ほうれん草

spinach

緑黄色野菜の中でも、特に栄養価が高いことで知られているほうれん草には、貧血予防に重要な鉄や鉄の吸収を高めるビタミンC、造血に働くといわれる葉酸などが豊富に含まれています。
また、ヨーロッパでは「胃腸のほうき」と呼ばれている程、便秘解消に効果があるといわれています。

ほうれん草とは

●基本情報
ほうれん草はヒユ科の緑黄色野菜です。
原産地はペルシャ(現在のイラン)で、英語のspinachはペルシャ語が語源であるといわれています。また、中国語でペルシャを「ほうれん」と呼んでいたことが、日本語名の由来です。
鉄やβ-カロテンなどを豊富に含み、栄養価が高いことで有名です。

●ほうれん草の品種
ほうれん草は、原産地とされるペルシャから伝えられた2種類のルートにより、大きく東洋種と西洋種の2種類に分けられます。伝えられたそれぞれの土地の環境や風土の違いにより、味や形が変化していきました。

・東洋種
ペルシャから中国方面に伝えられた品種です。
深い切れ込みを持つ葉は、薄くて柔らかく、根が赤いという特徴があります。アクであるシュウ酸が少なく、葉ざわりも良いことで知られます。

・西洋種
ペルシャからヨーロッパへ伝えられたとされている品種です。
葉は肉厚で丸みがあり強いアクを持ちますが、トウ立ち[※1]しにくく病害虫に強いという特徴があります。

・交配種
東洋種と西洋種の特性を生かして交配されたもので、丈夫で育てやすく、えぐ味が少ないため食べやすい品種です。種類によって葉の切れ込み具合や丸みが異なります。

・サラダほうれん草
アクが少ないため、水洗いするだけですぐに食べることができます。葉の色は薄く、細く柔らかい触感をもつ茎が特徴的です。多くは水耕栽培されています。

・ちぢみほうれん草
寒気にあてて生育させる「寒じめ」と呼ばれる栽培方法で育てられることにより、強い甘みと厚い葉を持っています。葉の表面にしわが入り、縮れたように見える品種です。

●ほうれん草の歴史
ほうれん草はカスピ海西部のペルシャ地方を原産とし、北アフリカを経て、12世紀以降にヨーロッパに伝わりました。東アジアにはシルクロードを通って広まり、7世紀頃に中国に伝えられました。
日本には17世紀頃の江戸時代に、唐船によって東洋種のほうれん草が長崎に伝えられました。
西洋種は江戸時代末期にフランスから伝えられましたが、当時の西洋種はアクが強いことからあまり好まれませんでした。
明治時代まではほうれん草が高級品として扱われており、広く一般に普及したのは大正時代中期以降です。昭和に入り本格的な栽培が始まりました。
最近では、主に東洋種と西洋種をかけあわせた交配種が出回っており、生産の主流になっています。

●ほうれん草の生産地
世界のほうれん草の9割近くが中国で生産されています。次いでアメリカ、日本と続きますが、生産量は中国と大きく離されています。
日本では千葉県で最も多く生産されており、次いで埼玉県、群馬県と並びます。

●ほうれん草の旬
ほうれん草は11月~2月に旬を迎える野菜ですが、現在はハウス栽培されているものが多く、年中手に入ります。旬の時期には、特に根本部分の甘みが強く、栄養価が高くなります。

●ほうれん草の美味しい食べ方
ほうれん草は、全体にピンとしたハリがあり葉が厚く緑色が濃いものが良品です。
茎が太く、根本の株がふっくらとしていて赤みのあるものが美味しいほうれん草です。
茹でる際は、短時間で茹でることがポイントです。一度に大量に鍋に入れると、熱湯の温度が下がってしまうため、よく沸騰させた熱湯で少量ずつさっとゆで、冷水にとって急激に冷まします。
根本の赤い部分は糖質が多く甘みがあり、骨を形成するために必要なマンガンが多く含まれています。特に旬の時期の根本部分は甘みが強く栄養価も高いため、残さず食べるようにしましょう。
ビタミンCなど栄養素が減少するので早めに食べきり、冷蔵保存する時は乾燥しないようぬれたペーパータオルなどで包みポリ袋に入れ、野菜室に立てて保管します。
長く保存する場合は、さっと茹でてから小分けにして冷凍保存します。
また、アクの主成分で栄養素の吸収を阻害するといわれているシュウ酸は水溶性のため、さっと茹でることによって抜くことができます。

●ほうれん草に含まれる栄養成分
ほうれん草には、β-カロテンやビタミンB群、ビタミンCが豊富に含まれており、のどの粘膜を丈夫にし細菌感染を防ぐ働きを持つとして、風邪の予防に最適であるといわれています。
レモンの2倍のビタミンCや、造血に必要な鉄や葉酸も豊富に含まれています。
鉄分が多い野菜として有名ですが、体内で吸収される量は2~5%と微量です。たまごなどの動物性たんぱく質と一緒に食べると効率よく鉄が体内で吸収されます。
また、ほうれん草にはカロテノイドの一種であるβ-カロテンが豊富に含まれています。β-カロテンは必要な分のみが体内でビタミンAに変換されるため、ビタミンAで心配される過剰摂取の危険性がなく、安心です。

<豆知識>葉酸の名前の由来
ほうれん草は造血のビタミンといわれる葉酸が初めて発見された野菜です。葉酸という名前に入っている「葉」は、ほうれん草の葉が由来なのです。

[※1:トウ立ちとは、「とう(花をつける花茎)」が伸びてくることです。トウ立ちすると葉が硬くなり、花に栄養分を取られてしまうため、味が落ち、硬くて食べられなくなります。]

ほうれん草の効果

ほうれん草には、β-カロテンをはじめ、ビタミンB₁、ビタミンB₂、ビタミンB₆、ビタミンC、ビタミンE、鉄、マンガンなど豊富な栄養成分が含まれているため、以下のような健康に対する効果が期待できます。

●貧血を予防する効果
血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの量が減少していると貧血になります。
ヘモグロビンは、呼吸をした際に肺に取り込まれた酸素を全身の組織に運んで供給する役割を果たしており、ヘモグロビンの量が減ると、細胞に供給される酸素が不足します。このため、顔が青白くなる、少し動いただけでも息切れがする、動悸が起こる、疲れやすくなる、立ちくらみがするなどの症状が起こります。
ほうれん草はヘモグロビンの材料となる鉄に加え、鉄の吸収を高めるビタミンCや、鉄と協力してヘモグロビンを形成する葉酸も豊富に含んでいるため、貧血の予防に最適な野菜であるといわれています。
卵など動物性のたんぱく質と一緒に摂ると、鉄の吸収・働きがさらに良くなるといわれています。

●動脈硬化を予防する効果
日常生活で体内に発生する活性酸素[※2]は、血中の脂質を酸化させるため動脈硬化の原因となります。
β-カロテンには体内の活性酸素を除去する働きがあり、血中の脂質の酸化を防ぎ血管を若々しく保ってくれるため、動脈硬化の改善や予防に効果を発揮するといわれています。
また、ほうれん草の緑色は、カロテンの黄色と葉緑素の色素であるクロロフィルの緑色が合わさったものです。クロロフィルは血液中の悪玉(LDL)コレステロールを強力に低下させ、同時に善玉(HDL)コレステロールを増やすため血液がサラサラになり、動脈硬化の予防に効果的です。
さらに、ほうれん草にはピラジンという香り成分が含まれており、ピラジンには血栓を防ぐ作用があるため血流を改善する効果が期待できます。

●高血圧を予防する効果
食塩の過剰な摂取などによりナトリウムが血中に多く存在すると、体内で水分の移動が正常に行われなくなり、高血圧を招いてしまいます。
ほうれん草に含まれるカリウムには、余分なナトリウムを体外に排出する働きがあるため、血圧を下げ高血圧を予防する効果が期待できます。
ほうれん草は様々な栄養素が一度に補えるため、生活習慣病の予防に適した野菜であると考えられています。

●視機能を改善する効果
β-カロテンから変換されたビタミンAは、目が網膜で光を感じる時に必要なロドプシンの生成に必要とされる成分で、夜盲症や眼精疲労の予防に効果が期待されています。また、ほうれん草にはルテインやゼアキサンチンも含まれています。ルテインやゼアキサンチンはカロテノイドの一種で目の水晶体や黄斑部に多く存在し、強い抗酸化力を持つカロテノイド色素で、紫外線などのダメージから目を守ります。

●免疫力を高める効果
β-カロテンから変換されたビタミンAには、皮膚やのどなどの粘膜を正常に保つ働きがあります。さらにほうれん草に含まれているビタミンCやビタミンEには、免疫力を高めてくれる働きがあるため、ほうれん草は口内炎や風邪の予防に効果的であるといわれています。

●美肌効果
ほうれん草にはβ-カロテンが豊富に含まれています。β-カロテンから変換されたビタミンAには皮膚や粘膜を丈夫に保ってくれる働きがあり、肌のカサつきや肌荒れの改善に期待できます。
また、β-カロテンには紫外線によって発生した活性酸素を無効化する働きがあり、ビタミンCの効果とあわせてメラニン色素[※3]の発生を抑制する効果もあります。
他にも、ほうれん草には若返りのビタミンといわれているビタミンEが含まれています。さらに、豊富に含まれるビタミンCがコラーゲンの生成を促進し肌のハリが保たれることにより、シワの予防や改善にも役立ちます。
様々な栄養素の相乗効果により、ほうれん草は美肌を導く効果があるといわれています。

●便秘を解消する効果
ほうれん草は、ヨーロッパで「胃腸のほうき」と呼ばれている程、便秘解消に効果があるといわれています。ほうれん草には良質な食物繊維に加え、自律神経[※4]を調節し、腸のぜん動運動[※5]を促進してくれる働きがあるビタミンB₁、食物繊維の働きを高めてくれるビタミンCも含まれます。

●骨や歯を丈夫にする効果
ほうれん草には、骨の材料となるカルシウムに加え、骨の形成に必要とされるマンガンや丈夫な骨づくりのサポートをするビタミンCも含まれています。

[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
[※3:メラニン色素とは、シミの原因になるものです。メラニン色素の蓄積によってシミは形成されます。]
[※4:自律神経とは、無意識下で体全体を調整する神経です。]
[※5:腸のぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]

ほうれん草はこんな方におすすめ

○貧血でお悩みの方
○血流を改善したい方
○血圧が高い方
○目の健康を維持したい方
○免疫力を向上させたい方
○美肌を目指したい方
○便秘でお悩みの方
○骨や歯を強くしたい方

ほうれん草の研究情報

【1】結腸炎マウスに、ほうれん草の水抽出物 1000 mg/kg の量で投与したところ、腸炎が緩和されたことから、ほうれん草が抗炎症作用ならびに腸保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22234676

【2】喘息誘発マウスに、ほうれん草水性抽出物を投与したところ、免疫細胞CD4細胞数、免疫物質IL-4/13が抑制されたことから、ほうれん草が抗アレルギー効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20127046

【3】うつ病マウスに、ほうれん草の葉抽出物を400mg/k の量を摂取させたところ、大脳皮質、小脳、尾状核、中脳、橋および髄質の脳神経伝達物質セロトニンが増加し、ノルエピネフリン、ドーパミンが減少しました。ほうれん草が抗うつ効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18432058

【4】マウスに、ほうれん草1100mg/kg を摂取させたところ、放射線による抗酸化酵素グルタチオンの減少が改善されことから、ほうれん草は放射線障害から細胞を保護する働きを持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15636174

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参考文献

・井上正子 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

・荻野善之 野菜まるごと大図鑑 株式会社主婦の友社

・旬の食材 秋‐冬の野菜 講談社

・Otari KV, Gaikwad PS, Shete RV, Upasani CD. (2012) “Protective effect of aqueous extract of Spinacia oleracea leaves in experimental paradigms of inflammatory bowel disease.” Inflammopharmacology. 2012 Jan 11. [Epub ahead of print]

・Amelioration of asthmatic inflammation by an aqueous extract of Spinacia oleracea Linn. (2010) “Amelioration of asthmatic inflammation by an aqueous extract of Spinacia oleracea Linn.” Int J Mol Med. 2010 Mar;25(3):409-14.

・Das S, Guha D. (2008) “CNS depressive role of aqueous extract of Spinacia oleracea L. leaves in adult male albino rats. Indian J Exp Biol. 2008 Mar;46(3):185-90.

・Bhatia AL, Jain M. (2004) “Spinacia oleracea L. protects against gamma radiations:a study on glutathione and lipid peroxidation in mouse liver.” Phytomedicine. 2004 Nov;11(7-8):607-15.

・本多京子 食の医学館 株式会社小学館

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