ヤロウとは?
●基本情報
ヤロウは、高さ60 cmほどになるキク科の多年生植物[※1]で、一般的にはハーブの一種として知られています。原産地はヨーロッパで、ヨーロッパからアメリカまで世界中ほとんどの地域でみられる品種です。ヤロウは比較的育てやすく、日当たりの良い場所で育ちます。春から夏にかけて、白く小さな花をたくさん咲かせ、この時期に収穫された地上部がハーブとして利用されます。ヤロウは、ギザギザしたノコギリのような葉をもつことから、「ミルフォイル(1000枚の葉)」とも呼ばれ、和名では「セイヨウノコギリソウ」と呼ばれています。ヤロウのハーブは、さわやかさと甘さを合わせ持つ香りが特徴です。ヨーロッパの国々では、若い葉がサラダなどに使われ、最近では、多くの花色の品種がみられ、ドライフラワーや切り花として親しまれています。ヨーロッパでは、ヤロウの葉は悪霊を追い払う力があるとして、魔除けやお守りとしても利用されています。ヤロウは、広い用途を持つことで有名で、消化不良やお腹の痛み、食欲不振、胃潰瘍など消化器の不調のときにはハーブティーとして使われています。
<豆知識>ヤロウの別名
フランス語でヤロウは、Herbe aux charpentiersといい、大工のハーブという意味を持ちます。これは、ヤロウが傷口を固める効果があることから、指を多く怪我する大工が使用するハーブという意味を含んでいると考えられています。またヤロウは「ノーズブリード」とも呼ばれますが、これは鼻血という意味があり、同様に止血薬として用いられていることから由来しています。
●ヤロウの歴史
ヤロウの歴史は古く、古代ギリシャ時代にはすでに栽培されていたといわれています。ヤロウの学名、Achilleaはギリシャ神話に由来しています。ギリシャ神話によると、古代ギリシャの英雄、アキレスが賢明な人馬であるカイロンからヤロウの利点を教わり、トロイア戦争で兵士の手当てをしたという伝説から名づけられたとされています。ヤロウは古くは薬用にし、明治の中頃日本に渡来して花壇の草花として植えられていた植物ですが、繁殖力が強いことから現在、一部が野生化しています。スコットランドでは、伝統的な傷薬の軟膏がヤロウからつくられています。
●ヤロウに含まれる成分と性質
ヤロウの主な成分は、精油の一種で芳香性を持つケトン類のカンファー、モノテルペン炭化水素類のα-ツヨネン、α-ピネン、セスキテルペン炭化水素類のカマズレン、酸化物類の1,8-シネオール、モノテルペンアルコール類のボルネオールがあります。モノテルペン炭化水素類やセスキテルペン炭化水素類には、炎症をしずめる作用があります。酸化物類やモノテルペンアルコール類には、ウイルスの繁殖を抑制する作用があります。
また薬などとの相互作用や副作用は知られていませんが、ヤロウはキク科の植物であるため、キク科の植物に対してアレルギーがある人は注意して使用する必要があります。
[※1:多年生植物とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する植物のことです。]
ヤロウの効果
●消化不良を改善する効果
ヤロウは、生薬としてヨーロッパの薬用植物療法で用いられており、消化不良や食欲減退、けいれん性胃腸障害などに効果があります。主に浸出液や煎じ液、生の絞り汁の形で利用されています。【1】【7】
●女性特有の悩みを改善する効果
閉経をはさむ前後約10年間に起こる様々な体調の変化を更年期障害といいます。これには、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの減少が深く関わっています。更年期になるとエストロゲン[※2]の分泌が減少することで、自律神経の働きが乱れ、頭痛、腰痛、肩こり、ほてり、イライラ、うつ状態などの症状が起こります。ヤロウは女性ホルモンに作用して月経を正常にし、更年期障害をやわらげる効果があります。【8】
●血液を凝固させ止血する効果
ヤロウの葉には、止血作用があります。昔からヤロウは止血薬として使用されてきました。洗浄した軽い傷にはヤロウをもんで包帯を巻いて用いられています。ほかにも血液と関係する作用として、末梢血管を拡張し、血流をよくすることから血圧を下げる効果があるとされています。
●抗菌・抗ウイルス効果
ヤロウの精油は、アズレンブルーと呼ばれる美しい青色をしています。この色は、抗ウイルス作用が強いカマズレンという成分を豊富に含んでいることによるものです。そのため免疫力を高め、風邪の予防にも効果があります。ヤロウは、発熱時や風邪のときによく使われ、エルダーフラワー、ペパーミントとブレンドして古くから使い続けられています。発熱時にヤロウのハーブティーを熱いうちに飲むことで、汗をかいて熱を下げ、汗と一緒に体の毒素も出すことができます。
●炎症を抑制する効果
ヤロウは、炎症を抑制する効果があります。ヤロウの抗炎症作用は、肌荒れに効果的なので化粧品にもよく配合されています。お湯を張り、精油の蒸気を顔に当てるアロマテラピー[※3]のフェイシャルスチームとして、外から使えばニキビによく、治りにくい傷、炎症、かゆみ、潰瘍などの皮膚トラブルには入浴剤、湿布として利用されています。【3】【5】【7】
●むくみを予防・改善する効果
ヤロウは、むくみを予防・改善する効果があります。体の不要物が外に出やすくなるので、皮膚をきれいにしてくれます。皮膚をきれいにするために、外からも内側からも使えるすぐれたハーブです。ハーブティーとして中から取り入れると利尿作用と発汗作用があるため、膀胱炎にも効果があります。【2】
[※2:エストロゲンとは、女性ホルモンの一種で、卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです。]
[※3:アロマテラピーとは、花や木など植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)を用いて、健康増進や美容に役立てていこうとする自然療法です。]
ヤロウは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○食欲不振の方
○月経によるお悩みがある方
○血圧が高い方
○風邪をひきやすい方
○美肌を目指したい方
○手足のむくみでお悩みの方
ヤロウの研究情報
【1】ヤロウ(西洋ノコギリソウ)を熱湿布は、胃液・胆汁の分泌促進、肝細胞の再生能力を促進させます。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004615155
【2】ヤロウの水抽出物、ヒドロキシエタノール抽出物、ジクリリメタン分画をラットに飲用させたところ、ラットの尿量が水抽出物以外の抽出物、分画で上昇し、ナトリウム・カリウムの排せつも上昇したことが分かりました。このことから、ヤロウには老廃物の排出作用・利尿作用があることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23791807
【3】ヤロウのエッセンシャルオイルは、リポポリサッカライド(LPS)誘発マクロファージによる炎症を抑える働きがあることが分かりました。そのメカニズムとしては、一酸化窒素(NO)を抑えるためであることも分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23797659
【4】ヤロウオイルは、カンジダ、黒カビなどの病原性真菌類を抑制することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22164800
【5】ヤロウは、NF-κBを調整し、血管細胞の炎症を抑えることが分かりました。このことから、ヤロウには、抗血管炎症作用があることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21684130
【6】ヤロウには、血圧抑制作用、心血管リスク減少、気管支拡張作用等があることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20857434
【7】ヤロウに含有されているフラボノイドやカフェイルキナ酸類がマトリックスメタロプロテアーゼ-4、-9(MMP4,9)を抑制することにより、抗炎症作用を有することが分かりました。また、ヤロウには、鎮痙作用や胆汁分泌促進作用などもあることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17689902
【8】ヤロウ抽出物に含まれている化学成分(アピゲニン、ルテオリン)は、エストロゲンレセプター(αレセプター、βレセプター)を活性化させることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16860978
参考文献
・アースプランツ リサーチ オーガニゼーション監修 HERB BIBLE 双葉社
・佐々木薫監修 最新版 アロマテラピー図鑑 主婦の友社
・トム・ストバート著 世界のスパイス百科 鎌倉書房
・田部井満男 ハーブ・スパイス館 小学館
・鈴木洋 漢方のくすりの事典 医歯薬出版
・田中修 園芸植物大事典2 小学館
・伊藤 良子 (2005) “シュタイナーの湿布療法(その4) : ハーブティー(スギナ,カモミール,西洋ノコギリソウ)を使った,湿-熱(温)湿布” 京都市立看護短期大学紀要 30, 15-22, 2005-09-01
・de Souza P, Crestani S, da Silva RD, Gasparotto F, Kassuya CA, da Silva-Santos JE, Gasparotto Junior A. (2013) “Involvement of bradykinin and prostaglandins in the diuretic effects of Achillea millefolium L. (Asteraceae).” J Ethnopharmacol. 2013 Jun 18. pii: S0378-8741(13)00433-9. doi: 10.1016/j.jep.2013.06.015. [Epub ahead of print]
・Chou ST, Peng HY, Hsu JC, Lin CC, Shih Y. (2013) “Achillea millefolium L. Essential Oil Inhibits LPS-Induced Oxidative Stress and Nitric Oxide Production in RAW 264.7 Macrophages.” Int J Mol Sci. 2013 Jun 24;14(7):12978-93. doi: 10.3390/ijms140712978.
・Falconieri D, Piras A, Porcedda S, Marongiu B, Gonçalves MJ, Cabral C, Cavaleiro C, Salgueiro L. (2011) “Chemical composition and biological activity of the volatile extracts of Achillea millefolium.” Nat Prod Commun. 2011 Oct;6(10):1527-30.
・Dall’Acqua S, Bolego C, Cignarella A, Gaion RM, Innocenti G. (2011) “Vasoprotective activity of standardized Achillea millefolium extract.” Phytomedicine. 2011 Sep 15;18(12):1031-6. doi: 10.1016/j.phymed.2011.05.005.
・Khan AU, Gilani AH. (2011) “Blood pressure lowering, cardiovascular inhibitory and bronchodilatory actions of Achillea millefolium.” Phytother Res. 2011 Apr;25(4):577-83. doi: 10.1002/ptr.3303. Epub 2010 Sep 20.
・Benedek B, Kopp B, Melzig MF. (2007) “Achillea millefolium L. s.l. — is the anti-inflammatory activity mediated by protease inhibition?” J Ethnopharmacol. 2007 Sep 5;113(2):312-7. Epub 2007 Jul 3.
・Innocenti G, Vegeto E, Dall’Acqua S, Ciana P, Giorgetti M, Agradi E, Sozzi A, Fico G, Tomè F. (2007) “In vitro estrogenic activity of Achillea millefolium L.” Phytomedicine. 2007 Feb;14(2-3):147-52. Epub 2006 Jul 24.