ビタミンC

vitamin C  L-ascorbic acid
アスコルビン酸

ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です。
肌にハリを持たせたり、シミを予防する美容効果や、免疫力を高めて風邪をひきにくくする効果、ストレスに対する抵抗力を高める効果など、様々な働きをもちます。
ビタミンCは水溶性で摂りすぎによる過剰症の心配もないため、積極的に摂りたいビタミンです。

ビタミンCとは

●基本情報
ビタミンCは、皮膚や血管の老化を防ぎ免疫力を高める働きを持つ抗酸化ビタミン [※1]です。コラーゲンの合成に働いて骨を丈夫にしたり、肌にハリを持たせる効果があります。シミ予防などの美肌効果や抗ストレス効果をはじめ、多様な生理作用を持ちます。

ビタミンCは体内に入ると、小腸の上部から吸収されて肝臓に運ばれ、肝臓から血液によって全身へ運ばれます。
多くの動物は体内でビタミンCをつくり出す仕組みを持っていますが、人間やモルモット、サルなどに限っては自分自身でビタミンCを合成できないため、食事などでビタミンCを摂取する必要があります。

ビタミンCは水溶性のビタミンで、においはなく、白色で酸味があります。に溶けやすく熱や空気、アルカリなどで破壊されやすい性質があるため、洗う・切る・加熱するなどの調理で減少してしまいます。生で食べられる野菜は新鮮なうちにできるだけ生で食べたり、加熱が必要な場合には、短時間で調理できる方法にするか煮汁ごと食べられるようにすると、効率良くビタミンCを摂取することができます。
ビタミンCは調理法次第で半減してしまうことが多く、体内での消費も激しいため十分に摂取することが必要です。

<豆知識①> 破壊されにくい、いも類のビタミンC
ビタミンCは主に野菜や果物全般に多く含まれ、そのほかじゃがいもさつまいも、緑茶などにも含まれています。同じ野菜でも、その野菜にとって最適な条件のもとで栽培され、旬の時期に収穫された野菜のほうが栄養素は豊富です。
ビタミンCは熱によって破壊されやすい性質を持っていますが、じゃがいもやさつまいもに含まれるビタミンCはでんぷんによって守られているため、調理による損失が少ないという特徴があります。

●ビタミンCの歴史
ビタミンCは、ビタミンC欠乏によって起こる「壊血病」という病気を予防する物質として発見されました。
16~18世紀の大航海時代、船員は長期間に渡る航海で新鮮な食材を食べることができなかったため、多くの船員が壊血病で命を落としました。壊血病は全身の血管がもろくなって歯ぐきや内臓から出血し、そのまま死にいたる病気です。バスコ・ダ・ガマによるインド航路発見の際には、160人の船員のうち100人が壊血病で死亡したといわれています。
1747年、イギリスの海軍医ジェームズ・リンドが、船員に毎日オレンジレモンなど柑橘類を食べさせることで壊血病を予防できると発見しました。このことから、その後イギリスでは長期航海の際は各地に立ち寄り、新鮮な柑橘類を積み込んで、毎日船員にライムジュースやレモンジュースを飲ませ、壊血病の予防に努めました。
こうして柑橘類が壊血病を予防する効果は確かめられましたが、ビタミンCについて明らかになったのはそれから約200年も後になります。
1920年には、イギリスの化学者ドラモンドが、壊血病予防因子をビタミンCと呼ぶことを提案しました。1928年、ハンガリーの科学者アルベルト=セント・ジェルジが牛の副腎から糖類に似た物質を新しく分離し、ヘキスロン酸と命名しました。それと同時期に、アメリカのピッツバーグ大学の生化学者チャールズ ・キングらによってレモンからビタミンCが分離され、それがヘキスロン酸と同一物質であることが明らかになりました。
1933年には、イギリスの化学者ホーワースによって化学構造が明らかになりました。
ビタミンCの化学名はアスコルビン酸といいますが、これは抗壊血病効果を持つ酸、という意味で、抗 (anti-)、壊血病 (scorbutic)、酸 (acid)から名付けられました。
さらに、ビタミンCが世界的に話題になったのは、2回もノーベル賞を受賞したアメリカの化学者ライナス・ポーリング博士が、論文の中で「普段からビタミンCを摂っていると、様々な病気を予防できる」「ビタミンCの大量投与は風邪などの病気の治療を助ける」という内容を発表したことによるものです。

●ビタミンCの働き
ビタミンCは抗酸化力 [※2]が非常に強く、老化の原因である活性酸素 [※3]から細胞や組織を守ります。このため、悪玉 (LDL)コレステロールがサビつくことによってできる過酸化脂質 [※4]の生成を抑えることができます。

またビタミンCは、体を構成する重要なたんぱく質のひとつであるコラーゲンを合成する時に必要な酵素の働きを助ける補酵素 [※5]として働きます。コラーゲンは体をつくるたんぱく質のうちの3分の1を占め、細胞と細胞をつなぐ接着剤のような働きをしています。この働きにより、細胞同士の結合を強くし、血管や筋肉、皮膚、骨などを丈夫に保つ働きがあります。

●ビタミンCの欠乏症
ビタミンCが欠乏すると、疲れやすくなる、免疫力が低下して風邪や感染症にかかりやすくなる、肌のハリが失われる、貧血になりやすくなる、といったことが起こります。
さらにビタミンCの不足が続くと、壊血病になります。壊血病は、体をつくるたんぱく質のひとつ、コラーゲンを十分に生成することができず、体中の血管、粘膜、皮膚組織の結合が弱くなって出血が止まらなくなる病気です。
小児の場合の壊血病はメーラー・バーロー症といい、骨の形成・発育に支障をきたすこともあります。
また、ビタミンCが不足することで骨粗しょう症や食欲不振といった症状もみられます。

●ビタミンCの過剰症
ビタミンCの吸収率は約90%と高く、体内に吸収されやすい性質を持っています。しかし過剰に摂取しても余分なビタミンCは2~3時間で尿中に排泄され、体内に蓄積されないため過剰症の心配はありません。
ビタミン剤やサプリメントなどによって、1日に10 g以上摂ると、嘔吐、腹痛、下痢、頻尿、発疹が出ることがありますが、これらは一時的なもので過剰症ではありません。
腎機能障害がある人は、腎シュウ酸結石 [※6]のリスクが高まることが報告されています。
摂取の基準は表の通りです。

[※1:抗酸化ビタミンとは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用を持つビタミンです。]
[※2:抗酸化力とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ力です。]
[※3:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素です。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化の原因になるとされます。]
[※4:過酸化脂質とは、コレステロールや中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化されたものの総称です。]
[※5:補酵素とは、消化や代謝で働く酵素を助ける役割をするものです。]
[※6:腎シュウ酸結石とは、腎臓で尿中のシュウ酸カルシウムなどが結晶化して、石のようになったものです。発症すると激痛を伴います。]

ビタミンCの効果

●老化や病気から体を守る効果
ビタミンCが持つ抗酸化力は、活性酸素の増加を抑えて老化を予防するほか、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞など心臓血管系の病気の予防に役立ちます。
ビタミンCは、同じく抗酸化力を持つビタミンEを再生する働きもするため、ビタミンEと一緒に摂るとさらに相乗効果が期待できます。【1】【2】【4】

<豆知識②> ビタミンCと喫煙
体を老化させる活性酸素は、食生活のほかに喫煙、飲酒、紫外線などによっても多く発生し、活性酸素を消すために抗酸化物質が働いています。
タバコを吸う人の血液中では、ビタミンCの濃度が吸わない人に比べて低く、タバコを吸わない人でもタバコの煙にさらされていると血液中のビタミンC濃度が低くなることがわかっています。これは、タバコを吸うことによって発生する活性酸素を抑制するために、ビタミンCが消費されているためです。
タバコを吸う人は、吸わない人に比べてビタミンCの消費量が1日あたり約35 mg多く、ビタミンCを消耗しやすいといわれています。このためヘビースモーカーはタバコを吸わない人よりも2倍量のビタミンCが必要です。

●美白・美肌効果
ビタミンCは美容効果が期待できるビタミンの代表的存在です。
人間の皮膚は、紫外線の刺激を受けるとアミノ酸のひとつであるチロシンが、チロシナーゼという酵素の働きによってメラニンという黒い色素に変わります。シミ・そばかすは、このメラニン色素が沈着することによって起こります。ビタミンCはチロシナーゼの働きを阻害することでメラニン色素の沈着 (シミ)を防ぎ、透明感のある肌を維持する効果があるため美白効果が期待できます。
また、ビタミンCはコラーゲンの合成を助けて肌のしわを防いだり、傷ややけどの治りを良くします。【4】【5】

●免疫力を高める効果
ビタミンCは免疫力を高めて風邪をひきにくくし、風邪をひいたとしても早く治す効果があります。
風邪をひきやすい人は血中のビタミンC濃度が低いことや、風邪をひいたときには低かったビタミンC濃度が、回復するにつれて徐々に高くなるということがわかっています。
ビタミンCは、体内に侵入した病原菌を攻撃する白血球の働きを強化し、さらにビタミンC自らも病原菌を攻撃して免疫力を高めます。
また、ビタミンCがコラーゲンを生成し、細胞がしっかり固められることによって、風邪などのウイルスを体内に侵入させにくくすることができます。

ビタミンCは抗ウイルス作用を持つインターフェロンという物質の生成を促します。インターフェロンは、抗生物質では効果のないウイルスの核酸を破壊し免疫力を高めるため、ウイルス性肝炎 (B型・C型肝炎)の特効薬としての期待が高まっています。
ビタミンCは肝臓の薬物代謝に関わる酵素を活性化し、解毒作用を高める効果もあります。

●ストレスをやわらげる効果
ビタミンCは神経伝達物質であるドーパミン、アドレナリンなどの合成や、抗ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンの合成に関わっています。副腎は腎臓のすぐ上にあり、多くのホルモンを分泌している器官で、副腎でホルモンを合成する時にはビタミンCが大量に必要です。
人間の体はストレスにさらされると、それに対抗するために副腎からアドレナリンを分泌して血圧や血糖を上昇させ、防衛体制をとります。アドレナリンが使われると不足分を補うために生成されますが、アドレナリンの生成にビタミンCが使われるため、ビタミンCはストレスで激しく消費されます。
ストレスは、不安やプレッシャー、緊張などの精神的なストレスだけではありません。寒さ・暑さや睡眠不足、騒音、喫煙などもストレスの要素です。激しい運動をした時や、病原菌に感染した時にも通常よりビタミンCの必要量が増加します。ストレスにさらされやすい環境で生活をしている方は、しっかりとビタミンCを摂ることが大切です。

●白内障の予防・改善効果
ビタミンCは、その高い抗酸化作用の効果として、活性酸素が原因の白内障の予防効果があるとされています。
白内障は、目の水晶体のたんぱく質が変性し、もとは透明であった水晶体が白く濁ってしまう病気です。
ビタミンCと白内障の関係に関する研究で、1日260mg以上のビタミンCの摂取で白内障の予防効果が得られたとの報告があります。

●貧血を予防する効果
ほとんどの貧血は鉄不足によって起こります。貧血を防ぐためには鉄を摂取することが必要ですが、鉄は吸収されにくい性質を持っています。ビタミンCは鉄を吸収しやすい形に変化させることで、吸収率を高め、貧血の予防に役立ちます。【7】

ビタミンCは食事やサプリメントから摂取できます

ビタミンCはこんな食品に含まれています

○野菜:赤ピーマン、芽キャベツ、菜の花、カリフラワー、にがうり、キャベツ、ほうれん草、じゃがいも、さつまいも、ちんげんさいなど
○果物:レモン、アセロラ、キウイフルーツ、いちご、ネーブル、はっさく、ぽんかん、いよかん、パイナップル、グァバ、柿など
○その他:緑茶など

こんな方におすすめ

○風邪をひきやすい方
○骨粗しょう症を予防したい方
○老人性白内障を予防したい方
○シミが気になる方
○美肌を目指したい方
○ストレスをやわらげたい方
○貧血でお悩みの方

ビタミンCの研究情報

【1】線維筋痛女性患者32名を対象として、ビタミンCを摂取させたところ、運動疲労による酸化ストレスの上昇が抑制されたことから、ビタミンCが抗疲労効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20666654

【2】ビタミンCを0.28mM摂取すると、赤血球のエネルギー消耗、酸化ストレス、萎縮が抑制されたことから、ビタミンCが赤血球保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20620514

【3】腎不全が動脈硬化のリスクの一つと考えられています。腎不全患者を対象に、ビタミンCを投与することで、動脈硬化の指標であるパラオキソナーゼ(PON1)活性、脂質過酸化、最終糖化産物AGEsが低下したことから、ビタミンCが動脈硬化予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18194672

【4】ヒト黒色腫細胞にビタミンCを投与すると、NO産生および誘導性NO合成酵素(eNOSおよびiNOS)が阻害され、メラニン形成が抑制されました。ビタミンCがメラニン形成を阻害することにより、美白効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21656367

【5】B16マウスメラノーマ細胞およびヒト皮膚細胞にビタミンCを12週間投与したところ、チロシナーゼが阻害され、メラニンの生成が抑制されたことから、ビタミンCが美白作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19186973

【6】アレルギー性喘息マウスにビタミンCを1日当たり130mg/kg の量で5週間摂取させたところ、好酸球の浸潤が抑制されました。また免疫物質インターフェロン、IL-5が増加したことから、ビタミンCが抗アレルギー作用と免疫力向上作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19831405

【7】慢性C型肝炎(リバビリン+インターフェロン治療) 患者32名を対象に、ビタミンCおよびビタミンEを26週間摂取させたところ、赤血球細胞膜構成成分エイコサペンタエンサン(EPA) の減少が抑制されたことから、ビタミンCが赤血球保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19831405

【8】健康なボランティア186名を対象として、抗酸化物質 (1日にビタミンC 120 mg、ビタミンE 30 mg、β-カロテン 6 mg、セレン 100μg、亜鉛 20 mg) を2年間摂取させたところ、尿中の11-デヒドロ TXB2/2,3 ディノール 6 ケト PGF1α (血小板活性化の指標で冠状動脈性心疾患リスクと相関する物質) が低下したことから、ビタミンCが冠状動脈性の心疾患リスクを軽減する可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17914127

【9】ビタミンCを1日あたり200~2,000 mg摂取することで、血中尿酸濃度が減少したことから、ビタミンCが尿酸低下作用を示し、痛風予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21671418

【10】デスクワーク従事者非喫煙成人118名 (平均年齢38.7歳、平均BMI 30.4 kg/m2、78% が過体重または肥満) を対象として、ビタミンCと肥満の関連性を調査したところ、血漿中ビタミンC濃度とBMI、体脂肪率、胴囲に負の相関関係があることがわかりました。ビタミンCが肥満予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17585027

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参考文献

・本多京子 食の医学館 小学館

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

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・公益社団法人ビタミン・バイオファクター協会 HP

・中村丁次 最新版 からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・上西一弘 栄養素の通になる 第2版  女子栄養大学出版部

・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版社

・原山建朗 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・栄養の教科書 中嶋洋子 新星出版社

・井上正子 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・中嶋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

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