ペクチン

pectin
ペクチン酸 pectinic acid

ペクチンはりんごや柑橘類に含まれる食物繊維の一種です。加工食品の添加物にも活用されています。水溶性と不溶性のものがあり、コレステロール値、血糖値の低下や便秘・下痢の解消効果があります。

ペクチンとは

●基本情報
ペクチンはりんごや柑橘類などに豊富に含まれる食物繊維の一種です。D-ガラクツロン酸により構成され、非デンプン性多糖に分類されます。水溶性のものと不溶性のものの2種類があり、それぞれ働きが異なります。
不溶性のペクチンは、植物の構造を作る重要な成分で、細胞壁にセルロースを包む層として存在しています。不溶性ペクチンは、未熟な果実の中に含まれますが、果実が熟してくると水溶性に変化します。
水溶性のペクチンは、細胞と細胞の間の結合物質で果実の果皮などに多く含まれます。水溶性のペクチンは、加工食品の増粘安定剤[※1]やゲル化[※2]剤、微生物の培地、胃腸薬としても利用されています。

●ペクチンの歴史
ペクチンは1825年にフランス人のJ.Braconnotによって名づけられました。この名前は、ゲル化作用をもつことからギリシャ語の「pektos(硬い)」が由来となっています。ペクチンの工場生産は欧米で始まり、乾燥させたりんごや柑橘類の果皮から抽出され生産されています。ペクチンの特性から食品の増粘安定剤やゲル化剤などの分野で利用されていますが、近年では水に溶ける食物繊維として栄養補助食品や医療の分野にも利用されています。

●ペクチンの性質と働き
ペクチンは黄色を帯びた白色をしており、70℃以上の熱湯には溶けますが、冷水には溶けません。また、酸と糖を一緒に加えることでゲル状になる性質があります。果実を煮詰めてジャムをつくる際、果実がゼリー状になりますが、これはペクチンの果実の酸味をつくる有機酸[※3]や砂糖と反応してゼリー状になるという性質によるものです。
他にも、ペクチンは体内の消化管の壁にくっつくことで胃での消化を遅らせたり、小腸で脂質の消化吸収を助ける働きをしている胆汁酸[※4]をつかまえることで体内での吸収スピードを変える働きがあります。この働きにより、脂質の吸収の抑制にはコレステロール値の低下が期待でき、糖分の吸収の抑制にはインスリンの分泌の低下といった効果が期待できるため糖尿病にも有効です。

[※1:増粘安定剤とは、食品(飲料も含む)に粘性や接着性を付けるための食品添加物のことです。]
[※2:ゲル化とは、ヌルヌルとした粘性が凝固したもののことです。]
[※3:有機酸とは、酸の性質を持つ有機化合物の総称です。]
[※4:胆汁酸とは、胆汁に含まれている物質です。消化管内で食物の脂肪や脂溶性ビタミンをより吸収しやすくする働きをします。]

ペクチンの効果

●コレステロール値を下げる効果
ペクチンにはコレステロール値を下げる効果があります。ペクチンは体内で胆汁酸や食物中のコレステロールが吸収されるのを防ぎ、コレステロール値を下げます。コレステロール値が低下すると、動脈硬化[※5]や高血圧を予防につながります。
高コレステロール血症の成人27名を対象にした研究によると、グレープフルーツペクチン15g/日を16週間摂取させたところ血漿コレステロールが7.6%、悪玉(LDL)コレステロール[※6]濃度が10.8%、悪玉(LDL)コレステロール/善玉(HDL)コレステロール[※7]が9.8%低下したという結果が出ています。【1】【2】

●血糖値の上昇を抑える効果
ペクチンは糖分の吸収を抑制する働きがあるため、血糖値[※8]の上昇を抑える効果が期待できます。この働きによりインスリン[※9]の分泌が低下し、糖尿病[※10]などの予防にもつながります。

●便秘・下痢を解消する効果
ペクチンには便秘や下痢を解消する効果があります。ペクチンは腸内の善玉菌[※11]である乳酸菌を増殖させ、腸の調子を整えてくれます。また、ペクチンは腸内の物質と結合することで便の容積を増やし、腸のぜん動運動[※12]を促進します。この2つの働きから体内で発生した有害物質を体外へ排出するため、特に便秘症の方には効果的な成分です。
また、生後12ヵ月~5歳の小児にペクチンを体重1kgあたり4g摂取させたところ下痢や嘔吐をする期間が減少したという研究結果もあります。【3】

●疲労回復効果
ペクチンには腸内環境を整え、便秘を解消する効果があります。腸は「体の根っこ」ともいわれ、栄養を吸収する場所でもあります。腸内環境を整えることで、摂取した栄養を無駄なく吸収することができ、疲労の回復や体力の増強なども期待することができます。【4】

[※5:動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質がたまって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことです。血液がうまく流れなくなることで心臓や血管などの様々な病気の原因となります。]
[※6:悪玉(LDL)コレステロールとは、肝臓から血管にコレステロールを運ぶ機能を持った物質です。悪玉(LDL)コレステロール値が高くなると、動脈硬化の原因になるといわれています。]
[※7:善玉(HDL)コレステロールとは、血管壁に溜まった余分なコレステロールを抜き取って、肝臓に運ぶ機能がある物質です。動脈硬化などを防ぐ役割があります。]
[※8:血糖値とは、血液中にブドウ糖がどれくらいあるのかを示すものです。ブドウ糖が血液中にあふれてしまうと血糖値が高くなります。]
[※9:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]
[※10:糖尿病は、インスリンの不足などによって糖代謝がうまくいかなくなる病気です。もともとインスリンが不足している場合と、年齢や生活習慣によってインスリンが不足していく場合があります。]
[※11:善玉菌とは、人間の腸内にすむ細菌の一種です。健康に役立つ働きを行っており、もともと大腸に住すんでいる腸内ビフィズス菌や乳酸菌、腸球菌などが善玉菌といわれます。]
[※12:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]

ペクチンは食事やサプリメントで摂取できます

ペクチンを多く含む食品

○りんご
○いちご
○柿
○プルーン
○みかん
○オレンジ
○桃
○オクラ

こんな方におすすめ

○コレステロール値が気になる方
○肥満を防ぎたい方
○糖尿病を予防したい方
○便秘でお悩みの方

ペクチンの研究情報

【1】高コレステロール血症 (血漿コレステロール値275mg/dL以上) で冠動脈心疾患リスクが高い成人27名 (27~69歳、アメリカ) を対象とした二重盲検クロスオーバー試験において、グレープフルーツペクチンを1日あたり15 gの量で16週間の摂取したところ、血漿コレステロールが7.6%、LDL-コレステロール濃度 が10.8%、LDL-コレステロール/HDLコレステロールが9.8% 低下したことから、ペクチンは高脂血症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3229016

【2】心疾患に罹患していない成人573名 (女性269名、男性304名、40~60歳、アメリカ) を対象とした前向きコホート研究において、内膜中膜複合体厚 (IMT) と種々の食物繊維摂取量を調査したところ、ペクチン摂取量が多いほどIMTが低値であったことから、ペクチンは動脈硬化予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14668268

【3】生後12ヶ月から5歳の小児にペクチン4 g/kgを摂取させたところ、下痢および嘔吐の期間が減少し、持続性の下痢を発症している小児において経口補液および静脈液の使用量が減少したことがわかりました。

【4】アラビナン(リンゴペクチン)に由来するアラビノオリゴ糖の腸内細菌に対するはたらきを調査したところ、三糖以上のアラビノオリゴ糖は26菌種のうちBifdobacterium adolescentis, Bifidobacterium longum, Bacteroides vulgate に有効利用されたことから、ビフィズス菌の増加に役立つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10014018451

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参考文献

・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院

・則岡孝子 著 ひと目でわかる あなたに必要な栄養成分と食べ物 河出書房新社

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・渡辺正 訳 John Emsley and Peter Fell 著 からだと化学物質 丸善株式会社

・奥田拓道 監修 2004-2005改訂新版 健康・栄養食品事典 東洋医学舎

・独立行政法人国立栄養研究所“「健康食品」の安全性・有効性情報「健康食品」の素材情報データベース”

・Cerda JJ, Robbins FL, Burgin CW, Baumgartner TG, Rice RW. (1988) “The effects of grapefruit pectin on patients at risk for coronary heart disease without altering diet or lifestyle.” Clin Cardiol. 1988 Sep;11(9):589-94.

・Wu H, Dwyer KM, Fan Z, Shircore A, Fan J, Dwyer JH. (2003) “Dietary fiber and progression of atherosclerosis: the Los Angeles Atherosclerosis Study.” Am J Clin Nutr. 2003 Dec;78(6):1085-91.

・Pharmacist’s Letter/Prescriber’s letter Natural Medicine Comprehensive Database

・鈴木 康生、田中 敬一、天野 貴之、朝倉 利員、村松 昇 (2004) “アラビノオリゴ糖の腸内細菌による資化性と消化性” 園芸学会雑誌 73(6), 574-579, 2004-11-15

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