フェカリス菌とは
●基本情報
フェカリス菌は、人間の体内にもともと存在する腸内細菌・乳酸菌の一種で、その中でも乳酸球菌に分類されます。乳酸菌とは、糖を分解して乳酸をつくり出す菌の総称で、フェカリス菌は丸い球状の形をしているため、乳酸球菌に分類されています。
フェカリス菌はさらに細かく、菌株[※1]ごとに分類されます。現在、フェカリス菌として販売されているものは、EF-23、FK-23、EC-12などの菌株があり、それぞれの作用は違いますが、基本的な作用は類似しています。
フェカリス菌は、約1ミクロン(1ミリの1/1000)というとても小さなサイズをしており、通常の乳酸菌と比較すると約1/5程度しかありません。そのため、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌よりも、少量で大量のフェカリス菌を摂ることができます。
人間の腸内には、約100種類、100兆個以上の腸内細菌が棲みついており、体調などによって善玉菌と悪玉菌の勢力範囲が変化するといわれています。生まれたばかりの赤ちゃんの腸内は、99%が善玉菌ですが、年齢が進むに従って、悪玉菌の勢力範囲が広がることから、腸内の環境が悪くなり、便秘や下痢などの症状として現れます。そのため、納豆やヨーグルト、キムチや漬物などの発酵食品から、乳酸菌などの善玉菌を摂取する必要があります。
一般的に乳酸菌は、生きたままの菌である生菌の状態で摂るのが良いとされていますが、フェカリス菌は加熱殺菌処理をした死菌の状態で摂り入れても効果を発揮します。これまで乳酸菌は、生菌の状態でしかその効果が得られないと考えられていましたが、フェカリス菌は、加熱殺菌処理をした死菌の状態で摂り入れる方が免疫力を向上させる効果が上がることが報告されています。
フェカリス菌は、死菌の状態で腸内に摂り入れると、乳酸菌などの善玉菌のエサとなるため、善玉菌を増殖させ、悪玉菌を減らす働きがあります。そのため、腸内の環境を改善したり、免疫力を向上させたり、コレステロールを低下させたりと、様々な効果が期待できるのです。
●フェカリス菌の歴史
乳酸菌としての歴史は古く、1899年にフランス・パスツール研究所のTissier(ティシエ)が母乳栄養児の糞便から腸内細菌を発見した所から始まります。このとき発見されたのはビフィズス菌でした。その後、様々な研究がすすめられ、人間の腸内には多くの腸内細菌が棲みついていることがわかったのです。
フェカリス菌の発見は比較的新しく、1986年に健常なヒトの腸内から発見されました。その後、加熱殺菌処理をした状態で、フェカリス菌の働きが研究され、免疫力を向上する効果が高まることが明らかとなったのです。
●フェカリス菌の性質とその働き
フェカリス菌は、通性嫌気性菌という酸素の有無に関わらず増殖することができる細菌です。また、大腸だけでなく、小腸に直接作用するため、小腸を活性化し、消化・吸収を促進する働きも期待できます。
また、生菌として摂取するよりも、死菌として摂取する方が免疫力を向上する効果が上昇することが明らかとなっています。
死菌として摂取したフェカリス菌は、腸内で善玉菌のエサとなり、善玉菌を増殖させ、悪玉菌を減らす効果があることがわかります。また、生菌として摂り入れることもでき、その場合は通常の乳酸菌と同じように、腸内の環境を改善するなどの働きが見られます。
<豆知識>腸内細菌を増やす方法
腸内細菌を増やすには、2つの方法があります。
1つ目は、体に有益な生きた菌を使った発酵乳などの食品を直接摂るという方法です。この方法はプロバイオティクスと呼ばれます。プロバイオティクスの作用は、腸内環境の改善や免疫力の向上、アレルギーの抑制など多岐にわたります。
2つ目は、腸内細菌の栄養源となって健康に役立つ、食物繊維やオリゴ糖などの成分を摂る方法です。この方法はプレバイオティクスと呼ばれます。
フェカリス菌は、からだに有益な細菌でありながら、加熱殺菌処理を行い、死菌となった場合プレバイオティクスとしての働きもある優れた腸内細菌です。
プロバイオティクスとプレバイオティクス、どちらが良いということはありませんが、どちらも同時に行う方法が腸内の環境を整えるには一番良いとされています。
[※1:菌株とは、細菌の最小単位を指します。微生物の単一種が一定量まとまって生育している状態です。]
フェカリス菌の効果
●免疫力を高める効果
フェカリス菌は、加熱殺菌処理を行うことで、免疫力を高める効果が上昇することが知られています。腸は栄養分を体内に取り込む一方で、病原菌や異物から身を守る最前線の防御機構として機能しています。全末梢リンパ球[※2]の60~70%が腸管に集中しており、消化器系としての機能はもちろん、免疫臓器としての機能も持っているのです。
免疫とは、自分自身の細胞と、体内に侵入してきた細菌やウイルス、寄生虫、体内で発生したガンなどの病的な細胞を分類し、ウイルスなどを異物として認識し、排除するシステムのことです。
腸は、免疫機能を司る重要な役割を担っており、腸内に棲む乳酸菌などの腸内細菌は、その免疫機能と深いかかわりを持っていることが明らかとなっています。免疫力を向上させることは、ガンなどの疾病予防にもなります。
フェカリス菌は、もともと人間の腸内に存在する菌ですが、生菌・死菌どちらで摂取した場合も腸内に良い影響をもたらし、特に死菌で摂取した場合は、免疫力を高める効果に優れています。【1】【2】
●腸内環境を整える効果
フェカリス菌には、他の乳酸菌と同様に腸内環境を整える効果があります。
腸内には、数多くの細菌が棲んでおり、フェカリス菌をはじめとする乳酸菌などの善玉菌や、大腸菌や、ウェルシュ菌[※3]をはじめとする悪玉菌が共存しています。善玉菌と悪玉菌は、腸内で常に勢力範囲を争っており、ストレスや疾病、食生活や環境の変化などによってバランスを崩すと、腸内で悪玉菌が優勢になります。
腸内で悪玉菌が増殖すると、毒素が悪玉菌によってつくられるようになります。その毒素は腸に直接的にダメージを与えるため、便秘や下痢、また大腸ガンなどの病気の原因にもなるといわれています。
腸内は酸性に保たれることで、悪玉菌の増殖を抑えます。酸性に保つ役割をしているのが、フェカリス菌をはじめとする乳酸菌なのです。また、腸内を酸性にすることで腸が刺激され、ぜん動運動[※4]を活発にするため、便秘を解消する働きもあります。
●コレステロール値を下げる効果
フェカリス菌にはコレステロール値を下げる効果があります。
高脂血症の患者に対して、6週間フェカリス菌を投与した結果、血中の悪玉(LDL)コレステロールが平均して17%減少したという報告がなされています。
コレステロールとは、人間にとって大切なものですが、必要以上に増えすぎることで、動脈硬化や高血圧などの原因となります。
●高血圧を予防する効果
フェカリス菌は高血圧に対して効果的だといわれています。
高血圧症の患者に対してフェカリス菌を投与した所、23人中16人に改善がみられたという研究結果が出ています。
●アレルギー症状を緩和する効果
フェカリス菌には、強い抗アレルギー効果があるとされています。
人工的にアレルギーを持たせたラットの実験では、医薬品である抗ヒスタミン剤と同程度のアレルギー症状の緩和がみられました。
●美肌効果
便秘になると、肌が荒れるということは一般的に知られていますが、それは腸内で増殖した悪玉菌が出す毒素が影響しています。毒素は腸壁から吸収されることで、栄養とみなされ、肌へ運ばれます。これによって、肌荒れが起こってしまうのです。
フェカリス菌は、善玉菌の数を増やし、悪玉菌の増殖を抑える働きがあるため、美肌づくりにも効果的な成分です。
[※2:末梢リンパ球とは、ウイルスや腫瘍細胞などに攻撃を加える細胞のことです。その代表的なものとして、NK細胞やB細胞、T細胞などがあります。]
[※3:ウェルシュ菌とは、人間や動物の腸管、土壌、水中など広く自然界に分布している、酸素を嫌う細菌のことです。ウェルシュ菌が増えることで、腸内の環境が悪くなり、便秘や下痢の原因になります。]
[※4:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
フェカリス菌は食事やサプリメントで摂取できます
フェカリス菌を含む食品
○フェカリス菌が添加されたヨーグルトなど
こんな方におすすめ
○免疫力を高めたい方
○腸内環境を整えたい方
○コレステロール値が気になる方
○血圧が高い方
○アレルギー症状を緩和したい方
○美肌を目指したい方
フェカリス菌の研究情報
【1】ヒト腸管細胞での炎症反応を調節する乳酸細菌(LAB)の能力を調べた結果、フェカリス菌の特定の菌株が結腸の恒常性を維持し、炎症反応を調節するために腸内の粘膜免疫の調節を行う可能性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18286689
【2】乳酸菌などの善玉菌を摂取するプロバイオティクスは、炎症性サイトカイン、インターロイキン(IL)-6および腫瘍壊死因子(TNF)-αの産生を増加させるということがわかっています。様々なプロバイオティック株によって免疫調節の発現は異なることがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22493544
参考文献
・Wang S, Ng LH, Chow WL, Lee YK. 2008 “Infant intestinal Enterococcus faecalis down-regulates inflammatory responses in human intestinal cell lines.” World J Gastroenterol. 2008 Feb 21;14(7):1067-76.
・Kim JY, Park MS, Ji GE. 2012 “Probiotic modulation of dendritic cells co-cultured with intestinal epithelial cells.” World J Gastroenterol. 2012 Mar 28;18(12):1308-18.