いわし

sardine

Japanese pilchard

いわしとは海水魚の一種でDHAやEPAなどの必須脂肪酸が豊富に含まれており、血液をサラサラにすることにより生活習慣病の予防にも効果があるといわれています。またいわしには脳の働きを良くして認知症を予防する効果やカルシウムやリンなどの骨をつくるために必要なミネラル類が豊富に含まれています。

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いわしとは?

●基本情報
いわしとはニシン科に属している海水魚の総称です。日本ではいわしというとマイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの3種を指すのが一般的です。これらの3種類に共通している特徴として形態は紡錘形で長細い形をしており、海の浅い部分に分布しています。そのため、海の浅い部分に分布している動物プランクトンを主食としています。いわしは沿岸性の回遊魚で、遊泳能力が高く、群れで行動する特徴があります。
いわしは漢字では“魚”+“弱い”で『鰯』と表記されます。これはいわしが水揚げ後すぐに死んでしまうことから“弱し”が転じて『鰯』になったといわれています。

●いわしの歴史
いわしの骨は貝塚という古代人のゴミ捨て場から発見されています。このことからいわしは縄文時代から食用とされていたと考えられます。いわしは昔から多く獲れる魚であり鮮度が落ちるのも早い魚だったため平安時代や奈良時代には下賤な魚として扱われていました。しかし、平安時代の和歌には『日の本に はやらせ給ういわしみず まいらぬ人は あらじとぞ思ふ』と詠まれています。これは日本で流行っている石清水八幡宮に参らない人がいないように、鰯を食べない人はいないと思いますよという意味です。これは『源氏物語』の作者である紫式部が当時下賤な魚として扱われていたいわしをとても気に入って夫の藤原宣孝の留守中にいわしを焼いて食べた後の香りで夫が気づき、怒られた際に詠んだものとされています。その後も安価で栄養価も高くて美味しいいわしは大衆魚として多くの人に愛されています。

●いわしの品種
いわしには数多くの種類が存在しますが食用として利用されるのはニシン科のマイワシとウルメイワシ及びカタクチイワシ科のカタクチイワシの3種が一般的です。
マイワシ:旬は夏~初冬で調理法は煮る、焼く、蒸すなど多様にあります。旬のマイワシは刺身で食べるととても美味しく、またうまみ成分のイノシン酸[※1]を豊富に含む魚なので煮干しとしても食べられます。
ウルメイワシ:漁獲量が少ないイワシです。脂も少ないため多くは干物になります。
カタクチイワシ:傷みが早く生を食べる機会は少ない魚です。イリコなどの加工やシラス干し、たたみいわしなどに利用されています。イタリア料理に使われるアンチョビもカタクチイワシを塩漬けしオイルに漬け込んだものです。

●いわしの生息域
マイワシ:マイワシは九州から樺太まで広く生息しており、主に沿岸部に分布しています。春には北上し、秋から冬にかけて南下を繰り返し、約2年で成魚になります。
ウルメイワシ:ウルメイワシはマイワシよりも温かい海を好みます。そのため、本州沿岸、オーストラリア南岸、アフリカ東岸などマイワシに比べて暖かい水域に分布域が広がっています。そのため日本では南日本に多く分布しています。
カタクチイワシ:カタクチイワシは日本全域の沿岸域に分布しており、動物プランクトンを食べて成長します。

●美味しいいわしの選び方
いわしは鮮度が落ちやすい魚です。そのため生で食べる場合には特に鮮度の良いいわしを選ぶ必要があります。美味しいいわしの選び方は、丸々と太ったもの、鮮度の高いものを選ぶことがポイントです。新鮮ないわしは澄んだ目をしている、エラがきれいなピンク色をしている、全体につやがありからだが青く輝いているという点が目安になります。

●いわしに含まれる成分と性質
いわしにはDHAEPAなどの必須脂肪酸が豊富に含まれているため、記憶力や判断力が向上、また動脈硬化[※2]、心筋梗塞[※3]や脳卒中などの生活習慣病にも効果的といわれています。
いわしにはこの他にも、カルシウムマグネシウム、リンなど骨の形成にとても重要なミネラルも豊富に含んでいるため、骨を強くしたい方におすすめです。またビタミンDも豊富に含むため、いわしに豊富に含まれているカルシウムの吸収がより良くなります。また、いわしのたんぱく質に含まれるペプチドには血圧降下作用があります。

[※1:イノシン酸とは、ヌクレオチドの一種で、かつお節のうま味成分です。]
[※2:動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質がたまって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことです。血液がうまく流れなくなることで心臓や血管などの様々な病気の原因となります。]
[※3:心筋梗塞とは、心臓を養っている動脈に血栓ができることによって血管が詰まり、発生する病気です。]

いわしの効果

●生活習慣病の予防・改善効果
いわしには、生活習慣病[※4]を予防する効果があります。これはいわしにはDHAやEPAという必須脂肪酸[※5]が豊富に含まれているためです。DHAやEPAは冷たい海域に分布している魚でも体液が固まらないようにするため、-40℃でも固まらない特徴があり、血液をサラサラにする効果があります。また他にも血管の壁に付着する悪玉(LDL)コレステロール[※6]を減少させ、善玉(HDL)コレステロールを上げる作用があり、動脈硬化の予防や中性脂肪を下げる働きがあります。いわしにはDHAやEPAの他にもアミノ酸の一種であるタウリンイワシペプチドが含まれます。タウリンにもDHAやEPAと同じようにコレステロール値を下げる効果や動脈硬化、高血圧を予防する効果があります。イワシペプチドには血圧の上昇を誘発する酵素の働きを阻害する効果があるため血圧を下げる効果があります。【1】【2】
このように血液をサラサラにし、悪玉(LDL)コレステロールを下げ、中性脂肪を下げる働きのあるいわしはまさに生活習慣病の予防に適している魚といえます。【3】
また、DHAやEPAには脂肪燃焼を促進する効果もあります。そのためいわしなどの魚を中心とする食事はダイエットにも効果的です。

●記憶力や学習能力を高める効果
いわしに豊富に含まれているDHAには脳の神経組織の働きを活発にする効果があります。DHAは脳や神経組織に多く含まれ、神経組織の発達及び機能維持に関わっていると言われています。DHAはいわしに豊富に含まれておりアルツハイマーの予防に効果があるといわれています。【4】

●骨や歯を丈夫にする効果
いわしにはカルシウム、マグネシウム、リンなど骨を構成するのに必要なミネラルが豊富に含まれています。そのため強い骨や歯をつくりたい方や骨粗しょう症を予防したい方はいわしを積極的に食べることをおすすめします。
[※4:生活習慣病とは、病気の発症に、日頃の生活習慣が深く関わっているとされる病気の総称です。糖尿病、脳卒中、脂質異常症、心臓病、高血圧、肥満などが挙げられます。]
[※5:必須脂肪酸とは、体内で他の脂肪酸から合成できないために食品から摂取する必要がある脂肪酸のことをいいます。]
[※6:悪玉(LDL)コレステロールとは、肝臓から血管にコレステロールを運ぶ機能を持った物質です。悪玉(LDL)コレステロール値が高くなると、動脈硬化の原因になるといわれています。]

いわしは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○生活習慣病を予防したい方
○集中力や記憶力を向上させたい方
○骨や歯を強くしたい方

いわしの研究情報

【1】いわしの筋肉を加水分解したペプチド(sardine peptide,SP)にはアンジオテンシンⅠを阻害する活性があります。この活性を利用し、血中グルコースの上昇を抑える実験をラットを用いて行い、その効果が調べられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19809178

【2】果糖を摂取させメタボリックシンドロームを誘発したラットにいわしを食べさせることで、血漿中のインスリンとインスリン抵抗性を減少させることに成功しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22085913

【3】ラットにいわしオイルを摂取させることでVLDLの肝臓での合成を減らし、トリグリセリドを多く含むリポたんぱく質が血中に増えるという報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1506035

【4】いわしオイルとパーム油をそれぞれマウスに12ヵ月間摂取させ、迷路脱出を何度もさせたところ、いわしオイルを摂取していた方が早く脱出できるようになったという報告があり、いわしが学習能力に役立つことが示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9593318

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参考文献

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・佐藤秀美 イキイキ!食材図鑑 日本文芸社

・蔵敏則 発行 食材図典 小学館

・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社・則岡孝子 著 ひと目でわかる あなたに必要な栄養成分と食べ物 河出書房新社

・中嶋 洋子 著、阿部 芳子、蒲原 聖可監修 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・Otani L, Ninomiya T, Murakami M, Osajima K, Kato H, Murakami T. (2009) “Sardine peptide with angiotensin I-converting enzyme inhibitory activity improves glucose tolerance in stroke-prone spontaneously hypertensive rats.” Biosci Biotechnol Biochem. 2009 Oct;73(10):2203-9.

・Madani Z, Louchami K, Sener A, Malaisse WJ, Ait Yahia D. (2012) “Dietary sardine protein lowers insulin resistance, leptin and TNF-α and beneficially affects adipose tissue oxidative stress in rats with fructose-induced metabolic syndrome.” Int J Mol Med. 2012 Feb;29(2):311-8.

・Anil K, Abraham R, Kumar GS, Sudhakaran PR, Kurup PA. (1992) “Metabolism of very low density lipoproteins–effect of sardine oil.” Indian J Exp Biol. 1992 Jun;30(6):518-22.

・Suzuki H, Park SJ, Tamura M, Ando S. (1998) “Effect of the long-term feeding of dietary lipids on the learning ability, fatty acid composition of brain stem phospholipids and synaptic membrane fluidity in adult mice: a comparison of sardine oil diet with palm oil diet.” Mech Ageing Dev. 1998 Mar 16;101(1-2):119-28.

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