨粗しょう症を予防するには、カルシウムとともに、カルシウムの吸収を助けるビタミンDや吸収されたカルシウムを骨にとり込むのを助けるビタミンKなどを一緒に摂取するとよいでしょう。【1】【2】【8】

●血液が固まるのを助ける効果
けがをしたり、傷ができたりすると出血しますが、カルシウムは傷口で血液を固める働きにも関わっています。止血には血液凝固因子 [※9]と呼ばれる酵素などがいくつも関係していますが、カルシウムはこれらの酵素が働けるように活性化させる作用があります。

●ストレスをやわらげる効果
体を動かす時には、筋肉が伸び縮みしています。筋肉の収縮は、筋肉の運動を司るたんぱく質とカルシウムが結合することによって起こります。心臓が規則的に正しく拍動できるのも、カルシウムが働いているからなのです。
また、神経の伝達が正常に行われるように保つ効果や、緊張・興奮を静めてイライラや過敏症などのストレスをやわらげる効果があります。

血液中や筋肉で、生命の維持に関わり働いているカルシウムのことを、「機能カルシウム」と呼びます。血液中のカルシウム濃度は、9~11 mg/dLというとても狭い範囲で一定に保たれており、濃度が低くなると骨からカルシウムが溶け出して、もとの濃度を保ちます。

<豆知識②> カルシウムとホルモンの関わり
血液中のカルシウムが低下すると、副甲状腺ホルモン(PTH・パラトルモン) [※10]が働きます。PTHは骨からカルシウムを溶かし出し、血液中へ放出します。また、カルシウムを排泄している腎臓で、尿細管でのカルシウムの再吸収を促します。さらにビタミンDを不活性型から活性型に変換します。
一方、血液中のカルシウム濃度が高まると、カルシトニン[※11]というホルモンが分泌され、骨へのカルシウムの供給を増やします。

[※8:ミルク・アルカリ症候群とは、慢性の腎臓障害の一つです。アルカリ剤と牛乳を多量に与えると高カルシウム血症、軟組織へのカルシウム沈着と腎障害を引き起こします。]
[※9:血液凝固因子とは、血液が固まるときに必要なたんぱく質です。]
[※10:パラトルモンとは、副甲状腺から分泌されるホルモンです。血中のカルシウム濃度を高めます。]
[※11:カルシトニンとは、甲状腺から分泌されるホルモンのことです。血中のカルシウム濃度を下げる働きをします。]

カルシウムは食事やサプリメントから摂取できます

カルシウムを含む食品

○乳製品:チーズ、ヨーグルト、牛乳、スキムミルク
○魚介類:しらす干し、干しエビ、ししゃも、わかさぎ、田作り
○野菜類:モロヘイヤ、ケール、大根の葉、小松菜、切り干し大根
○大豆製品:がんもどき、木綿豆腐、高野豆腐、納豆
○その他:ひじきごま

こんな方におすすめ

○骨や歯を強くしたい方
○乳製品を摂取する機会が少ない方
○骨粗しょう症を予防したい方
○成長期のお子様
○更年期障害でお悩みの方
○妊娠中・授乳中の方
○ストレスをやわらげたい方

カルシウムの研究情報

【1】慢性腎疾患女性610名を対象に、カルシウム1200mg とビタミンD3 800IUを2年間摂取させたところ、腎障害の程度に限らず、すべての腎疾患患者、骨密度ミネラルが上昇したことがわかった。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22551881

【2】食事からカルシウムを多く摂ることで、若年成人において体脂肪のコントロールに役立つことがわかっています。カルシウムを1日あたり1500mg 摂取することで、身体および体脂肪の管理を補助できたと示唆されています。骨の健康も合わせて考えると、若年成人がカルシウムを摂るときは、総カルシウム摂取量を推奨栄養所要量に少なくとも1000mg 増加することが推奨されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22331683

【3】肥満成人141名を対象に、カルシウム 350 mg およびビタミンD 100IU を含む強化オレンジジュースを16週間摂取させたところ、内臓脂肪が軽減しており、カルシウムが抗肥満作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22170363

【4】カルシウムとリン酸はともに、カルシウム:リン酸=2.2:1 の割合で骨に存在しており、これは母乳でのカルシウムとリン酸の割合に等しい比率となります。リン酸は骨で骨細胞の成熟に関わり、腎臓ではカルシウムの再吸収を助ける働きがあります。カルシウムとリン酸を上記の割合で摂取することが、骨の健康維持に重要であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22081690

【5】甲状腺手術後、低カルシウム血症になりやすいのは、血中カルシウム濃度を上昇させるホルモン副腎皮質ホルモン(PTH)が減少するためです。甲状腺手術後にはカルシウムの他に、ビタミンD3の摂取が有益であると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22080941

【6】栄養強化食品は妊婦における貧血や妊娠中毒症を抑制するのにとても貴重な存在です。カルシウムには妊娠中毒症や母体の健康維持に役立ち、また鉄分は貧血の予防に役立つということが知られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21929634

【7】312名の被験者を検査の結果、直腸結腸悪性新生物が117名から発見されました。健常者と疾病患者には、カルシウム摂取量に違いがあり、健常者の1日のカルシウム摂取量が1180mg であった一方、悪性新生物患者では一日1036mg と低い値を示しました。そのため、カルシウムを多く摂ることで、直腸結腸悪性新生物を予防できる可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21866684

【8】骨粗鬆症マウスにおける骨折後の骨再生を調べると、骨折修復時に形成される仮骨の形成が遅くなることがわかっています。カルシウムを摂取することで、仮骨の形成が促進されることが確認されました。カルシウムは骨粗鬆症予防に有益であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20572125

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参考文献

・Bosworth C, de Boer IH, Targher G, Kendrick J, Smits G, Chonchol M. 2012 “The effect of combined calcium and cholecalciferol supplementation on bone mineral density in elderly women with moderate chronic kidney disease.” Clin Nephrol. 2012 May;77(5):358-65.

・Skinner ML, Simpson JA, Buchholz AC. 2011 “Dietary and total calcium intakes are associated with lower percentage total body and truncal fat in young, healthy adults.” J Am Coll Nutr. 2011 Dec;30(6):484-90.

・Rosenblum JL, Castro VM, Moore CE, Kaplan LM. 2012 “Calcium and vitamin D supplementation is associated with decreased abdominal visceral adipose tissue in overweight and obese adults.” Am J Clin Nutr. 2012 Jan;95(1):101-8.

・Bonjour JP. 2011 “Calcium and phosphate: a duet of ions playing for bone health.” J Am Coll Nutr. 2011 Oct;30(5 Suppl 1):438S-48S.

・Wang TS, Roman SA, Sosa JA. 2012 “Postoperative calcium supplementation in patients undergoing thyroidectomy.” Curr Opin Oncol. 2012 Jan;24(1):22-8.

・Yang Z, Huffman SL. 2011 “Review of fortified food and beverage products for pregnant and lactating women and their impact on nutritional status.” Matern Child Nutr. 2011 Oct;7 Suppl 3:19-43.

・Palacios C, Lopez M, Ortiz AP, Correa MC. 2010 “Association between calcium intake and colorectal neoplasia in Puerto Rican Hispanics.” Arch Latinoam Nutr. 2010 Dec;60(4):348-54.

・Shuid AN, Mohamad S, Mohamed N, Fadzilah FM, Mokhtar SA, Abdullah S, Othman F, Suhaimi F, Muhammad N, Soelaiman IN. 2010 “Effects of calcium supplements on fracture healing in a rat osteoporotic model.” J Orthop Res. 2010 Dec;28(12):1651-6.

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