センブリ

swertia japonica
千振 当薬

センブリは日本の民間薬を代表する薬用植物で、古くから生薬として利用されてきました。苦味健胃薬や整腸薬として、胃弱、食欲不振、消化不良などに用いられる他、センブリ茶としても飲用されています。また、近年ではセンブリエキスの育毛効果が注目されており、育毛剤や育毛シャンプーなどにも使用されています。

センブリとは?

●基本情報
センブリは日本、朝鮮半島、中国を原産とするセンブリ属リンドウ科の耐寒性2年草で、日当たりがよく、滞水せずに乾燥しない林縁部や草地に自生します。成長すると高さ5~30cmになり、1年目は根生葉[※1]のみで越冬、2年目に花芽の分化にともない成長します。太さ1~2mmの四角い茎は紫色で、根本から数本に分かれて生えています。葉は線形で細長く対生しています、9月~11月の秋には1.5cm程で白地に紫色の線が入った星形の小さな花をつけます。黄色く細い根、茎、葉、花はすべて噛むと苦く、全草を乾燥させたものが生薬として利用されます。生薬名を「当薬」といい、主に民間薬や家庭配置薬の原材料として用いられますが、漢方では使われません。ドクダミ、ゲンノショウコとともに三大民間薬といわれます。
センブリの仲間は世界で約80種類あるといわれています。

●センブリ属の代表的な植物
・アケボノソウ(曙草)
北海道から九州、中国、ヒマラヤに分布し、成長すると50~80cmになる2年草で、センブリより少し大きい2cm程の白い花を咲かせます。また、花冠には黄緑色の2点の蜜腺と黒紫色の細点があり、その様が夜明けの空の星に見立てられたところから、アケボノソウと名付けられました。

・イヌセンブリ(犬千振)
日本では本州、四国、九州の湿地に生える1年草または越冬草で、高さは10~20cm程に成長します。花には紫色の線が入っておりセンブリとよく似ていますが、苦味が少なく薬効はないため薬用には用いません。またイヌセンブリは生育数が減少しており、絶滅危惧種として指定されています。

・ムラサキセンブリ(紫千振)
関東以西の高原の、草丈の低い草地や道端に生育します。草丈はセンブリより高くなり20~50cm程に成長し、9~10月にかけて淡い紫色の花を咲かせます。センブリと同じく苦味はあるものの、薬用としては利用されません。

・ベニバナセンブリ、ハナハマセンブリ
ヨーロッパが原産の帰化植物[※2]で、2種とも6月~8月にピンク色の花を咲かせます。全体的によく似た植物ですが、ベニバナセンブリのほうがハナハマセンブリより少し大きく、花弁の形がふっくらしているのが特徴です。ベニバナセンブリは1960年頃に広島県で繁殖していることが報告されており、ハナハマセンブリは1988年に神奈川県で存在が報告されました。

●センブリの歴史
苦味健胃薬として用いられるようになったのは、西洋医学の影響を受け始めた江戸時代末期からといわれています。江戸時代の書物である本草弁疑(1681年)[※3]には「腹痛の和方に合するには、此当薬を用べきなり」との記載があり、薬として用いられていたことがわかります。現在で薬用として利用されるセンブリですが、古くは衣類についたノミやシラミを殺す殺虫剤として使用したり、屏風などの虫食い防止にも利用されていました。また、伝統的インド医学アーユルヴェーダ[※4]でも、チレッタセンブリとして古くから薬用として用いられています。
センブリという名前は千回振り出してもまだ苦いことから名づけられました。また、生薬名である当薬とは「まさに薬である」という意味です。

●センブリの生産地
出芽率が低く非常に栽培が困難なことから、日本国内でも生産量は少なく、現在は長野県と高知県の一部で栽培されています。
採取時期は10月~11月で、植物の成長が頂点に達している開花期の全草を採取し、日陰で乾燥させます。その後、緑色を失わないように仕上げたものが生薬として利用されます。

●センブリに含まれる成分と性質
主要な成分として、胃弱、食欲不振などに働きかける苦味配糖体(セコイリドイド配糖体)[※5]や、抗酸化作用[※6]をもつキサントン、血行促進作用のあるキサントン誘導体[※7]が含まれています。苦味健胃薬として利用されるほか、近年ではアルコール抽出物が育毛剤などにも利用されています。

[※1:根生葉とは、植物の茎が極端に短いため、根または地下茎から直接出ているようにみえる葉のことです。]
[※2:帰化植物とは、植物が自生地から他の地域に移り、野生化して繁殖するようになったもののことです。]
[※3:本草弁疑とは、江戸時代の本草書で全5巻から成り、初めて外国産の薬種を記載した書物です。]
[※4:アーユルヴェーダとは、インドで古くから語り継がれている東洋医学のひとつです。「予防医学」の考え方を重視し、世界保健機構(WHO)が正式に奨励している医学です。]
[※5:配糖体とは、糖と様々な種類の成分が結合した有機化合物のことです。生物界に広く分布し、植物色素であるアントシアニンやフラボン類などがあげられます。]
[※6:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※7:誘導体とは、母体となる有機化合物の構造や性質を大幅に変えない程度の改変が成された化合物の総称です。]

センブリの効果

センブリは非常に強い苦みが特徴です。苦味成分として苦味配糖体のスウェルチアマリン、スウェロシド、アマロゲンチン、アマロスウェリン、ゲンチオピクロシドなどが含まれており、中でもアマロスウェリンは天然物屈指の苦味成分です。これらの苦味成分が舌の感覚神経、すなわち味覚を刺激することによって、反射的に唾液や胃液の分泌を高め、胃の運動を活発にすることで、胃弱、食欲不振、消化不良、食べ過ぎ、飲み過ぎなどに働きかけます。【1】【2】

●髪を健康に保つ効果
キサントン誘導体であるスウェルチアマリンには血行を促進する作用があります。抜け毛の原因の一つとして、頭皮に栄養が行き届いていないことが挙げられます。センブリエキスに含まれるスウェルチアマリンやキサントンが頭皮に浸透し頭皮の血液循環を良くすることで、頭皮にまで栄養が行き届き頭皮環境が改善されるため、育毛や抜け毛予防の効果が期待できます。また、アマロゲンチンやアマロスウェリンには毛乳頭[※8]の細胞を活性化する作用があることから、現在では多くの育毛剤や育毛シャンプーにセンブリエキスが配合されています。

[※8:毛乳頭とは、毛球の下面のへこみ部分のことです。髪の成長に必要な栄養素や酵素を毛母細胞に送り出し、指示を出す役割を果たしています。]

センブリは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○胃の健康を保ちたい方
○食欲を増進させたい方
○食欲不振の方
○ついつい食べ過ぎてしまう方
○健やかな髪を保ちたい方
○薄毛でお悩みの方

センブリの研究情報

【1】センブリは胃腸の調子の悪い時に日本では使われています。センブリのもつ胃腸への作用は、センブリの成分であるスウェルチアマリンがドーパミンD(2)レセプターを阻害することで起こるということが研究によりわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21571047

【2】センブリのメタノール抽出物は抗コリン作用で胃腸に働きかけます。その効果を詳細に調査するためにカラムクロマトグラフィーで分画し、その成分を調べたところ30%のスウェルチアマリンが含まれていることが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1943170

参考文献

・田部井満男 ハーブ・スパイス館 小学館

・Kimura Y, Sumiyoshi M. (2011) “Effects of Swertia japonica extract and its main compound swertiamarin on gastric emptying and gastrointestinal motility in mice.” Fitoterapia. 2011 Sep;82(6):827-33.

・Yamahara J, Kobayashi M, Matsuda H, Aoki S. (1991) “Anticholinergic action of Swertia japonica and an active constituent.” J Ethnopharmacol. 1991 May-Jun;33(1-2):31-5.

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