とちの実とは
●基本情報
とちの実のなるトチの木ははトチノキ科トチノキ属の落葉高木です。北海道から九州にかけて日本全国に分布しており、低い山の渓流に近い肥えた土地に育ちます。木の高さは15mから20mくらいで、楕円状の大きな葉が5枚から7枚ほどで、手のひらの形に見えるような形でついています。開花時期は5月~6月で、白い大きな花が天に向かって咲くので、遠くからでも見られます。実の収穫は10月~11月にかけて行われます。実は3cmほどの果実の中に2、3個入っています。主成分はでんぷんです。
●とちの歴史
とちの実は漢字で書くと「栃の実」となりますが、栃が語源となった言葉がいくつかあります。その中でも「とちる」という言葉がありますが、これは何か失敗したり慌てふためいたりすることに用いられます。言葉の由来には諸説ありますが、とちの実はデンプンをたくさん含んでおり、昔からうどんなどに練りこまれて食されていました。しかし、とちの粉を入れると堅くなる時間が大変短くなり、急いで伸ばさないと麺にできないため慌てて麺棒を動かさなくてはなりませんでした。これをみた人が滑稽に感じ「とちめく」という言葉ができ、現在の「とちる」という短縮形になって知られているとのことです。
●とちの実に含まれる成分と性質
昔、米があまり採れなかった地域では主食として使用されてきました。サポニンやタンニンを含んでおり、苦みや渋みを感じますが、これらの成分が私たちの健康のために有効な成分とされています。サポニンは天然の界面活性剤で泡をつくる性質があります。サポニンにはコレステロールや中性脂肪を抑える効果があります。また、殺菌効果があり、古くからダニやシラミ退治に使われていました。さらには、かゆみや湿疹が改善することも確認されています。一方タンニンはポリフェノールの一種で、抗酸化作用を持っています。便を硬くする効果があるので、下痢にも用いられます。
サポニンとタンニンはどちらも渋みや苦みがあるため、とちの実をそのまま食べることはできないため、アク抜きをして使用します。あく抜きをしたほろ苦い風味のものをとち餅やとちの実せんべい、お茶など、様々な方法で使われています。ミネラルの一種であるカリウムも豊富で、血圧を安定させる働きも期待できます。
<豆知識>生活の中でのトチ
とちの実をつくるとちの木は栃木県の県木であり、宇都宮市の県庁前にはとちの木が並木として植えられています。とちの花はミツバチも好み、とちの蜂蜜も全国で生産されています。もともと日本在来のとちの木は、日本固有の種で、海外に育つとちの木とは少し見た目に違いがあります。日本のとちの実にはとげがなく、西洋に育つとちの実には短く鋭いとげがあります。
とちの実の効果
●肌の調子を整える効果
苦みのもととなるサポニンやタンニンは皮膚のトラブルを助けます。サポニンの多く含まれる種子は、乾かして粉末にし、しもやけに塗ったりお米と混ぜて腫れ物に貼り付けたりして利用されてきました。タンニンを多く含む樹皮は日干し保存し、煎液[※1]を服用します。この煎液は水虫にも外用されてきました。特に効果を発揮するのは、寄生性皮膚病に対してで、春先の若葉の粘液はそのまま塗ります。葉に含まれる成分は植物病原菌に対して抗菌性をもつ物質である上、殺菌効果も期待できます。
●血糖値の上昇を抑える効果
とちの実に含まれるポリフェノールは糖質をブドウ糖に分解するアミラーゼなどの酵素を阻害する働きがあります。そうすることで、糖質の吸収が抑制され、血糖値の上昇も抑えられます。また、脂肪を分解するリパーゼを阻害するので、脂肪の吸収を抑える働きもあります。【1】【2】
●活性酸素を除去する効果
老化の原因ともいわれる酸化を防止するパワーがあります。とちの実に含まれるポリフェノールは高い抗酸化力[※2]を持っていることが研究でわかっています。
●胃の健康を保つ効果
中国では、お腹を穏やかにする効能から漢方として重宝されています。主な薬効としては“お腹を穏やかにし、気を整える。また、冷えから来るお腹の痛み、腹部膨満感を治す”といわれています。とちの実の乾燥粉末を服用することで、胃痛に効くといわれています。樹皮を煎じ薬として服用すると痔や子宮出血に効果があります。【3】
[※1:煎液とは、ハーブや生薬などに水を注ぎ、加熱して布ごしした内服用の液体のことです。]
[※2:抗酸化力とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ力です。]
とちの実はこんな方におすすめ
○湿疹やしもやけを予防したい方
○おなか周りの脂肪を減らしたい方
○胃の健康を保ちたい方
とちの実の研究情報
【1】高脂肪食摂取マウスを対象に、とちの実抽出物(サポニン成分)を8週間摂取させたところ、体重、脂肪組織量、血中脂質の増加が緩やかになり、また膵臓リパーゼの活性が阻害されていたことから、とちの実は抗肥満効果および高脂血症予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18512932
【2】マウスを対象に、とちの実のサポニン成分(エスシン)を11週間摂取させたところ、脂肪組織重量および肝臓のトリアシルグリセロール、総コレステロールの増加が抑制されたことから、とちの実は抗肥満作用ならびに高脂血症予防効果を持つことが期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18175967
【3】とちの実は炎症関連酵素COXを阻害するはたらきが知られています。とちの実に含まれる脂肪酸であるリノール酸、リノレン酸、オレイン酸が上記のはたらきを示すことが確認されており、とちの実は抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17675801
参考文献
・蔵敏則 著 食材図典 小学館
・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社
・Kimura H, Ogawa S, Katsube T, Jisaka M, Yokota K. (2008) “Antiobese effects of novel saponins from edible seeds of Japanese horse chestnut (Aesculus turbinata BLUME) after treatment with wood ashes.” J Agric Food Chem. 2008 Jun 25;56(12):4783-8.
・Hu JN, Zhu XM, Han LK, Saito M, Sun YS, Yoshikawa M, Kimura Y, Zheng YN. (2008) “Anti-obesity effects of escins extracted from the seeds of Aesculus turbinata BLUME (Hippocastanaceae).” Chem Pharm Bull (Tokyo). 2008 Jan;56(1):12-6.
・Sato I, Kofujita H, Tsuda S 2007 “Identification of COX inhibitors in the hexane extract of Japanese horse chestnut (Aesculus turbinata) seeds.” J Vet Med Sci. 2007 Jul;69(7):709-12.