ナトリウム

sodium
Na  Natrium

ナトリウムは体の機能を調節し、生命活動の維持に必須のミネラルで、主に飲食物から食塩として摂取されます。多くは細胞の外側(細胞外液)に存在しており、細胞の内側(細胞内液)に含まれるカリウムとのバランスを保つことで、細胞を正常に機能させています。また、血圧にも関係することからも注目されています。

LINEスタンププレゼント!お友達登録はこちら。配信期間2025/01/23

ナトリウムとは

●基本情報
ナトリウムは体内ではカルシウム、リン、カリウムに次いで多く存在しているミネラルであり、体内存在量は体重の約0.15%です。そのうちの3分の1は骨に、残りは多くが細胞外液に存在しています。
細胞機能の維持には欠かせないミネラルで、筋肉や神経を正常に保つ働きがあります。
体内で不足すると細胞の機能に影響を及ぼしてしまいますが、普段の生活を行う上では十分な量を摂取しているため不足することはほとんどありません。

●ナトリウムの歴史
ナトリウムは、1807年にイギリスのハンフリー・デイビーが水酸化ナトリウムを電気分解することで発見された、原子番号11番の金属元素です。
1873年には無塩のエサを与え続けた犬が筋肉異常や神経障害を起こすことが発見されました。
ナトリウム(Natrium)の名前は、天然ソーダやアルカリ塩を意味するギリシア語のnitronに由来し、sodiumは炭酸ナトリウムが古くからソーダ(soda)といわれていたことから命名されました。元素記号のNaはドイツ語のNatriumからとったものです。

●ナトリウムの摂取状況
ナトリウムの1日の摂取基準は食塩相当量で男性が8.0g未満、女性が7.0g未満です。しかし平成21年の国民健康・栄養調査[※1]の結果によると、1日当たりの食塩摂取量は成人全体で11.4gであり、日本人の摂取量は多い傾向にあります。
ナトリウムは食塩のほかに、しょうゆやみそなどの食塩系調味料、漬け物やつくだ煮をはじめとする保存食など、日本人になじみのある食品に多く含まれます。また、加工食品には、保存性を高めるために食塩が多く使われるため、外食や加工食品を食べる機会が多い人は摂りすぎに注意が必要です。
このように、日本人は通常の食事では「日本人の食事摂取基準」[※2]を下まわることはほとんどないため、推奨量や目安量は定められていません。しかし、慢性的な摂取過剰を避けるために目標量として摂取基準が定められています。

●ナトリウムの欠乏症
通常ナトリウムが不足することはありませんが、高温・多湿の環境での作業、スポーツなどで多量の汗をかいたときや、激しい下痢をしたときなどは多くのナトリウムが失われます。不足すると、血液の循環量が減り、倦怠感や疲労感を起こします。また、消化が進まずに食欲不振や吐き気を催したり、筋力が低下し筋肉痛が起こりやすくなることがあります。スポーツなどをする際はスポーツドリンクなどでこまめに補給することが大切です。

●ナトリウムの過剰症
必要量を上まわって摂取した場合は排泄されるため、日常的には過剰の心配はありません。しかし、摂取過剰の状態が慢性的になると排泄しきれずに体内に蓄積してしまう場合があります。体内のナトリウム量が多くなると、細胞内外のミネラルバランスが崩れ、むくみを生じたります。また血液中のナトリウム量が増加すると、適正な濃度に薄めようと細胞内の水分が血液中に移動し血流量が増えることから、高血圧になりやすいといわれています。他にも食塩の摂取量が多い人ほど、脳卒中や胃がんのリスクが高まる可能性があることが報告されています。

<豆知識>ナトリウムと食塩
食塩とはナトリウム(Na)と塩素(Cl)が結合した塩化ナトリウム(NaCl)のことです。ナトリウムは主に食塩のかたちで体内に取り入れられますが、身体に影響を与えるのはナトリウムの量なので、食品に含まれるナトリウムの量を食塩に換算する必要があります。これが食塩相当量といわれるものです。食塩相当量はナトリウム量に2.54を掛けて算出されており、「日本人の食事摂取基準」における目標量も食塩相当量として示されています。
計算式:食塩相当量(g)=ナトリウム量(g)×2.54

[※1:国民健康・栄養調査とは、健康増進法に基づいて厚生労働省が行う全国調査のことで、国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基礎資料を得ることを目的とされています。]
[※2:日本人の食事摂取基準とは、厚生労働省が健康な個人または集団を対象として、国民の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものです。]

ナトリウムの効果

●細胞の機能を維持する効果
細胞が活動するためには、細胞の内側と外側に水分が必要です。細胞外液に多く含まれるナトリウムと、細胞内液に多く含まれているカリウムの2つの成分の濃度バランスを正常に保つことで、水分量の調整や浸透圧[※3]の維持、体液のpH[※]の調節などを行っています。常に適正な濃度を保てるように、細胞にはナトリウムとカリウムをやり取りするポンプ機能が付いており、これをイオンポンプといいます。
細胞内のナトリウム濃度が高くなった場合は、イオンポンプの働きにより、細胞外からカリウムを取り入れると同時に、余分なナトリウムを細胞外へ出すことで 濃度を一定に保っています。しかし、ナトリウムの過剰摂取や、カリウムの不足などで濃度バランスが大きく崩れてしまうと、イオンポンプが十分に機能しなくなる場合があります。そうなると、細胞内でのナトリウムの濃度を薄めるために、細胞はたくさんの水分を取り込んで膨張し、血管を圧迫してしまうので血圧の上昇を招くことがあります。【1】

●筋肉の収縮・弛緩の働きを保つ効果
ナトリウムには筋肉の収縮・弛緩の働きを正常に保つ働きがあり、ここにもイオンポンプが関わっています。脳から筋肉を収縮させるように命令が伝わると、外にあるナトリウムが筋肉細胞の内側へと移動します。その結果、筋肉細胞は緊張した状態になり、筋肉の収縮という現象につながります。また、筋肉が弛緩するときには、逆の現象が起きています。
イオンポンプが正常に機能しなくなると心筋にも影響がでるため、心臓の働きが悪くなり不整脈が生じたり、全身の脱力感といった症状にもつながります。

●神経機能を正常に保つ効果
情報伝達のうえでもイオンポンプが大事な役割を担っています。情報の伝達は神経細胞で行われていますが、神経細胞の細胞膜にもイオンポンプが存在しています。刺激を受けたときなど、その情報は電気信号となって神経組織を伝わることで伝達されていきます。この電気信号は、神経細胞膜のイオンポンプを介して、細胞膜外にあるナトリウムイオンと細胞内にあるカリウムイオンが入れ替わるときに生じます。このため、体内でナトリウムの濃度が減少すると電気信号が良好に伝わらず、正しい情報伝達が行われなくなるため、体に変調を招いてしまいます。【2】

[※3:浸透圧とは、溶液中で溶媒が浸透していく力のことです。]
[※4:pHとは、水素イオン濃度のことで0から14までの数値で物質の酸性度、アルカリ性度を表します。pH 7.0が中性で7.0以上がアルカリ性、7.0以下が酸性です。]
[※5:不整脈とは、脈拍の調律が乱れて、不規則になった状態をさします。]

食事やサプリメントで摂取できます

ナトリウムを含む食品

○調味料(食塩、みそ、しょうゆ、固形ブイヨン)
○魚介加工品(いかの塩辛、明太子、筋子)
○漬け物、梅干し
○こぶ茶

こんな方におすすめ

○スポーツをする方
○たくさん汗をかく方

ナトリウムの研究情報

【1】ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンで、体液の浸透圧維持に不可欠な必須ミネラルである。ナトリウムイオンとして、生体内では神経伝達や筋収縮などに関与しています。

【2】脊椎動物網膜の神経節細胞は、神経回路の演算結果を電気的スパイク列に符号化し、その情報を脳へと伝達します。近年、このスパイク発生を担う電位駆動型ナトリウムイオンチャネルが数msecから数百msecの範囲の時定数をもって不活性化を起こし、スパイク列の順応的出力に寄与することが示されています。このことから、ナトリウムは神経伝達に大きな役割を果たすと考えられています。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110008676324

【3】持続性高インスリン血症において、食塩感受性を有する場合は、血圧上昇がみられたことから、血圧上昇にインスリンによるナトリウム貯留と交感神経緊張ならびに血圧上昇が関与していると考えられました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110002607187

【4】体液中の塩分濃度は、主として脳と腎臓で検出されます。脳における塩分濃度の検出機構は永らく不明でしたが、最近、脳にナトリウムセンサー分子が存在することが明らかになってきました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110001098864

もっと見る 閉じる

参考文献

・中村丁次 栄養の基本がわかる図解辞典 成美堂出版

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・中嶋洋子 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・吉田企世子 松田早苗 あたらしい栄養学 高橋書店

・原部 翔、本村 珠美、林田 祐樹、村山 伸樹 (2011) “ラット網膜ニューロンにおける電位駆動型ナトリウムイオン電流のslow-inactivationと活動電位発火” 電子情報通信学会技術研究報告. MBE, MEとバイオサイバネティックス 110(399), 9-12, 2011-01-20

・久代登志男、冨山博史、上松瀬勝男、梶原長雄 “インスリンによる血圧調節機構-ナトリウムと交感神経系の関与についてー”第57回 日本循環器学会学術集会

・渡辺 英治 (2003) “中枢神経による塩分摂取制御機構(<総説特集>おいしさと健康)” 日本味と匂学会誌 10(2), 207-216, 2003-08

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ