ブルガリア菌

lactic acid bacteria

ブルガリア菌は、乳酸菌の一種で細長い棒状の形をしています。食品では、ヨーグルトなどの乳酸菌飲料に豊富に含まれていることで知られています。人間の腸内に住みつくことはできませんが、乳酸をつくり出し、腸内環境を整える効果があります。

ブルガリア菌とは

●基本情報
ブルガリア菌は、乳酸菌の一種で細長い棒状の形をしています。乳酸菌の中では、ラクトバチルス属に分類されます。乳酸菌には様々な種類があり、ビフィズス菌やフェカリス菌、アシドフィルス菌は腸内に住みつくことができますが、ブルガリア菌は腸内に住みつくことができません。
食品ではヨーグルトなどの乳酸菌飲料に豊富に含まれています。ヨーグルトは牛乳にヨーグルトの種となる菌(スターター)を入ることでつくられます。ブルガリア菌はこのスターターとしてヨーグルトには欠かせない成分です。

●ブルガリア菌の歴史
ブルガリア菌は1905年ブルガリアの医学者スタメン・グリゴロフによって発見されました。グリゴロフは細菌学を研究する医学部生で、27歳のときブルガリアの伝統的な壷に入ったヨーグルトに含まれる菌について何千回という実験を行いました。その結果ヨーグルトの中に3種類の嫌気性菌[※1]があることを発見しました。その3つの内、細長い形をしていた菌が現在のブルガリア菌です。また、その後の研究により、これらの菌が発酵を促してヨーグルト独特の酸味や風味をもたらしていることがわかっています。
現在、国際規格で、ヨーグルトの種となる菌(スターター)はブルガリア菌とサーモフィラス菌と決められています。日本のヨーグルトでは人間の体内に住みつく善玉菌のビフィズス菌やアシドフィルス菌なども使われています。しかし、一般的にブルガリア菌やサーモフィラス菌が一緒に組み合わせられています。

●ブルガリア菌の働き
ヨーグルトのスターターにはブルガリア菌の他にサーモフィラス菌があります。この2つの乳酸菌は古くからヨーグルトづくりに使われてきました。
ブルガリア菌とサーモフィラス菌を一緒に乳に混ぜると、サーモフィラス菌が始めに乳の中に微量に含まれるアミノ酸やペプチドをエサに増殖します。それと同時にブルガリア菌の生育に必要となるギ酸[※2]をつくりだします。
このサーモフィラス菌がつくり出したギ酸をブルガリア菌は取り込んで増殖をしていきます。それと同時に、サーモフィラス菌の増殖を促すアミノ酸やペプチドをつくります。
このように、ブルガリア菌とサーモフィラス菌はお互いに助け合って増殖し、乳酸をたくさん生成していきます。この相性のよさが短時間でおいしいヨーグルトをつくる秘訣です。

<豆知識>死菌でも効果がある乳酸菌
ブルガリア菌やサーモフィラス菌は、体内で胃では胃酸、腸では胆汁などの働きを受けるため、生きたまま腸に達することもあれば、腸に達する前に死んでしまうこともあります。一見死んでしまった菌では期待する効果が得られないのではと思いがちですが、乳酸菌は死んでしまっても菌自体が善玉菌や他の乳酸菌などのエサになり増殖を促すなど様々な効果が期待されています。

[※1:嫌気性菌とは、無酸素状態でも発育できる細菌のことを指します。]
[※2:ギ酸とは、カルボン酸の一種で、アリやハチの毒腺やイラクサのとげなどの葉に含まれる成分です。]

ブルガリア菌の効果

●腸内環境を整える効果
ブルガリア菌は、腸内環境を整える効果があります。腸内には消化吸収を助け、病原体に対する抵抗力を高める善玉菌[※3]と毒素をつくりだし、腸内環境を悪くする悪玉菌[※4]が存在しています。この腸内での善玉菌と悪玉菌の勢力関係のバランスが健康状態に大きく影響されるといわれています。
ブルガリア菌は、ビフィズス菌やフェカリス菌のように腸内で住みつくことはできません。その代わりにブルガリア菌は乳酸をつくり出し、腸内の環境を整えます。
ブルガリア菌がつくり出す乳酸は腸内を酸性に保ってくれるため、酸に弱い性質を持つ悪玉菌は死んでしまいます。善玉菌が多くなると、腸のぜん動運動[※5]が活発になり、腸内の健康を維持することができます。
このように、ブルガリア菌を摂取すると腸内の悪玉菌を減少させるため、善玉菌の多い元気な腸を保ってくれる効果があるといえます。【1】

●便秘を解消する効果
ブルガリア菌には便秘を解消する効果が期待できます。腸のぜん動運動が活発になると、腸壁から水分がよく吸収され、便通をよくする効果があります。【2】

●免疫力を高める効果
ブルガリア菌には免疫力を高める効果があります。ブルガリア菌は「体の根っこ」ともいわれる腸の環境を整えます。これにより体に毒素を溜め込まず、しっかりと栄養が行き届くため免疫力が高める効果が期待できます。
また、ブルガリア菌をはじめとする乳酸菌は、免疫細胞[※6]であるナチュラルキラー(NK)細胞[※7]を活性化させるため、風邪やインフルエンザの予防効果も期待されています。【3】【4】

●美肌効果
便秘になると、吹き出物ができたり、肌がくすみがちになったりと肌荒れがしやすくなってしまいます。それは腸内で増殖した悪玉菌が出す毒素が影響しています。毒素は腸壁から吸収されることで、栄養とみなされ、肌へ運ばれます。これによって、肌荒れが起こってしまうのです。また、腸内に毒素が溜まっているとせっかく摂った栄養分も十分に吸収されません。
ブルガリア菌は、悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を整える働きがあるため、美肌づくりにも効果的な成分です。

[※3:善玉菌とは、ヒトの腸内にすむ細菌の一種です。健康に役立つ働きを行っており、もともと大腸にすんでいる腸内ビフィズス菌や乳酸菌、腸球菌などが善玉菌といわれます。]
[※4:悪玉菌とは、ヒトの腸内にすむ細菌の一種です。増えすぎると体に悪い影響を及ぼすと考えられており、ウェルシュ菌、ブドウ球菌、緑膿菌などが悪玉菌といわれます。]
[※5:ぜん動運動とは、消化管などの臓器の収縮運動のことで、内容物を移動させる役割をしています。胃のぜん動運動が低下すると、消化に時間がかかるため胃もたれや胸やけを起こしやすくなり、大腸のぜん動運動が低下すると便秘になりやすくなるといわれています。]
[※6:免疫細胞とは、白血球に含まれている、生体を防御する機能を持った細胞を指します。]
[※7:ナチュラルキラー(NK)細胞とは、リンパ球に含まれる免疫細胞のひとつで、生まれつき(ナチュラル)外敵を殺傷する(キラー)能力を備えています。ガン細胞やウイルス感染細胞などの異常細胞を発見して退治してくれます。]

食事やサプリメントで摂取できます

ブルガリア菌を含む食品

○ヨーグルト
○乳酸菌飲料

こんな方におすすめ

○腸内環境を整えたい方
○免疫力を向上させたい方
○風邪をひきやすい方
○美肌を目指したい方
○便秘でお悩みの方

ブルガリア菌の研究情報

【1】健常人8名を対象に、ブルガリア菌等を含むヨーグルトを1日あたり500g の量で2週間摂取させたところ、糞便に含まれる悪玉菌の一種であるクロストリディウム属の菌数が減少していたことから、ブルガリア菌は腸内環境を整えるはたらきがあると考えられています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfm1984/10/1/10_1_29/_article/-char/ja/

【2】女子学生38名を対象に、ブルガリア菌等を含むヨーグルトを1日あたり100g の量で2週間摂取させたところ、排便回数の増加、排便量の増加、軟便化が認められたことから、ブルガリア菌は腸内環境を整え便秘の改善に役立つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/80008986754

【3】健常人を対象に、ブルガリア菌の一種の菌株入りのヨーグルトまたは牛乳をそれぞれ1日あたり90g,100mL の量で8週間または12週間摂取させたところ、ヨーグルト飲用群は風邪の症状を2.6倍減少させたほか、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)が活性化しました。ブルガリア菌は免疫力を向上させ、風邪予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20487575

【4】H1N1インフルエンザ感染マウスを対象に、ブルガリア菌配合のヨーグルトを1日あたり0.4mL 摂取させたところ、インフルエンザの諸症状が緩和したほか、抗体(IgAおよびIgG)濃度の上昇が認められました。ブルガリア菌は免疫力を向上させるほか、インフルエンザ予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21986509

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参考文献

・石田仁男・阿曽佳郎監修 乳酸菌でガンが防げる 主婦の友社

・寺田 厚、 原 宏佳、長部 康司、村石 賢也、高橋 正浩、金子 勉、光岡 知足 (1993-1994) “ヨーグルトの投与が糞便菌叢および腐敗産物生成量に及ぼす影響” 食品と微生物 Vol. 10 (1993-1994) No. 1 P 29-34

・大津俊広 (1996) “ヨーグルト摂取が女子学生の排便回数および便性に及ぼす影響” 医学と薬学 35, 1053-1060, 1996

・Makino S, Ikegami S, Kume A, Horiuchi H, Sasaki H, Orii N. (2010) “Reducing the risk of infection in the elderly by dietary intake of yoghurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1.” Br J Nutr. 2010 Oct;104(7):998-1006. doi: 10.1017/S000711451000173X. Epub 2010 May 21.

・Nagai T, Makino S, Ikegami S, Itoh H, Yamada H. (2011) “Effects of oral administration of yogurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1 and its exopolysaccharides against influenza virus infection in mice.” Int Immunopharmacol. 2011 Dec;11(12):2246-50. doi: 10.1016/j.intimp.2011.09.012. Epub 2011 Oct 8.

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