トコトリエノール

tocotrienol

トコトリエノールは、ビタミンEの一種で、強力な抗酸化作用を持つ栄養素です。
抗酸化作用の他にも、コレステロールや中性脂肪を低下させるという特有の作用も持っています。
しわ・シミや毛穴の改善などの美容効果も持つ、「スーパービタミンE」と呼ばれる成分です。

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トコトリエノールとは

●基本情報
トコトリエノールはビタミンEの一種であり、強い抗酸化作用を持った栄養素です。
ビタミンEは「若返りのビタミン」とも呼ばれる脂溶性のビタミンですが、大きく分けるとトコトリエノール類とトコフェロール類の2つに分類されます。
トコトリエールとトコフェロールはそれぞれα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)が存在するため、ビタミンEは厳密には8種類存在することになります。

トコトリエノールはトコフェロールをしのぐ抗酸化力を持っており、トコフェロールの約40~60倍もの力を持つことから米国では「スーパービタミンE」とも呼ばれています。
トコトリエノールの発見は比較的最近で、1950年代といわれています。
トコフェロールは様々な植物油から抽出できるのに対して、トコトリエノールはパーム油やココナッツ油、米ぬか油などの特定の植物油にしか含まれていない上、その含有量はごく少量です。
トコトリエノールの摂取によって美容・健康の効果が得られるため、トコトリエノールが配合されているサプリメント(健康食品)や化粧品もあります。

●トコトリエノールの働き
トコトリエノールはビタミンEの一種であるため、強力な抗酸化作用を持っています。
抗酸化作用とは、体内に過剰に発生した活性酸素を除去する働きを指します。
活性酸素は、人間の体内でウイルスや病原体から体を守るために存在している物質ですが、ストレスや喫煙、紫外線などによって体の中で増えすぎると、たんぱく質脂質DNAを傷つけ、老化や生活習慣病の原因となってしまいます。
トコトリエノールはその強力な抗酸化作用によって、増えすぎた活性酸素を抑えるため、病気の予防や、アンチエイジング効果が期待されています。
また、トコトリエノールは細胞膜[※1]への浸透性が良く、経口摂取[※2]を行っても肌に蓄積されやすいという特徴があります。そのため、肌でも抗酸化作用を発揮し、美肌効果が期待されています。

[※1:細胞膜とは、細胞の内外を隔てる膜のことです。細胞膜があることにより、細胞内部の環境を一定に保つことができます。また特定の物質以外侵入させないためのバリア機能もあります。]
[※2:経口摂取とは、口を通して体内に取り入れることを指します。]

トコトリエノールの効果

●美肌効果
トコトリエノールの強力な抗酸化作用は、肌のしわを改善するといわれています。
肌は、皮膚表面から深部に向かって、表皮、真皮、皮下組織の3層構造で成り立っており、0.3mm程度の厚さである表皮を、厚さ2mmほどの繊維性結合組織である真皮が支えています。
肌にしわができる原因は、増加した活性酸素によって真皮の構造が破壊されることや、ハリを保つコラーゲンや、水分を保持するヒアルロン酸が加齢とともに減少することなどが挙げられます。
肌は3つの層で構成されているため、肌の層が破壊されることで肌表面に凹凸が生まれて、しわになります。
トコトリエノールが持つ抗酸化作用によって、真皮の構成を破壊する活性酸素が除去されるため、しわの予防に有効であるといわれています。
また、トコトリエノールにはヒアルロン酸を産生する作用もあるといわれています。
体の中で直接ヒアルロン酸を生成することで、真皮層の水分保持能力を高め、しわに対して効果を発揮すると考えられています。

また、トコトリエノールの摂取は、毛穴の黒ずみや毛穴の開きの改善にも有効であるといわれています。
毛穴の黒ずみが特に目立ちやすい鼻は、皮脂の分泌が多く、毛穴が開きやすい部位であるとされています。
毛穴から出た皮脂や角栓[※4]が空気に触れて酸化して黒く変色することが、毛穴の黒ずみの原因となります。
また、日常のストレスや不規則な生活習慣などで過剰に発生した活性酸素は、皮脂の酸化を促進させる大きな原因になるとされています。
トコトリエノールが持つ抗酸化作用は、活性酸素を抑え、結果として皮脂の酸化を抑制できるため、毛穴の黒ずみを改善させることに効果があると考えられています。
また、毛穴の開きには大きく2種類あり、過剰な皮脂の分泌から広がってしまうものと、加齢とともに肌の弾力が落ちることで肌がたるんで毛穴が目立つものがあります。
トコトリエノールが持つ抗酸化作用には、肌のたるみを抑える作用もあるため、加齢による毛穴の開きも改善する効果が期待されています。【1】

●美白効果
トコトリエノールは、メラニン色素の生成を抑制することによる美白効果が期待されています。
美白が損なわれる原因は、日常のストレスや紫外線などによる、肌のシミが原因のひとつであるといわれています。
シミは、紫外線を浴びた肌がメラニン色素を生成することによって生じるものです。メラニン本来の役割は、肌の奥に紫外線が入り込まないように保護することですが、たくさんつくられると日焼けやシミとなって現れます。
紫外線を浴びると、表皮中に存在するケラチノサイト[※5]という物質がメラノサイト活性化因子を放出します。
メラノサイト活性化因子は、メラニン色素を生成するメラノサイト[※6]を活性化させる働きがあるため、紫外線を多量に浴びるとメラニン色素が過剰に生成され、シミをつくり出すのです。
トコトリエノールはシミの生成に対して、メラノサイト活性化因子の放出を抑え、メラノサイトがメラノサイト活性化因子を受け取ることを抑えるように働きます。さらに、メラノサイト自体の働きも妨げる作用があり、これらの働きによって、トコトリエノールはシミの原因であるメラニン色素の生成を抑制することができると考えられています。

●コレステロール値を下げる効果
トコトリエノールには、コレステロール値を下げる効果があると期待されています。
これは、一般的なビタミンE(α-トコフェロール)にはない、トコトリエノール特有の効果です。
コレステロールは三大栄養素のひとつである脂質の一種で、ホルモンの原料になったり、消化液の胆汁酸の材料となる、人体にとって本来は欠かせない成分です。
しかし、コレステロールの中でも悪玉(LDL)コレステロールが増加すると、血管内壁に付着して動脈硬化を引き起こす原因となります。
トコトリエノールには、コレステロールの生成を抑制する働きがあるといわれています。
コレステロールは食事からも摂取されますが、主に肝臓など、人間の体内で生成される物質です。
トコトリエノールは、コレステロールの生成に関与している酵素に作用し、過剰なコレステロールの生成を止める働きがあります。また、コレステロール値が正常な場合には特に低下させることはありません。
トコトリエノールのコレステロールに対する効果を調べるために、36人の高脂血症患者を対象として、米国心臓協会(AHA)で定められている食餌療法(しょくじりょうほう)[※7]を8週間行った後、4週間トコトリエノールを摂取させた調査事例もあります。その結果では、コレステロール値が13%低下したことが認められました。【2】【5】【8】

●動脈硬化を予防する効果
動脈硬化とは、動脈が硬くなったり、内壁に脂質などが付着して狭くなる症状を指し、その主な原因は悪玉(LDL)コレステロールです。
悪玉(LDL)コレステロールが過剰に増加すると、血管の内壁に取り込まれて酸化し、酸化LDLコレステロールというコレステロールへと変性します。
酸化LDLコレステロールは血管の内壁中で、体内の掃除役を担っているマクロファージ[※8]に取り込まれます。
マクロファージは取り込みすぎた酸化LDLコレステロールによってふくらみ続けると、内壁を隆起させる粥状物質のアテロームプラーク[※9]という物質へと変化し、血液の流れを悪化させます。
トコトリエノールには、コレステロールが過剰に生成されることを抑制する作用があるため、悪玉(LDL)コレステロール自体の生成を抑えることができるのです。
また、トコトリエノールは抗酸化作用によって、悪玉(LDL)コレステロールの酸化を予防することができます。
さらに、トコトリエノールはマクロファージが必要以上に生成されることを食い止める作用も持ちます。
トコトリエノールが持つこれら3つの相互作用によって、動脈硬化を予防することができるのです。【3】【5】

[※3:皮脂とは、皮脂腺から毛や表皮の表面に分泌される分泌物です。]
[※4:角栓とは、毛穴付近の古い角質や、毛穴の中でつくられる皮脂が混ざり合って溜まった物質です。]
[※5:ケラチノサイトとは、皮膚を構成する主要な細胞のひとつです。成長や分裂することによって性質が変わる細胞です。]
[※6:メラノサイトとは、皮膚を構成する主要な細胞のひとつです。メラニンを生成する機能を持っています。]
[※7:食餌療法とは、食事の成分や量を調節することによって病気の治療をはかる治療方法のことを指します。]
[※8:マクロファージとは、白血球の一種です。免疫機能を担う細胞のひとつで、生体内に侵入したウイルスや細菌、または死んだ細胞を捕食し、消化する働きを持ちます。]
[※9:アテロームプラークとは、動脈の内側に発生する、粥状の隆起を指します。カルシウムや、マクロファージなどの死細胞、コレステロールなどが蓄積した固まりです。]

トコトリエノールは食事やサプリメントで摂取できます

トコトリエノールを含む食品

○パーム油
○ココナッツ油
○米ぬか油
○大麦油

こんな方におすすめ

○肌のハリや弾力を保ちたい方
○毛穴の黒ずみや開きでお悩みの方
○美肌を目指したい方
○コレステロール値が気になる方
○動脈硬化を予防したい方

トコトリエノールの研究情報

【1】d-αトコトリエノールは、d-αトコフェロールよりも40-60倍のマウス肝ペルオキシダーゼ脂質過酸化に対する抗酸化作用を有しています。ESR法によってd-αトコトリエノールが高い抗酸化能を有する理由について調べたところ、その理由は3点考えられました。(i) ラジカル補足後のリサイクル効果が強いこと、(ii)膜二重層に分布していること、そして(iii) 膜脂質に不規則に分布していることです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1649783

【2】Palmviteeおよびトコトリエノールのコレステロールに対する鎮静効力を高コレステロール患者で評価しました。4週間の食事療法で36名のコレステロール値を5%減少させました。Palmvitee-そしてγトコトリエノールの投与は、コレステロールを減少させます。第2群の対象は、4週間200 mgガンマトコトリエノールを摂取しました。第2グループでの16例のコレステロール値は、4週間で13%低下しました。このことから、トコトリエノールエノールの摂取はコレステロール値を下げる働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8614309

【3】Palmvitee (抗酸化物質であるα‐トコトリエノール、α‐トコフェロール、ガンマ-トコトリエノールを含む)摂取による頚動脈のアテローム性動脈硬化症、酸化防止剤特性について調査しました。血清脂質、脂肪酸の過酸化、血小板凝集および頚動脈狭窄は、脳血管疾患による50例18カ月で測定しました。投与群はチオバルビツール酸反応を1.08から0.8まで減少しました。この結果から、トコトリエノールのような抗酸化物質が頚動脈アテローム硬化の過程に影響する可能性があることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8614310

【4】グルタミン酸誘発‐HT4海馬の神経細胞死に対するトコフェロールおよびトコトリエノールの効果を比較しました。トコトリエノールは、グルタミン酸誘発死を防ぐことにおいてαトコフェロールより有効であることがわかりました。培養培地からの取り込みはαトコフェロールよりもトコトリエノールの方が、効率が良いことがわかりました。また、グルタミン酸過剰投与誘発アポトーシスは、トコトリエノール投与により、c-Srcキナーゼの活性化を防ぐことで阻害することができました。このことから、低濃度でもトコトリエノールが抗酸化独立メカニズムにより細胞を保護する可能性があることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10777609

【5】トコトリエノール(T3s)は強力なビタミンE抗酸化活性を有します。α(13例)、γ(12例)、δ(13例)‐トコトリエノール、またはプラセボ(13例)を250mg/日投与しました。各T3血漿濃度は、α(0.98μM)、γ(0.54μM)、δ(0.09μM)-T3でした。In vitro試験においてαT3はLDL酸化耐性を有し、酸化される速度も低下しました。しかし、LDLコレステロール、アポリポタンパクBの減少は見られませんでした。これらのことから、1)T3の摂取は、ヒトの血漿で吸収され、2)コレステロール値を下げない、3)LDLコレステロールの酸化を抑える働きがあることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11063909

【6】抗酸化特性は、α-、β-、γそしてδトコフェロールおよびトコトリエノールに対して比較しました。1)トコフェロールおよびトコトリエノールは、両方とも脂質過酸化とリポソーム膜に対する抗酸化活性の反応性を示しました。2)トコフェロールは、トコトリエノールよりも細胞での物理学的作用を与えました。3)トコフェロール、トコトリエノールは膜内でよく似た動きを示しましたことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12637165

【7】αトコトリエノール(α-T3)およびアルファトコフェロール(α-T)のフリーラジカル誘発細胞損傷に対する作用について比較しました。マイクロチャネルによって赤血球変形能を測定しました。α-Tまたはα-T3を備えた赤血球は脂質過酸化による赤血球変形能の障害を抑制しました。α-T3の防護効果は、α-Tより有意に高いことがわかりました。このことから赤血球膜へのαT3活性が酸化に対する防御だと考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11999415

【8】TNF α刺激のもと、αトコトリエノール(α T3)および他のビタミンE誘導体によるヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)対する細胞接着分子発現の影響を検証しました。ELISAを用い、αT3投与がTNFα誘発‐内皮細胞の血管細胞接着分子の表面発現を阻害したことがわかりました。α T3が血管内皮に及ぼす作用を評価するため、内皮細胞に付着する単球の能力を調べた結果、単球結合は63%減少していたことがわかりました。これらのことから、 αT3が細胞接着分子発現と単球系細胞接着能の減少における強力な薬剤および効果的な薬剤であると、示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11755919

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参考文献

・日経ヘルス サプリメント大事典 日経BP社

・Serbinova E, Kagan V, Han D, Packer L. (1991) “Free radical recycling and intramembrane mobility in the antioxidant properties of alpha-tocopherol and alpha-tocotrienol.” Free Radic Biol Med. 1991;10(5):263-75.

・Qureshi AA, Bradlow BA, Brace L, Manganello J, Peterson DM, Pearce BC, Wright JJ, Gapor A, Elson CE. (1995) “Response of hypercholesterolemic subjects to administration of tocotrienols.” Lipids. 1995 Dec;30(12):1171-7.

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