アガリクス

Agaricus
ヒメマツタケ カワリハラタケ
Agaricus Blazei Murill

β-グルカンという多糖類を含み、NK(ナチュラルキラー)細胞の活性を上げて免疫力を高める効果が期待されています。ガン細胞を縮小させたり消滅させるなどの研究報告が、世界各地で多数なされました。近年、薬用キノコとしてそのパワーがますます注目されています。

アガリクスとは?

●基本情報
アガリクスは和名をカワリハラタケというハラタケ科ハラタケ属(アガリクス属)のキノコです。主にブラジルの東南部に自生し、フロリダからサウスカロライナ州など北米の海岸草地にも分布しています。

1965年に、最初は食用として日本に持ち込まれ、その後、人工栽培もされるようになりました。以降、ヒメマツタケとも呼ばれています。西洋料理によく使われるマッシュルームも同じアガリクス属です。最初に発見したのはアメリカの菌類学者ウィリアム・アルフォンソ・ムリルであるといわれています。

●アガリクスの歴史
原産地は、ブラジルのサンパウロ郊外にあるピエダーテの山地です。この地域にある村は、昔から長寿の村といわれ、長寿者が多く、ガンや生活習慣病の罹患率が低いことでよく知られていました。
このことに注目したアメリカの研究チームが調査を行ったところ、この地方の人々は地域に自生するアガリクスを常食していることがわかったのです。その後、アメリカで次々と薬理作用が解明されるようになりました。アガリクスは、ピエダーテ山地のように昼間35℃、夜間20℃と温度差が大きく、湿度が平均80%という独特な気候条件のもとでしか自生しません。人工栽培が難しく、薬理作用が発表されていながら、入手困難で高価なキノコとして、幻のキノコとなっていました。しかし、最近では人工栽培も行われるようになり、食用としても、健康食品の素材としても幅広く利用されるようになりました。

●アガリクスに含まれる成分と性質
アガリクスには、ビタミンB₂ビタミンDマグネシウムカリウムなどが豊富に含まれていますが、主要成分のβ-グルカンこそが重要な働きを担っています。一般的なキノコ類には、β-グルカンなどの活性多糖が1種類か2種類しか存在していませんが、アガリクスはβ-グルカンを6種類も含み他のキノコよりもたくさん含まれているのが最大の特徴です。免疫力を向上させる作用や、抗ガン効果が期待されています。

<豆知識①>キノコの不思議
キノコに属するアガリクス。キノコというのは、全世界で1万種以上もあるといわれ、日本でも2000〜3000種あるといわれています。キノコ由来の成分が次々に抗腫瘍の医薬品に認められています。ただし、現在、研究や調査されているキノコは現存の数%に過ぎず、まだまだ未知の不思議な生物です。肉類などの動物でもなく、野菜などの植物でもない「菌類」であるというキノコは、人間が食べる食物としても、とてもユニークな存在です。
そのため、キノコ類には動物・穀物・野菜などには含まれない機能性成分が豊富に含まれています。
アガリクスをはじめとするキノコ類を食事やサプリメントで食生活に取り入れることが、健康維持にとって大切となります。

<豆知識②>多機能なアガリクスの可能性
アガリクスは、ガン予防に関して他にも秘密を持っています。それは、エルゴステロールというビタミンDの前駆物質です。キノコ類に多く含まれているといわれ、日光や紫外線にあてるとビタミンDに変換されることで知られていました。ビタミンDは、血液中のカルシウムリンを骨や歯に運び、沈着させるようにします。また、血液中のカルシウム濃度が低くなると、骨からカルシウムを溶出させ、一定の濃度を保つ働きもしています。このエルゴステロールが変化したと考えられる、ガン細胞の増殖を阻止したり抑える作用を示す物質が発見されました。このように、まだまだ新たな成分が発見される可能性に満ちています。

アガリクスの効果

アガリクスは、優れた免疫活性効果があることが一番の特徴です。免疫システムの一部を担うアメーバ状のマクロファージという白血球細胞があります。生体内に侵入した細菌やウイルス、または死んだ細胞を捕食する働きや、抗原提示[※1]を行い、B細胞による抗体の産生に貢献します。アガリクスの免疫活性成分は、このマクロファージを活性化させるため、優れた免疫力向上の効果を発揮するのです。

●免疫力を上げる効果
アガリクスには、免疫賦活作用があり、体の免疫力を高める働きがあります。 免疫とは、病原菌ばかりではなく、自分の体と異なるもの(異物)が体内で見つかった時に排除しようとする機能です。免疫力が低下すると、この働きが下がるため、異物を体外に出せず、症状として病気を発症します。
β-グルカンは、体の抵抗力を強くし、生まれながらに持っている免疫力をより高めてくれる働きを持っているといわれています。
ブドウ糖が多数結合した物質の総称をグルカンと呼び、グルカンにはα型とβ型があります。この中で健康維持に役立つとされているのがβ型といわれており、β-グルカンと呼ばれています。また、別名グリコプロテインともいわれます。β-グルカンは、ブドウ糖の結合のパターンによって細かく種類が分けられます。その中で、β-1-3-Dグルカンが健康維持に役立つとされています。
β-Dグルカンは、免疫細胞の中でも体内に侵入した異物に真っ先に攻撃を仕掛ける、マクロファージという細胞を活性化させることが分かっています。【2】【3】【4】【6】

●ガンに対する効果
私たちの体は約60兆個の細胞からなっているのですが、普段の生活を送っていても、そのうちいくつかはガン遺伝子に変異が起こることによって「ガン細胞」に変化しています。
人間は年齢を重ねると1日に数千個ものガンの芽が生まれるといわれています。免疫機能を正常に働かせることによりガンの芽は異物と判断され、すぐに摘み取られるため、人間はガンを発症せずに生活できるのですが、免疫力が低下してくると、異物を見逃してしまうことが多くなります。
結果として、風邪やウイルス性の感染症にかかりやすくなったり、ガンの芽を摘み取ったりすることができずにガンを発症しやすくなってしまうのです。アガリクスには免疫作用を活性化する働きがあるため、風邪や感染症にかかりにくい体質への改善や、糖尿病、高血圧などの様々な生活習慣病の予防に力を発揮します。
1989年に発表された研究で、おなかにガンのできたマウスにアガリクスの抽出物を与えると、何も与えなかったマウスに比べて腫瘍ができることを阻害する確率が約90%以上であったという報告もなされています。【2】【5】【6】【7】

<豆知識③>アガリクスとガン治療
ガンの予防はもとより、ガンの治療に従来の抗ガン剤治療法とアガリクスを使用したBRM療法の併用が効果的であるという報告があります。
キノコの多糖類は、ガン細胞を直接攻撃するのではなく、免疫賦活剤として間接的にガン細胞を攻撃します。これは、BRM療法(バイオロジカル・レスポンス・モディファイア、生体応答調整療法)と呼ばれています。従来の抗ガン剤治療では、直接、ガン細胞を攻撃する作用は強いが、正常細胞とガン細胞との区別が判断されず、正常細胞までも破壊してしまうこともあり、結果的に副作用を招くことがあります。一方、BRM療法では、間接的に作用するため穏やかな作用で、副作用の心配が少ない治療法として注目されています。医学的には、両方の併用が良いといわれています。このようにアガリクスは、今後もますます研究が重ねられ、効果に期待が寄せられており、医療の面からも注目されている成分です。

コレステロール値を下げる効果
アガリクスに含まれる豊富な食物繊維により、コレステロール値を下げる効果があります。食物繊維が食物中のコレステロールを腸管内で吸着し、体内に吸収させることなく、排泄させます。したがって、悪玉(LDL)コレステロールを減らし、肥満を改善する効果が期待できます。
また、アガリクスには糖尿病の症状である空腹時血糖値や糖化ヘモグロビン、インスリン抵抗性を改善する働きも報告されており、抗糖尿病効果も期待されています。【1】

●その他の効果
白血球のひとつであるマクロファージが活性化することにより、自律神経失調症、アレルギー疾患、更年期症状緩和、肝臓障害や動脈硬化などにも幅広く効果があると報告されています。まだまだ未知数のことも多く、さらなる今後の研究に期待が高まっています。

[※1:抗原提示とは、マクロファージなどの抗原提示機能を持った免疫細胞が、体内に侵入した異物の一部をTリンパ球などに対して提示する、免疫機構の一部のことです。]

アガリクスは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○免疫力を向上させたい方
○ガンを予防したい方
○生活習慣病を予防したい方
○コレステロール値が気になる方
○体調を整えたい方
○キノコを摂取する機会が少ない方

アガリクスの研究情報

【1】現在治療服薬中のII型糖尿病患者60名において、アガリクスを1日1200mg 、12週間摂取させたところ、糖尿病の指標である空腹時血糖値や糖化ヘモグロビン(HbA1c)、インスリン抵抗性の改善が見られ、血漿アディポネクチン濃度も上昇しました。この結果より、アガリクスには抗糖尿病作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17309383

【2】抗がん剤治療中の子宮がん、卵巣がん女性患者100名において、アガリクスを摂取させたところ、免疫細胞の1つであるNK細胞が活性化され、抗がん剤の副作用(食欲不振、脱毛、全身脱力感など) が軽減されました。この結果より、アガリクスにはがん治療に対する有用性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15304151

【3】マウスにアガリクス抽出物を投与した場合、免疫細胞のT細胞の割合が増加しました。この結果より、アガリクスには免疫活性化作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9571772

【4】マウスにおいて、アガリクス抽出物を投与すると、免疫細胞の1つT細胞の割合が増加しました。この結果より、アガリクスは免疫活性化作用が示されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7869611

【5】アガリクスに含まれる機能性成分ATOMには抗腫瘍作用および、腫瘍細胞の成長抑制効果があり、また免疫細胞のマクロファージを活性化させるはたらきを持っています。このはたらきにより、アガリクスに抗腫瘍作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9066665

【6】アガリクスに含まれる機能性成分プロテオグルカン(ATF)は腫瘍細胞のみ選択的に発育を抑制します。ATFは免疫細胞の1つであるNK細胞を活性するはたらきがあり、さらに正常細胞には作用せず、腫瘍細胞のみを選択的に発育を阻害するはたらきが知られています。このはたらきにより、アガリクスには免疫活性作用と抗腫瘍効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9625538

【7】胆がんマウスにおいて、アガリクスを1日400, 800mg/kg ずつ20日間摂取させると、
ガンに伴う精巣上体脂肪組織、胸腺および脾臓重量および白血球数の増加が抑制され、腫瘍増殖を抑制しました。このはたらきには、アガリクスに含まれている機能性成分エルゴステロールが関与しています。エルゴステロールは腫瘍細胞には直接作用はしませんが、腫瘍細胞が成熟増殖する過程で重要な血管新生を抑制することで、抗腫瘍作用を持つことが明らかとなりました。このことより、アガリクスにはβグルカンの他にもエルゴステロールによる抗腫瘍効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11340091

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参考文献

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・Hsu CH, Liao YL, Lin SC, Hwang KC, Chou P. 2007 “The mushroom Agaricus Blazei Murill in combination with metformin and gliclazide improves insulin resistance in type 2 diabetes: a randomized, double-blinded, and placebo-controlled clinical trial.” J Altern Complement Med. 2007 Jan-Feb;13(1):97-102.

・Ahn WS, Kim DJ, Chae GT, Lee JM, Bae SM, Sin JI, Kim YW, Namkoong SE, Lee IP. 2004 “Natural killer cell activity and quality of life were improved by consumption of a mushroom extract, Agaricus blazei Murill Kyowa, in gynecological cancer patients undergoing chemotherapy.” Int J Gynecol Cancer. 2004 Jul-Aug;14(4):589-94.

・Mizuno M, Morimoto M, Minato K, Tsuchida H. 1998 “Polysaccharides from Agaricus blazei stimulate lymphocyte T-cell subsets in mice.” Biosci Biotechnol Biochem. 1998 Mar;62(3):434-7.

・Itoh H, Ito H, Amano H, Noda H. 1994 “Inhibitory action of a (1–>6)-beta-D-glucan-protein complex (F III-2-b) isolated from Agaricus blazei Murill (“himematsutake”) on Meth A fibrosarcoma-bearing mice and its antitumor mechanism.” Jpn J Pharmacol. 1994 Oct;66(2):265-71.

・Ito H, Shimura K, Itoh H, Kawade M. 1997 “Antitumor effects of a new polysaccharide-protein complex (ATOM) prepared from Agaricus blazei (Iwade strain 101) “Himematsutake” and its mechanisms in tumor-bearing mice.” Anticancer Res. 1997 Jan-Feb;17(1A):277-84.

・Fujimiya Y, Suzuki Y, Oshiman K, Kobori H, Moriguchi K, Nakashima H, Matumoto Y, Takahara S, Ebina T, Katakura R. 1998 “Selective tumoricidal effect of soluble proteoglucan extracted from the basidiomycete, Agaricus blazei Murill, mediated via natural killer cell activation and apoptosis.” Cancer Immunol Immunother. 1998 May;46(3):147-59.

・Takaku T, Kimura Y, Okuda H. 2001 “Isolation of an antitumor compound from Agaricus blazei Murill and its mechanism of action.” J Nutr. 2001 May;131(5):1409-13.

・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社

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