そば

buckwheat
蕎麦
Fagopyrum esculentum MOENCH

そばは栄養豊富な穀類で、たんぱく質やビタミン類、食物繊維を豊富に含んでいます。特にフラボノイドの一種ルチンは、血管を強化や血流を改善する働きがあり、高血圧の予防や動脈硬化の抑制に効果が期待できます。ビタミンCの吸収を助けるため、美肌づくりにもおすすめの食材です。

そばとは

●基本情報
そばはタデ科そば属の植物です。普通種やダッタン種、蒙古そばなどの種類があり、日本でよく食べられているのは普通種です。そばの特徴として、穀類の中でもたんぱく質やビタミンB1、ビタミンB2の含有量が多いことが挙げられます。たんぱく質にはトリプトファンやスレオニン、リジンなどの必須アミノ酸を豊富に含み、栄養価が高く、また、その質も高いです。じゃがいもの花やトマト、たばこの葉にも含まれる成分ルチンは、毛細血管を強くする働きを持ち、高血圧の予防に効果的です。また、食物繊維を豊富に含んでいるため、便秘の解消やコレステロールの排泄を促し、動脈硬化の予防にも有効といえます。
そばの最も一般的な食べ方は、麺として食べる方法であるといえます。種実を脱穀し製粉したものがそば粉と呼ばれ、そのそば粉をこねて薄く伸ばし細く切ったものがそばです。そば粉は小麦粉のようにグルテンを形成しないため、粘りが少ないです。長野県の信州そばや岩手県のわんこそば、島根県の出雲そばなどが有名です。そばを茹でると、有効成分もあるルチンやビタミン類がお湯の中に溶け出してしまいますが、つけ汁(めんつゆ)をそばの茹で汁(そば湯)で割って飲むことで、溶け出した成分も摂ることができます。しかし、同時に塩分も摂ることになるため、そば湯を飲む際には注意が必要です。

●そばの歴史
そばの原産地は、バイカル湖[※1]、アムール河畔[※2]付近と考えられています。日本では8世紀頃に初めて栽培され、ヨーロッパへは15世紀頃に伝わったといわれています。現在、そばは世界的に栽培されており、旧ソ連やポーランド、フランス、アフリカ、カナダで多く生産されています。日本でよく食べられているイメージですが、実際に日本で生産されているものは少ないようです。

●そばの生産地
日本では主に長野県や北海道で栽培されます。生育期間が50~70日と短く、やせた土地や寒冷地でもよく育ちます。夏に白い花が咲き、秋に三角すい形の実をつけます。収穫時期により夏そばと秋そばがあり、収穫量、味、香り、色ともに秋そばのほうが良いとされています。「新そば」といわれるのは秋そばのことを指します。

●そばに含まれる成分と性質
そばに含まれるフラボノイドの一種ルチンは、欧米では薬としても利用されている成分で、血圧を下げる働きがあります。フラボノイドの中でもビタミンP[※3]に分類されるルチンは、血栓[※4]ができることを防いで、血液の流れをスムーズにする働きがあります。また、ビタミンCの吸収だけでなく、その働きも高めるため、コラーゲン合成の促進や血管の強化、抗酸化力の向上が期待できます。毛細血管の血管壁を強化し、高血圧や動脈硬化を予防することで、出血性疾患に対する効果もあるといわれています。そばに含まれる亜鉛は、新陳代謝を促進する働きがあります。亜鉛の働きによって細胞や情報伝達物質の生成が促進されるため、記憶力の向上も期待できます。発育の著しい成長期のお子様にも欠かせない成分です。また、そばのたんぱく質には、体脂肪の蓄積を抑える働きがあることもわかっています。豊富な食物繊維によって、便秘の解消や、コレステロールの排泄もサポートしてくれます。

<豆知識>そばと薬味の相乗効果
そばを食べる際の薬味は、そばの働きを引き出す役割もあるため、積極的に摂ることをおすすめします。ねぎの持つアイシンという物質はそばのビタミンB1の吸収を高め、疲労回復や冷え症に効果的です。また、そばには体を冷やす作用もあるため、わさびを一緒に食べることで、わさびの持つ辛み成分シニグリンの働きで代謝を高めることができ、冷えを改善することができると考えられています。

[※1:バイカル湖とは、ロシア南東部に位置する世界最古の古代湖のことです。]
[※2:アムール河畔とは、モンゴル高原東部のロシアと中国の国境の一部でもある、アムール川のほとりのことです。アムール川は中国では別名「黒河」や「黒水」とも呼ばれます。]
[※3:ビタミンPとは、ビタミン様物質といわれるもので、ルチン、ヘスペリジン、エリオシトリン等の総称です。]
[※4:血栓とは、血管内にできる血液などの成分で構成された塊のことです。血管を詰まらせて、血液の流れを妨げる恐れがあります。]

そばの効果

●生活習慣病の予防・改善効果​
そばに含まれるルチンは、毛細血管の透過性を保持する働きがあり、栄養素や酸素の交換をスムーズに行うことにより、必要な栄養素が出て行ったり、逆に病原菌が侵入するのを防いだりします。また、毛細血管を強くする働きもあるので、そばを摂ることで高血圧予防や動脈硬化予防、出血性疾患に効果が期待できます。また、すい臓の機能を高める働きもあり、糖尿病の予防や抑制にも効果があるといわれています。そばが持つたんぱく質は、対脂肪の蓄積を抑える働きがあることもわかっており、生活習慣病などの予防にも有効といえます。【1】【9】【10】【11】【12】【13】【14】【15】

●便秘を解消する効果
そばには食物繊維も豊富に含まれています。食物繊維は腸内で水分を含み、不要なものを絡めとり体外へ排泄します。また、しっかりと食物繊維を摂ることで、コレステロールの排泄も促進してくれるため、動脈硬化予防も期待できます。 【3】【4】

●記憶力や学習能力を高める効果
ルチンは記憶細胞の保護や活発化にも関係しているため、そばを食べることで記憶力の向上などに有効といえます。また、そばには亜鉛も含まれている亜鉛は、肌や舌の細胞を生み出したり、情報伝達物質を生成したりすることにも関わっているため、正常な味覚や記憶力の向上にも効果が期待できます。【7】【8】

●美肌効果
そばに含まれるビタミンPは、ビタミンCの吸収を高め、コラーゲンの生成や血管の強化などビタミンCの働きを促進します。また、ビタミンCには酸化を防ぐ働きもあるため、活性酸素によるダメージも防いでくれます。【5】【6】

そばは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○血圧が高い方
○コレステロール値が気になる方
○便秘でお悩みの方
○集中力や記憶力を向上させたい方
○美肌を目指したい方

そばの研究情報

【1】30名の慢性的静脈機能不全患者を2群(プラセボ群、薬物群:αトコフェロール、ルチン、メリロート、ツボグサ併用群)に分け、15日そして30日後まで臨床評価しました。薬物群は、明らかに慢性的な静脈機能不全を改善しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11292962

【2】偏食小児20名を対象に、亜鉛を1日あたり1mg/kg 、6カ月間摂取させたところ、偏食の改善が認められたことから、亜鉛は味覚を正常に保ち、食欲増進作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14978550

【3】健常人67名において水溶性食物繊維の摂取量と血中コレステロールの関係を調査した結果、水溶性食物繊維を1日2-10g を摂取している人では、血中総コレステロールとLDLコレステロールの低下が確認され、食物繊維にコレステロール低下効果が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9925120

【4】Ⅱ型糖尿病患者13名に食物繊維を1日50g (水溶性25g、不溶性25g) 6週間摂取させたところ、食物繊維を多く摂取した人では空腹時血糖値と尿中糖分値が減少し、総コレステロールとトリグリセリド、VLDLコレステロールの減少が見られたことから、食物繊維に糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10805824

【5】線維筋痛女性患者32名を対象として、ビタミンCを摂取させたところ、運動疲労による酸化ストレスの上昇が抑制されたことから、ビタミンCが抗疲労効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20666654

【6】ヒト黒色腫細胞にビタミンCを投与すると、NO産生および誘導性NO合成酵素(eNOSおよびiNOS)が阻害され、メラニン形成が抑制されました。ビタミンCがメラニン形成を阻害することにより、美白効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21656367

【7】年老いたラットに100または200㎎/㎏のルチンを経口投与し、その行動(水迷路)および神経物質について調べました。その結果、年老いたラットの空間記憶能力が上昇しました。また、視床下部のドーパミンレベルが上昇することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23087133

【8】デキサメタゾン誘発-海馬CA3領域の神経細胞死を誘発したマウスに対し、ルチン・オクラ・ケルセチンを予め投与したマウスは、対照群に比べ、CA3領域の形質的変化が有意に少なく、さらに歯状回領域の細胞死が有意に抑制されていました。このことから、ルチン・オクラ・ケルセチンは、神経細胞を保護する働きがあると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21740943

【9】ルチンは、ラット大動脈に対して、弛緩作用を有することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12594537

【10】ルチンは、濃度依存的にウサギ血小板凝集を抑制することが分かりました。さらに、セロトニン受容体の分離、血小板遊離カルシウムの増加などが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12584792

【11】69名の妊娠期女性に対してルチンを飲用すると、足の静脈瘤の改善が認められたという報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17253454

【12】ルチン誘導体のオキサルチンが血液循環障害に基づく疾患に使用され、エコノミー症候群の治療に効果がある可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12011968

【13】そば粉を焼いたパン(BWG)を摂取した結果、通常の小麦パン(WWG)よりも食後血糖値およびインスリン反応が低くなっていました。グリセミックインデックス(GⅠ)とインスリン値(GⅡ)はBWGが61(GⅠ)、53(GⅡ)でWWGが66(GⅠ)、74(GⅡ)でした。この結果からソバを食事として摂取していると、糖尿病患者において長期の耐糖能が改善する可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11170616

【14】高脂血しょう患者7名についてそば粉10g/日を30日間投与した結果、総コレステロール値は食べる前と比べて食後、有意に抑制していました。このことから、そば粉には、血漿コレステロールを下げる働きがあることが分かりました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002625214

【15】そば蛋白抽出物(20%)を蛋白源とした食餌ラット(BWPE群)を飼育し、筋肉、肝臓、脂質等を検討したところ、BWPE群ではコントロール群に比べ、脂肪組織重量が有意に低く、筋肉重量は、足底筋、腓腹筋で有意に増加していました。また、肝臓の中性脂肪量が低下していたことが分かりました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002795168

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参考文献

・西崎統 鈴木園子 専門医がやさしく教える食品成分表 PHP研究所

・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館

・関西テレビ 著 あるある栄養成分ハンドブック 扶桑社

・新しい食生活を考える会 編著 食品成分表 大修館書店

・菅原龍幸 井上四郎 新訂・原色食品図鑑 建帛社

・本多京子 食の医学館 株式会社小学館

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・Nazıroğlu M, Akkuş S, Soyupek F, Yalman K, Çelik Ö, Eriş S, Uslusoy GA. (2010) “Vitamins C and E treatment combined with exercise modulates oxidative stress markers in blood of patients with fibromyalgia: a controlled clinical pilot study.” Stress. 2010 Nov;13(6):498-505. doi: 10.3109/10253890.2010.486064. Epub 2010 Jul 28.

・Panich U, Tangsupa-a-nan V, Onkoksoong T, Kongtaphan K, Kasetsinsombat K, Akarasereenont P, Wongkajornsilp A. (2011) “Inhibition of UVA-mediated melanogenesis by ascorbic acid through modulation of antioxidant defense and nitric oxide system.” Arch Pharm Res. 2011 May;34(5):811-20. doi: 10.1007/s12272-011-0515-3. Epub 2011 Jun 9.

・Pyrzanowska J, Piechal A, Blecharz-Klin K, Joniec-Maciejak I, Zobel A, Widy-Tyszkiewicz E. (2012) “Influence of long-term administration of rutin on spatial memory as well as the concentration of brain neurotransmitters in aged rats.” Pharmacol Rep. 2012 Jul;64(4):808-16.

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