タンニン酸とは?
●基本情報
タンニンとは、植物界に広く存在するポリフェノールの一種で、口に入れると強い渋みを感じます。
ポリフェノールとは、自然界に広く存在する苦みや渋み、色素成分のことで、その種類は5000以上にものぼります。
タンニンは、フラボノイド系のポリフェノールで、ブルーベリーに含まれるアントシアニンなどと同じ分類に入ります。タンニンは、たんぱく質やアルカロイド[※1]、金属イオン[※2]と反応し、強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称で、茶葉やワインに多く含まれています。タンニンは植物に多く含まれ、強烈な苦みや渋みを示すことから、植物を外敵から守る役割を果たしています。
タンニンの名前は「革をなめす」という意味を持つ英語の「tan(タン)」が語源です。
タンニン酸とはタンニンの一種で、タンニンと同義で使われますが、日本薬局方[※3]では「通例、五倍子(ふし)または没食子から得たタンニンである」と規定されています。
五倍子とは、ウルシ科ヌルデの木の若芽や葉にヌルデシロアブラムシの仲間が寄生し、その刺激によって組織が膨れ上がって形成された虫こぶのことで、秋に殻を破って成虫が飛び出す前に採集し、熱湯に浸したあと乾燥させたもののことです。
没食子とは、ブナ科植物の若芽にインクタマバチが産卵し、その刺激により生じた虫こぶのことです。
タンニン、タンニン酸ともに強い収れん作用を持つため、口の中に入れると強い渋みを感じます。これはタンニンが舌や口腔粘膜のたんぱく質と結合し、そのたんぱく質を変性させてしまうことによって感じるといわれています。この作用を収れん作用といいます。
渋みは、厳密には味覚の一種というよりも、たんぱく質の変性によって生じるため、痛みなど触覚のひとつだと考えられており、渋みのことを収れん味と呼ぶこともあります。
タンニンやタンニン酸は、肌に塗ると毛穴を引き締める効果を持つため、化粧品に多く配合されています。
また、タンニンやタンニン酸は代表的な収れん薬のひとつで、医薬品と複合体をつくるためや、医薬品の刺激性を抑えるために使われることもあります。
<豆知識①>干し柿のタンニン
干し柿は、干す前は渋みが強く食べることができません。これは、渋柿に含まれるタンニンの収れん作用による渋みが原因です。渋柿に含まれるタンニンのことを柿タンニンといい、柿タンニンの渋みは、柿タンニンが唾液に溶けることで感じることができます。
渋柿を干すことにより、柿タンニンが唾液に溶けない不溶性のものに変化し、渋みを感じさせず、甘みを強く感じるようになります。渋柿はこの効果を狙い、干して食べられるのです。
<豆知識②>お歯黒に利用されていたタンニン酸
お歯黒とは昔、特に江戸時代に女性が既婚者の証として歯を黒く染めるために使用されていた塗料です。
このお歯黒は、鉄奬水(かねみず)と呼ばれる液体と、五倍子粉と呼ばれる粉末からつくられます。
鉄漿とは、焼いた鉄くずや針と、粥や茶、麹、酢、酒などを混ぜ、約2ヶ月、軒下などの暗所で発酵させた、茶色のドロドロした液体のことをいいます。主成分は酢酸第一鉄[※4]です。
五倍子粉はヌルデの木の葉に含まれており、タンニン酸を約60~70%含む粉のことです。これらを交互に、又は混ぜて楊枝を使って歯表面につけます。反応様式は、酢酸第一鉄がゆっくりと酸化されて酢酸第二鉄に変わっていき、これが五倍子粉のタンニン酸と反応して、黒色で不溶性のタンニン酸第二鉄[※5]となります。これがお歯黒の正体です。
お歯黒はこのタンニン第二鉄が歯表面の亀裂やエナメルの管の中に入り込み、黒く見えるようになります。お歯黒は、歯に染み込むのではなく、歯の隙間に入り込み黒く付着するだけのため、次第に色あせていきます。そのため週に1~2回はお歯黒をつけなおす必要があります。
●タンニンの歴史
タンニンは革なめしや漆の下塗りなどのために、2000年も前から利用されていました。しかし、タンニンという名前が付けられたのは18世紀末だといわれています。
●タンニン・タンニン酸の性質と利用法
タンニンやタンニン酸は、たんぱく質やアルカロイド、金属イオンと結合する性質があります。この性質を利用しているのが、革なめしや漆塗りです。
革なめしとは、単に動物の皮だったものを、製品の革に加工することをいいます。
動物の皮は、そのままだと固くなったり、腐敗したりしますが、余計な脂肪を取り除き、タンニンを利用してたんぱく質を変性させることで、革製品としての利用が可能になりました。この方法は古代より利用されています。
また、漆塗りには柿タンニンが利用されています。柿タンニンは防水・防腐・防虫効果があり、漆を塗る前に柿タンニンを含む渋柿のエキスを塗りこむことで、高価な漆の吸い込みを少なくするという使い方もされてきました。
<豆知識③>家の壁に塗られる柿渋
柿タンニンが含まれている渋柿には、防水・防腐・防虫効果があります。
この効果により、柿タンニンは家の壁にも塗られ、利用されています。これは、現在利用されている化学合成樹脂塗料[※6]と比較すると効果は低いのですが、柿タンニンを壁などに塗布することでシックハウス[※7]の原因であるホルムアルデヒド[※8]を吸着する作用があることが実験によって確認されています。柿渋の塗料や染料としての利用により、柿渋に対する見方が変わってきています。
●タンニン・タンニン酸を含む食品
タンニンは、茶葉やワインに多く含まれています。
茶葉に含まれるタンニンには、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類が知られています。カテキンはタンニンの一種として苦みや渋みを持ち、茶葉を用いる嗜好品の中では、その味覚を決める重要な物質とされています。また、紅茶においては水色を決める各種赤色色素の前駆体としても重要です。
ワインに含まれるタンニンは、よりワインの風味に影響を与えます。特に赤ワインは醸造中も果皮や種子が浸かったままになるため、タンニンの味が強く現れる傾向があります。
近代的なワイン醸造所では、ブドウ果汁をつくる際、種子を最小限に留めるために破砕のみでプレスをしないフリーラン果汁のみを用いて醸造したワインをつくるなど、細心の注意が払われています。そうしてつくられたワインはタンニンの渋みや苦みがあまり感じられない口当たりの良いワインとなります。しかし、タンニンはワインの熟成において酸化を防ぐという重要な役割を果たしているため、すべてを取り除くことは行わないのが一般的です。
他にもタンニンは、渋柿や栗の皮、ガラナなどに多く含まれています。
●タンニンを摂る際の注意点
食事からタンニンを摂る場合、過剰摂取することで腸粘膜が刺激され便秘になることがあります。緑茶をはじめとするお茶や、紅茶などは様々な健康作用もありますが、摂りすぎには注意が必要です。
また、薬やサプリメントをお茶や紅茶で飲むと、それらの中に含まれるタンニンと反応し、効果が弱まることがあります。そのため薬やサプリメントをお茶などで飲むことは控える必要があります。
[※1:アルカロイドとは、窒素原子を含み、塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称です。]
[※2:金属イオンとは、金属の原子から生じるイオンのことです。]
[※3:日本薬局方とは、日本国内の医療における重要な医薬品の品質・強度・純度などについて定めた基準のことです。]
[※4:酢酸第一鉄とは、酢酸に鉄を溶かしてつくられた茶色の固体です。水によく溶け、水溶液は淡い緑色になります。]
[※5:タンニン酸第二鉄とは、タンニン酸と酢酸第二鉄が反応してできたものです。]
[※6:化学合成樹脂塗料とは、合成樹脂に溶剤または乾性油を加え加熱し、さらに溶剤を加えた塗料のことです。]
[※7:シックハウスとは、頭痛・めまい・吐き気・皮膚障害・鼻炎・呼吸器障害など様々な健康障害を引き起こす住まいのことです。]
[※8:ホルムアルデヒドとは、有害物質の一種で、発ガン性を持つ物質です。ヒトの粘膜を刺激するため、目がチカチカして涙が出たり、鼻水が出たり、のどの渇きや痛み、せきなど、シックハウス症候群の原因となる代表的な化学物質です。]
タンニン酸の効果
●肌を引き締める効果
タンニンやタンニン酸にはたんぱく質を変性させることにより、組織や血管を縮める収れん作用があります。収れんとは、縮む、引き締めるという意味で、肌でいえば開いた毛穴や皮脂腺などを引き締めるのに効果的です。
化粧品に配合することで肌を引き締め、毛穴を目立ちにくくする効果や制汗効果を発揮します。
●下痢を改善する効果
タンニンやタンニン酸は、口から摂取しても体内で収れん作用を発揮します。
昔から生薬として使われているゲンノショウコ[※9]にはタンニンが含まれており、下痢を改善する効果を持ちます。これは体内に入ったタンニンが、腸の粘膜を刺激することで腸を引き締める収れん作用によるものです。【1】【2】
●生活習慣病の予防・改善効果
タンニンやタンニン酸は、抗酸化力を持ちます。抗酸化力とは、体内に過剰に発生した活性酸素[※10]による酸化を防ぐ力のことです。活性酸素が過剰に発生すると、悪玉(LDL)コレステロールが酸化し、動脈硬化などの生活習慣病の原因になったり、老化を促進する原因になったりします。
動脈硬化とは、増えすぎた悪玉(LDL)コレステロールが血管壁に付着し、血管が固くもろいものになることをいいます。これが脳梗塞や心筋梗塞の原因となってしまうのです。
タンニンやタンニン酸は、抗酸化力を持つため、コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化などの生活習慣病を防ぐ効果があるといえます。【3】【4】
●美白作用
タンニンやタンニン酸は、メラニンを産生する細胞の増殖を抑制することで、皮膚保護作用や美白作用をもつことが報告されています。【5】
[※9:ゲンノショウコとは、フウロソウ科の多年草で、日本では北海道の草地や本州~九州の山野に自生しています。]
[※10:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
食事やサプリメントで摂取できます
タンニン・タンニン酸を含む食品
○茶葉
○ワイン
○渋柿
○栗皮
○ガラナ
こんな方におすすめ
○毛穴の黒ずみや開きでお悩みの方
○美肌を目指したい方
○下痢でお悩みの方
○生活習慣病が気になる方
タンニン・タンニン酸の研究情報
【1】ヒトの腸の細胞に生薬の五倍子の有効成分タンニンを投与すると、下痢症状が抑制されました。マウスを用いた試験においても、コレラ毒素による下痢症状が抑制されたことから、タンニンには下痢抑制効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20225391
【2】クローン病患者を含む、慢性下痢患者30名を対象に、タンニンアルブミン塩500mg および乳酸エタクリジン50mg を5日間摂取させたところ、下痢の回数に減少が見られ、特にクローン病患者において顕著に改善が見られました。このことから、タンニンには下痢予防効果があることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8462917
【3】Ⅱ型糖尿病マウスにおいて、柿タンニンを体重の1% 量を8週間摂取させたところ、胆汁酸分泌が促進され、血中コレステロール、トリグリセリドの上昇が予防され、脂肪肝が改善されました。柿タンニンが肝臓の褐色脂肪細胞や骨格筋において、コレステロール代謝酵素を活性化することが確認されました。これらより、柿タンニンには高脂血症を予防するほか、肝臓保護効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22079182
【4】高脂肪食摂取ラットを対象に、ブドウ種子タンニンを2% 含む餌を9週間摂取させたところ、肝臓や大動脈中のコレステロールやトリアシルグリセロールの増加および、血中HDLコレステロールの減少が抑制されました。合わせて、糞便中へのコレステロールの排出も増加しました。ブドウ種子タンニンには高コレステロール血症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16856327
【5】ハマメリスの機能性成分タンニンは活性酸素から赤血球を保護するはたらきを持ち、また、ブドウに含まれるタンニンには、メラニンを産生するヒト黒色腫メラノーマ細胞(SK-MEL-28)の増殖を抑制することが確認されました。タンニンに抗酸化作用と皮膚保護作用、美白作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18311930
参考文献
・野口忠 栄養・生化学辞典 朝倉書店
・Wongsamitkul N, Sirianant L, Muanprasat C, Chatsudthipong V. (2010) “A plant-derived hydrolysable tannin inhibits CFTR chloride channel: a potential treatment of diarrhea.” Pharm Res. 2010 Mar;27(3):490-7.
・Plein K, Burkard G, Hotz J. 1993 “Treatment of chronic diarrhea in Crohn disease. A pilot study of the clinical effect of tannin albuminate and ethacridine lactate” Fortschr Med. 1993 Mar 10;111(7):114-8.
・Matsumoto K, Yokoyama S. 2012 “Induction of uncoupling protein-1 and -3 in brown adipose tissue by kaki-tannin in type 2 diabetic NSY/Hos mice.” AFood Chem Toxicol. 2012 Feb;50(2):184-90.
・Tebib K, Besancon P, Rouanet JM. 1994 “Dietary grape seed tannins affect lipoproteins, lipoprotein lipases and tissue lipids in rats fed hypercholesterolemic diets.” J Nutr. 1994 Dec;124(12):2451-7.
・Touriño S, Lizárraga D, Carreras A, Lorenzo S, Ugartondo V, Mitjans M, Vinardell MP, Juliá L, Cascante M, Torres JL. 2008 “Highly galloylated tannin fractions from witch hazel (Hamamelis virginiana) bark: electron transfer capacity, in vitro antioxidant activity, and effects on skin-related cells.” Chem Res Toxicol. 2008 Mar;21(3):696-704.