スルフォラファンとは
●基本情報
スルフォラファンとは、アブラナ科の野菜に含まれているファイトケミカルの一種です。
アブラナ科の野菜特有の辛みやにおいのもととなる物質が、切る、噛む、消化吸収されることによって、スルフォラファンへと変化します。
スルフォラファンは、特にブロッコリーの新芽の部分であるブロッコリースプラウト[※1]に多く含まれています。
●スルフォラファンの歴史
1997年、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のポール・タラレー博士は、ブロッコリーに含まれる健康成分のひとつがスルフォラファンであることを発見しました。
その後も研究が進められ、ブロッコリーの新芽には、成長したブロッコリーの20~50倍ものスルフォラファンが含まれていることが解明されました。
●スルフォラファンの働き
スルフォラファンは、強い抗酸化作用[※2]を持つことで知られています。
体の中に入ってきた細菌やウイルスを退治してくれる働きを持つ活性酸素は、人間の体にとって必要なものですが、増えすぎるとその強力な作用により細胞を傷付けてしまうため、病気や老化の原因となります。
活性酸素は、ストレス・紫外線・喫煙・過剰な運動などが原因で増加するといわれており、現代人の生活環境は、活性酸素によるダメージを受けやすいといえます。
スルフォラファンは、SOD酵素などの抗酸化酵素を活性化させる働きがあり、増えすぎた活性酸素によるダメージから体を守ります。
また、スルフォラファンの抗酸化作用は、新陳代謝[※3]の活発化にもつながります。
スルフォラファンは、抗酸化物質であるグルタチオンの生成を促進し、また、他の抗酸化酵素の生成も促します。細胞のDNAをつくる材料となるグルタチオンを失うことなく、効率良く利用することができます。
その結果、細胞分裂が活性化され、新陳代謝が活発に行われるのです。
さらに、スルフォラファンには解毒酵素の合成を促進する働きがあります。
解毒酵素は肝臓でつくられており、体内の有害物質を無毒化させる作用を持っています。しかし、加齢や不規則な生活習慣のほか、ストレスや疲労が溜まることによって、体内で解毒酵素をつくり出す力が衰えてしまいます。
スルフォラファンは、解毒酵素を活性化させることによって、解毒作用を高める働きがあります。
●スルフォラファンを摂取する上でのポイント
スルフォラファンは、ブロッコリーやキャベツ、だいこん、わさびなどのアブラナ科の野菜に多く含まれています。
スルフォラファンは熱に強い性質を持つため、加熱調理をした食材からも摂取することができます。
ただし、スルフォラファンは水溶性の成分であるため、茹でた食材から効率的に摂取する場合は、茹で汁と一緒に食べる必要があります。
[※1:スプラウトとは、新芽野菜の総称です。もやしや貝割れダイコンなどがスプラウトの一種となります。]
[※2:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されることを防ぐ作用です。]
[※3:新陳代謝とは、古い細胞や傷ついた細胞が、新しい細胞へ生まれ変わることを指します。]
スルフォラファンの効果
●シミやそばかすを予防する効果
スルフォラファンには、シミやそばかすの原因を抑制する効果があります。
肌のシミやそばかすは、体の中のチロシナーゼ[※4]という酵素によってつくられており、シミ・そばかすは過剰なメラニン色素が生成されることによって引き起こされます。
紫外線を浴びると活性酸素が発生し、その刺激によって表皮のメラノサイトという色素細胞が活性化されます。活性化したメラノサイトは、メラニン色素を生み出す原因となるチロシナーゼの働きを活発にさせます。
その結果、メラノサイト内に存在するアミノ酸の一種であるチロシンが、酵素チロシナーゼによってメラニン色素に変換され、シミ・そばかすの原因となります。
スルフォラファンは、このチロシナーゼの働きを抑制する効果があります。
これにより、メラニンがつくられる力が弱くなるため、スルフォラファンにはシミやそばかすを予防する効果があります。【8】
●肝機能を高める効果 スルフォラファンの解毒機能を高める働きは、肝機能の向上にもつながります。
肝臓は、栄養素の代謝[※5]や有害物質の解毒、胆汁[※6]の分泌などを行う重要な臓器です。
肝臓の機能が低下してしまうと、毒素や老廃物が体内に溜まりやすくなり、疲れやすくなるほか、病気の原因にもなります。
肝臓の病気には、肝炎や肝硬変などが挙げられます。
過度の飲酒が続くと、アルコール性肝炎の原因となります。進行すると肝硬変を引き起こし、食欲不振・吐き気・腹痛・倦怠感などの症状が現れます。また、黄疸(おうだん)[※7]やせん妄[※8]、体の震えなどの症状も見られます。
また、ウイルス性肝炎のひとつである急性肝炎では、発熱・倦怠感など風邪に似た症状が現れます。
肝炎が慢性化すると、長い期間を経て、肝硬変へと移行してしまいます。肝硬変は、慢性的な肝炎によって肝臓の組織が硬くなってしまい、肝機能が低下することによって引き起こされます。
肝硬変が進行すると、手の平の周辺・指先・胸の上部から首筋・肩・腕の付け根のあたりに赤い斑点が現れ、黄疸や腹に水が溜まるなどの症状が見られます。
しかし、肝臓はこれらの病気の自覚症状が現れにくく、症状が出た時には、すでに病気が進行しているケースが多いため、「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
スルフォラファンは、体内で解毒酵素がつくられる力を活性化する働きがあるため、肝機能を高める効果が期待できます。【7】
●ピロリ菌による感染症を予防する効果
ピロリ菌とは、胃や小腸で炎症を引き起こす細菌の一種で、胃炎や胃潰瘍の原因にもなります。
主な感染経路は経口感染であると考えられており、上下水道が整備されていないような地域で感染率が高いといわれています。
胃の中では、強い酸性を持つ胃酸がつくられています。普通の細菌はこの胃酸によって死んでしまうため、「胃に細菌は住めない」といわれていました。ところが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を多量に持っており、強い胃酸の中でも生存することができるのです。ウレアーゼはもともと体内に存在しており、有毒な物質を体外に排出する働きがあります。
ピロリ菌が、胃の壁を傷つけて胃を守る粘液を減少させることによって、ストレスや塩分の多い食事などの攻撃を受けやすい無防備な状態となるため、胃炎や胃潰瘍などの病気を引き起こす原因となります。
スルフォラファンには、ピロリ菌の感染を予防する効果があり、スルフォラファンの抗菌作用は、ピロリ菌に対して濃度依存的に効果があったと報告されています。【1】【6】
[※4:チロシナーゼとは、アミノ酸であるチロシンを酸化して、メラニンを作る酵素のことです。この酵素を阻害することにより、メラニンの生成をくいとめ美白効果が働きます。]
[※5:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※6:胆汁とは、肝臓でつくられるアルカリ性の液体です。胆汁酸などを含み、脂肪酸の吸収を助ける作用があります。]
[※7:黄疸とは、ビリルビンという色素が何らかの原因で血液中に増加し、その結果、全身の皮膚や粘膜に過剰に沈着し、眼球や皮膚といった組織や体液が黄色く染まる状態のことを表します。]
[※8:せん妄とは、脳機能が低下し、はっきりと考える・記憶することができないといった意識障害や、幻覚・錯覚がみられる精神状態のことです。]
食事やサプリメントで摂取できます
スルフォラファンを含む食品
○ブロッコリー
○カリフラワー
○菜の花
○だいこん
○キャベツ
○貝割れダイコン
こんな方におすすめ
○シミ、そばかすが気になる方
○お酒をよく飲む方
○胃・肝臓の健康を保ちたい方
スルフォラファンの研究情報
【1】胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者から摂取した48株のピロリ菌に対して、
スルフォラファンは制菌・殺菌効果を示しました。抗生物質の耐性を持った菌株に対しても殺菌効果がみられました。ピロリ菌に対する最小阻止発育濃度(MIC)は、4μg/mlでした。このことから、スルフォラファンの摂取はピロリ菌誘発の胃がんを抑制する可能性が考えられました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC124299/
【2】スルフォラファンの抗酸化作用は、ビタミンCやビタミンEのような抗酸化物質とは異なり、長時間作用し続けるという特徴を有することがわかりました。ビタミンCは摂取後、抗酸化活性が減少しますが、スルフォラファンの抗酸化活性は3日間持続できます。これは、スルフォラファンの抗酸化作用は、体内の抗酸化酵素を活性化させる働きがあるためです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10541453
【3】スルフォラファン(25μM)をヒト大腸がん細胞へ添加した際、UDP-グルクロン酸トランスフェラーゼ(UGT1A)を活性化しました。また、アポトーシス誘発因子であるbax因子を誘発し、また抗アポトーシス因子であるbcl-2を抑制しました。このことから、スルフォラファンは、大腸がんを抑制する可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22559738
【4】スルフォラファンは、Nrf2を通して抗酸化酵素を発現することが分かりました。スルフォラファンを投与した結果、Nrf2を通して抗酸化活性酵素であるヘモオキシゲナーゼ(HO-1)が上昇したことが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22065904
【5】マクロファージ遊走(MIF)の事象は、様々な炎症を引き起こします。MIFを引き起こす因子として、近年、トートメラーゼの活性が注目されており、スルフォラファンは、このトートメラーゼ活性を抑制する働きがあることがわかりました。このことによって、スルフォラファンは炎症を抑制する働きがある可能性が考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21602309
【6】スルフォラファンは、nrf2遺伝子にコードのある抗酸化酵素を活性化し、ピロリ菌により発生した活性酸素および炎症を抑える働きがあることがわかりました。このことから、スルフォラファンはピロリ菌から発生する胃ガンを抑制する働きがある可能性があることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21548875
【7】スルフォラファン(SFN)がシスプラチン(CIS)誘発性肝障害に対する保護作用があるかどうかを検討しました。ラットをCIS単体投与群、CIS+SFN(腹腔投与500μg/kg×3/日)投与群、SFN投与群に分け調べました。その結果、SFN投与したことにより、CIS誘発による肝障害のダメージが減少しました。この肝障害ダメージの減少は、CIS誘発による肝臓中のミトコンドリアへの酸化ダメージをSFNが抑制することによるものと考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21575670
【8】スルフォラファンをマウスメラノーマ細胞へ添加した結果、チロシナーゼの調節因子であるERKやp38因子を刺激することで、チロシナーゼ遺伝子の発現を抑制し、メラニン合成を阻止していることがわかりました。このことから、スルフォラファンは、シミ・そばかすを防ぐ働きがある可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20208349
参考文献
・サプリメント事典 第4版/日経ヘルス
・サプリメント健康バイブル/日本サプリメント協会(NPO)小学館
・中村丁次 最新版・からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・Fahey, J. W.; Haristoy, X.; Dolan, P. M.; Kensler, T. W.; Scholtus, I.; Stephenson, K. K.; Talalay, P.; Lozniewski, A. (2002) “Sulforaphane inhibits extracellular, intracellular, and antibiotic-resistant strains of Helicobacter pylori and prevents benzo[a]pyrene-induced stomach tumors” Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 May 28;99(11):7610-5.
・J.W Fahey, P Talalay (1999) “Antioxidant Functions of Sulforaphane: a Potent Inducer of Phase II Detoxication Enzymes” Food and Chemical Toxicology Volume 37, Issues 9–10, September–October 1999, Pages 973–979
・Wang M, Chen S, Wang S, Sun D, Chen J, Li Y, Han W, Yang X, Gao HQ. (2012) “Effects of phytochemicals sulforaphane on uridine diphosphate-glucuronosyltransferase expression as well as cell-cycle arrest and apoptosis in human colon cancer Caco-2 cells.” Chin J Physiol. 2012 Apr 30;55(2):134-44. doi: 10.4077/CJP.2012.BAA085.
・Lee YJ, Lee SH. (2011) “Sulforaphane induces antioxidative and antiproliferative responses by generating reactive oxygen species in human bronchial epithelial BEAS-2B cells.” J Korean Med Sci. 2011 Nov;26(11):1474-82. Epub 2011 Oct 27.
・Healy ZR, Liu H, Holtzclaw WD, Talalay P. “Inactivation of tautomerase activity of macrophage migration inhibitory factor by sulforaphane: a potential biomarker for anti-inflammatory intervention.” Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011 Jul;20(7):1516-23. Epub 2011 May 20.
・Yanaka A. (2011) “Sulforaphane enhances protection and repair of gastric mucosa against oxidative stress in vitro, and demonstrates anti-inflammatory effects on Helicobacter pylori-infected gastric mucosae in mice and human subjects.” Curr Pharm Des. 2011;17(16):1532-40.
・Gaona-Gaona L, Molina-Jijón E, Tapia E, Zazueta C, Hernández-Pando R, Calderón-Oliver M, Zarco-Márquez G, Pinzón E, Pedraza-Chaverri J. (2011) “Protective effect of sulforaphane pretreatment against cisplatin-induced liver and mitochondrial oxidant damage in rats.” Toxicology. 2011 Aug 15;286(1-3):20-7. Epub 2011 May 6.
・Shirasugi I, Kamada M, Matsui T, Sakakibara Y, Liu MC, Suiko M. (2010) “Sulforaphane inhibited melanin synthesis by regulating tyrosinase gene expression in B16 mouse melanoma cells.” Biosci Biotechnol Biochem. 2010;74(3):579-82. Epub 2010 Mar 7.