サフラン

英: saffron crocus(植物)saffron(香辛料) 仏: safran
Crocus sativus L.

サフランは世界一高価なスパイスといわれるハーブの一種で、古来から婦人病の特効薬として利用されています。独特の香りと鮮やかな色味を持つことから料理の色づけや染料にも利用されています。

LINEスタンププレゼント!お友達登録はこちら。配信期間2025/01/23

サフランとは?

●基本情報
サフランとは、アヤメ科サフラン属に属している多年草[※1]です。
サフランは秋咲きの球根植物で、淡い紫色の6弁の花を咲かせます。花びらを中心に黄色い雄しべと強い芳香を放つ細長い赤い雌しべを1本ずつ持ちます。雌しべの先は3本に分かれています。雌しべの柱頭の赤色の部分だけを集めて乾燥させたものが一般に「サフラン」と呼ばれ、香辛料や薬、染料として使用されています。ヨーロッパ中南部から中央アジア、北アフリカなどでは料理の色付けとしても親しまれています。
サフランはカロテノイド色素を含有し、水に溶かすと鮮やかな黄色を呈します。そのため食品や化粧品、薬品の着色料にも利用されています。

サフランの収穫は開花時期である15~20日間の間にひとつひとつ手摘みで行われています。1本の花から取れるスパイスの量が非常に少なく、1kgのサフランをつくるのに約17万個の花が必要とされるため、非常に高価なスパイスとして知られています。
サフランの花は薬用やスパイスとして用いられ「薬用サフラン」「番紅花」とも呼ばれています。サフランの名はアラビア語で黄色を意味する「ザフラーン」から名づけられました。
学名になっているクロッカス(Crocus)は赤い雌しべが糸状に長く伸びることからギリシャ語で糸を意味する「クロケー」から名づけられたといわれています。

<豆知識①>クロッカスとは
日本ではサフラン属の秋咲き種をサフラン、春咲き種をクロッカスと呼んでいます。クロッカスは別名「春サフラン」「花サフラン」と呼ばれ、食用ではなく観賞用としてのみ栽培されています。

●サフランの歴史
サフランの歴史は古く、すでに紀元前の時代から香辛料や染料として利用されていたといわれています。古代ギリシャではサフランの黄色が珍重されており、王族だけが使うことを許されていた時代もあったようです。
サフランが最初に栽培されたのは、イランやインドのカシミール地方であるとされています。
日本へは江戸時代末期に漢方薬として伝わってきました。国内での栽培は1800年代頃に始められたといわれています。

<豆知識②>香り高く高価なハーブ
サフランは、旧約聖書[※2]の中で「芳香を放つハーブ」として記されているように、魅惑的な香りとほろ苦いような独特の風味を持っており、昔から人々に親しまれてきました。一方、古代エジプトの薬物書にも、サフランの薬効について記述があります。
古代ギリシャやローマ時代では香水としてサフランが重宝されていました。劇場や公会堂の床にサフランを散布し、香りを楽しんでいたといわれています。東洋では何世紀もの間、客を歓迎する意を表すためにサフランを来客の衣服にふりかけ使用していました。
また、サフランは貴重なスパイスであるため昔から偽造品が出回ることがしばしばあったといわれています。ヨーロッパではこのような犯罪を犯した人間に厳しい刑を処したという記録が残っています。

●サフランの原産地・生産地
サフランの原産地はヨーロッパ南部から西アジアであるといわれています。
現在では、イランがサフランの生産と輸出の中心地となっています。世界のサフラン総生産量の約90%がイランで生産されています。
日本では国内のサフラン生産量の8割以上を占める大分県竹田市を中心に、宮城県塩竈市(しおがまし)などの一部の地域でも生産されています。

●サフランの栽培方法
良質なサフランを栽培するためには2~3年の若い球根が必要とされています。6~7月に種まきが行われ、9月下旬から12月下旬にかけて花が摘み取られます。サフランの開花時期は15~20日程度と大変短いため、日の出前から集中して作業が行われます。収穫されたサフランの花から手作業で切り取られた雌しべの柱頭部は湿度が低い暗室に移され5~7日間、乾燥させます。

●サフランの利用方法
サフランは主に香辛料や生薬として使用されています。

・香辛料
サフランの雌しべは独特の香りを持ち、水に溶かすと鮮やかな黄色を呈します。そのためヨーロッパ中南部や南アジア北部、中央アジア、西アジア、北アフリカを中心に料理の色付けや風味付けのための香辛料として利用されています。
サフランの色素は油に溶けないため、料理に使用する際は水かお湯にひたし、色を浸出させてから着色した液を料理に加えます。サフランは独特の香りを放つため適合する料理が限られていますが、魚介料理とは相性が良いといわれています。

・生薬
中国では古くから生薬として流通しています。
日本で生薬として使用されるサフランは番紅花(ばんこうか)と呼ばれており、鎮静、鎮痛、月経の誘発作用があります。またサフランの薬用成分は優先的に子宮に作用するとされ、月経困難、更年期障害、子宮出血などに効果があるといわれています。

<豆知識③>サフランを使用した料理
世界各地にはサフランの黄色い色合いや香りを利用した料理が多数あります。
有名な料理としては世界三大スープのひとつでプロヴァンス地方の名物料理であるブイヤベースやスペイン東部のバレンシア地方の郷土料理であるパエリア、モロッコの小麦料理であるクスクス、インドのサフランライスなどがあります。
また、トルコの一部の地域ではサフランを茶葉に使い、サフランティーとして飲まれています。

●サフランの保存方法
サフランを保存する際は空気に触れないよう密閉容器に入れ、乾燥した冷暗所に保存するようにします。
サフランは非常にデリケートなスパイスであるため、直射日光に当てたり、長時間空気中に放置すると、サフラン独特の香りが失われ品質が低下するため注意が必要です。

●サフランの品質
サフランの品質は、黄色の色素成分であるクロシン、苦味成分であるピクロクロシン、香り成分であるサフラナールの含水率と色、風味、香りで決められています。国際標準化機関であるISO[※3]の定めるところによって分析試験が行われ、その結果をもとに数値化されています。

●サフランに含まれる成分と性質
サフランに含まれる主な栄養成分はα-カロテン、β-カロテン、γ-カロテンです。また、黄色の色素であるクロセチン、苦味成分のピクロクロシン、香り成分のサフラナールなども含まれています。

[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:旧約聖書とは、ユダヤ教およびキリスト教の正典のことです。]
[※3:ISOとは、国際標準化機構(International Organization For Standardization)のことで、工業製品の国際規格を決めている機構です。]

サフランの効果

サフランには、以下のような健康に対する効果が期待されます。

●婦人病を予防する効果
生薬としては「番紅花(ばんこうか)」と呼ばれているサフランには鎮痛や鎮静、月経の誘発などの作用があるとされています。そのため更年期障害や月経困難、無月経、月経過多、冷え性、生理痛などの予防・改善に効果があるといわれ主に婦人病の薬として使用されています。また、睡眠障害や頭痛、めまいを改善したり、ストレスやイライラなどの気分が憂鬱な時の気持ちの高ぶりを沈める効果があるといわれています。
ただし、子宮の動きを活発にする働きがあるため、妊娠中の女性は摂取量に注意が必要です。

サフランの精油[※4]には、サフナールという香り成分が含まれています。サフナールはわずかな量で体を温め発汗を促す作用を持つため、女性特有の体の不調の改善に効果的に働くとされています。

●記憶障害を改善する効果
サフランの色素配糖体[※5]であるクロシンには、大脳の海馬(かいば)[※6]の神経細胞に作用し、記憶障害を改善する効果があるといわれています。
漢方では、サフランが物忘れや認知症などの治療に使用されています。
サフランを使って、マウスが学習したことをどのくらい覚えているかを確認した実験が行われています。
まずマウスが自由に行き来できる暗い部屋と明るい部屋を用意し、暗い部屋の床には電流を流しておきます。
マウスを1匹ずつ明るい部屋に入れると、暗がりを好むマウスは暗い部屋に移動しますが床に流れている電流によって電気ショックを受け、再び明るい部屋に戻ります。
30匹のマウスに同じ経験をさせ、そのマウスを3グループにわけました。サフラン抽出物(クロシン)をそれぞれのグループに1.25㎎、2.00㎎、5.00㎎ずつ飲ませた後、アルコールを与えて24時間後に再び同じ実験を行いました。そうすると、サフラン抽出物(クロシン)を飲ませなかったマウス80%が暗い部屋に戻ったのに対し、サフラン抽出物(クロシン)を飲ませたマウスはそれぞれ60%、30%、20%しか、暗い部屋に戻らないという結果になりました。つまり、サフラン抽出物(クロシン)の量が多いほど記憶障害が改善されるということがわかりました。
この結果により、サフランの色素成分であるクロシンには神経伝達物質の伝達効率を高める効果が期待できるといわれています。【4】【5】【6】

[※4:精油とは、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した有効成分を高濃度に含有した100%天然の揮発性の芳香物質です。各植物によって特有の香りと機能をもち、アロマテラピーに利用されています。]
[※5:配糖体とは、糖と様々な種類の成分が結合した有機化合物のことです。生物界に広く分布し,植物色素であるアントシアニンやフラボン類などがあげられます。]
[※6:海馬とは、記憶や空間学習能力をつかさどっている脳の器官のことです。]

サフランはこんな方におすすめ

○月経不順でお悩みの方
○生理痛でお悩みの方
○更年期障害でお悩みの方
○ストレスやわらげたい方
○物忘れが多い方

サフランの研究情報

【1】軽度のうつ病患者に、サフラン抽出物を1日30mg を6週間の摂取させたところ、うつ症状に改善が見られたことから、サフランに抗うつ効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15341662

【2】糖尿病動物に、サフランを5, 25mg/mlまたはサフラン色素成分クロシンを10, 50 mMの濃度で投与すると、糖尿病による神経障害が緩和されたことから、サフランに糖尿病神経障害予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19711182

【3】サフランには抗酸化活性の高いクロシンが含まれており、抗酸化作用が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19284715

【4】脳虚血ラットにおいて、サフラン抽出物を250mg/kg、またはサフラン色素成分クロシンを25mg/kg を投与すると、空間を認識する能力が向上することがわかりました。このことより、サフランには脳機能保護効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21774008

【5】サフランにはテルペン、テルペン・アルコールおよびエステルを含み、血圧効果作用、抗てんかん、鎮咳薬、抗不安薬、抗酸化、抗うつ薬、抗炎症を持つほか、記憶学習機能を改善し、網膜および脈絡膜において血流を増加させる働きが知られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22228962

【6】記憶障害ラットにおいて、サフラン色素のクロシンを30mg/kg で投与すると、空間認識能力が向上することが確認されました。サフランに認知機能維持効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17628713

もっと見る 閉じる

参考文献

・本多京子 食の医学館 株式会社小学館

・武政三男 80のスパイス辞典 フレグランスジャーナル社

・ハーブ スパイス館 小学館

・Akhondzadeh S, Fallah-Pour H, Afkham K, Jamshidi AH, Khalighi-Cigaroudi F. 2004 “Comparison of Crocus sativus L. and imipramine in the treatment of mild to moderate depression: a pilot double-blind randomized trial [ISRCTN45683816].” BMC Complement Altern Med. 2004 Sep 2;4:12.

・Mousavi SH, Tayarani NZ, Parsaee H. 2010 “Protective effect of saffron extract and crocin on reactive oxygen species-mediated high glucose-induced toxicity in PC12 cells.” Cell Mol Neurobiol. 2010 Mar;30(2):185-91.

・Ordoudi SA, Befani CD, Nenadis N, Koliakos GG, Tsimidou MZ. 2009 “Further examination of antiradical properties of Crocus sativus stigmas extract rich in crocins.” J Agric Food Chem. 2009 Apr 22;57(8):3080-6.

・Hosseinzadeh H, Sadeghnia HR, Ghaeni FA, Motamedshariaty VS, Mohajeri SA. 2012 “Effects of saffron (Crocus sativus L.) and its active constituent, crocin, on recognition and spatial memory after chronic cerebral hypoperfusion in rats.” Phytother Res. 2012 Mar;26(3):381-6.

・Srivastava R, Ahmed H, Dixit RK, Dharamveer, Saraf SA. 2010 “Crocus sativus L.: A comprehensive review.” Pharmacogn Rev. 2010 Jul;4(8):200-8.

・Pitsikas N, Zisopoulou S, Tarantilis PA, Kanakis CD, Polissiou MG, Sakellaridis N. 2007 “Effects of the active constituents of Crocus sativus L., crocins on recognition and spatial rats’ memory.” Behav Brain Res. 2007 Nov 2;183(2):141-6.

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ