セリンとは?
●基本情報
セリンとは体内で合成できる非必須アミノ酸[※1]の一種で、シルクプロテインに含まれるセリシン[※2]の主要な構成物質です。セリンは、核酸の原料となるプリンやピリミジンなどの生合成に関与します。
自然界にアミノ酸は500種類以上存在しますが、人間のたんぱく質を構成するものはわずか20種類です。セリンは人間のたんぱく質を構成している重要なアミノ酸です。
●セリンの歴史
セリンは1865年に、シルクに含まれるたんぱく質のセリシンの加水分解から発見され、1902年にアミノ酸としての構造が決定しました。セリンという名前は、セリシンに多く含まれることに由来します。
現在では医療用にも使用されており、肝不全用アミノ酸製剤や、高カロリー輸液[※3]用総合アミノ酸製剤などに用いられています。
●セリンを含む食品
セリンは牛乳や大豆、高野豆腐、イクラ、かつお節、海苔に多く含まれます。
中でも、セリンは牛乳中のたんぱく質の内80%を占めるカゼインに多く含まれています。
眠れない時に、ホットミルクを飲むと良いといわれるのは、牛乳に質の良い睡眠をもたらすセリンが含まれているからです。
●セリンの過剰症・欠乏症
セリンは過剰に摂取しても、代謝[※4]されるため蓄積されることはないといわれています。また、セリンが不足すると、肌荒れやしわの原因となります。
セリンは、脳のエネルギー源となるブドウ糖を供給するホスファチジルセリンの原料にもなります。ブドウ糖は思考したり、集中力を持続するために必要な成分です。そのためセリンの不足は、ホスファチジルセリンの不足にもつながり、認知症やアルツハイマー病が進行する恐れがあります。
●セリンの働き
セリンは肌の角質層に最も多く存在し、肌の潤いを保つ効果があります。
また、脳の細胞を構成する神経細胞の材料となり、健康な脳を維持する働きを持ちます。
セリンは、糖原性というグルコースを生成する性質を持つアミノ酸としても働きます。グルコースとは、人間が生きる上で必要なエネルギー源となる糖質です。
セリンはリン脂質を生み出すために必要です。リン脂質は、細胞膜[※5]をつくる主成分で、体内で脂肪が運搬・蓄積される際に、たんぱく質と結びついて血液中を移動します。
さらに、セリンをはじめとするアミノ酸は、D-セリンやL-セリンのように構造の違いからD型とL型に分けられており、近年の研究から、D-セリンの不足が統合失調症の症状と関わっていることが発表されています。
また、セリンは脳の働きを支えるアミノ酸でもあります。
セリンは、脳を構成する神経細胞の材料で、認識や知覚といった重要な脳の働きを支えます。また、外部からの刺激を脳のシナプス[※6]に伝える神経伝達物質[※7]であるアセチルコリンを生成します。アセチルコリンは副交感神経の末端から分泌され、自律神経において重要な役割をします。
<豆知識>シルクにおけるセリンの働き
カイコの繭から採った精錬されていない絹糸を生糸といいます。シルクとはこの生糸を精練したものです。生糸は、たんぱく質から構成された2本のフィブロイン繊維[※8]を、セリンを含むセリシンが包んでいる構造を持っています。セリンによってシルクの滑らかさは生まれます。
また、高い保湿力を持つセリンを含むシルクは、ブラウスやシャツなどの高級衣料品として利用されるだけでなく、シャンプーなどにも使用されています。
[※1:非必須アミノ酸とは、体内で合成が可能なアミノ酸のことです。グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、システイン、チロシン、プロリンの11種類が存在します。]
[※2:セリシンとは、繭から抽出されるアミノ酸を多く含むたんぱく質の一種です。]
[※3:高カロリー輸液とは、通常よりも多くの糖類を含む輸液のことです。]
[※4:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※5:細胞膜とは、細胞の内外を隔てる膜のことです。細胞膜があることにより、細胞内部の環境を一定に保つことができます。また特定の物質以外侵入させないためのバリア機能もあります。]
[※6:シナプスとは、脳内の神経細胞の間で神経伝達物質を信号としてやり取りしている部分のことです。]
[※7:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※8:フィブロイン繊維とは、昆虫やクモ類の繭糸を構成する繊維のことです。]
セリンの効果
●美肌・美白効果
セリンは肌の角質に存在し、肌の水分を保つ天然保湿成分(NMF)に最も多く含まれる成分として、化粧品にも配合されています。
肌は表面から厚さ約0.01mmの角質層、約0.1mmの表皮層、2~3mmの真皮層に分かれます。肌が乾燥している状態とは、角質層が水分を保っていない状態のことを指します。わずか0.01mmの薄い角質層がウイルスや細菌などの異物から体を守り、肌へのダメージを抑えます。その上、肌の水分が逃げないように水分を保持してくれます。
角質層の細胞はケラチン繊維[※9]と線維間物質から構成されており、線維間物質に肌の潤いを保持する天然保湿成分(NMF)が存在します。セリンをはじめとするアミノ酸は、天然保湿成分(NMF)の約40%を占めており、皮膚の保湿と健康を保っています。
また、セリンは体内でシステインに変換されます。システインは非必須アミノ酸の一種で、毛髪や皮膚、爪の多く存在し、肌の生まれ変わりを促進します。また、シミやそばかすの原因となるメラニンの形成を抑制するため、美白にも効果的な成分です。
●アルツハイマー病を予防する効果
セリンは、脳のエネルギー源となるブドウ糖を供給するホスファチジルセリンを生成し、認知症やアルツハイマー病の進行を抑制し、健康な脳を維持する効果があります。ホスファチジルセリンは記憶力の向上や、加齢による認識脳の低下や記憶障害、アルツハイマー病に効果があるといわれています。
●睡眠を促す効果
セリンには神経系において重要な働きをすることから、良質な睡眠をもたらす効果があります。
睡眠に満足していない人に対して、就寝前にセリンを毎日摂取させたところ、寝つき、夜中や早朝に目が覚める、目覚めた時の頭のすっきり感、睡眠に対する満足感などが改善されたことがわかりました。さらに摂取している間でも後半になるにつれ、睡眠の質が改善することが明らかになっています。
この研究から、セリンには寝つきの改善や睡眠途中での覚醒改善など、良質な睡眠をもたらす効果があると判明しました。
[※9:ケラチン繊維とは、肌の角質層に存在するハリと弾力を保つ物質です。]
セリンは食事やサプリメントで摂取できます
セリンを含む食品
○牛乳
○大豆
○高野豆腐
○イクラ
○かつお節
こんな方におすすめ
○美肌を目指したい方
○記憶力が気になる方
○不眠でお悩みの方
セリンの研究情報
【1】遺伝的感覚運動ニューロパチーを伴うマウスとヒトにおいてL-セリンの経口投与は、神経毒性のあるデオキシスフィンゴリン脂質を減らしました。この疾患に対する初期の治療の選択肢としてL-セリン投与の可能性が示されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22045570
【2】L-セリンの脳室内注入が、ストレスの多い状態の新生ひよこにおいて鎮静作用および催眠作用を誘発したという実績があります。経口摂取によっても、慢性的なストレスによって誘導される症状を減弱させる可能性があると示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19874867
【3】L-セリン補給は、セリン欠乏症の患者における発育異常を減弱させる可能性があることが示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18296366
参考文献
・船山信次 アミノ酸 タンパク質と生命活動の化学 東京電機大学出版局
・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店
・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社
・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社
・独立行政法人国立栄養研究所 “「健康食品」の安全性・有効性情報 「健康食品」の素材情報データベース”
・Garofalo K, Penno A, Schmidt BP, Lee HJ, Frosch MP, von Eckardstein A, Brown RH, Hornemann T, Eichler FS. 20011 “Oral L-serine supplementation reduces production of neurotoxic deoxysphingolipids in mice and humans with hereditary sensory autonomic neuropathy type 1.” J Clin Invest. 2011 Dec;121(12):4735-45.
・Shigemi K, Tsuneyoshi Y, Yamada S, Kabuki Y, Hayamizu K, Denbow DM, Furuse M. 2010 “Oral administration of L-serine reduces the locomotor activity of socially isolated rats.” Neurosci Lett. 2010 Jan 1;468(1):75-9. Epub 2009 Oct 27.
・Furuya S. 2008 “An essential role for de novo biosynthesis of L-serine in CNS development.” Asia Pac J Clin Nutr. 2008;17 Suppl 1:312-5.