バニラとは?
●基本情報
バニラとは、ラン科バニラ属のメキシコ原産のつる性の多年草植物で、スパイスとして用いられています。長さ12~25㎝の未熟な状態のさやを採取して、ボイルしてから発酵、天日干し、熟成の作業を数週間行うことによって濃褐色に変わり、バニラ特有のバニリン[※1]と呼ばれる成分を中心とした甘い香りが出てきます。非常に手間のかかる作物であるため高価格で販売されています。
色はこげ茶で細長くしわが寄り、ロウのような滑らかな質感のものが良質とされていますが、さやが発酵すると果実の表面にバニリンが結晶となって現れます。バニリンはバニラの特徴的な芳香成分であることから、結晶が多いほど品質評価も高くなります。
新鮮なバニリンの浸出液に酸を加えて加熱加水分解などをすることで芳香を放つことが知られており、今日ではバニリンのいろいろな合成法が確立されています。しかし、人工バニラでは、天然バニラのデリケートな甘美な香味にはやはり及ばないため、天然バニラの方が人気があります。
バニラには素材の甘味を引き立たせる効果があるので、お菓子などに使うと砂糖の量を抑えられます。
主に菓子に使われるバニラですが、料理での利用も増えています。また、お茶に入れるとまろやかさが出ます。
一般には、エキス分を抽出してアルコールに溶かしたバニラエッセンスや、油脂に溶かしたバニラオイルなどが使われます。
原産地は中央アメリカとされています。現在はマダガスカル、インドネシア、ウガンダ、トンガなどの熱帯各地で栽培されています。
バニラは、ほぼ100%が香料として利用されます。
<豆知識>バニラビーンズの白い結晶物
バニラビーンズを密閉容器に入れて保存しておくと、白色の結晶物が生じることがあります。カビの発生と勘違いして保健所などに届けられたりしますが、ほとんどはカビではありません。この結晶物はバニラの芳香成分であるバニリンが結晶となって析出してきたものです。
密閉容器の中で保存しているうちに、バニラビーンズの発酵が徐々に進むために起こります。
●バニラの歴史
はるか昔から、メキシコのアステーカ・インディオはバニラを香料として用いており、16世紀にスペインに移入されヨーロッパ全土に広がっていきました。
1520年には、スペイン軍がメキシコを征服した際、兵士たちは現地のアステーカ王が飲んでいる、カカオの実とコーンパウダーにバニラの粉末とハチミツで風味つけたチョコラートを知りました。これを飲んだ兵士たちが、そのおいしさに驚き、バニラとカカオの実を本国へ持ち帰ったことから、同じものを飲む習慣が広まり、チョコレートの原型になったといわれています。
バニラという名前の由来は、さやのような形にちなんだ「小さな鞘」という意味のスペイン語の「バイナ」が転じてバニラになったといわれています。
1874年、人口バニリンの合成が成功し、広く一般に出回るようになりましたが、香りの豊かさでは天然のバニラには及びません。現在でも天然のバニラの需要は高く、マダガスカルなどの生産地にとっては貴重な産業となっています。
●食材としての利用
バニラは丸ごとか、抽出物にして販売されます。どちらのタイプのバニラも、あらゆる種類のデザート、焼き菓子の風味づけに使われ、料理に濃厚な風味を添えます。
アイスクリーム、プリン、チョコレートなどの甘い料理によく合い、香料として加えられています。
バニラエッセンスはアルコール分が多く、熟すると香りが飛んでしまうので、ドリンク類やアイスクリームなどに使います。ケーキやクッキーなどの焼き菓子に使う場合は、油になじみ香りの安定しているバニラオイルが適しています。
●バニラに含まれる成分と性質
バニラにはバニラ特有の芳香を放つバニリンを含んでいるほか、強壮効果のあるフェランドレンや、抗感染効果のあるリナロールなどを含んでいます。
昔は民間薬として月経不順や熱病に用いられていましたが、今日では医薬的な効果はほとんど認められていません。
体に対する効果の他にも、バニラの芳香は甘さ感を高め、苦味感を弱める効果があるので、バニラエッセンスやバニラオイルにしてお菓子などにも使用されています。
また、矯味矯臭剤としての利用価値が高く、食用のほか煙草や香水としても使用されます。
[※1:バニリンとは、バニラの香りの主成分である有機化合物のことです。]
バニラの効果
バニラに含まれている芳香成分であるリナロールには、イライラや興奮といった神経系の過活動を抑制する鎮静効果があります。【1】
よい香りは、その豊満な香りがもたらすリラックス効果でストレスや緊張をやわらげる働きがあります。香りは脳の本能を司る部分(大脳辺縁系)に直接働きかけるので、心のリラックス効果をもたらすのです。
●感染症を予防する効果
バニラに含まれる芳香成分であるリナロールには、抗感染効果があるとされています。体内に入り込んだ病原菌などとたたかい、感染症を予防するなどの効果が期待されます。【2】
●腸内環境を整える効果
バニラに含まれる芳香成分であるリナロールには、腸の中のガスの排出を促す効果があります。
このため、腸内のガスによる腹痛やおなかの張りなどに効果があると期待されています。
●滋養強壮効果
バニラに含まれる芳香成分であるフェランドレンには、強壮効果があるとされています。様々な体の機能を高めたり、向上させる効果があり、元気で、丈夫な体へと導きます。
バニラは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○リラックスしたい方
○腸内環境をよくしたい方
○毎日元気に過ごしたい方
バニラの研究情報
【1】バニラの香りを充満させた部屋と、させていないない部屋とで記憶の効率について調査したところ、バニラの香りの部屋のほうが記憶がよくなる効果があるということが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19181616
【2】バニラを添加することでバクテリアによるクオラムセンシングを阻害する効果があることが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16706905
参考文献
・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社
・蔵敏則 発行 食材図典 小学館
・武政 三男 著 80のスパイス辞典 フレグランスジャーナル社
・ハーブスパイス館 小学館
・Schwabe L, Böhringer A, Wolf OT. (2009) “Stress disrupts context-dependent memory.” Learn Mem. 2009 Jan 29;16(2):110-3.
・Choo JH, Rukayadi Y, Hwang JK. (2006) “Inhibition of bacterial quorum sensing by vanilla extract.” Lett Appl Microbiol. 2006 Jun;42(6):637-41.