マタタビとは
●基本情報
マタタビはマタタビ科マタタビ属の落葉性低木植物[※1]で、日本、朝鮮半島、中国が原産といわれています。つる性の植物で、周囲の樹木などに巻きついて成長し、長さは10mにまで伸びることもあります。葉の大きさは6~12cmで葉縁は鋸歯状をしており、開花期になると枝先の葉の表面がろう状のもので覆われ、白く変色します。開花期は夏で、梅の花に似た白く小さな花を咲かせることから、別名「夏梅」とも呼ばれています。
果実の大きさは3~4cmで通常はドングリのような形をしており、若い果実は強い辛味があるためマタタビ酒や塩漬けなどにして食されますが、熟すと甘みが出てくるため、そのままでも食べることができます。また、つぼみの時期や、開花前にマタタビアブラムシという昆虫が卵を産み付けると、虫が寄生してカボチャ型の果実(虫えい果)ができます。この果実を熱湯で処理して乾燥させたものを木天蓼(もくてんりょう)といい、漢方薬として使用されています。さらに、つるを乾燥したものを天木蔓(てんもくつる)、ドングリ型の果実を乾燥したものを天木実(てんもくじつ)といいそれぞれ生薬として用いられる他、若芽や若葉、つるはマタタビ茶としても利用されます。また、若芽や若葉は生のまま天ぷらにしたり、お浸しや炒め物、炊き込みご飯にも用いられます。
●マタタビの歴史
福井県にある縄文時代前期の集落遺跡である鳥浜貝塚や、青森県にある縄文時代後期の集落遺跡である亀ヶ岡遺跡の地層からマタタビの種子が出土していることから、縄文時代から果実を食用としていたと考えられています。また、本草和名[※2]や延喜式[※3]にも和多々比(わたたひ)や和太太備(わたたび)との記載があることから、日本でも古くから利用されていたことがわかります。
中国でも古くから薬用として利用されていました。
マタタビの名の由来は諸説あり、長旅に疲れた旅人が果実を食べたところ、元気を取り戻し、また旅を続けられるようになったことが由来という説や、アイヌ語の「マタタンプ」がなまったという説、古くに呼ばれていた「わたたび」がなまったという説などがあります。
●マタタビの産地
日本各地や朝鮮半島、樺太、南千島、中国など東アジアの山地に広く自生しており、沢すじなどの湿りけのある場所に生育します。夏に花が咲いた後の8月~9月に結実し熟すため、果実は10月頃に収穫されます。
●マタタビに含まれる成分と性質
マタタビは冷え性の改善や神経痛、疲労回復などに用いられます。虫えい果には神経の機能を高めて精神安定効果のあるマタタビ酸や、利尿作用のあるポリガモールなどの成分が含まれます。また、茶葉となる若芽にはカロテンやビタミンCが豊富に含まれているほか、たんぱく質分解酵素であるアクチニジンや芳香成分のマタタビオールなどが含まれています。
<豆知識>猫にマタタビ
猫にマタタビとは「好きで好きでたまらない」ということの例えに使われる言葉です。実際に猫にマタタビを嗅がせると、なめる、かむ、頭をこすり付ける、体をくねらせたり転がりながら身もだえるなどの行動をとります。これはマタタビに含まれるマタタビラクトンという成分が、猫の神経を刺激したり麻痺させたりすることで性的快感を覚えさせるためだといわれています。常用すると呼吸不全を引き起こす場合もありますが、下痢をしたときや元気がないときなど、猫の反応を見ながら調節することで万能薬として役立てることができます。
[※1:落葉性低木植物とは、定期的に葉を完全に落とし、成長しても樹高が約3m以下の植物のことです。]
[※2:本草和名とは、平安前期にできた日本最初の漢和薬名辞書です。大医博士 深根輔仁(ふかねのすけひと)が醍醐天皇の勅命をうけて延喜年間(901‐923)に著しました。]
[※3:延喜式(えんぎしき)とは、平安時代中期に施行された格式のことです。三大格式のひとつであり、ほぼ完全な形で今日に伝えられている唯一の格式といわれ、日本古代史研究に不可欠な文献です。]
マタタビの効果
●血流を改善する効果
マタタビにはアクチニジンやマタタビオールといわれる成分が含まれますこれらの成分には血行を促進する作用があることから、冷え性の改善に効果を発揮します。北日本では「食べる温泉」とも呼ばれるほどで、倦怠感が取れないときなど、就寝前にマタタビ茶を飲むことで疲労回復にもつながります。【4】●胃の健康を保つ効果
マタタビに含まれるアクチニジンは、同じマタタビ属のキウイフルーツにも豊富に含まれるたんぱく質分解酵素です。消化吸収を助ける働きがあるため、胃もたれや消化不良を防ぎ胃の健康を保つ効果があります。【4】●生活習慣病の予防・改善効果
マタタビの若芽には抗酸化作用[※4]のあるビタミンAやビタミンCが豊富に含まれます。ガンや動脈硬化などの原因となる活性酸素[※5]を除去し、生活習慣病の予防に効果を発揮します。またポリガモールの利尿作用により、体内の余分なナトリウムが排泄させるため、高血圧やむくみの予防にも役立ちます。●免疫力を高める効果
マタタビの若芽に多く含まれるビタミンAには、のどや鼻などの粘膜を健康に保つ働きがあります。粘膜は病原菌やウィルスが体内に入るのを防ぐ役割をしているため、ビタミンAが不足してその働きが弱まる免疫力が低下します。また、ビタミンCには、体内に侵入した病原菌を攻撃してくれる白血球の働きを強化するとともに、ビタミンC自体も病原菌を攻撃し、免疫力を高めてくれます。【1】【2】【3】
[※4:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※5:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
マタタビはこんな方におすすめ
○血流を改善したい方
○冷え症の方
○疲労を回復したい方
○胃の健康を保ちたい方
○消化を促進したい方
○生活習慣病を予防したい方
○免疫力を向上させたい方
○風邪をひきやすい方
マタタビの研究情報
【1】マタタビ抽出物は抗炎症作用を持つことが確認されました。その成分は抗炎症作用のほか、抗アレルギー作用を持つことから、マタタビは抗炎症、抗アレルギー効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22313761
【2】マタタビは傷やリウマチ、抗炎症薬として古くから使われてきました。またマタタビに含まれているα-リノレン酸はiNOSやCOX-2発現抑制効果を示すことから、マタタビは抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17679548
【3】マタタビは韓国で民間薬として使用されてきました。今回マタタビ抽出物について調査したところ、リポサッカロイドよりおこる炎症物質プロスタグランジンやCOX-2の産生が抑制されたことから、マタタビは抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14723341
【4】マタタビを原材料とする韓国民間薬は排尿障害、脳卒中、胃腸カタル、急性胃炎、胃癌などに使用されてきました。この機能性成分のマタタビは排尿障害、胃腸の健康、血流改善に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17628343
参考文献
・村上光太郎 食べる薬草事典-春夏秋冬・身近な草木75種 農山漁村文化協会
・藤田紘一郎 知識ゼロからの健康茶入門 幻冬舎
・中嶋洋子 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社
・Bang MH, Chae IG, Lee EJ, Baek NI, Baek YS, Lee DY, Lee IS, Lee SP, Yang SA. (2012) “Inhibitory effects of actinidiamide from Actinidia polygama on allergy and inflammation.” Biosci Biotechnol Biochem. 2012;76(2):289-93.
・Ren J, Han EJ, Chung SH. (2007) “In vivo and in vitro anti-inflammatory activities of alpha-linolenic acid isolated from Actinidia polygama fruits.” Arch Pharm Res. 2007 Jun;30(6):708-14.
・Kim YK, Kang HJ, Lee KT, Choi JG, Chung SH. (2003) “Anti-inflammation activity of Actinidia polygama.” Arch Pharm Res. 2003 Dec;26(12):1061-6.
・Ahn Mi-Jeong, Bae Ji Young, Mikage Masayuki, Park Jong Hee. (2010) “Pharmacognostical study of the folk medicine “Da-Rae-Jul-Ki”.” 和漢医薬学雑誌 2010 27(5・6), 204-209.