くり

Chestnut

日本では秋の味覚の代表として親しまれているくりの果実には、でんぷんをはじめ、ビタミンC、カリウム、食物繊維が多く含まれています。くりに含まれているビタミンCはでんぷんに包まれているため、加熱しても壊れにくいという特徴を持ちます。
また、くりの渋皮には強力な抗酸化作用を持つタンニンが含まれており、老化防止効果も期待できます。

くりとは?

●基本情報
くりは、ブナ科クリ属に属している木の実の一種で、原産地は、中国、北アメリカ、地中海地方沿岸です。
くりの実である「毬果(きゅうか)」は、イガで覆われています。
食用とされる果実の部分は、硬い果皮である鬼皮と、種皮である渋皮に覆われています。果実は種子が発達したものです。

●くりの品種
くりには大きく分けて、日本ぐり、中国ぐり、ヨーロッパぐり、アメリカぐりの4つの品種があります。
・日本ぐり
日本ぐりは野生の芝栗(シバグリ)を品種改良したもので、日本で一般的に販売されています。
日本ぐりは、果実が大きく風味が良いことが特徴ですが、甘みが少なく渋皮がはがれにくい品種です。
日本ぐりのなかでも収穫の早い段階から、早生栗、中生栗、晩生栗と3種類にわかれています。
早生栗には、森早生、玉造、丹沢、出雲、ぽろたん、人丸、大峰、国見と呼ばれる品種があります。
また中生栗には、筑波、銀寄、利平、晩生栗には、石鎚、岸根という品種があります。
中生栗の銀寄は「丹波栗」ともいわれており、京都府の丹波地方で生産されているブランドとして有名です。

日本ぐりは、「ももくり3年かき8年」と昔からいわれるように、苗から育てた場合、日本ぐりが収穫できるまで3年はかかります。日本ぐりを種から育てて収穫しようと思うと、結実までは約5年はかかります。

・中国ぐり
中国ぐりは“甘栗”とも呼ばれている小さめのくりです。
くりタマバチ[※1]の被害を受けやすく、日本ぐりの花粉を受粉すると渋皮がむけなくなることから、日本では栽培されていません。
果実が甘く、渋皮がむきやすいことから、焼き栗に適しています。甘栗、または天津甘栗として販売されている多くの焼き栗は、“板栗(バンリー)”という品種です。万里の頂上周辺から取れたくりで最も品質がよく、中国河北省から年間3万tも輸入されています。

・ヨーロッパぐり
ヨーロッパぐりは、果実が小さく、渋皮がむきやすいことが特徴です。ヨーロッパ原産で主に地中海諸国で栽培されています。ヨーロッパぐりは焼きぐりやマロングラッセなどの菓子原料としてイタリアから日本に輸入されています。くりタマバチや胴枯病(どうがれびょう)[※2]に弱く日本では栽培されていません。

・アメリカぐり
小ぶりのアメリカぐりは、品質がよく、利用価値の高いくりでした。しかし、1900年頃に発生したくり胴枯病菌の被害により一部を除きほぼ壊滅したといわれています。日本では栽培されていません。

●くりの歴史
約9000年前の縄文時代の遺跡からくりが発見され、日本では石器時代から野生のくりを採集していたということが考えられます。くりは種実類の中ではめずらしくでんぷんが多く含まれているため、当時の人々にとっては貴重なエネルギー源であったと考えられています。
約5000年以上前の遺跡である青森県の三内丸山遺跡からもくりが発見されています。調査の結果から、人々がくりの木を植林し、安定的な食料としていたと考えられています。
平安時代初期には京都の丹波地域でくりの栽培が始まり、少しずつ栽培地域が拡大していきました。平安時代の法典「延喜式(927年)」には、乾燥させて皮をむいた「搗栗子(かちくり)」や、蒸して粉にした「平栗子(ひらぐり)」などが記載されています。

●くりの生産地
くりの主な生産地は、茨城県、熊本県、愛媛県、宮崎県、岐阜県です。
くりは秋の味覚ともいわれているように、9~10月頃に旬を迎えます。

●くりの見分け方
良いくりを見分けるポイントは、皮と重量にあります。
くりの皮がふっくらとしていて、果皮にハリと光沢があるものを選びます。また、茶色が濃く、虫食い穴がないくりが良品です。果皮がしわになっているものは古いくりです。
重量は、重みがあるものを選択することをおすすめします。古いくりは、水分が減っているため重みがなく、味や風味が落ちている場合があります。

●くりの保存方法
くりは長期保存にはあまり向いていません。くりを保存する場合は、新聞紙などに包み込んで冷蔵庫に入れます。時間が経過すると水分が飛び、実が収縮し、味や風味が低下します。
風味は落ちますが、冷凍すれば半年程度は保存可能です。冷凍をする際は、よく洗ってから水気をきり、ポリ袋などに入れて冷凍庫に入れます。食べるときは、そのまま茹でることが可能です。

むきぐりを保存する場合は、アク抜きをしてから水の中に入れて冷蔵します。しかし、この方法で保存する場合は、3日以内に食べ切ることをおすすめします。むきぐりを長期保存をする場合は、かた茹でにして冷凍保存をします。

●くりに含まれる成分と性質
くりの果実には、でんぷんをはじめ、ビタミンCカリウム食物繊維といった栄養成分が含まれています。
くりの果実に含まれる成分の約4割はでんぷんです。でんぷんは体内でエネルギー源となる栄養素です。
ビタミンCは熱に弱い性質があるため、本来なら加熱すると失われやすい栄養素ですが、くりの果実に含まれているビタミンCはでんぷんに包まれているため、加熱による損失はほとんどありません。
さらに、くりの果実はりんごの約8倍ものビタミンCを含んでおり、非常に有効なビタミンC供給源といえます。
また、くりの果実は食物繊維も豊富に含んでいます。むきぐり100g中にセロリの約2.8倍もの食物繊維が含まれます。食物繊維には便通の改善を促進する働きがあるため、肥満の予防に期待ができます。

くりの渋皮にはポリフェノールの一種であるタンニンが含まれています。タンニンには、強力な抗酸化作用があります。しかし、タンニンには体内でのの吸収率を下げる働きがあるため、鉄が不足しがちな方は渋皮を取り除いて食べた方が効果的です。

[※1:くりマタバチとは、くりの新芽に虫こぶをつくるハチです。くりマタバチの被害にあうとくりの収穫量は激減します。]
[※2:胴枯病とは、樹幹や枝が枯れてしまう樹木の病気のことです。]

くりの効果

くりの果実には、でんぷんをはじめ、ビタミンC、カリウム、食物繊維が多く含まれています。また渋皮にはポリフェノールの一種であるタンニンが含まれており、以下のような健康に対する働きが期待できます。

●美肌効果
くりの果実には、美肌効果を持つビタミンCが含まれています。ビタミンCは加熱すると失われやすい性質がありますが、くりの果実に含まれるビタミンCはでんぷんに包まれているため加熱しても失われにくくなっています。
ビタミンCは肌の弾力を保ちハリのある肌に導くコラーゲンの生成に欠かせない成分であるとともに、しみの原因であるメラニン色素の生成を抑制する働きも持ちます。

●免疫力を高める効果
免疫力とは、体の外から入ってきたウイルスや細菌から体を守る力のことをいます。免疫力が低下すると、風邪をひきやすく、インフルエンザなどの感染症にもかかりやすくなります。また、アレルギー症状や生活習慣病などを引き起こしやすくなります。くりの果実に含まれているビタミンCには、ウイルスや細菌と戦う働きがあり、免疫力の強化が期待できます。

●高血圧を予防する効果
高血圧とは、血液が血管の壁にかける圧力が高いことをいいます。高血圧が続くと、脳出血や脳梗塞といった病気になることがあります。
くりの果実には、高血圧予防の栄養素として知られているカリウムが豊富に含まれており、血圧の上昇を抑制する働きがあります。

●腸内環境を整え、便秘を解消する効果
くりの果実は、便秘解消に効果的といわれる食物繊維を豊富に含んでいます。便秘とは、便の水分が減って硬くなり1週間近く便が出ない状態のことをいいます。
食物繊維は、ヒトの体内で消化されない栄養素であるため、腸のぜん動運動[※3]が促され、便通が良くなり、便秘が改善されます。
また、くりには悪玉菌を減らし、腸内環境を整える働きも報告されており、便秘の改善にも役立ちます。【1】【4】

●肥満を予防する効果
肥満とは、体の脂肪細胞が過剰になっている状態のことをいいます。消費するエネルギーよりも食物から摂取したエネルギーの方が多い場合、消費されなかったエネルギーが脂肪として蓄えられます。その結果、代謝が悪くなり、生活習慣病などが引き起こされます。
くりに含まれる食物繊維には腸に余分なものを残さないよう便通を整える働きがあるため、肥満の予防に効果的です。【5】

●老化を防ぐ効果
くりの渋皮にはポリフェノールの一種であるタンニンが含まれています。タンニンには強力な抗酸化作用があり、老化の原因である活性酸素[※4]を除去します。このため、細胞の老化を防ぐ働きがあります。【1】【3】

[※3:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
[※4:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]

くりはこんな方におすすめ

○美肌を目指したい方
○風邪をひきやすい方
○血圧が高い方
○便秘でお悩みの方
○肥満を予防したい方
○老化を防ぎたい方

くりの研究情報

【1】ヒツジに、くりタンニンおよびココナッツ油状物を60日間摂取させたところ、悪玉菌の産生物であるメタン排出量が減少し、メタンを生成する悪玉菌も減少しました。胃液中のアンモニア量も減少したことから、ピロリ菌を阻害したことが考えられました。くりは腸内環境を整え、胃内のピロリ菌などの有害菌の発育を阻害する効果があると期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22118094

【2】アルコール肝障害マウスにおいて、くり皮抽出物を6週間摂取させたところ、肝障害の指標となる血中および肝臓トリグリセリド、酸化物質、肝臓障害の指標GOT、GPTの上昇が抑制されました。またアルコールによる薬物代謝酵素CYP2E1の活性化、抗酸化酵素カタラーゼおよびSODの活性低下が抑制されました。この肝臓保護作用にはくり皮の健康成分スコパロンおよびスコポレチンが重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21457746

【3】薬物及び高脂肪食により肝障害を与えたマウスに、くり内殻抽出物を摂取させたところ、肝臓での活性酸素の増加を抑制するとともに、肝臓内の抗酸化酵素カタラーゼ、SOD、グルタチオンペルオキシダーゼおよびグルタチオン還元酵素の活性低下を抑制することで、肝臓保護効果を示しました。この肝臓保護効果はくり内殻に含まれる機能性成分であるスコパロン、スコポレチンがメインという成分であることが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20732376

【4】モルモットの回腸および結腸組織に、くりタンニンを含む栗幹抽出物を投与したところ、抗けいれん作用が確認されたため、くりがけいれん性下痢予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20626243

【5】離乳中の子豚において、くり幹より抽出したくりタンニンを摂取させたところ、腸内の悪玉菌の産生物質アンモニア、イソ-酪酸、イソバレリック酸の濃度が低下しました。また空腸内のタンニンが増加するとともに、乳酸菌も増加する傾向が見られました。くりタンニンには腸内環境を整え、乳酸菌を増やす効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20481351

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参考文献

・野間佐和子 旬の食材 春‐夏の野菜 講談社

・佐藤秀美 イキイキ!食材図鑑 日本文芸社

・神田高志 食べ物栄養事典 主婦の友社

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・舛重正一監修 栄養のキホンがわかる本 新星出版社

・Liu H, Vaddella V, Zhou D. 2011 “Effects of chestnut tannins and coconut oil on growth performance, methane emission, ruminal fermentation, and microbial populations in sheep.” J Dairy Sci. 2011 Dec;94(12):6069-77.

・Noh JR, Kim YH, Gang GT, Hwang JH, Lee HS, Ly SY, Oh WK, Song KS, Lee CH. 2011 “Hepatoprotective effects of chestnut (Castanea crenata) inner shell extract against chronic ethanol-induced oxidative stress in C57BL/6 mice.” Food Chem Toxicol. 2011 Jul;49(7):1537-43.

・Noh JR, Gang GT, Kim YH, Yang KJ, Hwang JH, Lee HS, Oh WK, Song KS, Lee CH. 2010 “Antioxidant effects of the chestnut (Castanea crenata) inner shell extract in t-BHP-treated HepG2 cells, and CCl4- and high-fat diet-treated mice.” Food Chem Toxicol. 2010 Nov;48(11):3177-83.

・Budriesi R, Ioan P, Micucci M, Micucci E, Limongelli V, Chiarini A. 2010 “Stop Fitan : antispasmodic effect of natural extract of chestnut wood in guinea pig ileum and proximal colon smooth muscle.” J Med Food. 2010 Oct;13(5):1104-10.

・Biagia G, Cipollini I, Paulicks BR, Roth FX. 2010 “Effect of tannins on growth performance and intestinal ecosystem in weaned piglets.” Arch Anim Nutr. 2010 Apr;64(2):121-35.

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