スペアミントとは
●基本情報
スペアミントとは、別名「オランダハッカ」や「ミドリハッカ」とも呼ばれているシソ科ハッカ属の多年草植物 [※1]のことで、ヨーロッパ中部から地中海が原産です。 古くから利用されているハーブの一つで、スペアミントという名前は、その葉の形がとがっていて「槍=Spear(スペア)」に似ていることが語源といわれています。 スペアミントは、ペパーミントに比べて甘味が強く、爽快感や香りも柔らかいため、お菓子やお酒などの食品や化粧品の香料としても広く利用されています。 また、欧米やアラブ、ベトナムなどでは、スペアミントを乾燥させた葉を香辛料として、ラムやマトンなどの羊肉料理に利用しています。 スペアミントを使用する上で注意する点は、スペアミントの精油は眼や敏感肌を刺激することがあります。また、妊娠中の使用は避けたほうがよいでしょう。
●スペアミントの歴史
ミント自体は、何千年も前から古代ギリシャで生薬として使用されており、歴史上最も古い栽培植物であるという説もあるハーブです。 1700年代後半にイギリスで商業的な栽培が広がりました。 ミントの学名である「Mentha(メンタ)」は、ギリシャ神話に登場する「メンテー」という妖精の名前が由来であると言い伝えられています。 その言い伝えによると、冥界の王であるハデスが惹かれた妖精のメンテーが、ハデスの妻であるペルセフォネの嫉妬にあい、植物へと姿を変えられてしまいます。 それを可哀想に思ったハデスが、メンテーを香りの良い薬草へと変身させ、それが後にミントと呼ばれるようになったとされています。 600種類を越える品種をもつミントの中でも特にスペアミントは歴史が古く、古代ギリシャ人が強壮剤、香水、香料としてスペアミントを好んで使用していました。 スペアミントを浴槽にふんだんにいれて、沐浴を楽しんでいたとされています。また、淋病のような性感染症を治す力があるという評判もありました。 ローマ人によってスペアミントが持ち込まれたイギリスでは、主として牛乳が凝固するのを防ぐ目的で用いられました。 中世になると、スペアミントは口腔衛生剤として人気を呼び、歯茎のただれを治す目的や、または歯を白くするのにも使用されました。 現代でも歯磨き粉などの口腔ケアとしてスペアミントが使用されているほか、料理やお菓子、飲み物、入浴剤、化粧品などの香料としても幅広く利用されています。
●スペアミントの生産地
スペアミントの原産地はヨーロッパ中部から地中海といわれていますが、現在はアメリカ、アジア、イギリスで広く栽培されています。近年では特にアメリカでの栽培が盛んです。
●スペアミントの精油に含まれる香気成分
スペアミントの精油成分には、芳香性をもつ成分であるカルボンが主に含まれており、健胃作用や胃や腸に溜まったガスを除き、痛みを改善する作用[※2]があります。 スペアミントはペパーミントとは違い、メントールは含んでいません。スペアミントの精油[※3]に含まれる成分としては、カルボン(ケトン)のほかには、シネオール(酸化物)、カリオフィレン(セスキテルペン)、リモネン、ミルセン、フェランドレン(テルペン類)があります。 その他の成分として、フラボノイド、タンニン、ロスマリン酸、カフェ酸、クロロゲン酸、ミネラル、ビタミンA、ビタミンCなどが含まれています。
●スペアミントの葉に含まれる健康成分
スペアミントの葉には、香り成分のほかにポリフェノール成分であるロスマリン酸が多く含まれています。その他にも、タンニン、カフェ酸、クロロゲン酸や、その他にもフラボノイド類、ミネラル、ビタミンA、ビタミンCなどが含まれています。ロスマリン酸はポリフェノール成分の1つであり、天然の抗酸化物質で、ビタミンEよりも強い抗酸化作用をもち、活性酸素によって細胞が傷つくのを防いでくれるという効果・効能があります。
スペアミントの葉に含まれるロスマリン酸の量は、他のシソ科ハーブ類の植物の中でも特に多く、一般的に広く用いられているペパーミントと比べて2倍以上のロスマリン酸を含むことが研究によって分かっています【1】。
[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:胃や腸に溜まったガスを除き、痛みを改善する作用のことを、駆風作用といいます。]
[※3:精油とは、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した有効成分を高濃度に含有した100%天然の揮発性の芳香物質です。各植物によって特有の香りと機能をもち、アロマテラピーに利用されています。]
スペアミントの効果
●脳の認知機能(注意力・集中力・言語理解)を高める効果
物事への集中力や注意力の低下は、加齢と共に起こる脳の老化現象が原因とされています。脳の認知機能の低下を感じている方に対してロスマリン酸を多く含むスペアミント抽出物を摂取することで、注意力や集中力が高まることで、会話や読解力に大切な言語理解力が高まることが臨床試験により分かっています【2】。
●記憶力を高める効果
記憶力とは、物事を一度にたくさん覚えたり、より短い時間でスピーディーに暗記したりする際に必要とされる力です。一説によれば10代後半から20歳までが記憶力のピークだといわれていますが、それは主に暗記のスピードのことを指しています。また、記憶できる情報量は、高齢になっても年々増やすことができます。一方で、一度記憶した情報を引き出す力については加齢とともに低下してしまうため、高齢になるにつれて思い出すのに時間がかかってしまったり、記憶した事柄が頭に浮かんで来なかったりと、記憶力の衰えを感じてしまいます。
記憶力には、作業記憶や直後記憶、感覚記憶、短期記憶、長期記憶などの種類があります。このうち作業記憶はワーキングメモリー(working memory)とも呼ばれ、短い時間にあたまの中にインプットされた情報を保持して、処理する能力のことを指します。作業や動作に必要な情報を一時的に記憶して実行する力なので、日常の会話や読み書き、計算、学習などにも関わっています。作業記憶力が低下すると、情報を脳内に留めておくことができなくなり、人の話や指示されたことを忘れてしまう、失くし物や忘れ物が増える、読んだ文章がなかなか理解できない、頭に浮かんだ内容や事柄を忘れてしまい実行に移せない、あるいは考えた内容を文書に書くことが苦手になるなど、生活や学習、仕事の様々な場面で困ることが多くなります。
ロスマリン酸を多く含むスペアミント抽出物を摂取し続けることで、加齢とともに低下する作業記憶が改善されることが臨床試験により分かっています【3】。
●脳の健康を維持する効果(認知症予防効果)
脳は酸素を多く必要とする器官であるため、酸化ストレスによる影響を受けやすくなっています。そのため、高い抗酸化作用をもつビタミンやカロテノイド、ポリフェノールの摂取が脳の健康維持には重要です。スペアミントに多く含まれるポリフェノールの1種であるロスマリン酸は、口から摂取することで脳に届くことが知られています。
また、脳の疾患で広く知られる認知症の中で、最も発症割合の多いアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病ともいう)は、認知機能の低下や記憶力の低下が起こることから生活に支障をきたすために、早期発見と予防対策が重要とされています。スペアミント抽出物とその成分のロスマリン酸には、認知症の原因(アミロイドベータ)が脳に溜まらないようするはたらきがあるため、認知症の予防に繋がる可能性があります【4】。
●活力を高める効果
日常生活において、何かを積極的に考えて行動する、あるいは元気に仕事や家事など働くために活動を生み出す力のことを活力といいます。活力が低下すると、仕事や家事の場面で集中力が低下したり、作業になかなか取り掛かれなかったりと、作業効率を悪化させる原因になります。また、日常の人との会話においても、活力の低下により、相手の発する情報を理解できず、話を受け止めることができないなど、コミュニケーション力にも影響してしまいます。活力を低下させず高いまま維持するためには、身体が健康であることに加えて、脳の精神状態が正常であり気力がみなぎるなど、脳の健康も大切です。
ロスマリン酸を多く含むスペアミント抽出物を摂取し続けることで、活力が高まることが臨床試験により分かっています【3】。
●リラックス効果
現代社会において、心の疲れや精神的ストレスの影響から健康を害する人が増えており、社会問題となっています。心や精神の状態には、脳の健康が大きく関わっていることが知られています。
スペアミントに含まれる香気成分は、精神を安定させるリラックス効果や頭痛を改善する効果があります。おだやかで甘みのあるスペアミントをハーブティーとして飲用すると鎮静作用により、イライラしているときや不安なときに心をしずめてリフレッシュさせてくれます。
●睡眠の質を高める効果
睡眠は日常生活において、心身の疲労回復や健康維持に欠かせないものです。最近では、睡眠不足や睡眠の質の低下により、高血圧や糖尿病、動脈硬化、肥満といった生活習慣病にも影響を及ぼすことが知られています。
また、睡眠は脳の健康にも影響しており、睡眠中には、脳に溜まった老廃物をリンパ液によって洗い流し排出させるはたらきが活発になります。そのため、睡眠時間が短い生活や睡眠の質が低くなることにより、認知症を発症する割合が高まることが知られています。
スペアミント抽出物を継続的に摂取することは、睡眠の質を高めることが臨床試験の結果から分かっています【3】。
●胃腸の機能を高める効果
スペアミントに含まれるカルボンには、胃の働きを活発に保つ働きがあるため、消化液の分泌を促して、胃を健康に保つ効果があります。したがって、消化を助けて胸焼けを防いでくれるので、食べ過ぎ、飲み過ぎ、油っこいものを食べた後にスペアミントティーを飲むのもおすすめです。また、スペアミントには、腸に溜まったガスを除き、痛みを改善する効果があります。嘔吐、便秘、下痢のような消化器系の各種障害にも役立つほか、消化器官の強壮剤となり食欲を刺激します。また、胃の筋肉をリラックスさせて、しゃっくりや吐き気をとめるので、胃の痛みや乗り物酔い、船酔いの緩和にも有効です。【3】
●月経痛を緩和する効果
スペアミントの精油には、体内の生殖器系に働きかけ、月経の量を調節して月経痛を緩和する効果や、母乳の出すぎを抑制する働きがあります。
●口臭・口内炎を予防する効果
スペアミントには、殺菌・防腐効果があり、口臭の原因となる口の中の細菌を除去することで、口臭を予防します。また、スペアミントは抗炎症作用があるため、口内炎や歯茎のただれにも役立ちます。
●かゆみを緩和する効果
スペアミントは冷却作用、鎮静作用があるため、塗布することで皮膚のかゆみに役立つといわれています。また、スペアミントに含まれるロスマリン酸には抗炎症作用があることから、摂取することで軽度のアレルギーを改善するのに効果的だといわれています。
●殺菌・防腐効果
スペアミントに含まれる精油には殺菌・抗菌・防腐効果があります。また、抗ウィルス効果や殺虫効果について効果が期待されています。
こんな方におすすめ
○脳の認知機能を維持したい方
○記憶力を高めたい方
○脳の健康を維持したい方
○集中力を高めたい方
○注意力を高めたい方
○活力を保ちたい方
○睡眠の質を高めたい方
○リフレッシュしたい方
○心を落ち着かせたい方
○胃の健康を保ちたい方
○かゆみを抑えたい方
スペアミントの研究情報
【1】ロスマリン酸を含むシソ科ハーブ類の植物29種類(スペアミント、レモンバーム、ローズマリー、ペパーミント、ニホンハッカ、セージ、タイム、オレガノ、など)について、葉に含まれるロスマリン酸を分析したところ、スペアミントは(58.5±1.4mg/g-乾燥葉中)と29種類の中で最もロスマリン酸の量が多いことが分かっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3307200/
【2】健康な男女11名が参加したオープン試験において、ロスマリン酸を多く含むスペアミント抽出物を30日間毎日続けて摂取した結果、注意力や集中力など脳の認知機能が高まりました。
https://www.ffhdj.com/index.php/ffhd/article/view/181
【3】健康な男女90名が参加したプラセボ対照二重盲検比較試験において、ロスマリン酸を多く含むスペアミント抽出物を90日間毎日続けて摂取したグループは、スペアミント抽出物を摂取していなかったグループと比べて、作業記憶の質が高くなりました。また、気分プロフィール検査(POMS)の結果、スペアミント抽出物の摂取により活力が高まることが分かりました。さらには、スペアミント抽出物を摂取したグループでは、睡眠の導入に改善が認められたとともに、覚醒後の注意や行動が高まりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29314866
【4】アルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症の原因であるアミロイドベータタンパク質(Aβ)およびαシヌクレインタンパク質に対し、ロスマリン酸ならびにスペアミント抽出物(ロスマリン酸含有)を添加した後、チオフラビンT蛍光強度による線維化評価と透過型電子顕微鏡による観察を行ったところ、スペアミント抽出物はAβおよびαシヌクレインの線維化や凝集を抑制し、ロスマリン酸はAβおよびαシヌクレインの線維を分解する働きがありました。このため、ロスマリン酸やスペアミント抽出物には、認知症を予防する効果をもつことが示唆されました。 (進藤愛未、他.アミロイド線維形成抑制に働く天然化合物の探索.2017年度生命科学系学会合同年次大会ConBio2017,2P-0129.)
参考文献
・アロマテラピーのための84の精油 ワンダ・セラー フレグランス・ジャーナル社
・502品目1590種まいにち楽しむ食材健康大事典 五明 紀春 (監修), 古川 知子 時事通信出版局
・英国流メディカルハーブ リエコ・大島・バークレー 説話社
・ハーブティー事典 佐々木薫 池田書店
・基本のハーブ70種類 はじめてのハーブ手帖 株式会社エディング メディアパル
・ハーブスパイス館 田部井満男 小学館
・メディカルハーブの事典 主要100種の基本データ 松林孝至 東京堂出版
・Ono K, et al. (2012) “Phenolic compounds prevent amyloid beta-protein oligomerization and synaptic dysfunction by site specific binding. “J Biol Chem, 287: 14631-43.
・Lee J, et al. (2008) “Effect of rosmarinic acid on atopic dermatitis. “ J Dermatol, 35: 768-71.
・Takano H, et al. (2004) “Extract of Perilla frutescens enriched for rosmarinic acid, a polyphenolic phytochemical, inhibits seasonal allergic rhinoconjunctivitis in humans. “ Exp Biol Med (Maywood), 229; 247-54.
・Nieman KM, et al. (2015) “Tolerance, bioavailability, and potential cognitive health implications of a distinct aqueous spearmint extract.” Functional Foods in Health & Disease, 5: 165-187.
・Herrlinger KA, et al. (2018) “Spearmint Extract Improves Working Memory in Men and Women with Age-Associated Memory Impairment.” J Altern Complement Med, 24: 37-47.
・ハーブティー事典 佐々木薫 池田書店
・基本のハーブ70種類 はじめてのハーブ手帖 株式会社エディング メディアパル
・ハーブスパイス館 田部井満男 小学館 ・メディカルハーブの事典 主要100種の基本データ 松林孝至 東京堂出版
・Ono K et al “Phenolic compounds prevent amyloid beta-protein oligomerization and synaptic dysfunction by site specific binding. “ J Biol Chem, (2012)287, 14631-43
・Lee et al “Effect of rosmarinic acid on atopic dermatitis. “ J Dermatol.(2008); 35:768-71.2008
・Takano et al. “Extract of Perilla frutescens enriched for rosmarinic acid, a polyphenolic phytochemical, inhibits seasonal allergic rhinoconjunctivitis in humans. “ Exp Biol Med (Maywood).(2004) 229, 247-54.