キシリトール

xylitol

キシリトールは糖アルコールの一種で、砂糖と比較すると大幅にカロリーが少ない天然甘味料として知られています。虫歯を予防する効果からガムなどに配合されたり、血糖値の上昇を抑制することから、糖尿病の治療にも使用されています。

キシリトールとは?

●基本情報
キシリトールとは、いちごほうれんそうなどの果物や野菜にも含まれる糖アルコール[※1]の一種です。糖アルコールの中でも特に甘みが強く、砂糖の主成分であるショ糖に似たまろやかな甘みが特徴です。チューインガムなどに利用されているキシリトールは、シラカバの幹やとうもろこしの芯を加工してつくられており、低カロリー甘味料として有名です。人間の肝臓においても1日5~15g程度生成され、主に肝臓で代謝[※2]された後、エネルギー源となるグリコーゲンとして貯蔵されたり、二酸化炭素や水に分解されます。キシリトールは砂糖と比べてカロリーが25%低いにもかかわらず、砂糖とほぼ同じ甘さを持ちます。また、キシリトールは熱を吸収する際の反応が砂糖の約8倍あるため、清涼感があります。キシリトール配合のチューインガムの清涼感は、この反応によるものです。現在は日本だけでなく、世界各国で医療用トローチや錠剤として活用されています。

●キシリトールの歴史
カバノキから発見されたキシリトールは、1960年代より栄養剤として使用されていました。1970年代、フィンランド・トゥルク大学のアリエ・シェイニンはキシリトールに虫歯予防の効果があることを発見し、その後同大学のカウコ・マキネンとともに、虫歯予防に役立てるための研究として食事で摂取する糖分をすべてキシリトールにしたグループと、そうでないグループでの比較実験を行いました。すると、キシリトールだけを摂り続けたグループの方が、虫歯の数が減少したことが証明されました。
その後、フィンランドではキシリトールガムが発売され、国家的にも虫歯予防としてキシリトールガムを学校に配布するなど、瞬く間にキシリトールは普及していきました。キシリトールが普及する以前は、虫歯による膨大な医療費に悩まされていたフィンランドも、現在では世界で最も虫歯の少ない国だといわれています。
2002年にキシリトールは、日本でも厚生労働省により特定保健用食品(トクホ)[※3]に認定されています。現在では、キシリトールは熱を吸収する際の清涼感からシャツやストッキングに、また保湿効果もあることから化粧品や入浴剤にも使用されるようになりました。

●キシリトールを含む食品
キシリトールはシラカバなどから生成されますが、いちごやラズベリー、レタス、ほうれんそうなどの野菜や果物にも含まれています。しかし、食品からはわずかな量しか摂ることができません。キシリトールは歯磨き粉や洗口剤としても利用されており、フッ素入りの製品と合わせるとより虫歯の予防につながるといわれています。

●キシリトールの摂取について
医薬品として使用する場合も、成人で1日約50gまでの量であれば基本的には安全だとされています。
3年以上の長期間、キシリトールを極めて高い用量で使用した場合、腫瘍や腸内ガスが生じる可能性がありますが、子どもでも1日20gまでの量であれば医薬品として安全であるといわれています。ただし妊娠中や母乳授乳期は胎児に対する安全性が確定していないため、注意する必要があります。
またキシリトールを一度に大量摂取すると、大腸での水分吸収が阻害され、おなかがゆるくなることがあります。

<豆知識>低カロリー甘味料や点滴輸液としてのキシリトール
キシリトールは、糖アルコールとして利用されています。キシリトール以外にも、ラクチトール[※4]やソルビトール[※5]、マルチトール[※6]などの低カロリー甘味料があります。
この多くは天然のでんぷんや麦芽糖[※7]などを原料に製造されています。糖アルコールは小腸で消化吸収されず、血糖値の上昇を抑えるため、インスリンの分泌も刺激しません。そのため、糖尿病患者の点滴用の輸液にグルコースの代わりとして活用されています。

[※1:糖アルコールとは、糖質甘味料に分類される、天然に存在する甘味料の一種です。糖類の分子に水素を添加することにより得られます。]
[※2:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※3:特定保健用食品(トクホ)とは、特定の保健の目的が期待できることを表示した食品のことです。身体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分(関与成分)を含んでいます。その保健効果が当該食品を用いたヒト試験で科学的に検討され、適切な摂取量も設定されています。また、その有効性・安全性は個別商品ごとに国によって審査されています。]
[※4:ラクチトールとは、ラクトース内のグルコースから還元されたものです。還元乳糖とも呼ばれ、高アンモニア血症の予防に働きかける糖アルコールの一種です。]
[※5:ソルビトールとは、果実などに含まれ、砂糖の70%もの甘味を持つ糖アルコールの一種です。]
[※6:マルチトールとは、甘みが強くカロリーが砂糖の半分である糖アルコールの一種です。]
[※7:麦芽糖とは、水あめの主成分で、糖アルコールの一種です。]

キシリトールの効果

●虫歯を予防する効果
キシリトールは虫歯の原因となる「酸」をつくらない上、酸を中和する作用もあるため、虫歯を予防する効果を持ちます。また、口に含むと味覚を刺激し、唾液の分泌を促す働きもあります。

虫歯の原因は口内に存在するミュータンス菌です。ミュータンス菌は食事で摂取した砂糖などを栄養源に、歯垢や酸を生成し、歯の表面を守るエナメル質を溶かします。エナメル質が溶けることで、歯からミネラルやイオンなどが流れ出てしまいます。
キシリトールはミュータンス菌によって、溶かされた歯を修復する再石灰化を促進します。再石灰化されてできたエナメル質は、溶ける前のエナメル質より硬く、虫歯になりにくい歯になります。

また、キシリトールに関して母子を対象とした実験もあります。
まだ歯が生えていない赤ちゃんには虫歯菌が存在せず、母親が使用した食器などに付着した唾液から赤ちゃんに虫歯菌が感染するといわれています。
そこでまだ歯の生えていない3ヵ月未満の赤ちゃんを持つ母親や家族に、キシリトールガムを噛む習慣をつけさせると、ミュータンス菌の母子感染を防ぎ、子どもが虫歯になりにくくなったという報告があります。
10歳児740名にキシリトールを使用したガム、およびキャンディを約200日にわたり1日3回(約5g)摂取させると、虫歯の発生を抑制できたとの研究結果もあります。このことから、キシリトールは食後だけではなく、食間に摂取しても虫歯を予防する効果があるということがわかっています。【2】【3】

●骨粗しょう症を予防する効果
フィンランドの研究者によって、マウスの骨密度が改善されたとの報告もあり、キシリトールは歯だけでなく骨にも良い影響を与え、骨粗しょう症にも役立つといわれています。【7】【8】【11】

●中耳炎や咽頭炎を予防する効果
キシリトールは、急性中耳炎に対して働きかけるといわれています。12歳以下の子どもに、食後キシリトールを適量与えると、急性中耳炎にかかる頻度が統計学的に低下したとの研究結果があります。ただし、呼吸器感染の症状がある場合は中耳炎の予防に効果的でないとされています。
【1】【5】【6】

●肌を保湿する効果
キシリトールは、肌を保湿する効果があるといわれています。そのため、乳液や美白クリーム、ローションなどに配合されています。キシリトールは水に溶けやすい性質で、保湿性を保ちながらも肌へのなじみが良いため、肌を乾燥から守る効果があります。
また肌のコラーゲンの生成を促進する他、アトピー性皮膚炎の改善にも役立つとの研究も報告されており、肌に対する健康機能が注目されています。【9】【10】

食事やサプリメントで摂取できます

キシリトールを多く含む食材

○いちご
○ラズベリー
○レタス
○ほうれんそう

こんな方におすすめ

○虫歯を予防したい方
○歯を強くしたい方
○血糖値が気になる方
○美肌を目指したい方

キシリトールの研究情報

【1】小児中耳炎に悩む12歳前後の子供1826名にキシリトールを摂取させたところ、中耳炎の発症を抑制したという研究報告がなされています。キシリトールはウィルスが鼻や喉の粘膜に接着するのを防ぐはたらきが有り、キシリトールを摂取することで、中耳炎のリスクを約25% 防ぐことができると示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22071833

【2】虫歯に悩むエストニアの小学校12校の学童(10歳)740名を対象に、キシリトールを1日5g 摂取させ、その後2~3年間の虫歯にかかるリスクを確認したところ、キシリトールを摂取した子供では、リスクが35~60% 軽減されました。この結果より、キシリトールに虫歯予防のはたらきがあると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10830649

【3】ヒトの歯を用いた実験において、キシリトール(5%)とフッ素(500ppm)を混合した歯磨き剤は、市販のものと比較して、歯のエナメル質の再石灰化を促進しました。この結果より、キシリトールがデンタルケアに役立つと示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17429185

【4】敗血症のラットにキシリトールを摂取させると、免疫細胞の一つである好中球が活性化され、免疫力が高まり、ラットの生存日数も高まりました。この結果より、キシリトールには免疫力を高める力があると示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18334022

【5】砂糖代用品であるキシリトールは、抗菌作用だけでなく、肺炎球菌(S. pneumoniae)およびインフルエンザ菌(H. influenzae)の鼻咽頭細胞への吸着を抑制する効果があり、急性中耳炎(AOM)や咽頭炎の予防効果があることがわかりました。
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD007095.pub2/full/ja

【6】 チューインガム、トローチまたはシロップ剤で投与されたキシリトールが、急性上気道感染症のない健康な小児の急性中耳炎の発症率を30%から22%まで減少させたことから、健康な小児に対するキシリトールの予防的投与が急性中耳炎の発症率を減らし得るとされています。
https://www.cochrane.org/ja/CD007095/ARI_12sui-madenoxiao-er-niokeruzhong-er-yan-yu-fang-notamenokisiritorubu-chong-liao

【7】加齢雄性ラット24匹において、10%(w/w) キシリトールを20カ月間摂取させたところ、骨の重量及び骨ミネラル量において、改善が見られました。キシリトールには骨粗しょう症の予防に加え、年齢に伴う骨の障害も予防するはたらきが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11721142

【8】キシリトールは骨吸収を抑制することによって、骨粗しょう症の予防に役立ちます。
ただし、ビタミンD との関連性に関しては今後の研究が必要とされています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7816005

【9】老齢ラット24匹において、10% キシリトールを添加した餌を20カ月間摂取させたところ、皮膚の厚みが増加し、新しく作られたコラーゲンの構成成分である、酸可溶性ヒドロキシプロリンが増加していました。この結果より、キシリトールには皮膚コラーゲンの合成を促進し肌の健康機能を促進することが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15832042

【10】アトピー性皮膚炎に悩む方17名に対して、キシリトール5% 及びファネソール0.02% 含有のスキンケアクリームを1週間塗布したところ、皮膚炎を引き起こす黄色ブドウ球菌の比率が減少しており、皮膚表面の水分の状態を示す値、皮膚コンダクタンスも改善が見られました。この結果より、キシリトールはアトピー性皮膚炎予防に役立つスキンケアとして有益であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15927814

【11】卵巣摘出老齢雌性ラット36匹において、5% キシリトール含有の餌を摂取させたところ、卵巣摘出後の骨ミネラル(とくにカルシウムやリン酸の濃度)の減少が抑制されました。この結果より、キシリトールには閉経後の骨粗しょう症を予防するはたらきが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7950507

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参考文献

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・井上正子監修 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・Azarpazhooh A, Limeback H, Lawrence HP, Shah PS. 2011 “Xylitol for preventing acute otitis media in children up to 12 years of age.” Cochrane Database Syst Rev. 2011 Nov 9;(11):CD007095.

・Alanen P, Isokangas P, Gutmann K. 2000 “Xylitol candies in caries prevention: results of a field study in Estonian children.” Community Dent Oral Epidemiol. 2000 Jun;28(3):218-24.

・Sano H, Nakashima S, Songpaisan Y, Phantumvanit P. 2007 Effect of a xylitol and fluoride containing toothpaste on the remineralization of human enamel in vitro.” J Oral Sci. 2007 Mar;49(1):67-73.

・Renko M, Valkonen P, Tapiainen T, Kontiokari T, Mattila P, Knuuttila M, Svanberg M, Leinonen M, Karttunen R, Uhari M. 2008 “Xylitol-supplemented nutrition enhances bacterial killing and prolongs survival of rats in experimental pneumococcal sepsis.” BMC Microbiol. 2008 Mar 11;8:45.

・Kurola P, Tapiainen T, Kaijalainen T, Uhari M, Saukkoriipi A. 2009 “Xylitol and capsular gene expression in Streptococcus pneumoniae.” J Med Microbiol. 2009 Nov;58(Pt 11):1470-3.

・Tapiainen T, Sormunen R, Kaijalainen T, Kontiokari T, Ikäheimo I, Uhari M. 2012 “Ultrastructure of Streptococcus pneumoniae after exposure to xylitol..” J Antimicrob Chemother. 2004 Jul;54(1):225-8.

・Mattila PT, Svanberg MJ, Knuuttila ML. 2001 “Increased bone volume and bone mineral content in xylitol-fed aged rats.” Gerontology. 2001 Nov-Dec;47(6):300-5.

・Svanberg M, Knuuttila M. 1994 “Dietary xylitol retards bone resorption in rats.” Miner Electrolyte Metab. 1994;20(3):153-7.

・Mattila PT, Pelkonen P, Knuuttila ML. 2005 “Effects of a long-term dietary xylitol supplementation on collagen content and fluorescence of the skin in aged rats.” Gerontology. 2005 May-Jun;51(3):166-9.

・Katsuyama M, Kobayashi Y, Ichikawa H, Mizuno A, Miyachi Y, Matsunaga K, Kawashima M. 2005 “A novel method to control the balance of skin microflora Part 2. A study to assess the effect of a cream containing farnesol and xylitol on atopic dry skin.” J Dermatol Sci. 2005 Jun;38(3):207-13.

・Svanberg M, Knuuttila M. 1994 “Dietary xylitol prevents ovariectomy induced changes of bone inorganic fraction in rats.” Bone Miner. 1994 Jul;26(1):81-8.

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