大棗(たいそう)/ナツメ

大棗とは、ナツメの成熟した果実を乾燥させた生薬のことです。カリウムなどのミネラル類、葉酸などのビタミンB群、食物繊維、サポニンなどが豊富に含まれており、体を温める効果や滋養強壮、高血圧予防など多岐にわたる効果が期待されています。

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大棗(たいそう)とは?

●基本情報
大棗(たいそう)とは、クロウメモドキ科のナツメの成熟した果実を乾燥させた生薬[※1]のことです。大棗は、最も親しまれている漢方薬のひとつである葛根湯(かっこんとう)[※2]や甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)[※3]の配合成分として重要な役割を果たしています。また、甘味を持つことから、苦みの強い漢方薬と組み合わせるなど多くの漢方処方に使われています。
大棗は緊張をやわらげる効果や滋養強壮効果、補血効果などが知られており、筋肉の緊張や神経過敏、咳や体の痛みをやわらげる働きがあります。

●ナツメについて
大棗のもととなるナツメの果実は、中国で古くから桃や李、杏、栗と共に「五果」として数えられ珍重されてきました。日本には奈良時代には伝わったとされており、日本に現存する最古の和歌集である「万葉集」にも記載されています。
ナツメは4月~5月に淡緑色の小さい花を咲かせ、5月~10月にかけて楕円形の果実を実らせます。ナツメの果実は未熟なうちは淡緑色ですが熟すにつれて暗赤色になります。果実を夜露にあて日にさらし干したものを紅棗(こうそう)、紅棗を蒸してさらに干し、しわと黒味が帯びたものが大棗(黒棗)とされています。大棗は生薬として、紅棗は食用として市場に多く出回っています。
ナツメは市場では主にドライフルーツとして目にすることが多いですが、ナツメの果実が実る秋の季節には生で食べることもでき、りんごのような食感と甘酸っぱい味わいが特徴です。また、「1日に3個食べれば歳をとらない」といわれるほど高い栄養価を持つことも特徴のひとつです。

ナツメの果実は薬用だけでなく食用としても注目されており、中国や韓国などで縁起の良い食べ物として珍重されています。韓国では薬膳料理[※4]として日本でもよく知られるサムゲタンの材料に使用されています。また、ナツメとピーナッツを黒砂糖で調味したスープは、慢性肝炎や肝硬変の病状を改善する治療薬膳のひとつとされています。
日本や中国ではもちろんのこと、インドの伝統医学アーユルヴェーダ[※5]でも、ナツメの果実が治療に使われています。

<豆知識①>ナツメの葉の不思議
ナツメの葉には、甘味だけを消す特殊な作用があります。ナツメの葉を口の中で1~2分程よく噛んで吐き出した後に砂糖をなめると、甘味は感じられず砂の粒をなめているような感覚になります。この作用は塩味や酸味など他の味覚に変化はなく、甘味のみに働きます。これは、ナツメの葉に甘味受容体だけをブロックする働きを持つ「ジジフィン」という成分が含まれているためであると考えられています。

●大棗の原産地・生産地
ナツメの原産地は南ヨーロッパ、または西南アジアといわれています。現在では中国や韓国、台湾などで盛んに生産されており、他にも南西ヨーロッパで生産されています。日本では東北地方や関西地方、中国地方などのごく一部の地域で生産されています。

●大棗に含まれる成分と性質
大棗には、カリウムカルシウムなどのミネラル類葉酸ナイアシンなどのビタミンB群、食物繊維などが豊富に含まれています。
近年、女性に大切な栄養素として注目されている葉酸は「造血のビタミン」とも呼ばれ、造血や細胞の生まれ変わりに関わり、胎児の発育に必要不可欠な成分であると考えられています。胎児が発育する妊娠中の女性や、乳幼児期、成長期の子どもに特に必要な栄養素とされ、厚生労働省によって妊娠中は妊娠していない時の2倍近い量の葉酸の摂取が推奨されています。

その他にも、大棗にはサポニンが豊富に含まれています。
サポニンとは植物に含まれているステロイド、あるいはトリテルペンの配糖体の一種で、植物の苦みや渋みのもととなる成分です。【1】

[※1:生薬とは、天然に存在する薬効を持つ産物から、有効成分を精製することなく体質の改善を目的として用いる薬の総称です。]
[※2:葛根湯とは、風邪のひき始めや肩こりなどに用いられる漢方薬のことです。]
[※3:甘麦大棗湯とは、心身の興奮状態を鎮める働きがあるといわれ、夜泣きやひきつけに使われる漢方薬のことです。一般的に、女性や子どもに用いられます。]
[※4:薬膳料理とは、健康保持のための食事として、中国の医食同源(薬食同源)の考えから生まれた漢方薬の材料を使った中国料理のことです。]
[※5:アーユルヴェーダとは、インドで古くから語り継がれている東洋医学のひとつです。「予防医学」の考え方を重視し、世界保健機構(WHO)が正式に奨励している医学です。]

大棗(たいそう)の効果

大棗には、カリウムなどのミネラル類、葉酸などのビタミンB群、食物繊維、サポニンなどが豊富に含まれており、以下のような健康に対する効果が期待されています。

●体を温め、冷えを改善する効果
​大棗は生薬として、体を温め筋肉や神経の緊張を緩和させる働きがあると考えられています。
筋肉の緊張による体の痛みや、神経の過敏症を抑えてくれます。消化不良やお腹の膨満感改善に効果があるといわれています。また、女性の更年期障害や月経痛の改善にも用いられています。
さらに、血流を整え冷え性の改善や利尿作用などが期待され、利用されています。

●鎮痛・鎮静効果
大棗の「緊張をやわらげる作用」は、筋肉が急に緊張することによって起こる疼痛をやわらげます。また、過敏になった神経の高ぶりを抑えることによっても痛みを取ります。
大棗は、さまざまな漢方薬の薬効の調整役として、多くの漢方薬に調合されています。【1】

●発育を促し、成長を助ける効果
大棗に含まれる葉酸には、核酸がうまく働くためのサポートをする働きがあります。
人間は約60兆個の細胞からできており、常に細胞の生まれ変わりが行われています。核酸は細胞の生まれ変わりをコントロールする重要な物質です。葉酸が不足すると核酸がうまく働かなくなり、細胞の生まれ変わりが正しく行われなくなります。
特に細胞増殖が最も盛んに行われる胎児期や幼児期の、健全な発育のために重要な栄養素です。
成人にとっても、腸管や口腔内、舌などの粘膜は細胞の生まれ変わりが早く、葉酸が不足すると炎症が起きるなどすぐに影響が出ます。葉酸を摂取することによって、皮膚や粘膜を強化し健康維持に役立ちます。

●貧血を予防する効果
大棗に豊富に含まれる葉酸は、赤血球をつくるために欠かせない成分です。赤血球は、呼吸をした際に肺にとり込まれた酸素を全身に運ぶ役割を果たしています。赤血球の量が減ると、細胞に供給される酸素が不足するため、顔が青白くなる、少し動いただけでも息切れがする、動悸が起こる、疲れやすくなる、立ちくらみがするなどの貧血症状が引き起こされます。
大棗には、鉄と協力して赤血球を形成する働きを持つ葉酸が豊富に含まれているため、貧血の予防・改善に適した果実であると考えられています。

●むくみを予防・改善する効果
大棗に含まれるカリウムには、体内の余分な水分を排出する働きがあります。そのため、大棗には細胞間に溜まる水分が原因で起こるむくみの予防・改善に効果があるといわれています。

●高血圧を予防・改善する効果
大棗にはカリウムが豊富に含まれています。
カリウムは体内でナトリウムとバランスを取り合って、血圧を正常に保つ働きをしています。
味の濃い食事などによって過剰に塩分を摂り続けると血液中のナトリウムが増え、高血圧を引き起こす原因となります。大棗にはナトリウムを体外に排泄する働きを持つカリウムが含まれているため、高血圧の予防・改善に効果が期待されています。

●便秘や下痢を解消する効果
大棗には食物繊維が豊富に含まれており、腸内の善玉菌[※6]を増やし、腸の調子を整える働きがあります。また、強い粘性を持っており、腸内の有害物質を吸着させて一緒に体外に排泄する働きもあります。
その他にも、大棗に含まれるサポニンには腸を刺激し便通を良くする働きがあります。そのため、これらの働きを持つ大棗には、便秘や下痢の解消に効果があります。【2】

[※6:善玉菌とは、腸内へのウイルスや毒素の進入を防ぐなどの働きをする腸内細菌のことです。ビフィズス菌やラブレ菌、乳酸菌などが善玉菌にあたります。]

大棗(たいそう)は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○冷え性を改善したい方
○血流を改善したい方
○風邪をひきやすい方
○胃腸の健康を保ちたい方
○胃もたれを感じる方
○貧血でお悩みの方
○血圧が高めの方
○お腹の調子を整えたい方

大棗(たいそう)の研究情報

【1】マウスに、ナツメ(大棗)を0.5, 1、2g/kg を摂取させたところ、うつ症状に改善が見られたことから、ナツメ(大棗)に抗不安作用や鎮静作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10996283

【2】慢性便秘患者37名を対象に、ナツメ(大棗)抽出物を12週間摂取させたところ、排便までの期間が短縮したことから、ナツメ(大棗)に便秘改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19142004

【3】ナツメ(大棗)の果実には抗酸化力の強いプロアントシアニジンB2やエピカテキン、ケレセチン、ケンフェロールが含まれています。一方、ナツメ(大棗)の種子には、サポナリン、サピノシン、ビテキシン、ヒドロキシベンゾイルスピノシン、フェルオイルスピノシンなどが含まれており、高い機能性を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21574660

参考文献

・Peng WH, Hsieh MT, Lee YS, Lin YC, Liao J. (2000) “Anxiolytic effect of seed of Ziziphus jujuba in mouse models of anxiety.” J Ethnopharmacol. 2000 Oct;72(3):435-41.

・Naftali T, Feingelernt H, Lesin Y, Rauchwarger A, Konikoff FM. (2009) “Ziziphus jujuba extract for the treatment of chronic idiopathic constipation: a controlled clinical trial.” Digestion. 2008;78(4):224-8.

・Choi SH, Ahn JB, Kozukue N, Levin CE, Friedman M. (2011) “Distribution of free amino acids, flavonoids, total phenolics, and antioxidative activities of Jujube (Ziziphus jujuba) fruits and seeds harvested from plants grown in Korea.” J Agric Food Chem. 2011 Jun 22;59(12):6594-604.

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