亜鉛

Zinc  Zn

亜鉛は牡蠣や肉類、魚など動物性食品に含まれるミネラルで、たんぱく質・核酸の代謝に関与して、健康の維持に役立ちます。
また、味覚を正常に保つためにも必要で、皮膚や粘膜の健康維持を助ける働きもします。
ミネラルの中でも不足しがちな栄養素であるため、意識して摂取する必要があります。

亜鉛とは?

●基本情報
亜鉛とは、人間が活動するために必要な代謝 [※1]の過程で働く酵素の構成成分として必要不可欠なミネラルです。
体内では何千種類もの酵素が、三大栄養素である炭水化物 (糖質)、脂質たんぱく質の代謝や、免疫力の強化などの化学反応に関わっています。その中でも亜鉛は、細胞の新陳代謝に関わる200種類以上もの酵素を構成する重要な成分です。

亜鉛は人間の体内に約2gあり、血液や皮膚などに多く存在します。
​その他にも、骨や腎臓、肝臓、脳、髪の毛など新陳代謝の盛んな細胞に多く存在し、男性の場合は前立腺に最も多く存在します。
また、体内の亜鉛の95%以上は細胞内に存在し、新陳代謝を助けています。

亜鉛は銀白色の金属元素で、湿った空気中では亜鉛と酸素が結びついて灰白色の被膜を生じます。
古くから亜鉛は真鍮やトタンなどとして使われてきました。真鍮は亜鉛と銅の合金で、5円玉や金物などに使われています。
​トタンは鉄に亜鉛をめっきしたもので、さびを防ぐために建物の雨に当たる部分などによく用いられています。

​●亜鉛の歴史
亜鉛は、紀元前から銅との合金である真鍮として使われたり、化合物は傷の治療などに使われてきました。
​真鍮は、初代皇帝のアウグストゥスがローマ帝国を治めていた紀元前20年から西暦14年頃に、ローマで初めてつくり出されたと考えられています。また、13世紀にはマルコ・ポーロがペルシャで酸化亜鉛の製造を伝えたといわれています。
亜鉛は英語で「Zinc」といいます。この名前は溶鉱炉中に亜鉛が沈殿する時の形がフォークに似ていることから、ドイツ語でフォークの先という意味の「zinken」になったという説や、ペルシャ語で石という意味の「tinc」が由来であるという説があります。日本語で亜鉛といわれるようになったのは、亜鉛の見た目が鉛と似ていたためです。
自然界には、亜鉛単体で存在することはほとんどありませんが、1746年にドイツの化学者マルクグラーフが、化合物から亜鉛を分離することに成功しました。
亜鉛が栄養素として注目されるようになったのは、さらに後になってからのことです。
1961年に、イランで成長遅延がみられる子どもから亜鉛の欠乏症が発見されました。
​イランの子どもの食事は、ポテトとミルク、イーストを使わないパンだけであったため、栄養不足により身長が低く、貧血と性機能の低下がみられました。毛髪を調べると、亜鉛が少ないことが明らかになり、亜鉛を補給することで症状が改善されました。
​その後、エジプトでも同じような症状の子どもが見つかり、肉類を含む食事を与えることで症状が改善しました。
成人の亜鉛欠乏症は、1975年に高カロリー輸液のみで栄養補給を受けている患者から発見されました。
​当時は、微量栄養素の存在が知られていなかったため、輸液に微量栄養素が配合されていませんでした。
​その後、高カロリー輸液患者に起こった様々な欠乏症状から、種々の微量栄養素の存在が明らかになりました。
​現在は鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素などの微量栄養素を含んだ輸液が販売されており、高カロリー輸液の際には必ず投与することとされています。

●亜鉛の吸収
亜鉛は小腸で吸収され、アルブミンというたんぱく質と結合して肝臓に運ばれます。
​体内での吸収率は約10~30%とあまり高くありませんが、亜鉛の摂取量や同時に摂取した鉄や銅の量に影響されて変化します。
また、昇圧薬などを服用することによって亜鉛の吸収が妨げられることもあります。
さらに、ファストフードやインスタント食品などの加工食品には、亜鉛の吸収を妨げるリン酸塩などの食品添加物が含まれているため、加工食品に偏った食事にならないように注意する必要があります。
その他、特に穀類や豆などの植物性食品に含まれるフィチン酸や青菜に多いシュウ酸 [※2]、食物繊維は、腸管で亜鉛と結合して吸収率を低下させます。
​このため、亜鉛を効率良く摂取するためには、貝類や肉、魚などの動物性食品を多く摂取することが必要です。
また、亜鉛はビタミンCと一緒に摂ると吸収しやすくなるため、亜鉛を多く含む牡蠣にレモンをかけて食べることが多いのは、生活の知恵であるといえます。

●亜鉛は不足しやすい栄養素
亜鉛は、微量ミネラルの中では最も欠乏しやすい栄養素です。
​1982年には、アメリカ人の1~3%に亜鉛欠乏症がみられるという報告がありました。
亜鉛は、成長期の子どもや、偏った食事をしているダイエット中の方、食べる量が少ない高齢者などに不足しがちな成分です。
また、重い病気を患っている人は、病気を治すために代謝が盛んになり、亜鉛の消費量が多くなったり、下痢によって喪失されるためより不足しやすくなります。
下の表は、1日の食事での亜鉛の摂取における、推奨量や必要量の目安​​を性別・年齢別に表しています。

●亜鉛の欠乏症
亜鉛が不足すると様々な欠乏症が起こります。亜鉛は核酸の合成に関わっており、細胞が分裂し増殖するために必要な成分です。そのため、亜鉛が欠乏すると細胞の生まれ変わりが盛んな部分で欠乏症が顕著に現れます。
成人の場合の最も代表的な亜鉛の欠乏症は、味覚障害です。
​味覚障害では「味が無くなる」「異常な味を感じる」などの障害により、食欲が低下しさらに欠乏症が進行することもあります。
その他、肌のかさつきや皮膚炎、脱毛、爪の斑点、胃腸障害、免疫機能の低下、下痢、貧血、精神障害、傷の治りが遅くなるといった症状がみられます。
男性の場合は、精子数の減少などの性機能低下が起こることがあります。
女性の場合は、妊娠中に亜鉛が不足すると、胎児の成長不良や奇形を引き起こす危険があります。
成長期の子どもが亜鉛不足になると、細胞の生成やたんぱく質の合成がうまくいかなくなるため、身長や体重などの発育に著しい遅れがみられ、思春期では第二次性徴が遅れることがあります。
最近、ある先天性代謝異常から、亜鉛の欠乏によって「腸性肢端皮膚炎」という非常にまれな病気が明らかになりました。
​この病気になると、腸の症状である下痢と、手足 (肢端:四肢の先)に水疱や膿を伴う皮膚炎が現れます。
​この病気の治療にも亜鉛が投与されています。

●亜鉛の過剰症
亜鉛は人間の体に対して毒性が非常に低いとされており、通常の食生活で亜鉛を過剰摂取することもほとんどないため、亜鉛の摂りすぎによって健康に害が出る心配はほとんどありません。
しかし、薬などによる急性亜鉛中毒では、めまい、吐き気、胃障害、腎機能障害、神経症が起こります。
​また、継続的に亜鉛を過剰摂取すると、亜鉛が銅や鉄の吸収を妨げるため、銅欠乏や鉄欠乏に伴って、貧血、免疫障害、神経症状、下痢、善玉 (HDL)コレステロールの低下などが起こる恐れがあります。
また、老化の原因にもなる活性酸素を消す役割を持つ抗酸化酵素である「SOD酵素」などの活性が低くなるともいわれています。

[※1:代謝とは、生体内で物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※2:シュウ酸とは、ほうれん草などの青菜に多く含まれるエグ味成分のことです。]

亜鉛の効果

●味覚を正常に保つ効果
食事をした時の味は、舌の表面にある「味蕾 (みらい)」という部分で感じ取っています。
味蕾は、成人で約3000個あり年齢に伴って減少していきます。
しかし、年齢を重ねるほど味の経験を積んでいるため、味蕾の数の減少によって必ずしも味覚が低下するわけではありません。
味蕾の細胞はとても短い期間で常に新しい細胞と入れ替わっています。
​亜鉛は、細胞の正常な生まれ変わりを助ける働きがあり、味蕾の形成にも深く関わっているため、亜鉛が不足すると味蕾を新しくつくり出すことができなくなります。
​味蕾が古くなった舌で食事をすると、味がよくわからずおいしく感じない、といった味覚障害が起こります。
​味覚を正常に保ち、毎日おいしく食事をして健康に過ごすためにも、亜鉛は重要な栄養素です。【3】

●成長を促す効果
亜鉛は、細胞の生まれ変わりが盛んな部位で必要不可欠な栄養素です。​新しい細胞をつくり出す時には、設計図である遺伝子の情報をコピーし、それをもとにたんぱく質を合成するといった化学反応が行われています。
​この反応は、亜鉛が構成成分となっている酵素によって進められます。
成長期の子どもの場合、活発に細胞分裂が行われて新しい細胞がつくり出され、身長が伸び発育が進みます。
​成人の場合でも、肌や爪、胃腸などの細胞は生まれ変わりが盛んに行われます。
​亜鉛はこれらの働きの中で細胞の合成を促す重要な役割を担っており、新陳代謝や成長を助ける効果があるといえます。【1】

●抜け毛を予防する効果
亜鉛は酵素の構成成分となって代謝を助ける働きによって、頭皮や毛髪の生まれ変わりを促し、過度な抜け毛を防止する効果があります。髪の毛は主にたんぱく質からできていますが、亜鉛はそのたんぱく質の合成をサポートしています。
​ただし、発毛のためにはバランスの良い食事を心掛け、全身の栄養状態を良くすることが大切です。

●生殖機能を維持する効果
亜鉛は様々なホルモンの合成を助けたり、分泌の調整などにも関わっています。
中でも亜鉛は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの合成に必要不可欠です。
​また、インスリンの分泌量を調節する働きもあります。
​インスリンは血糖値を下げるホルモンで、血糖値を正常に保つためにも亜鉛は重要な役割を担っています。
亜鉛は生殖機能とも関連が深く、女性ホルモンの分泌を活性化させ、精子の形成に必要とされます。

●生活習慣病の予防・改善効果
亜鉛には、インスリンにはたらきかけ糖尿病を予防するはたらきを持つほか、総コレステロールやLDLコレステロールの上昇を抑制し、血圧降下作用が報告されており、生活習慣病の予防や改善に役立つと考えられています。【2】【4】【6】

●二日酔いを予防する効果
亜鉛は、お酒などを飲んだ後、体内でアルコールの分解に必要なアルコール脱水素酵素の働きに必要不可欠な栄養素です。
​アルコールの分解がうまくいかないと、二日酔いや肥満の原因となります。
​そのため、お酒をよく飲む人は、意識して亜鉛を摂取する必要があります。【5】

亜鉛は食事やサプリメントで摂取できます

亜鉛が含まれる食品

○魚介類:牡蠣、ほたて、かに
○肉類:豚レバー、牛肉
○その他:玄米ごはん、納豆、

こんな方におすすめ

○味覚を正常にしたい方
○成長期のお子様
○偏食気味の方
○抜け毛を予防したい方
○生活習慣病を予防したい方
○活力をつけたい方
○お酒をよく飲む方

亜鉛の研究情報

【1】新生児から小児にかけての成長の度合いと亜鉛の関係を調査した研究(33件、2,945名)において、亜鉛を1日あたり 1~50 mg 、8週間以上摂取させた研究で調査したところ、発育不良予防のための、亜鉛の摂取では生後6か月という時期において顕著に効果が見られました。亜鉛が新生児の発育不良抑制に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12036814

【2】健康人186名を対象に、抗酸化物質 (1日にビタミンC 120 mg、ビタミンE 30 mg、β-カロテン 6 mg、セレン 100μg、亜鉛 20 mg) を2年間摂取させたところ、尿中の炎症物質や血小板活性化指標の増加が抑制され、血流改善作用と心血管疾患抑制効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17914127

【3】偏食小児20名を対象に、亜鉛を1日あたり1mg/kg 、6カ月間摂取させたところ、偏食の改善が認められたことから、亜鉛は味覚を正常に保ち、食欲増進作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14978550

【4】肥満小児60名を対象に、亜鉛を1日当たり20mg 、8週間摂取させたところ、空腹時血糖値、インスリン値、インスリン抵抗性の改善が見られたことから、亜鉛に抗糖尿病効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20045801

【5】アルコール摂取ラットに亜鉛を21日間摂取(液体えさに対して7.6mg/l)させたところ、胃のアルコール分解酵素(ADH:アルデヒドデヒドロゲナーゼ)が活性化され、血中のアルコール濃度の減少も見られたことから、亜鉛がアルコール分解酵素を活性化し、アルコールの分解を促進するはたらきが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9438521

【6】Ⅰ型糖尿病患者(3件)ならびにⅡ型糖尿病患者(22件)に対する亜鉛摂取による糖尿病予防効果を調べた研究では、Ⅱ型糖尿病患者における空腹時血糖値、食後血糖値ならびに、糖尿病の指標である糖化ヘモグロビン(HbA1C)の上昇が抑制されました。またⅡ型糖尿病患者における、総コレステロールやLDLコレステロール、収縮期ならびに拡張期血圧の増加が抑制されたことから、亜鉛は抗糖尿病効果ならびに抗コレステロール血症予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22515411

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参考文献

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・Brown KH, Peerson JM, Rivera J, Allen LH. 2002 “Effect of supplemental zinc on the growth and serum zinc concentrations of prepubertal children: a meta-analysis of randomized controlled trials.” Am J Clin Nutr. 2002 Jun;75(6):1062-71.

・Arnaud J, Bost M, Vitoux D, Labarère J, Galan P, Faure H, Hercberg S, Bordet JC, Roussel AM, Chappuis P; Société Francophone d’Etudes et de Recherche sur les Eléments Toxiques et Essentiels. 2007 “The role of NK cells in antitumor activity of dietary fucoidan from Undaria pinnatifida sporophylls (MekabuEffect of low dose antioxidant vitamin and trace element supplementation on the urinary concentrations of thromboxane and prostacyclin metabolites.).” J Am Coll Nutr. 2007 Oct;26(5):405-11.

・Campos D Jr, Veras Neto MC, Silva Filho VL, Leite MF, Holanda MB, Cunha NF. 2004 “Zinc supplementation may recover taste for salt meals.” J Pediatr (Rio J). 2004 Jan-Feb;80(1):55-9.

・Hashemipour M, Kelishadi R, Shapouri J, Sarrafzadegan N, Amini M, Tavakoli N, Movahedian-Attar A, Mirmoghtadaee P, Poursafa P. 2009 “Effect of zinc supplementation on insulin resistance and components of the metabolic syndrome in prepubertal obese children.” Hormones (Athens). 2009 Oct-Dec;8(4):279-85.

・Caballeria J, Gimenez A, Andreu H, Deulofeu R, Pares A, Caballeria L, Ballesta AM, Rodes J. 1997 “Zinc administration improves gastric alcohol dehydrogenase activity and first-pass metabolism of ethanol in alcohol-fed rats.” Alcohol Clin Exp Res. 1997 Dec;21(9):1619-22.

・Jayawardena R, Ranasinghe P, Galappatthy P, Malkanthi R, Constantine G, Katulanda P. 2004 “Effects of zinc supplementation on diabetes mellitus: a systematic

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・井上正子監修 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

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