アリインとは?
●基本情報
アリインとは、にんにくに多く含まれるイオウ化合物です。イオウ化合物は、にんにくや長ねぎ、玉ねぎ、にらなどのユリ科の野菜や、キャベツや大根、わさびなどのアブラナ科の野菜に含まれている、強い香りを持つ物質です。
にんにくやねぎなどのアリインを含む食材は、アリインを含む細胞と、アリインを分解するアリナーゼという酵素を含む細胞を持っています。アリインはほぼ無臭の物質ですが、これらの食材を調理することによって、それぞれの細胞が壊れ、アリインとアリナーゼが接触してアリインが分解されます。アリインが分解されると、にんにく特有の強いにおいのもととなる物質である、アリシンが生じます。
●アリインの歴史
アリインの存在を発見したのは、アメリカの科学者であるカバリトとベイリーです。1944年、彼らはにんにくに無臭のイオウ化合物があり、にんにくを切ったりすりおろして細胞を破壊すると、におい物質であるアリシンが発生することを見出しました。
さらに、1951年にはスイスのノーベル賞科学者であるストールとシーベックによって、アリインがアリナーゼという酵素によって分解されることにより、アリシンができることが発見されました。
●アリインの効果的な摂り方
アリインは切ったりすりおろしたりしていない、生の状態の食材に含まれています。にんにくは薄皮をむいた状態ではそれほどにおいがせず、調理によってにおいが出るのはこのためです。
アリインをそのまま摂取したい場合は、にんにくをきざんだりすりおろしたりせず、お酢などにつけた「にんにく漬け」などから摂ることができます。
また、アリインの分解物、アリシンにも、様々な健康効果が期待できます。アリインが含まれる食材をきざむ・潰すなどして摂ると効果的です。さらに油で調理すると、アリシンそのものが壊れにくくなるといわれています。ただし、アリシンは熱に弱く水に溶ける性質があるため、調理の際に長く熱するとなくなってしまいます。
生のにんにくの場合は、食べ過ぎると腹痛や貧血を起こすことがあるため、1日1片程度が適量です。加熱したものの場合は2~3片摂取すると良いといわれています。
アリインの効果
●疲労回復効果
アリインが多く含まれるにんにくには、滋養強壮や疲労回復効果があります。スタミナがつくといわれているのもアリインが含まれているためです。
アリインは、調理によって分解されてアリシンとなり、体内でビタミンB1と結びつきます。ビタミンB1は糖の代謝を促し、体を動かすエネルギーを生みだす大切な働きをしています。しかし、この働きがうまくいかないと疲労物質が発生したり、エネルギーが不足して疲れやすくなります。
アリシンはビタミンB1と結びつくことによってビタミンB1を体内に長く留め、エネルギーを生みだす効果を持続させます。この働きにより、アリインはビタミンB1の利用効率を高め、エネルギーを生みだして疲労回復を助ける効果が期待できます。
●血液をサラサラにする効果
アリインには、血液の凝固を抑えて血液をサラサラにしたり、血栓を溶かす効果があります。
血液中に、血のかたまりである血栓があると血液の流れが悪くなり、体のすみずみまで栄養素を届けられなくなります。また、血流が悪くなることによって血管に負担がかかる高血圧となり、血管や心臓が傷みやすくなります。この状態を放置し続けると、動脈硬化になったり、心筋梗塞や脳梗塞などの命に関わる病気を引き起こす原因となります。
アリインは血液が過度に凝固するのを抑えたり、血栓を溶かすことによって血液をサラサラにします。
また、脂質の過剰摂取によって、血液中の中性脂肪や悪玉 (LDL)コレステロールが増加する脂質異常症も血液の流れを悪くする原因のひとつです。脂質やコレステロールは細胞をつくる重要な成分ですが、血液中で過剰になり活性酸素によって酸化されると、過酸化脂質 [※1]に変化し血管の内側の壁に付着して血管が硬くなり、動脈硬化になります。
アリインは、血液中にある脂肪の燃焼を盛んにし、コレステロール値の上昇を抑えて血流を良くする効果があります。【1】
●生活習慣病を予防する効果
アリインは分解されることによってアリシンとなり、活性酸素を抑える働きがあります。
活性酸素は、ストレスや紫外線、喫煙などによって増加し、過度に存在すると老化や病気の原因となる物質です。中でも、ストレスによって発生する活性酸素の量は格段に多いといわれており、ストレス社会に生きる現代人は、活性酸素によるダメージをうけやすいのです。
活性酸素は、血液中のコレステロールを酸化し過酸化脂質を発生させることで、動脈硬化や糖尿病の原因にもなります。アリインは抗酸化力を持つアリシンとなって活性酸素を除去し、これらのような生活習慣病の予防に役立ちます。
現代の日本では、食生活の欧米化が進んだことで、エネルギー摂取が過剰になったり、運動不足や過度な飲酒・喫煙などによって生活習慣病が起こりやすくなっています。アリインのような抗酸化力を持つ栄養素を取り入れることで、活性酸素を抑え生活習慣病の予防に役立てることができます。【1】【2】
●抗菌・抗カビ作用
アリインが分解されてできるアリシンは、腹痛や下痢、嘔吐、発熱などを引き起こすサルモネラ菌や、胃炎や胃ガンの原因となるヘリコバクター・ピロリ菌、胃痛や嘔吐を引き起こすカビなどの生育を抑える働きがあります。アリインが含まれるにんにくやねぎなどが薬味として使われるのは、おいしさのためだけでなく、アリインの持つ抗菌・抗カビ作用によって食中毒を防ぐためでもあります。また、これらの働きにより、アリインは風邪の改善や予防に働き、体調を整える効果があります。【3】
[※1:過酸化脂質とは、体内に蓄積すると動脈硬化や老化を進行させ、発ガン性もあるといわれる有害物質です。]
アリインは食事やサプリメントで摂取できます
アリインを含む食材
○にんにく
○にら
○たまねぎ
○長ねぎ
こんな方におすすめ
○疲れ気味の方
○体力を維持したい方
○血液をサラサラに保ちたい方
○生活習慣病を予防したい方
○ストレスの多い方
アリインの研究情報
【1】糖尿病ラットに、にんにく葉の有効成分アリインを摂取させたところ、糖尿病による血糖値や血中トリグリセリド、総コレステロール、LDL-コレステロールの増加が抑制されたことから、アリインに高脂血症予防効果、動脈硬化予防効果ならびに血流改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21391887
【2】にんにくには、アリインとアリルシステイン、アリルジスルフィドが含まれています。特に、アリインは活性酸素除去能つまり抗酸化力が高く、脂質過酸化の産生を抑制し、動脈硬化を予防するなど様々な健康機能に貢献すると期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16822206
【3】にんにくに含まれる成分アリインは、結核菌やグラム陽性菌とグラム陰性菌、カビに対する発育阻害作用を示すことから、強い抗菌作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1099271
参考文献
・井上正子 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社
・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社
・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店
・中村丁次 最新版 からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版社
・Nasim SA, Dhir B, Kapoor R, Fatima S, Mahmooduzzafar, Mujib A. 2011“Alliin obtained from leaf extract of garlic grown under in situ conditions possess higher therapeutic potency as analyzed in alloxan-induced diabetic rats.” Pharm Biol. 2011 Apr;49(4):416-21.
・Chung LY. 2006 “The antioxidant properties of garlic compounds: allyl cysteine, alliin, allicin, and allyl disulfide.” J Med Food. 2006 Summer;9(2):205-13.
・Uchida Y, Takahashi T, Sato N. 1975 “The characteristics of the antibacterial activity of garlic (author’s transl).” Jpn J Antibiot. 1975 Aug;28(4):638-42.