水とは?
●基本情報
水とは、栄養素には分類されていませんが、生命維持に不可欠な成分です。
水は血液をはじめ、皮膚、筋肉、臓器、骨などのあらゆる部位に存在しており、人体をつくっている成分のうち、約50~60%を占めています。食物にも水は含まれており、肉類では約70%、果物や野菜では約90%を占めています。
水は、食事や飲み物として摂取されるほか、体内で栄養素を代謝[※1]する過程でエネルギーを発生させる際にもつくられます。
体内の水は、汗、呼吸、尿、便などによって排泄され、体内の水分量は常に一定に保たれており、汗の量が多い場合は尿の量が減少し、水分を多量に摂取した場合は、尿の量が増加して調整されています。
水は溶解力に優れた成分であり、酸素や二酸化炭素など、多くの物質を溶かし込むことができます。
また、表面張力、比熱、気化熱、熱伝導率が他の液体に比べて大きいという性質があり、蒸発しにくい、凍りにくい、熱を伝えやすいなどの性質を持っています。
<豆知識①>ミネラルウォーターとは
ミネラルウォーターとは、特定の水源から採取した地下水のうち、地中でカルシウムやマグネシウムなどのミネラル類が溶け込んだものを指します。
また、水には軟水、硬水という言葉があるように、硬度が存在します。
水の硬度とは、水に含まれているカルシウムやマグネシウムの量をもとに算出される数値です。
WHO(世界保健機関)の基準では、硬度が0~60mg/ℓ未満のものを軟水、60~120mg/ℓ未満のものを中程度の軟水、120~180mg/ℓ未満のものを硬水、180mg/ℓ以上のものを非常な硬水と呼びます。
料理、茶、コーヒーなどには主に軟水が適しており、日本の水には軟水が多いため、日本人は硬水を飲みにくく感じる割合が多いとされています。
しかし、硬水の中にはカルシウムを非常に多く含むものもあり、硬水はその供給源として注目されています。
●生体内における水の作用
水は主に人体において、大きく3つの作用を持っています。
1つ目は、体液として化学反応の場を提供する作用です。
水は、人間の体重の約3分の2を占めており、これを体液といいます。
体液は細胞内、細胞外(組織間、血漿[※2])、体腔(肺、心臓、胃腸、肝臓の隙間など)に存在しており、酵素による消化や代謝などの体内における化学反応は、この体液中で行われます。このような作用は、生体には不可欠な生命活動であるといえます。
体内で行われる消化や吸収などは、体液として体内に存在する水に栄養素が溶けた状態でしか行うことができません。
例えば、三大栄養素である炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質は、消化液によって消化されます。
消化液は、水と消化酵素で構成されている液体です。
炭水化物やたんぱく質などは、消化液中の水に溶けた状態で、消化酵素によって消化されます。中性脂肪などの脂質は水には溶けませんが、水と油の両方になじむ胆汁の力を借りて水に溶けることができます。
人間は、体内に存在している水が、体液として化学反応の場を与えることによって生命活動を行うことができているのです。
2つ目は、栄養素や老廃物を運搬する作用です。
体内に取り込まれた栄養素は、体中をめぐっている血液によって、細胞など体のすみずみへ送りこまれます。
優れた溶解力を持つ水は、その血液の大部分を占める物質であり、運ばれる栄養素などは、すべて水に溶けた状態で移動を行っています。
また、生体内の反応で生じた老廃物や炭酸ガスを各細胞から運び去り、尿や汗として体外へ排泄する役割も担っています。
3つ目は、体温を保持する作用です。
水は、様々な物質の中で最も比熱[※3]が大きく、外界の気温の影響を受けにくい物質です。
そのため、人間が生命活動を行うためにエネルギーを生成することで生じた熱を、体のすみずみに伝えて、体温を保持する役割を行っています。
また、水は蒸発する時の気化熱が大きいことから、発汗などによっても体温を調節することができます。
例えば、人間が運動を行った際、大量のエネルギーを使用するため、体内では多くの熱が生成されます。水は汗として蒸発するときの気化熱で体の熱を取り除き、体温を調節しているのです。体表に存在する水分は、皮膚の乾燥を防ぐ役目も担っています。
人間に必要な水分量は、年齢や性別によって異なり、年齢が低いほど代謝が活発に行われるため、より多くの水分が必要であるとされます。よって、年齢を重ねるにつれて、体内の水分量は減少します。
胎児は体の約83~85%、新生児は約70~80%、成人の男性は約60%、女性は約55%が水分であるといわれ、高齢者では約50%まで減少するといわれています。
また、体内に含まれている水分の割合は個人差が大きいことでも知られています。
例えば、脂肪組織には水分が非常に少ないため、体脂肪が多いと水分の割合は少なく、男性に比べて女性の水分の割合が少ないとされています。
●水の過剰症・欠乏症
人間は、体重の約1%の水分が失われるとのどが渇き、不足を補う仕組みが働きます。
水分補給を長期間怠ると、まずは尿量が抑制され、血液中の水分量が減少します。血液中の水分量が減少すると、血液の粘度が高まり、循環障害が生じる可能性が高まります。
極度の発汗、下痢、嘔吐、出血などによって水分が極端に失われた場合には、頭痛、食欲不振、脱力感などの脱水症状が起こります。
水分が約10%失われると、筋肉の痙攣や意識の混乱を起こし、腎機能が失われます。
また、失われる水分量が約20%以上になると、生命活動にも支障をきたし、死にいたる場合もあります。
一方、水を過剰に摂取した場合には尿量が増加し、排泄されるため問題はないとされています。
しかし、腎臓の処理能力を超えるほど急激に多量の水を摂取すると、吐き気や嘔吐などの症状が起こる危険性があります。
<豆知識②>水の1日の摂取目安量と摂取方法
水分を摂取する方法には、大きく以下の3つの方法があります。
①直接口から摂取
②食事から摂取(約1200mℓ)
③体内で生成(約300mℓ)
人間が体内に十分な水分量を維持するためには、①の直接口から摂取する量を把握することが大切です。
性別や年齢などによって個人差がありますが、おおよその①の水分量は、以下の計算式で求めることができます。
(1日当たりに必要とする水分量)- ②(約1200mℓ)- ③(約300mℓ)= ①(直接口から摂取する量)
成人が1日あたりに必要とする水分量は、体重1kg当たり50mℓであるとされています。
例えば、体重60kgの人の場合、1日当たりに必要とする水分量は(60×50 = 3000mℓ)となります。
(約3000mℓ)- ②(約1200mℓ)- ③(約300mℓ)= ①(直接口から摂取する量)= 約1500mℓ
よって、計算式は上記のようになり、体重60kgの人が1日に口から摂取するべき水分量は、約1500mℓであると計算できます。
[※1:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※2:血漿とは、血液から赤血球、白血球、血小板の有形成分を除いた液状成分です。血液の約55%を占めます。]
[※3:比熱とは、物質1gの温度を1℃上げるために必要な熱量を指します。]
水の効果
●熱中症を予防する効果
激しい運動時や炎天下では体の熱を下げるため汗をかき、水分がどんどん失われていきます。特に高齢者は、体内で水を生成する量が低下するため、水分が失われがちになり、熱中症にかかりやすくなります。水分を補給することで、熱中症の予防につながると報告されており、熱中症予防のためにも、定期的な水分補給が大切です。【1】
●片頭痛を予防する効果
片頭痛の原因のひとつとして水分不足が知られています。水分が不足することで、血流が悪くなり、脳に酸素と栄養が十分に届かなくなると、頭痛が起こると言われています。片頭痛持ち患者に定期的な水分補給療法を施したところ、片頭痛の回数が減少したと報告もあり、片頭痛治療の一環として水分補給が注目されています。【3】
●美肌効果
水を摂取することによって、新陳代謝を活性化させることができると考えられています。
水は、その特性と作用によって、代謝を行うために必要不可欠な成分であり、水を摂取することによって代謝を向上させると、それに伴って新陳代謝も向上します。
新陳代謝は、体内の細胞や肌細胞の生まれ変わりを活性化させることができるため、水を摂取することによって、全身の健康維持や、肌の生まれ変わりの促進による美肌の効果が期待できます。
また、代謝を活発にすることで、老廃物などを体外へ排出する働きも高まるため、解毒効果もあるとされています。朝起きて朝食を食べる前には、水ではなくコップ1杯の白湯を飲むと、胃腸の動きが活発になり、ダイエットや美肌に効果的です。
水は食事などから摂取できます
水を多く含む食材
○野菜
○果物
○肉
こんな方におすすめ
○熱中症を予防したい方
○片頭痛を予防したい
○健やかな毎日を送りたい方
水の研究情報
【1】運動時、子供において糖分や電解質を含むスポーツ飲料を摂取することで、夏の炎天下、高湿度下での運動時の脱水を予防することができることが分かりました。高齢者でも水分補給の大切さは同様で、特に高齢者では水生成能力が低下しており、夏の運動時には熱の放散がうまくいかず熱中症になりやすいため、高齢者でも定期的な水分補給が必要となります。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001936232
【2】6-11歳の子供21名を対象とした調査で、代謝水を除く飲食物由来の1日当たり水分摂取量は、0.78g/kcal であり、また尿量は22.5g/kg となり、尿浸透圧は6mosm/kg となりました。水分補給量の目安としては、1g/kcal と設定されており、尿浸透圧は516mosm/kg となっています。子供の水分摂取量が少なく、その結果、尿浸透圧が高い傾向が見られたことから、子供の水分摂取の必要性が重要視されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3254689
【3】片頭痛患者では水分不足による片頭痛が問題となっています。片頭痛患者18名に対して、水分補給として追加で1日1.5L の水分補給を12週間継続摂取させたところ、片頭痛の回数が減少したことから、適度な水分補給による片頭痛予防効果が期待されています。
参考文献
・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社
・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部
・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社
・Yoshimitsu Inoue, Naoko Komenamim Yukio Ogura, Toyoshi Kubota, Testuya Yoshida and Seiichi Nakai. 2002 “AGE-RELATED DIFFERENCES IN SWEAT LOSS AND FLUID INTAKE DURING SPORTS ACTIVITY IN SUMMER” Japanese Journal of Physical Fitness and Sports Medicine 51(2), 235-243, 2002-04-16
・Ballauff A, Kersting M, Manz F. 1988 “Do children have an adequate fluid intake? Water balance studies carried out at home.” Ann Nutr Metab. 1988;32(5-6):332-9.
・Spigt MG, Kuijper EC, Schayck CP, Troost J, Knipschild PG, Linssen VM, Knottnerus JA. 2005 “Increasing the daily water intake for the prophylactic treatment of headache: a pilot trial.” Eur J Neurol. 2005 Sep;12(9):715-8.