ワカメとは?
●基本情報
ワカメとはコンブ目チガイソ科ワカメ属の海藻です。
日本では北海道から九州にわたる日本各地、世界では北部太平洋・西部太平洋の海の岩礁や砂地に生育しています。
ワカメは根、メカブ、中肋(ちゅうろく)、葉の部分からなり、一般的に食用として親しまれているのは葉の部分です。メカブは酢の物やメカブトロロとして、中肋部分はクキワカメと呼ばれ、つくだ煮や漬け物に加工され食されています。
●ワカメの歴史
ワカメは太古から親しまれている海藻です。万葉集などにも「め」または「めのは」の名でワカメが記載されています。
701年(大宝元年)、日本初の律令制度である大宝律令[※1]で、ワカメが租税(賦役)対象として定められました。927年(延長5年)の延喜式(えんぎしき)[※2]には、現在の青森県から福岡県にあたる地域からワカメが貢納させられていたことが記されています。多くの地域からワカメが貢納品として認められ、一般的な食品として利用されていたことがわかります。平安時代には高級食材でしたが時代とともに食料の生産手段が発達すると、ワカメは様々な料理に使われるようになりました。乾燥させると長期保存ができることから、戦国時代や江戸時代には軍事食や救荒食(きゅうこうしょく)[※3]などにも使われました。
1983年に日本ワカメ協会が、美味しい新ワカメが市場に出回る時期にワカメの良さを日本全国に広めようと、5月5日をワカメの日と定めました。子供の成長とワカメが大きく結びついているとして、5月5日のこどもの日をワカメの日に選んだといわれています。
●ワカメの品種
ワカメは分類学的にはワカメ形とナンブワカメ形の2つに分けることができます。
ワカメ形とは茎が短く胞子葉が葉部と接近し、葉の切れ込みが浅く、主に房総半島以南の海に分布する南方型を指します。ナンブワカメ形とは茎が長く胞子葉が葉から離れてでき、葉の切れ込みが深く、東北や北海道に分布する北方型ワカメを指します。しかし、それぞれの分布に明瞭な区分はありません。
また、ワカメが生育する地域が異なると、ワカメ自体も異なる特徴を持ちます。そのため、ワカメには地方名がつけられた地方品種がたくさんあります。例えば、三陸ワカメ・鳴門(糸)ワカメ・三浦ワカメ・利尻ワカメ・渡島ワカメ・佐渡ワカメ・能登ワカメ・越前ワカメ・伊豆ワカメ・師崎ワカメ・三重(伊勢)ワカメ・島根(板)ワカメ・対馬ワカメ・国東ワカメ・五島ワカメなどです。
●ワカメの旬
地域によって差はありますが、ワカメは春先に旬を迎えます。日本各地の沿岸に生育しているワカメは、南方の暖かい地方から収穫が始まります。旬のワカメは脂がのっていて、とても良い香りを放ちます。特に天然のワカメの香りの良さは養殖のワカメでは味わえないといい、旬のワカメは刺身として食べると一番美味しいといわれています。しかし、現在では天然もののワカメは非常に少なくなり、食用とされているワカメの97%が養殖されています。
●ワカメに含まれる成分と性質
ワカメには高血圧や糖尿病などの予防に効果を発揮する水溶性食物繊維であるアルギン酸が含まれています。アルギン酸が体内の余分な塩分を体外に排出することで、血圧や血糖値の上昇が抑えられます。
食物繊維は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2つに分けられます。
不溶性食物繊維とは水に溶けない食物繊維で、腸のぜん動を刺激して、腸内に溜まった有害物質の排出を促す作用があります。肥満や便秘の解消、腸の病気予防などに効果があります。
水溶性食物繊維とは水に溶ける食物繊維で、腸内で水分を含みヌルヌルとしたゲル状となり、有害な成分を吸着して排出させます。糖尿病や動脈硬化、高血圧の予防に効果があります。
ワカメに含まれるミネラルのひとつであるヨウ素には、新陳代謝に必要な甲状腺ホルモン[※4]の働きを正常にし、美肌効果や老化予防に期待ができます。ヨウ素が不足すると甲状腺が肥大して甲状腺そのものの機能が低下し甲状腺腫[※5]になる可能性があります。日本人は海産物の摂取量が多いため心配する必要はないとされていますがヨウ素の過剰摂取も甲状腺ホルモンの合成を妨げて甲状腺腫を引き起こすため、過剰摂取にも注意が必要です。
ワカメには他にも、活性酸素[※6]の発生を防ぐカロテンや、骨や歯を丈夫にするカルシウム、水溶性食物繊維でネバネバ成分のもとであるフコイダンなどが含まれます。
フコイダンには血圧抑制や肝機能向上、コレステロールの調整、抗アレルギー作用などの効果が期待できます。
<豆知識①>ワカメの様々な呼び方
ワカメは地方によって布(め)、和布、若布、和可米、稚海藻、和海藻(読み方は全てワカメ)、海藻(にぎめ)、めのは、おしきめなどと様々な呼び方(和名)があり、その表記も様々でした。漢名は「裙帯菜」(チュンタイツァイ)です。
また、韓国では「メギ」と呼ばれます。日本と並んでワカメの消費量が多い韓国では、出産後の母親がワカメを食べると血液が濃くなり母乳の出が良くなるといわれ、出産祝いにワカメを贈る習慣があります。
<豆知識②>油や酢と相性の良いワカメ
海藻に含まれるヨウ素は油との相性が良いため油揚げと一緒に調理したり、油で炒めることで体内での吸収率が高まります。
また、酢と一緒に摂取すると酢の効果でワカメに含まれる食物繊維が柔らかくなり、フコイダンなどの成分が吸収されやすくなります。
[※1:大宝律令とは、飛鳥時代701年に制定された日本最古の法律です。大宝律令の制定によって、天皇中心の中央集権国家の体制がかたまりました。]
[※2:延喜式とは、平安時代中期に施行された格式のことです。三大格式のひとつであり、ほぼ完全な形で今日に伝えられている唯一の格式といわれ、日本古代史研究に不可欠な文献です。]
[※3:救荒食とは、飢饉(ききん)などの食糧不足の際に利用される食物、またそれに備えて備蓄しておく食物のことです。]
[※4:甲状腺ホルモンとは、全身の細胞に作用して、代謝を上昇させるホルモンです。]
[※5:甲状腺腫とは、甲状腺が様々な原因で大きくなった病気のことです。甲状腺の腫れ方は原因により様々で甲状腺全体が腫大すること(バセドウ病や橋本病などの場合)や、部分的に腫大すること(甲状腺に結節や腫瘍などの「できもの」がある場合)があります。]
[※6:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い抗酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化の原因になるとされます。]
ワカメの効果
ワカメには、水溶性食物繊維であるアルギン酸や体の機能調節や機能維持に欠かせないミネラルをはじめ、カロテン、カルシウム、フコイダンなどが含まれており、以下のような健康効果が期待できます。
●生活習慣病の予防・改善効果
ワカメには海藻特有のネバネバ成分のもとである水溶性食物繊維のアルギン酸が含まれています。アルギン酸にはカリウムとナトリウムのバランスを調節する働きがあります。
カリウムとナトリウムはともに体液を構成する主要成分であり、それぞれが一定の濃度に保たれていることで細胞の浸透圧が維持されています。
日本人の食事は多くの塩分が含まれている傾向にあるため、体内のナトリウム量が多くなりがちであるといわれています。体内にナトリウムが蓄積すると血圧の上昇につながります。カリウムには細胞内のナトリウム量を調節し、余分なナトリウムを排泄する働きがあります。アルギン酸はカリウムと結びついており腸内でカリウムを放出することで、体内のナトリウムが減少し、血圧の上昇を抑えることができます。
アルギン酸は他にもコレステロール値や中性脂肪値、血糖値の上昇抑制にも効果を発揮します。【2】【4】
●髪や爪、肌を健康に保つ効果
ワカメに含まれるミネラルのひとつであるヨウ素が、新陳代謝に必要な甲状腺ホルモンの働きを正常にします。
ヨウ素は甲状腺ホルモンであるトリヨードチロニンとチロキシンをつくるために必要な成分です。甲状腺ホルモンは交感神経[※7]を刺激してたんぱく質や脂質、糖質の代謝を高めるため、基礎代謝が向上します。
私たちの体は60兆個もの細胞からできており、髪や爪、肌もそのうちのひとつです。新陳代謝が活発になるため、髪や爪、肌を美しく保つことができます。また、成長を促進するとして、成長期の子どもには欠かせない成分でもあります。
●骨粗しょう症を予防する効果
ワカメには骨や歯を丈夫にするカルシウムが含まれています。
カルシウムが不足すると骨密度が低下し、骨折しやすくなったり骨粗しょう症[※8]を引き起こしやすくなります。血行と血液の状態にも影響を与え、高血圧や動脈硬化の原因にもなります。またカルシウムが不足するとイライラしやすくなったり、肩こりや腰痛などの症状が現れる場合もあります。
近年の日本人は特にカルシウムが不足しがちであるため、積極的にカルシウムを摂取することが必要です。
[※7:交感神経とは、生命を維持している自律神経の一種です。不安・恐怖・怒りなどストレスを感じている時に働きます。]
[※8:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]
ワカメは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○生活習慣病を予防したい方
○血圧が高い方
○血糖値が気になる方
○コレステロール値が気になる方
○髪や爪、肌の健康を保ちたい方
○成長期のお子様
○イライラしやすい方
○肝臓の健康を保ちたい方
ワカメの研究情報
【1】ワカメの有効成分フコキサンチン(1-20μM)がヒト肝がん細胞であるSK-Hep-1の増殖を抑制したことから、ワカメが抗腫瘍効果ならびに肝臓保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19737546
【2】高脂肪食摂取マウスに、フコキサンチを10週間摂取させたところ、高脂肪食摂取による高血糖、高インスリン血症、高レプチン血症が改善され、グルコーストランスポーター4(GLUT4)が活性化されたことから、ワカメが抗肥満作用や糖尿病予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21475918
【3】ワカメに含まれるフコイダンは抗菌作用と抗ウイルス作用を持つことが知られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18176057
【4】高血圧自然発症ラットに、ワカメペプチドを50 mg/kg摂取させたところ、収縮期血圧、平均血圧、拡張期血圧が低下したことから、ワカメが高血圧予防効果を持つことが示唆されました。
http://www.fish-u.ac.jp/kenkyu/sangakukou/kenkyuhoukoku/51/51-4-5.pdf
参考文献
・末綱邦男、前川敬世、陳 俊栄 “わかめペプチドによる高血圧自然発症ラットの血圧降下作用” Journal of National Fisheries University 51 (4) 141-146
・Liu CL, Huang YS, Hosokawa M, Miyashita K, Hu ML. (2009) “Inhibition of proliferation of a hepatoma cell line by fucoxanthin in relation to cell cycle arrest and enhanced gap junctional intercellular communication.” Chem Biol Interact. 2009 Dec 10;182(2-3):165-72. Epub 2009 Sep 6.
・Maeda H, Hosokawa M, Sashima T, Murakami-Funayama K, Miyashita K. (2009) “Anti-obesity and anti-diabetic effects of fucoxanthin on diet-induced obesity conditions in a murine model.” Mol Med Report. 2009 Nov-Dec;2(6):897-902. doi: 10.3892/mmr_00000189.