ビフィズス菌とは
●基本情報
ビフィズス菌とは、人間の腸内にすみつく善玉菌の代表ともいえる細菌です。ビフィズス菌は乳酸菌として知られていますが、正確には乳酸菌に分類されません。
乳酸菌とは、糖を分解して、50%以上の乳酸をつくる菌の総称です。ビフィズス菌も糖から乳酸をつくり出しますが、それ以上に酢酸をつくり出すため、乳酸菌には分類されないのです。
しかし、腸内での善玉菌としてのその働きから、一般的には乳酸菌として扱われています。
ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム目ビフィドバクテリウム科ビフィドバクテリウム属に属する菌の総称で、人間や動物の腸内に生息しているビフィズス菌の数を合わせると、約30種類にものぼります。しかし、人間と動物とでは、腸内にすむビフィズス菌の種類が全く異なります。人間の腸内にすむビフィズス菌は動物にはすみつかず、動物の腸内にすむビフィズス菌は人間にはすみつかないのです。このようにビフィズス菌は、それぞれの腸内環境に適しているものだと考えられます。現在、人間の腸内からは約10種類のビフィズス菌が発見されていますが、個人によってその種類も異なるといわれています。
人間の腸内には、500種類以上、100兆個もの腸内細菌がすみついており、体調などによって善玉菌と悪玉菌の勢力範囲が変化するといわれています。年齢が進むに従って、悪玉菌の勢力範囲が広がることから、腸内の環境が悪くなり、便秘や下痢などの症状が現れます。
ビフィズス菌は、善玉菌の中でも代表ともいえる菌であり、腸内環境を整える力が非常に強いといわれています。その効果から、特定保健用食品(トクホ)[※1]として認定されており、ビフィズス菌を関与成分とした「おなかの調子を整える」などの表示が許可された商品も多く販売されています。
●ビフィズス菌の歴史
ビフィズス菌は1899年、フランスのパスツール研究所のTissier(ティシエ)によって、健康な母乳栄養児の糞便から発見されました。
V字やY字に枝分かれしたその独特の形態から、ラテン語で「二又の」を意味するbifidus(ビフィドゥス)と命名されました。
1924年には、二又を意味する「bifidus」と、細菌を意味する「bacterium(バクテリウム)」を合成し、Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム)属がつくられ、1974年にはビフィズス菌はビフィドバクテリウム属に属する細菌として分類されました。
●ビフィズス菌の性質とその働き
ビフィズス菌は、人間の腸内に1~10兆個存在するといわれています。ビフィズス菌の大きな特徴として、偏性嫌気性桿菌という、酸素を嫌う菌であることが挙げられます。ビフィズス菌は酸素のある環境下では、生育することができません。
ビフィズス菌は乳酸に加えて、酢酸をつくり出します。酢酸は強い殺菌力があるとされており、悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。
また、ビフィズス菌には、ビタミンB群やビタミンKを合成する働きもあるため、貧血予防や肌荒れ防止、出血性疾患予防に効果的であるといわれています。
ビフィズス菌は、もともと体内に存在する菌ですが、ストレスや年齢とともにその数は減少するため、腸内では悪玉菌が優勢の状態となります。また、食事も善玉菌の数に大きく影響します。肉などの高たんぱく、高脂質の食事が中心となると、腸内の善玉菌は悪玉菌に勢力範囲を奪われてしまいます。
ビフィズス菌を腸内で増やすには、生きたビフィズス菌が含まれる食品を摂取する必要があります。摂取したビフィズス菌は、増殖・死滅を繰り返しながら約1週間で排泄されるといわれています。
●ビフィズス菌を増やす方法
ビフィズス菌を増やすには、2つの方法があります。
1つ目は、プロバイオティクスという体に有益な生きた菌が使われた発酵乳などの食品を摂るという方法です。
ビフィズス菌は特定保健用食品にも認定されており、プロバイオティクスとしての働きが認められている細菌です。プロバイオティクスの作用は、腸内環境の改善や免疫力の向上、アレルギーの抑制など多岐に渡ります。
2つ目は、プレバイオティクスという腸内細菌の栄養源となって健康に役立つオリゴ糖などの成分を摂る方法です。
どちらが良いということはありませんが、どちらも行う方が良いとされています。
<豆知識>ヨーグルトには含まれないビフィズス菌
ビフィズス菌は、一般的にヨーグルトを食べていれば摂取できると思われがちですが、通常販売されているヨーグルトには、ブルガリア菌とサーモフィルス菌からつくられており、ビフィズス菌は入っていません。
ビフィズス菌を摂ろうと思うと、ビフィズス菌が添加されているヨーグルトなどの乳酸飲料を摂る必要があります。
「おなかの調子を整える」という表示がされた乳酸飲料は、特定保健用食品としても認められているため、腸内環境を改善する効果により期待が持てるといえます。
[※1:特定保健用食品(トクホ)とは、特定の保健の目的が期待できることを表示した食品のことです。身体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分(関与成分)を含んでいます。その保健効果が当該食品を用いたヒト試験で科学的に検討され、適切な摂取量も設定されています。また、その有効性・安全性は個別商品ごとに国によって審査されています。]
ビフィズス菌の効果
●腸内環境を整える効果
ビフィズス菌は、腸内環境を整える効果があることで知られています。
腸内で悪玉菌が増殖すると、悪玉菌によって毒素がつくられるようになります。その毒素は腸に直接的にダメージを与えるため、便秘や下痢、また大腸ガンなどの病気の原因にもなるといわれています。
ビフィズス菌は、その強い殺菌力で悪玉菌の増殖を抑えるだけでなく、腸内を酸性にすることで腸のぜん動運動[※2]を活発にするため、便秘を予防する働きもあります。
また、炎症を鎮めるために用いられる抗生物質は、腸内の有用菌を殺してしまうため、腸内バランスを崩してしまう作用があります。ビフィズス菌は腸内細菌のバランスを正常化し、障害を避けるために働く効果もあるといわれています。【2】【3】
●免疫力を高める効果
ビフィズス菌は、腸内環境を整えることから、免疫力を高める効果があるといわれています。
腸内で悪玉菌がつくり出す毒素は、腸壁から吸収され全身をめぐります。それが、生活習慣病やその他様々な病気の原因となります。
ビフィズス菌は悪玉菌の増殖を抑えることで、免疫力を高めることができます。【1】【4】【5】
●アレルギー症状を緩和する効果
ビフィズス菌には、アレルギーを抑制する効果があるといわれています。
アレルギーとは、体の免疫機能のバランスが崩れてしまうことで、体が特定の物質に過剰に反応してしまっている状態をいいます。アレルギーを持つ人の腸内細菌を調べると、善玉菌の数が健康な人よりも少ないことが明らかとなっています。
このことから、免疫のバランスを正常な状態に整える働きがあるとして、ビフィズス菌はアレルギーに効果があるとされており、特に花粉症に効果的だとされています。
●貧血を予防する効果
貧血は、鉄の不足はもちろんですが、ビタミンB12が不足することによっても起こります。ビタミンB12は、正常な赤血球をつくるために必要な栄養素のため、不足すると赤血球がうまくつくられず、貧血となります。
ビフィズス菌は、腸内でビタミンB群を合成し、その一部が体に吸収され、利用されることから、貧血にも効果的だと考えられています。
●美肌効果
便秘になると、肌が荒れるということは一般的に知られていますが、それは腸内で増殖した悪玉菌が出す毒素が影響しています。毒素は腸壁から吸収されることで、栄養とみなされ、肌へ運ばれます。これによって、肌荒れが起こります。
ビフィズス菌は、悪玉菌の増殖を抑える働きがあるため、美肌づくりにも効果的な成分です。
また、ビフィズス菌には、ビタミンKを合成する作用があります。ビタミンKは、血液凝固に関わるビタミンで、血行を良くする効果があります。目の下のクマなどの原因のひとつに血行不良が挙げられ、ビタミンKは血行を促進させて血液のうっ血を防ぐ働きがあるため、透き通るような肌をつくるためには欠かせない成分だといわれています。ビタミンKを合成するという働きも、ビフィズス菌が美肌に効果があるといわれるゆえんです。
●コレステロール値を下げる効果
ビフィズス菌は、動脈硬化などの原因であるコレステロール値を下げる効果があるといわれています。
動脈硬化とは、コレステロールや中性脂肪が溜まってしまうことで、血管が硬くなり、弾力性や柔軟性を失った状態のことをいいます。この状態が続くと、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす原因になってしまいます。
ビフィズス菌には、コレステロール値を下げることで、動脈硬化を予防し、心筋梗塞などの疾病を予防する効果があるといわれています。
[※2ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
ビフィズス菌は食事やサプリメントで摂取できます
ビフィズス菌を含む食品
○ビフィズス菌入りの乳酸菌飲料など
こんな方におすすめ
○腸内環境を整えたい方
○免疫力を向上させたい方
○アレルギー症状を予防したい方
○貧血でお悩みの方
○肌荒れでお悩みの方
○コレステロール値が気になる方
○乳製品を摂取する機会が少ない方
ビフィズス菌の研究情報
【1】乳酸菌などの善玉菌を摂取するプロバイオティクスは、炎症性サイトカイン、インターロイキン(IL)-6および腫瘍壊死因子(TNF)-αの産生を増加させるということがわかっています。様々なプロバイオティック株によって免疫調節の発現は異なることがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22493544
【2】過敏性腸症候群に対して、ビフィダス菌MIMBb75株の有効性が研究されています。結果として、ビフィダス菌MIMBb75株は過敏性腸症候群の症状を緩和し、同時に生活の質(QOL)の改善が見られました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21418261
【3】プロバイオティックは、下痢の期間や水っぽい便の回数を減らすという効果が知られています。プロバイオティクスの投与は、急性下痢症などに有益であるということが結論付けられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21118623
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20854986
【5】プロバイオティック(ビフィダス菌、ビフィズス菌、アシドフィルス菌)の補給が乳児の湿疹の発生を予防するかどうかが調査されています。妊娠中および生後に乳酸菌を補給しておくことは、乳児の湿疹の発生を防止するのに効果的なアプローチであると示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19840300
【6】ピロリ菌に感染している成人において、ピロリ菌除去の標準の治療法 (14日間) にプロバイオティクスヨーグルト125 mL/日の摂取を加えたところ、口内炎や便秘などの治療時の副作用の症状が軽減したという報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20931422
参考文献
・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社
・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社
・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院
・Kim JY, Park MS, Ji GE. 2012 “Probiotic modulation of dendritic cells co-cultured with intestinal epithelial cells.” World J Gastroenterol. 2012 Mar 28;18(12):1308-18.
・Guglielmetti S, Mora D, Gschwender M, Popp K. 2011 “Bifidobacterium bifidum MIMBb75 significantly alleviates irritable bowel syndrome and improves quality of life.” Aliment Pharmacol Ther. 2011 May;33(10):1123-32.
・Rerksuppaphol S, Rerksuppaphol L. 2010 “Lactobacillus acidophilus and Bifidobacterium bifidum stored at ambient temperature are effective in the treatment of acute diarrhoea.” Ann Trop Paediatr. 2010;30(4):299-304.
・Shirasawa Y, Shibahara-Sone H, Iino T, Ishikawa F. 2010 “Bifidobacterium bifidum BF-1 suppresses Helicobacter pylori-induced genes in human epithelial cells.” J Dairy Sci. 2010 Oct;93(10):4526-34.
・Kim JY, Kwon JH, Ahn SH, Lee SI, Han YS, Choi YO, Lee SY, Ahn KM, Ji GE. 2010 “Effect of probiotic mix (Bifidobacterium bifidum, Bifidobacterium lactis, Lactobacillus acidophilus) in the primary prevention of eczema: a double-blind, randomized, placebo-controlled trial.” Pediatr Allergy Immunol. 2010 Mar;21(2 Pt 2):e386-93.
・Yaşar B, Abut E, Kayadıbı H, Toros B, Sezıklı M, Akkan Z, Keskın Ö, Övünç Kurdaş O. 2010 “Efficacy of probiotics in Helicobacter pylori eradication therapy.” Turk J Gastroenterol. 2010 Sep;21(3):212-7.