スレオニンとは?
●基本情報
スレオニンは体内で合成することができない必須アミノ酸[※1]の一種で、人間や動物の成長に関わる成分です。
スレオニンは、自然界に存在する500種類以上のアミノ酸の中で、人間のたんぱく質を構成する20種類のうちのひとつです。またスレオニンは飼料用の穀物に添加され、家畜の飼料に不足しがちな必須アミノ酸を補って栄養価を上げる役割もしています。
スレオニンの日本名については、英語でthreonineと表記するため、読み方の違いで「スレオニン」と「トレオニン」の2通り存在します。
●スレオニンの歴史
1935年にアメリカのローズ(W.C.Rose)らが、血液のフィブリン[※2]の加水分解物[※3]からスレオニンを発見しました。ローズらはこれ以前に発見されていた19種類のアミノ酸を与えて飼育した白ネズミの体重が急激に減少していることに着目しました。この白ネズミにカゼイン[※4]や膠(にかわ)[※5]のようなたんぱく質を少し加えるとよく成長したため、すでに発見されている19種類以外にもアミノ酸が存在するのではと考え、スレオニンの発見に結びつきました。スレオニンは、人間のたんぱく質を構成する20種類のアミノ酸の中で最後に発見されました。
●スレオニンの働きと性質
スレオニンは成長を促進したり、肝臓に脂肪が蓄積するのを抑制する効果があります。また、コラーゲンを合成する際の材料として使用されるため、肌のハリを保つ効果があります。スレオニンは糖原性と呼ばれる性質を持ち、体内でグルコースを生成する際の材料にもなり得るアミノ酸です。グルコースは、人間が生きる上で必要なエネルギー源で、体を動かしたり、脳の栄養素となったりします。
スレオニンは医薬品としても使用されることがあり、低たんぱく質血症、低栄養状態、手術前後のアミノ酸の補給のために静脈注射、または点滴、経口摂取[※6]によって投与されています。
●スレオニンを含む食品
スレオニンは、体内で生成することができないため、食事から摂取する必要があります。
スレオニンは鶏肉や卵、七面鳥、ゼラチンなどの動物性たんぱく質に多く含まれている成分のため、主に野菜や穀物を食べるベジタリアンの方は不足しがちです。
スレオニンを効率的に摂取するには、一般的に焼き魚よりも煮魚のほうが良いといわれています。煮魚の場合、魚の身だけでなく骨から溶けだしたゼラチン質からもスレオニンを摂取できるためです。
●スレオニンの過剰症・欠乏症
スレオニンを過剰に摂取した場合は、胃腸障害や頭痛になるといわれています。しかしスレオニンは日常の食事では、基本的に過剰になる心配はないといわれています。
またスレオニンが不足すると、食欲不振や貧血、体重の減少などを引き起こします。1日に必要とされる量は約0.5gだとされています。
<豆知識>飼料に活躍するアミノ酸
スレオニンなどのアミノ酸はたんぱく質を構成する成分であるため、豚や鶏などの畜産動物にも必要な栄養素です。しかし、畜産動物はエサとなる植物中のたんぱく質からしかアミノ酸を得ることができません。
畜産動物の飼料となるとうもろこしや小麦などの穀物に含まれるアミノ酸は、スレオニンやリジン、メチオニン、トリプトファンなどの必須アミノ酸が不足しています。
9種類の必須アミノ酸のうち、どれか一種類でも不足していると、アミノ酸は十分に働くことができません。そのため足りないアミノ酸を飼料に添加することで、アミノ酸の栄養価が大きく高まります。例えば、小麦にリジンとスレオニンを添加すると、飼料中のたんぱく質の栄養価は50%も改善します。このような飼料へのアミノ酸の添加は1950年代から始まりました。スレオニンの添加が実用化されたのは1987年と比較的最近のことです。
[※1:必須アミノ酸とは、動物の成長や生命維持に必要であるにも関わらず体内で合成されないため、食物から摂取しなければならないアミノ酸のことです。バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類が存在します。]
[※2:フィブリンとは、血液が凝固するときに生成され、傷口をふさぐたんぱく質です。]
[※3:加水分解物とは、反応物における水の反応によって、得られた分解物を指します。]
[※4:カゼインとは、牛乳の80%を占める栄養価の高いたんぱく質です。]
[※5:膠(にかわ)とは、動物の皮や骨を煮出して固めたものです。古くから接着剤などとして使われ、現在でもマッチの火薬を固めるのに用いたり、バイオリンなど弦楽器をつくる時の接着剤として用いられています。]
[※6:経口摂取とは、口を通して体内に取り入れることを指します。]
スレオニンの効果
●脂肪肝の予防効果
肝臓に中性脂肪が蓄積すると、脂肪肝を引き起こします。脂肪肝とは脂肪の多い食事やアルコールの飲みすぎなどが原因で、肝細胞の30%以上に中性脂肪が蓄積されている状態のことをいい、この状態が長期間続くと、動脈硬化などの生活習慣病につながる危険性があります。
スレオニンは代謝を促すことによって肝臓への脂肪蓄積を防ぎ、脂肪肝を予防する効果があります。
●成長を促進する効果
スレオニンは、新陳代謝を促し新しい細胞をつくり出すことで、成長を促進する効果があります。身体の各機能が正常に発達するように促します。
●胃炎を改善する効果
スレオニンには胃炎を改善する効果があります。胃炎は飲みすぎや食べすぎ、アレルギーなどで胃の粘膜に炎症が起こることをいいます。スレオニンは胃酸の分泌のバランスを調整する働きがあるため、胃炎を予防する効果があり、食欲を増進させます。
●美肌効果
スレオニンは、肌の潤いを保つ天然保湿成分(NMF)にも存在します。
肌は表面から角質層、表皮層、真皮層に分かれます。角質層がウイルスや細菌などの異物から体を守り、肌のダメージを抑えます。その上、肌の水分が逃げないように水分を保持してくれます。
角質層の細胞はケラチン繊維[※7]と線維間物質から構成されており、線維間物質に肌の潤いを保持する天然保湿成分(NMF)が存在します。スレオニンをはじめとするアミノ酸は、天然保湿成分(NMF)の約40%を占めています。肌荒れを起こしやすい人は角質層に含まれるアミノ酸が不足しているという研究結果もあります。
スレオニンは、体内でコラーゲンを合成する際の材料となります。コラーゲンは、肌の真皮に存在し、ハリや潤いを保つ役割を担っています。これらのことから、スレオニンの積極的な摂取で肌の健康状態を保つ効果が期待できます。
●髪の潤いを保つ効果
スレオニンは髪の潤いを保ち、ハリを出す効果があります。
毛髪は主にケラチンと呼ばれるたんぱく質から構成されています。ケラチンはスレオニンを含む18種類のアミノ酸から構成されています。ケラチンを構成するアミノ酸の中には、食事からしか摂取できない必須アミノ酸もあるため、偏った食事は髪の毛の美しさまで損なわせてしまいます。
ケラチンを構成するアミノ酸のひとつであるスレオニンは髪の潤いとハリをつくるために必要な成分です。
[※7:ケラチン繊維とは、肌の角質層に存在するハリと弾力を保つ物質です。]
スレオニンは食事やサプリメントで摂取できます
スレオニンを含む食品
○鶏肉
○七面鳥
○さつまいも
○栗
○脱脂粉乳
○ゼラチン
こんな方におすすめ
○肝臓の健康を保ちたい方
○成長期のお子様
○肥満を予防したい方
○胃の健康を保ちたい方
○美肌を目指したい方
○髪の潤いを保ちたい方
スレオニンの研究情報
【1】二重盲検プラセボ比較クロースオーバー試験での検討で、L-スレオニン6 gを1日に摂取させることによって、脊髄痙縮の症状を緩和し、この症状に対するスレオニンの有効性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8296531
【2】妊娠中の豚のえさにリジンとスレオニンを添加した影響を調べた結果、リジンは豚の体を作る第一制限アミノ酸であると仮定され、スレオニンは、IgGを作る時の第一制限アミノ酸となることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6425257
【3】遺伝性痙縮症候群が見られる患者6名に、12ヵ月間にわたってスレオニンを500mg/日摂取させることで、筋肉のけいれん、大腿四頭筋反射強度に部分的改善が示されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6809303
参考文献
・櫻庭雅文 アミノ酸の化学 その効果を検証する 講談社
・船山信次 アミノ酸 タンパク質と生命活動の化学 東京電機大学出版局
・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社
・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社
・Lee A, Patterson V. 1993 “A double-blind study of L-threonine in patients with spinal spasticity.” Acta Neurol Scand. 1993 Nov;88(5):334-8.
・Cuaron JA, Chapple RP, Easter RA. 1984 “Effect of lysine and threonine supplementation of sorghum gestation diets on nitrogen balance and plasma constituents in first-litter gilts.” J Anim Sci. 1984 Mar;58(3):631-7.
・Barbeau A, Roy M, Chouza C. 1982 “Pilot study of threonine supplementation in human spasticity.” Can J Neurol Sci. 1982 May;9(2):141-5.