桜の花エキスとは
●基本情報
桜の花エキスとは、八重桜・関山の花びらから抽出されたエキスのことをいいます。
日本の国花として親しまれている桜は、バラ科サクラ属の植物で300種類以上の品種があるといわれています。日本にはヤマザクラやオオシマザクラなど9種類の基本となる桜があり、これらを交配することで数多くの品種がつくられ、様々な桜が楽しめるようになりました。
ソメイヨシノやカスミザクラは日本で有名な桜ですが、数ある桜の中でも関山は病害虫に強く強健といわれる品種で、全国で見られる代表的な八重桜のひとつです。
関山は、4月下旬~5月上旬に大きく濃紅紫色の八重の花を咲かせます。その姿が外国でも好まれ、海外にも広く植えられている桜でもあります。
また、関山は鑑賞用だけではなく食用としても栽培されているため「食べられる桜」ともいわれ、親しまれてきました。
日本には昔から桜湯や和菓子、桜ごはん、お吸い物など、桜を食べる習慣があり、食に用いる桜は見た目の華やかさや色の濃さが重視されるため、関山が好んで使われるようになったといわれています。また関山の葉も、その香りの良さから桜餅に使用されることもあるようです。
桜の花エキスは、この関山の花びらから抽出されたエキスで、老化の原因である糖化を防ぐことから近年注目を浴びるようになりました。
糖化とは、体の中でたんぱく質と糖が結びつき、AGEs(エージーイー)を産生する現象のことをいいます。AGEsは、体内でコラーゲンと結合し、その結果、異物と判断されます。AGEsを分解しようとコラーゲンやエラスチンの分解酵素であるコラーゲナーゼやエラスターゼの分泌量が増え、AGEsだけでなく、正常なコラーゲンやエラスチンまで分解するように働いてしまうのです。この現象が皮膚で起こると、シワやたるみの原因となります。
桜の花エキスは、このAGEsの産生を抑制する働きがあり、老化予防に効果的だといわれています。
●桜の花エキスの原材料 関山の生産
食用の関山は主に神奈川県などで栽培されています。
関山の花びらの枚数は一般的に見られる桜よりも多く、50枚近くになるものもあります。
関山の花はとてもデリケートで、花が満開となる前の4月中旬から下旬にかけてのわずか2週間程の間に収穫されます。桜の花エキスは、たくさんの花びらを使用しますが、ごくわずかな量しか抽出することができない貴重な成分です。
●桜の花エキスの歴史
桜という名前の由来は、日本最古の書「古事記」と「日本書紀」の神代の巻に登場する、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)という大変美しい地の神であるとされています。桜の精である木花咲耶姫が、富士山の頂上から桜の種をまいて初めて花を咲かせたので、姫の名前から「さくや」をとり「桜」になったと伝えられています。
木花咲耶姫は、日本の象徴である富士山の神でもあり、富士山本宮浅間大社をはじめ、日本全国で約1300社ある浅間神社で主祭神として祭られており、ご神木として桜が奉納されています。
関山は、江戸時代末期から地域の祭りの費用を賄うために栽培していたといわれています。
関山は古くから食用としてよく用いられることから、長年に渡り含まれる成分についての研究が行われてきました。最近になり、桜の花びらが人間の体に対して様々な効果をもたらすことが明らかとなり、近年、世界で初めて桜の花びらから桜の花エキスを抽出することに成功し、食品やサプリメントだけではなく、化粧品にも使用されるようになりました。
●桜の花エキスの成分と性質
桜の花エキスには、カフェオイルグルコースやケルセチングルコシドといった配糖体[※1]が含まれており、老化を促進させるAGEs(糖化最終産物)の産生を抑えることがわかっています。
また、桜の花エキスには、コラーゲンの産生を促進する働きがあります。
コラーゲンはもともと体の中にあるたんぱく質のひとつで皮膚や筋肉、骨などあらゆる部分に含まれており、細胞と細胞をつなぎ止める重要な役割を果たしています。肌は表面に近いところから、表皮・真皮・皮下組織という3つの組織に分けられ、真皮は約70%がコラーゲンでできており、ハリや弾力を保つ働きをしています。
体内のコラーゲンが古くなると分解され、新しいコラーゲンがつくられます。しかし、コラーゲンの産生量は年齢とともに減少し、20歳代に比べ60歳代で約75%にまで減少してしまいます。
コラーゲン量の減少が、肌のしわやたるみ、弾力の低下につながることがわかっており、桜の花エキスは、コラーゲンの産生を促進する効果があることが明らかとなりました。
ヒトの皮膚細胞がつくるコラーゲン量を、桜の花エキスを加えた時と加えていない時とで比較すると、桜の花エキスを加えた時には、コラーゲンの産生量が増加したという結果も得られています。
桜の花エキスは糖化を予防し、AGEsの生成を抑制する効果からも、コラーゲンとの相性が良いことが明らかとなっており、一緒に摂取することで相乗効果があると考えられています。
そのほか、桜の花エキスにはシミの原因となるチロシナーゼ[※2]の活性を抑える働きがあるため、美白効果も期待されています。
[※1:配糖体とは、糖と様々な種類の成分が結合した有機化合物のことです。生物界に広く分布し,植物色素であるアントシアニンやフラボン類などがあげられます。]
[※2:チロシナーゼとは、アミノ酸であるチロシンを酸化して、メラニンをつくる酵素のことです。この酵素を阻害することにより、メラニンの生成をくいとめ美白効果が働きます。]
桜の花エキスの効果
●糖化を防ぐ効果
老化の代表的な原因として、酸化[※3]と糖化の2つが挙げられますが、桜の花エキスには、老化の原因のひとつである糖化を防ぐ効果があります。
糖化とは、たんぱく質と糖が結合し、AGEsと呼ばれる老化促進物質をつくり出す現象のことをいいます。これは、炊きたての白いご飯が時間とともに黄ばみ、固くなる反応と同じことが体内でも起こっているのです。
人間の体は約60兆個の細胞からつくられ、その細胞はたんぱく質から構成されています。糖化が促進されることで老化促進物質であるAGEsが大量に発生し、たんぱく質が変性・劣化してしまいます。体を構成する約3割はコラーゲンで、肌だけで見ると約7割がコラーゲンです。体内のコラーゲンは糖化されることによって、固く弾力のないものへと変化してしまうのです。
AGEsは20歳代から60歳代までに約3倍に増え、一度できると分解されにくい物質で、血液中の糖の濃度が高ければ高いほど糖化は促進されるといわれています。
桜の花エキスは、AGEsの産生を減らし糖化を抑制する働きがあるため、老化の抑制に効果的な成分です。
●動脈硬化を予防する効果
糖化は、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化の原因の多くは、コレステロールや中性脂肪が溜まってしまうことで、血管が硬くなり、弾力性や柔軟性を失うことによります。一方糖化によっても血管が固くもろくなり、動脈硬化が促進されるということもわかっています。動脈硬化が進めば、心筋梗塞や脳梗塞などの病気になるリスクが高まります。
桜の花エキスが血管の糖化を防ぐことにより、動脈硬化をはじめこれらの疾病を予防することができるといわれています。
●美肌効果
肌がハリや柔らかさを保っていられるのは、コラーゲンやエラスチンなどのたんぱく質でできた繊維が肌を内側からしっかりと支えているためです。肌で糖化が起こると、AGEsを分解するためにコラーゲンやエラスチンの分解酵素が分泌され、AGEsだけでなくコラーゲンやエラスチンなども一緒に分解してしまいます。それによって、ハリや弾力がなくなりしわやたるみが増え、老化現象が進みます。
人間の皮膚細胞にAGEsを与えてダメージを起こす実験を行ったところ、桜の花エキスは皮膚細胞のダメージを抑えるという結果が得られました。
桜の花エキスには、糖化を防ぐことにより柔らかく弾力のある肌を保つ効果があるといえます。【6】
●美白効果
桜の花エキスには、メラニンの生成を抑制することで美白効果があると期待できます。
表皮において紫外線を浴びた際にできたシミを調べると、多くのAGEsがあることがわかっています。桜の花エキスは、AGEsの生成を抑制するだけでなく、肌のシミやくすみ、そばかすの原因となるメラニンを生み出すチロシナーゼという酵素の働きを直接止める働きもあることから、メラニンの生成を抑制し、美白に対しても効果的だといえます。
●炎症を抑える効果
桜の花エキスには、抗炎症作用があると知られています。そのため、桜の花エキスには皮膚の炎症や発赤に対しても抑制作用があります。
<豆知識:桜に隠された力>
桜には糖化の働きを抑える以外にも、様々な力が秘められています。
桜の香りには元気な気持ちにさせてくれる神秘的な力があるとされ、アロマにも使われています。
また、桜の木の周皮を除いた樹皮を乾燥させたものを桜皮(オウヒ)といい、江戸時代より健康のために活用されていたといわれています。お酒に漬けて飲用すると精神安静、安眠、のどの痛み、美容などに効果があるといわれています。
このように桜には、まだまだ知られていない効果があるとされ、今も研究が進められています。
[※3:酸化とは、物質が酸素と化合し、電子を失うことをいいます。サビつきともいわれています。]
こんな方におすすめ
○老化を防ぎたい方
○いつまでも若々しくいたい方
○生活習慣病を予防したい方
○美肌を目指したい方
○シミ、そばかすが気になる方
○肌のハリや弾力を保ちたい方
桜の花エキスの研究情報
【1】39名の1型糖尿病患者および52名の非糖尿病被験者の皮膚コラーゲンにおける、糖化反応産物の量を測定しました。初期糖化産物であるフルクトースリシン(FL)、糖酸化産物であるカルボキシメチルリジン(CML)、メイラード反応後に形成されるペントシジンを研究対象としました。非糖尿病被験者では、20歳から85歳にかけてコラーゲンの糖化が33%進み、年齢とともに糖化産物が増加することが明らかとなりました。糖尿病患者では、年齢に関係なくコラーゲンの糖化が非糖尿病患者より3倍も高くなっていました。コラーゲンの年齢に伴う糖化状態を明らかにしました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8514858
【2】網膜の老化は、欧米では失明の主要原因に挙げられている加齢性黄斑変性症のような重大な病気の指標としても役立ちます。糖化最終産物(AGEs)の形成は年齢を重ねる上で自然な機能ですが、蓄積することによってヒトにおける感染症などの生理学的疾患を示します。AGEsは、神経変性のメディエータの役割をし、細胞外マトリックスや血管機能不全、炎症誘発シグナルにおける不可逆な変化を誘発します。糖化が進むことで視覚障害における病原因子となり得るため、AGEsが大きな関心を受けています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19409449
【3】糖尿病性角膜症におけるAGEsの役割を調査しました。糖尿病患者と非糖尿病被験者の角膜細胞(それぞれ8例ずつ)を対象に原因物質の一つであるカルボキシメチルリジンの局在を検討しました。8例の糖尿病角膜のすべてにおいて細胞外マトリックス免疫反応性が上皮基底膜に見られ、非糖尿病については8例のうち1例のみ見られました。基底膜でのAGEsの蓄積は、糖尿患者の角膜上皮障害において病原因子となる可能性があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10670463
【4】糖化という組織タンパク質の非酵素的変化は、老化の特徴です。関節軟骨では、糖化最終生成物(AGEs)であるペントシジンが加齢と共に蓄積します。軟骨のコラーゲンのアルギニンやヒドロキシリシン、リジンの含量は、糖化反応によって年齢と共に有意に減少しました。この結果、多様な糖化反応生成物の蓄積が年齢に伴い軟骨のコラーゲンに起こっていることを示します。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10947951
【5】AGEsはグルコースとタンパク質が結びついてできる物質で糖尿病に関与します。そこで、AGEsと認知症との関連性を調査しました。AGEs量が多い状態では、糖尿病の有無にかかわらず高齢者の認知機能低下に関連することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21900628
【6】AGE誘発による線維芽細胞のアポトーシスを桜の花抽出物が濃度依存的に抑制し、100μg/mlで有意に抑制しました。また、桜の花エキスの成分に含まれるカフェオイルグルコースおよびケルセチングルコシドにおいても濃度依存的にアポトーシスを抑制し、1~10μg/mlにおいて有意に抑制していました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21308824
【7】いくつかのバラ科サクラ属の品種(Prunus yedoensis, Prunus sargentii, Prunus lannesiana, and Prunus cerasus) についてその抗酸化および抗ウイルス作用について検討しました。いずれの品種においても強いDPPHラジカル補足能を有し、SOD様活性を持つことがわかりました。さらにブタ流行性下痢ウイルスに対しても有効で、抗ウイルス作用を持つことがわかりました。 その中でも特にPrunus cerasusは強い作用を示していました。このことから、桜の花は、強い抗酸化作用および抗ウイルス作用を持つと考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20821824
【8】桜抽出物の抗酸化活性を測定した結果、赤ワインよりも非常に強いラジカル補足能を有していることがわかりました。また、桜抽出物について調べた結果、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ルチノシドおよびカフェイン酸が含まれていることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18092753
参考文献
・久保 明 「糖化」を防げばあなたは一生老化しない 株式会社永岡書店
・Dyer DG, Dunn JA, Thorpe SR, Bailie KE, Lyons TJ, McCance DR, Baynes JW. (1993) “Accumulation of Maillard reaction products in skin collagen in diabetes and aging.” J Clin Invest. 1993 Jun;91(6): 2463-9.
・Glenn JV, Stitt AW. (2009) “The role of advanced glycation end products in retinal ageing and disease.” Biochim Biophys Acta. 2009 Oct;1790(10): 1109-16.
・Kaji Y, Usui T, Oshika T, Matsubara M, Yamashita H, Araie M, Murata T, Ishibashi T, Nagai R, Horiuchi S, Amano S. (2000) “Advanced glycation end products in diabetic corneas.” Invest Ophthalmol Vis Sci. 2000 Feb;41(2): 362-8.
・Verzijl N, DeGroot J, Oldehinkel E, Bank RA, Thorpe SR, Baynes JW, Bayliss MT, Bijlsma JW, Lafeber FP, Tekoppele JM. (2000) “Age-related accumulation of Maillard reaction products in human articular cartilage collagen.” Biochem J. 2000 Sep 1;350 Pt 2:381-7.
・Yaffe K, Lindquist K, Schwartz AV, Vitartas C, Vittinghoff E, Satterfield S, Simonsick EM, Launer L, Rosano C, Cauley JA, Harris T. (2011) “Advanced glycation end product level, diabetes, and accelerated cognitive aging.” Neurology. 2011 Oct 4;77(14): 1351-6.
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・Matsuura R, Moriyama H, Takeda N, Yamamoto K, Morita Y, Shimamura T, Ukeda H. (2008) “Determination of antioxidant activity and characterization of antioxidant phenolics in the plum vinegar extract of cherry blossom (Prunus lannesiana).” J Agric Food Chem. 2008 Jan 23;56(2):544-9.