β(ベータ)グルカンとは?
●基本情報
β-グルカンは、キノコや酵母に多く含まれる多糖類[※1]の一種で、食物繊維の仲間です。免疫力を高め、ガンに対する予防改善効果があるとして、発見から今日に至るまで研究が続けられ、β-グルカンの効果が少しずつ明らかとなっています。β-グルカンは、キノコや酵母などの細胞壁[※2]に存在する成分で、摂取しても胃腸で消化・分解されず、腸内の免疫担当細胞に働きかけます。
●β-グルカンの歴史
β-グルカンは、1940年代にパンの酵母から発見されました。その後、1960年代にニコラス・ディルジオ博士がパン酵母の細胞壁から抽出し、「β-1.3Dグルカン」と名付けました。
現在ではシイタケやヤマブシダケのβ-グルカンが抗ガン剤として実用化されています。
●β-グルカンの構造
β-グルカンは、グルコース(ブドウ糖)がいくつも結びついた構造をしています。この結合がβ結合であることがβ-グルカンの名前のもととなっています。グルカンは構造の違いによって、でんぷんなどグルコースがα結合しているα-グルカンと、β-グルカンに大別されます。グルカンには、他にもグリコーゲンやデキストリンが属します。
●β-グルカンの働き
β-グルカンは免疫力を高める効果があるといわれており、体外から入ってきたウイルスなどを撃退し、病気から体を守る働きがあります。
さらにβ-グルカンには抗ガン作用の効果が注目されています。β-グルカンはキノコに多く含まれますが、数あるキノコの中でも特に、サルノコシカケ科、シメジ科、ハラタケ科のキノコに多く含まれるβ-D-グルカンという成分は、ガン細胞の抑制に働くといわれています。
サルノコシカケ科の霊芝や、ハラタケ科のアガリクスなどは、健康効果を期待して、古くから生薬として利用されたり、近年ではサプリメントの原料として利用されることが多いことがわかります。
●β-グルカンを摂るポイント
β-グルカンはしいたけやまいたけをはじめとするキノコ類やパン酵母などの酵母、それからオーツ麦や大麦に多く含まれています。β-グルカンはこれらの食品から摂取できるほか、サプリメントからも手軽に補うこともできます。
β-グルカンを摂るタイミングとしては、空腹時が効果的です。これはβ-グルカンが腸の内壁にある免疫細胞に働きかけるため、腸が空に近い空腹時が適しているとされています。
β-グルカンを過剰に摂取しても、β-グルカンは食材に近い成分なので特に大きな健康被害はありませんが、有害物質や老廃物とともに必要な栄養素まで排出されたり、下痢を起こすことがあります。
<豆知識>キノコの種類とβ-グルカン
キノコの種類は世界で1万種類以上、日本では2000種類程あるといわれており、キノコの種類によってβ-グルカンの含有量や有効性が異なります。中でも高級キノコのひとつであるアガリクスはβ-グルカンを豊富に含む薬用キノコとして古くから親しまれてきました。アガリクスはβ-グルカンのみならず、ビタミン類やミネラル類などの栄養素や他の有効成分を含んでおり、抗ガン作用を含め、バランス良く健康に働きかけます。また、漢方医学で生薬として使用されている霊芝もβ-グルカンを含みます。中でも厳しい条件下で育ち、枝分かれをした形状である非常に希少な霊芝「鹿角霊芝」は、霊芝よりもβ-グルカンをはじめとする健康成分を豊富に含み、生活習慣病の予防や改善への効果が期待されています。
[※1:多糖類とは、糖質の最小単位である単糖が、多数結合したものです。]
[※2:細胞壁とは、細胞の外側にあり、細胞を守る層です。]
β(ベータ)グルカンの効果
●免疫力を高める効果
β-グルカンは免疫力を高め、ウイルスや細菌に対する抵抗力を高めます。 β-グルカンは人間の体内で、免疫機能をつかさどるマクロファージやナチュラ ルキラー細胞、白血球のT細胞、B細胞の働きを活性化したり、免疫の関連物質であるインターフェロンの生成を促す作用があります。免疫にかかわる因子を活性化することで免疫力を高めます。免疫力が低いと、体外から入ってくるウイルスに対抗することができず、風邪やインフルエンザ、生活習慣病を引き起こし、病気を長引かせます。
このように、β-グルカンは免疫に働きかけるので、β-グルカンの摂取による風邪などの予防や、アレルギー症状を予防・改善する効果も期待されています。【1】【2】
●ガンを抑制する効果
β-グルカンの免疫力を高める働きによって、ガンを抑制する効果が期待されます。ガン発生の具体的なメカニズムはまだ解明されていませんが、たばこや食事などの要因から、細胞が突然ガン化[※3]することで引き起こされると考えられています。
β-グルカンは、ガン細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞やマクロファージなどの免疫細胞を活性化させる働きがあり、腫瘍抑制効果が認められています。β-グルカンは、一般の抗ガン剤と違い、自身の免疫応答を高めることによって間接的にガンを攻撃します。
●コレステロール値を下げる効果
β-グルカンは、不溶性食物繊維の一種で、血中のコレステロール値を下げる働きがあります。不溶性食物繊維は、水分を吸収して余分なものをからめとり、体外に排出され、便秘解消に有効だとされています。水溶性食物繊維は粘り気が強く、ゆっくりと消化されるため、血糖値の急激な上昇が抑えられます。
また、β-グルカンは消化されることなく腸まで届くため、コレステロールを吸着して体外へ排泄する働きがあります。その結果、体内のコレステロール値上昇を抑える効果があります。
血中のコレステロール値が高くなると、血管にコブができ、血管をふさぎ、血液の流れが悪くなります。その結果、動脈硬化に至ります。また、コレステロールが増えすぎると、脳卒中や高血圧を進行させてしまう原因にもなります。
コレステロール値を正常に保つには、悪玉(LDL)コレステロールを減少させ、善玉(HDL)コレステロールを増加させることが大切です。悪玉(LDL)コレステロールの増加の原因は肉やバターなどの動物性脂肪の多い食品の過剰摂取が一因です。低脂肪の食べものや、食物繊維の多い野菜類などを食べてコレステロールが上昇しないようにすることが大切です。【3】【4】【5】
●腸内環境を整える効果
食物繊維の一種であるβ-グルカンは腸内に存在する異物などの体内の不要物質を排除して、腸内環境を整える働きがあります。便秘の予防や改善に効果を期待できます。
[※3:ガン化とは、正常な細胞が悪性の細胞へと変化することです。]
食事やサプリメントで摂取できます
β-グルカンが多く含まれる食材
○まいたけ
○しいたけ
○エリンギ
○なめこ
○ひらたけ
○パンの酵母
○オーツ麦
○大麦
こんな方におすすめ
○免疫力を向上させたい方
○アレルギー症状を予防したい方
○ガンを予防したい方
○コレステロール値が高い方
β(ベータ)グルカンの研究情報
【1】酵母由来のβ‐グルカンは、ヒト白血球B細胞に細胞毒性を示さずに、補助刺激分子CD86を活性化することにより、免疫力の賦活化に関係しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22199280
【2】被験者42名に6週間、しいたけ由来水溶性β-グルカン2.5mg を摂取させたところ、白血球B細胞が有意に増加しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22164761
【3】4週間カラスムギ由来β-グルカンを摂取したところ、白人および非白人に関係なく、ともにLDLコレステロールが減少しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22118569
【4】成人の高コレステロール血症患者におけるLDLコレステロール低下作用を、米ぬかをとった場合とβグルカンをとった場合で比較した結果、米ぬかよりもβ-グルカンのほうが、LDLコレステロール低下作用は高い結果が得られました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21505506
【5】1日3g のカラスムギ、または有効成分β-グルカンを摂ることにより、血中コレステロールが上昇するのを抑制することができました。この働きはコレステロールにおいてのみであり、血糖値には影響を及ぼしませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21470820
参考文献
・田中平三ほか 監訳 健康食品のすべて-ナチュラルメディシン・データベース 同文書院
・則岡孝子 監修 栄養成分の事典 新星出版社
・八巻孝夫 フーズ・メディカ食の医学館 小学館
・Gaullier JM, Sleboda J, Ofjord ES, Ulvestad E, Nurminiemi M, Moe C, Tor A, Gudmundsen O. 2011 “Supplementation with a soluble β-glucan exported from Shiitake medicinal mushroom, Lentinus edodes (Berk.) singer mycelium: a crossover, placebo-controlled study in healthy elderly.” Int J Med Mushrooms. 2011;13(4):319-26.
・Wolever TM, Gibbs AL, Brand-Miller J, Duncan AM, Hart V, Lamarche B, Tosh SM, Duss R. 2011 “Bioactive oat β-glucan reduces LDL cholesterol in Caucasians and non-Caucasians.” Nutr J. 2011 Nov 25;10:130.
・Rondanelli M, Opizzi A, Monteferrario F, Klersy C, Cazzola R, Cestaro B. 2011 “Beta-glucan- or rice bran-enriched foods: a comparative crossover clinical trial on lipidic pattern in mildly hypercholesterolemic men.” Eur J Clin Nutr. 2011 Jul;65(7):864-71.
・Tiwari U, Cummins E. 2011 “Meta-analysis of the effect of β-glucan intake on blood cholesterol and glucose levels.” Nutrition. 2011 Oct;27(10):1008-16.
・井上正子 監修 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社
・吉川敏一 編 医療従事者のための[完全版]機能性食品ガイド 講談社
・嶋尾通 編 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社
・蒲原聖可 著 サプリメント事典 平凡社
・中嶋洋子 監修 栄養の教科書 新星出版社
・吉田企世子 監修 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店
・帯津良一ほか 監修 2004版サプリメント健康バイブル 小学館
・日経ヘルス 編 日経ヘルスサプリメント事典2008年版 日経BP社