月見草とは?
●基本情報
月見草は、アカバナ科マツヨイグサ属に属する二年草で、夕方に花が咲いて朝には萎むという特徴を持ちます。成長すると高さ60cm程になり、学名はメマツヨイグサといいます。
月見草の開花は6月~9月頃で花が咲き始める夕方には白色をしていますが、花が萎む翌朝には薄いピンク色になるため、ヨーロッパではイブニングプリムローズと呼ばれています。
月見草の原産地はメキシコで、日本には1850年頃に渡来したといわれています。しかし、日本の環境が栽培に適していなかったため、現在ではほとんど栽培されていません。
月見草は種子に健康効果があるとされ、月見草の種子を低温で圧搾して月見草油が抽出されます。月見草油には、γ-リノレン酸が豊富に含まれています。
γ-リノレン酸は母乳にも含まれている成分で、最近では離乳食や粉ミルクにも配合されています。動脈硬化や高血圧の予防をはじめ様々な働きが期待できることから、月見草油は健康食品としても注目されています。
●月見草の歴史
月見草の歴史は古く、アメリカの原住民であるネイティブ・アメリカンに利用されてきました。アメリカン・ネイティブ・アメリカンは月見草を刈り集めると、葉から茎、花や種までも丸ごとすり潰して傷口に塗ったり、できものの治療にしていました。また、咳を鎮めたり、痛み止めの内服薬としても利用されていました。薬用として利用されていた月見草は17世紀になってからイギリスに伝えられ、「王様の万能薬」として珍重され、瞬く間にヨーロッパ全土に広がりました。こうして、アメリカン・ネイティブ・アメリカンの生活の知恵であった月見草は、ヨーロッパで薬用植物として、多くの人々に親しまれるようになりました。
しかし、薬用植物として定着していた月見草も20世紀に入ると他の薬用植物と同様、化学的に合成された薬品の登場によって、あまり利用されなくなりました。
再び月見草が脚光を浴びるようになったのは、1930年代に人体の組織内にほんの微量存在する成長ホルモンであるプロスタグランジンが発見されたことによります。研究が進むとともに、その材料となるγ-リノレン酸が注目されはじめ、天然に存在するγ-リノレン酸が月見草に多く含まれていることが分かりました。その後、様々な研究を経て健康に対する効果が明らかとなり、サプリメントをはじめとした健康食品や化粧品として利用されるようになりました。
●月見草の種子に含まれるγ-リノレン酸
月見草の種子に含まれる脂肪酸には、必須脂肪酸のγ-リノレン酸が約7.5%も含まれています。
リノレン酸には、「α(アルファ)」「β(ベータ)」「γ(ガンマ)」などの種類があり、これらは発見された順番を表しており、γ-リノレン酸は3番目に発見されたことを意味しています。
γ-リノレン酸は、構造の中に3つの炭素結合を持つn-6系の多価不飽和脂肪酸で、別名「ビタミンF」とも呼ばれています。
n-6系とは、脂肪酸構造の中にある炭素の最初の二重結合が、6つ目と7つ目の炭素の間にあることからこのように呼ばれ、リノール酸やアラキドン酸と同じ種類に分類されます。
γ-リノレン酸は、体内でジホモ・γ-リノレン酸[※1]を経てアラキドン酸に変換されます。ジホモ・γ-リノレン酸はプロスタグランジン系列という生体調節ホルモン[※2]の材料となる物質です。
プロスタグランジンとは、血圧や血糖値、コレステロール値の降下、血液凝固の阻止、血管拡張、気管支拡張、子宮収縮など多くの調節作用が認められており、ごく微量でも強い生理作用[※3]を持っています。
γ-リノレン酸は、皮膚機能の維持に必要な成分といわれ、γ-リノレン酸が不足してしまうと、水分の調節機能が正常に働かず、乾燥が起こることにより本来皮膚が持っている免疫機能が低下してしまいます。
そのため、γ-リノレン酸の不足は皮膚の炎症を招き、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。
デイヴィッド・ホロビン博士[※4]が行ったアトピー性皮膚炎の研究によって、アトピー性皮膚炎患者の血中γ-リノレン酸含有量は健常者の50%しかないことが判明し、アトピー性皮膚炎には、γ-リノレン酸が非常に重要な成分であることが明らかになりました。そのため、主にヨーロッパ(イギリス、ドイツ、フランス)では医薬品としてアトピー性皮膚炎の治療にγ-リノレン酸が用いられています。
このように様々な効果を持つγ-リノレン酸は、月見草の種子の他にカシス種子油やボラージ草(日本名:るりちしゃ)から抽出された油に含まれており、一般の食品にはあまり含まれていない成分です。
[※1:ジホモ・γ-リノレン酸とは、γ‐リノレン酸から代謝され、プロスタグランジンの材料となります。炎症を抑える効果を持っています。]
[※2:生体調節ホルモンとは、生きていく上で重要な生体機能を調節するホルモンのことです。]
[※3:生理作用とは、化学物質が生体の特定の生理的調節機能に対して作用することをいいます。]
[※4:デイヴィッド・ホロビン博士とは、医学研究者であり、企業家、そして500を超える科学論文の著者兼編集者です。多くの疾患は、適切な脂肪酸を補うことにより軽減される可能性があるとして、アトピー性皮膚炎患者に対するγ‐リノレン酸の効果を立証しました。]
月見草の効果
月見草には、γ-リノレン酸やリノール酸が含まれており、以下のような健康に対する効果が期待できます。
●生活習慣病の予防・改善効果
月見草油に含まれるγ-リノレン酸からつくられるプロスタグランジンE1には、血糖値やコレステロール値、血圧を下げる効果があります。血糖値やコレステロール値の上昇は動脈硬化や高血圧などを招くため、γ-リノレン酸の摂取は生活習慣病の予防や改善に効果があると期待されています。
また、γ-リノレン酸を継続して摂取することで中性脂肪の上昇が抑えられ、善玉(HDL)コレステロール値の低下を防ぐ働きがあることが分かっています。
代謝[※5]促進などの働きもあることからダイエット効果も期待されています。【1】【8】
●美肌効果
月見草油は、美肌効果が期待できるといわれています。月見草油に含まれるγ-リノレン酸には、皮膚細胞の防御機能を増大させて保護膜のように皮膚を守る効果があるといわれています。また、月見草油に含まれるリノール酸も豊富に含まれていることから保湿作用に優れており、美肌に対する効果が期待されています。乾燥によって角質がうろこ状に荒れてしまったような症状の改善にも有効的だという報告があります。月見草油は、経口服用することと直接肌に塗ることで相乗効果が得られると注目を集めています。【2】【7】
●アトピー性皮膚炎を改善する効果
アトピー性皮膚炎とは、アレルギー体質に様々な刺激が加わって生じる、かゆみを伴う慢性的な皮膚疾患のことです。食生活や生活環境、遺伝や人間関係、精神的なストレスなど、様々な要因が重なり合って発症するといわれています。症状としては、湿疹と強いかゆみが特徴で、患部から組織液が浸出したり、慢性化すると鳥肌だったようにザラザラとした皮膚が次第に厚くなったりします。
アトピー性皮膚炎の患者は血中γ-リノレン酸が不足しているので、月見草に含まれるγ-リノレン酸を摂取することでアトピー性皮膚炎の患者に対しての効果があると期待されています。【3】【9】
●月経前症候群 (PMS)の症状を緩和する効果
月経前症候群(PMS)とは、月経前のイライラや胸の張り、むくみ、頭痛などの症状のことを指します。これらの症状の原因は女性ホルモンのバランス異常ではないかと考えられてきましたが、近年の研究により月経前症候群の症状を訴える女性の多くは、γ-リノレン酸の血中濃度が低いことが示唆されています。
体内のγ-リノレン酸量が少なくなると、プロスタグランジンE1の働きが抑制されることにより、ホルモンバランスが乱れ、子宮内膜が正常に機能しないなどの症状が現れるといわれています。【4】
●更年期障害の症状を改善する効果
更年期とは、女性特有の症状で卵巣から分泌されるエストロゲンなどの女性ホルモンが減少し始める、閉経前後10年程の期間を指します。女性ホルモンの減少によって自律神経のバランスが崩れ、体のほてりやのぼせ、大量の汗、冷え性、肩こり、不眠といった様々な症状が発生します。
こうした更年期症状に対して、月見草油に含まれるγ-リノレン酸は生理的安定期の回復を促す作用があるといわれています。月見草油には体が備えているバランス調整機能を活発にし、健全な状態に導く効果が期待されています。【5】
●肝機能を高める効果
月見草油が肝臓機能の回復に効果があることが、臨床試験[※6]によって証明されています。スコットランドでアルコール中毒患者を2グループに分けて、一方に月見草油を投与しました。結果は投与グループでは肝臓障害に顕著な改善がみられました。
月見草油がもたらす生理作用が、肝臓の機能を強化し、機能の回復に大きく寄与しているといわれています。【6】
[※5:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※6:臨床試験とは、厚生労働省による承認前の薬剤(医薬品候補)などを、実際に、患者や健康なヒトに投与することにより、安全性(副作用の有無、副作用の種類、程度、発現条件など)と有効性(効果、最適な投与量・投与方法)を確かめる目的で行われる試験のことです。]
月見草は食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○生活習慣病を予防したい方
○美肌を目指したい方
○アトピー性皮膚炎の方
○月経前症候群(PMS)でお悩みの方
○更年期障害でお悩みの方
○お酒をよく飲む方
月見草の研究情報
【1】エルシン酸豊富な食事を取ると、コレステロールやトリグリセリドが上昇しますが、12週間γ-リノレン酸を豊富に含む月見草を同時に飲用すると、血清トリグリセリドおよびVLDLコレステロール(中性脂肪を運ぶコレステロールの一種)の増加が抑制され、HDLコレステロールの減少が抑制されました。特に心臓と肝臓でのγ-リノレン酸のはたらきが顕著でした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17938547
【2】健常人を対象に、月見草油を1日当たり1500mg の量で12週間摂取させたところ、皮膚の水分値や経皮水分損失や弾力、キメなどにおいて改善が見られました。月見草油に含まれているγ-リノレン酸が関係していると考えられ、月見草油に美肌効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18492193
【3】アトピー性皮膚炎患者25名において、月見草油を1日あたり500mg を5カ月間摂取させたところ、乾燥肌やかゆみなど皮膚症状において改善が見られたことから、月見草油にはアトピー性皮膚炎予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19052401
【4】月経前症候群に悩む女性38名を対象に、月見草油を摂取させたところ、月経前症候群の改善が見られたことから、月見草油が月経前症候群予防に役立つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2201888
【5】更年期障害女性120名を対象に、月見草油、ダミアン、ニンジンやローヤルゼリーを含むカプセルを4週間摂取させたところ、更年期障害の改善が見られたことから、月見草油には更年期障害の改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22105039
【6】ラットを対象に、月見草油を2カ月間摂取させたところ、ラット肝臓中の脂肪酸のうち、飽和脂肪酸であるパルミチン酸が減少し、対照的に不飽和脂肪酸であるオレイン酸の含量が増加しました。また肝臓中の脂肪酸量も減少が見られたことから、月見草は肝臓内の脂質状態を整え、脂肪酸を減少させることにより、コレステロール低下作用や脂肪肝予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2176271
【7】ヒトの皮膚細胞(B16黒色腫細胞)に、月見草油を投与したところ、紫外線によるメラニン産生が抑制されました。月見草油はチロシナーゼ阻害作用を持つことから、月見草油が美白作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20352496
【8】月見草油の有効成分であるγ-リノレン酸を摂取すると、早期肥満患者の体重増加が抑制されました。これはγ-リノレン酸が肥満時に、エネルギーとして使われるため、肥満予防効果を示したと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17513402
【9】γ-リノレン酸は抗炎症作用を持ち、乾燥肌や軽度のアトピー肌での炎症作用や皮膚からの水分蒸発を防ぐのに役立ちます。この働きにより、γ-リノレン酸は乾燥肌や軽いアトピー性皮膚炎でのバリア機能を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22123240
参考文献
・安斉義雄 月見草女性の悩みはこれで解決 ぱる出版
・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館
・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院
・山田豊文 植物油の事典 毎日コミュニケーションズ
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