芍薬(しゃくやく)

paeonia lactiflora
シャクヤク

牡丹の花によく似た可憐で美しい花を咲かせる植物です。古くから婦人病によい生薬として用いられています。多くは鑑賞用として植えられており、寒さに強く牡丹と並んで江戸時代から庭の草花に植えて親しまれてきました。花は美しい女性のたとえにも使われ、根っこは漢方となる万能植物です。

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芍薬(しゃくやく)とは

●基本情報
芍薬は、ボタン科ボタン属の多年草で高さは約50~90cmです。葉は複葉で5月~初夏に大型の紅・白・ピンクなどの牡丹によく似た花を咲かせ、香りをもちます。牡丹が「花王」と呼ばれるのに対し、芍薬は「花相」と呼ばれ、樹木である牡丹に対し、芍薬は冬になると地上部の茎葉が枯れて根の状態で休眠するため「草」に分類されます。
草本であるため、冬には枯れるのが特徴です。
花の形は「一重咲き」「八重咲き」「翁咲き」などの種類があり、株分けで増やすことが一般的です。
鑑賞用としてはもちろん花びらはハーブに、優雅な香りは香水やフレグランスになります。
漢方をつくるときは根を使用します。

●芍薬の特徴
芍薬は、ボタン科の草花で牡丹とよく似た花を5月頃に咲かせますが根の部分を乾燥させ生薬として用います。芍薬は様々な色の花をつけます。
芍薬の有効成分はペオニフロリンと呼ばれる成分で鎮痛、鎮静作用を持ち、筋肉に緊張をやわらげたり血管の働きを良くするといった効果があります。主に冷えや貧血、生理の不調など女性の症状に働きかけます。
漢方として根がよく利用され、花は大輪の豪華な花を咲かせます。

●芍薬の産地
芍薬の原産地はアジア北陸北東部や中国北部からシベリア南部にかけてです。それらの地域ではエビスグサ(夷草)やヌミグスリといった別名もあります。
日本においては江戸時代に鑑賞用としてもちいられ、品種改良も行われた古典園芸植物です。
現在は長野県や新潟県、奈良県などで薬用の使用目的で栽培されています。

●芍薬の歴史
紀元前5世紀頃の中国ですでに園芸植物として栽培されていたという記録もあり、中国の薬物書の古典「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」にも芍薬の効能は記載されていたことから、鑑賞用の植物としてではなく生薬として昔から重宝されてきたことがわかります。中国では宋代には育種が始まり、日本では平安時代に渡来し薬用として利用されはじめました。
室町時代に花が鑑賞の対象となり江戸時代には園芸植物として確立し多くの品種が生み出されました。
日本で改良された芍薬は花が大きく、花びらの重なりが厚くゴージャスなものが多いことに対し、ヨーロッパやアメリカで改良された芍薬はやや小振りで花色が豊富でモダンな雰囲気があり、コンテナ植えなどに適しています。品種改良が盛んになされていたこともあり、花色や咲き方は非常に豊富です。

●芍薬のことわざ
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」ということわざは、古くから美人のたとえとしてよく知られています。牡丹は枝が分岐して横に広がることから座った女性に表現されています。
これらの植物は全て婦人病の薬草です。美しい女性を例えるだけでなく、女性の魅力を引き出してくれる美人をつくる薬草として親しまれてきました。芍薬は枝が分岐せずに上に伸びることからすらりとした美しい女性に表現されたようです。見た目を形容しているだけでなく、芍薬、牡丹、百合が薬草として特に女性の健康に役立つことを考えるとこの3つの花のたとえは外見が優美で端正なだけではなくその性質もすばらしいという意味も含まれていると考えられます。

●芍薬の育て方 ポイント
・日当たりの良い肥えた土の上で育てる
・西日や風の強く当たる場所は避ける
・適期以外に植え替え、株分けはしない
・大株は株分けをするか芽の数の整理を行う
・咲き終わった花は摘み取る

芍薬は、日当たりの良いところを好むので、秋になると地上部の葉がしおれ、冬は枯れてしまいます。冬は日当たりの良い場所を選び花壇ではワラなどで軽く霜をよけ、鉢植えでは日当たりの良い軒下に置くと良いです。春になって暖かくなると新芽を出して伸びていき、6号鉢で2本は咲かせることができます。

芍薬(しゃくやく)の効果

●女性特有の悩みを改善する効果
芍薬には痛みを抑えたり、筋肉の緊張をやわらげる作用が認められています。血管を広げたり血液の不足を補う働きもあるとされ、女性の月経不順や生理痛、また冷え症の緩和にも用いられてきました。生理痛は子宮収縮が強いために起こるといわれています。そこで漢方では芍薬は婦人向けの強壮薬として使用されます。
更年期におとずれる女性の体の不調や貧血の改善、血流の改善のためにも良いとされます。【1】

●血流を改善する効果
血液を滋養し、血管拡張など血液の健康を改善する効果があります。血管の働きを良くすることから不調の改善に役立ちます。末端の血管まで血液が流れるよう血行を促進する食事と運動・入浴を合わせて行うことで、血行を促進し血液の循環を改善することができます。【2】【3】

●肩こりをやわらげる効果
筋肉のこりをやわらげる効果もあるため、肩こりや首のこりに働きかけます。筋肉の緊張をやわらげる働きから、手足のひきつけや胃けいれんによる胃の不調などの症状にも応用されます。
芍薬は単独で用いるよりは他の生薬と組み合わせて複合の漢方薬として利用されることが一般的です。【2】【3】

芍薬(しゃくやく)はこんな方におすすめ

こんな方におすすめ

○女性特有の病気(更年期、生理不順など)が気になる方
○月経によるお悩みがある方
○血流を改善したい方
○肩こりをやわらげたい方

芍薬(しゃくやく)の研究情報

【1】日本を含む東アジアでは芍薬が1200年間使用されており、関節リウマチや肝炎、月経困難症ならびに筋肉けいれんおよび発熱の治療に使用されてきました。芍薬には機能性成分ペオニフロリンが含まれており、PGE2やLTB4の産生阻害効果をもつことから、芍薬は更年期障害予防効果のほかに、抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21687505

【2】高脂血症ラットを対象に、芍薬抽出物を15週間摂取させたところ、総コレステロールやLDLコレステロールの減少ならびに動脈硬化症の緩和が見られたことから、芍薬は動脈硬化予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21453765

【3】芍薬には、ペオニフロリンをはじめとする18種類の機能性成分が含まれており。これらの成分は血小板凝集抑制作用を持つため、芍薬は血流促進作用を持つと考えられています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20824965

【4】芍薬には機能性成分ペオニフロリンが含まれており、PGE2、LTB4、NOなどの産生を抑制することにより、関節炎症状に改善が見られたことから、芍薬は関節炎ならびにリウマチ予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22705050

【5】肝線維症ラットを対象に、芍薬抽出物を1日当たり40,80,160mg/kg の量で16週間摂取したところ、肝障害の状態が緩和されたことから、芍薬は肝臓保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22109673

【6】芍薬には、ペオノールや安息香酸などの機能性成分を含んでおり、これらの成分はピロリ菌に対する殺菌およびウレアーゼ阻害作用を持つことから、芍薬はピロリ菌予防効果や胃潰瘍予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22891951.

【7】芍薬には、機能性成分モノテルペン配糖体が含まれており、これらの成分はアンドロゲン受容体拮抗作用を持つことから、芍薬は前立腺がんに対する予防効果を持つと考えられています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19721258

【8】マウスに対して、芍薬抽出物を1日あたり250, 500mg/kg の量で摂取させたところ、うつ症状の緩和が見られたことから、芍薬は抗うつ作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18570231

【9】ヒト鼻繊維芽細胞を対象に、芍薬抽出部を投与したところ、アレルギー関連物質であるMCPの分泌が減少したことから、芍薬は抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15103673

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参考文献

・He DY, Dai SM. 2011 “Anti-inflammatory and immunomodulatory effects of paeonia lactiflora pall., a traditional chinese herbal medicine.” Front Pharmacol. 2011;2:10.

・Li J, Chen CX, Shen YH. 2011 “Effects of total glucosides from paeony (Paeonia lactiflora Pall) roots on experimental atherosclerosis in rats.” J Ethnopharmacol. 2011 May 17;135(2):469-75.

・Koo YK, Kim JM, Koo JY, Kang SS, Bae K, Kim YS, Chung JH, Yun-Choi HS. 2010 “Platelet anti-aggregatory and blood anti-coagulant effects of compounds isolated from Paeonia lactiflora and Paeonia suffruticosa.” Pharmazie. 2010 Aug;65(8):624-8.

・Zhang W, Dai SM. 2012 “Mechanisms involved in the therapeutic effects of Paeonia lactiflora Pallas in rheumatoid arthritis.” Int Immunopharmacol. 2012 Sep;14(1):27-31.

・Sun WY, Wang L, Liu H, Li X, Wei W. 2012 “A standardized extract from Paeonia lactiflora and Astragalus membranaceus attenuates liver fibrosis induced by porcine serum in rats.” Int J Mol Med. 2012 Mar;29(3):491-8.

・Ngan LT, Moon JK, Shibamoto T, Ahn YJ.2012 “Growth-inhibiting, bactericidal, and urease inhibitory effects of Paeonia lactiflora root constituents and related compounds on antibiotic-susceptible and -resistant strains of Helicobacter pylori.” J Agric Food Chem. 2012 Sep 12;60(36):9062-73.

・Washida K, Itoh Y, Iwashita T, Nomoto K. 2009 “Androgen modulators from the roots of Paeonia lactiflora (paeoniae radix) grown and processed in nara prefecture, Japan.” Chem Pharm Bull (Tokyo). 2009 Sep;57(9):971-4.

・Mao Q, Huang Z, Ip S, Che C. 2008 “Antidepressant-like effect of ethanol extract from Paeonia lactiflora in mice.” Phytother Res. 2008 Nov;22(11):1496-9. doi: 10.1002/ptr.2519.

・Leem K, Kim H, Boo Y, Lee HS, Kim JS, Yoo YC, Ahn HJ, Park HJ, Seo JC, Kim HK, Jin SY, Park HK, Chung JH, Cho JJ. 2004 “Effects of Paeonia lactiflora root extracts on the secretions of monocyte chemotactic protein-1 and -3 in human nasal fibroblasts.” Phytother Res. 2004 Mar;18(3):241-3.

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